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つぼみの花
クローム
―今頃綱吉も頑張って修行しているのかな。

ディーノさんに修行をつけてもらって三日目。
やっと彼に一撃を食らわせることができるようになった。
彼は痛そうにしていたけど、"よくやった"と褒めてくれた。
それが少し誇らしい。

その帰り道、ふと他の人たちの修行はどうなっているかが気になったのだ。
他の人の心配なんかする前に自分のことをやらなければならないのだが、予定で言っていた争奪戦まであと少し。
きっと命の駆け引きになるであろう戦いだ。心配にもなる。

「きっとみんななら大丈夫よね」


さぁ、明日も頑張ろうと張り切ったのもつかの間、曲がり角で誰かとぶつかった。
お互い小さな悲鳴を上げ尻餅をついてしまう。
ぶつかったのは小柄でか細い少女だった。

「ごめんなさい!怪我はない?」
「…うん、平気」

彼女は散らばったカバンの中身を拾い集め始めた。
私もそれをさっさと手伝う。

しかし、よく見るとぶつかった相手はよく見たことがある制服だ。
モスグリーンの生地に金色のボタンにブーツ。
そうそれは…

「黒曜中?」

それも改造したのか、ブレザーの丈がやけに短い。
ふと視線を上げた彼女の片目は眼帯で隠してはいたけれど、もう片方の瞳はクリクリと大きく、澄んでいて子犬を連想させた。
可愛らしいと思ったのもつかの間、私は思わずギョッとする。

なぜ黒曜中の生徒がなぜ並盛にいるのかは、大した問題ではない。
彼女の髪型がとある知り合いを思い出させる、とても特徴的なものだった。

「失礼だけど、あなた…お兄さんいたりする?」

彼女は首を振り、目で"どうして?"と訴えかける。
その反応にホッとして私は微笑んだ。
きっと黒曜では流行の髪型なのかもしれない。

「いいえ、人違いだったわ」

最後に彼女のカバンを渡し、再度謝ると彼女は少し困ったように言った。

「ここら辺に大きな本屋さんってある…?」

どうやら手に入れたい本があるとのことで、黒曜のあたりを探したが見つからず、わざわざ並盛まで足を伸ばしたとのことだった。
ぶつかってしまったこともあるし、困った人を助けないわけにはいかない。
私は快く本屋に案内することを引き受けた。

「私がよく参考書を買いに行く大きな本屋があるわ。そこならきっと見つかるわよ」





「ここの本屋大きいから探すの大変でしょう?乗りかかった船だし、一緒に探すわ」

4階建てからなる、この本屋はここら辺近辺では最大級の大きさを誇り、絵本からマニアックなマニュアル本まで全てを取り揃えていますと豪語している。
それだけに、一冊の本を探すにはかなりの労力を要するのだ。
彼女もこの建物の大きさに目を白黒させ、息を飲んでいた。

「何を探すの?」
「イタリア語講座の本。初心者用で発音が詳しく書いてあるやつがいいの…」

まず3階のフロアに向かい、外国語講座のスペースに足を運んぶとズラリと並んだ参考書に頭が痛くなる。
世界の共通語である英語はもちろんのこと、ティグリニャ語まである。(たしかエリトリアで使用されている言語だ)
それらの中からイタリア語を探すと、なんとイタリア語の参考書だけでも15種類以上あるではないか。

「たくさんあるわねぇ…」
「うん…」

手伝おうかと言った事を今更ながら後悔したが、遅い。
私は一つ一つ手に取り、彼女の意見を考慮しながら何冊かに絞り、最終的には本屋の店員さんまで巻き込んでやっと一冊の本に絞った。

「ありがとぉーございましたぁー」

やけに気の抜けた店員さんの声に見送られながら店を出ると、辺りは日も落ちかけて君が悪いぐらいオレンジ色に染まっていた。

「もうすぐ真っ暗になると思うけど大丈夫?」
「うん、平気」

そう言うと彼女はポツリ、今日はありがとうと呟いた。
それは初めて見た彼女の笑顔で、それがとても可愛らしくて私は思わず名前を聞いた。
なぜかこのままで関係を終わらせてしまいたくないと柄にでもなく思ってしまったのだ。

「クローム…あなたは?」
「私は真尋」

真尋、真尋、と覚えようと呟く彼女。
とても不思議な子、クローム。
なんだか初めて会った気がしなくて、何だか変な感じがする。

この子とまた会うことになるとは…それもリング争奪戦で出会うだなんてこの時は考えもしていなかった。

そしてこの同時刻。
綱吉の父親、沢田家光によってリング争奪戦の開始を告げられた。

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