つぼみの花 夢の終わり 「今度はあなたが迷子ですか?六道さん」 私の目の前に佇んでいる彼に私は声をかけた。 彼はニコリと笑って、あなたに会いに来たのですよ、と言った。 青と赤の怖いくらい綺麗なオッドアイ。 藍色の髪の毛。スラッとした長身の身体。 彼の名は六道骸。 今回の事件の首謀者であり、綱吉を乗っ取ろうとしていた相手。 リボーンくんから六道骸の容姿や能力を聞くまでは、この間の夢の内容なんてすっかり忘れていた。 そう、私たちはまた夢の中にいる。 なぜ彼が私に会いにやってくるのかは不明だが、襲い掛かってくる気配もないし、ただ話に来ただけのようだ。 「沢田綱吉は想像以上に強い男でしたよ」 クフフとなぜか満足そうに笑う彼。 きっと彼はまだ綱吉を諦めていない。そんな顔だった。 私はニッコリ笑いながら言ってやる。 "あなたより頭が悪くて、要領も悪いし、弱虫。でもあなたより心優しくて、何より仲間を信じる強さがあるのよ" 「その強さがある限り、綱吉はあなたには負けないわ」 彼は少し意外そうに目を開いたが、次の瞬間には愉快そうに笑った。 なぜか前回より少し穏やかな笑みで。 「また合間見えることを楽しみにしていましょう」 アリベデルチ。 そう言うと彼は蝋燭の火が消えたように、フッと跡形もなく消えてしまった。 * * * 骸との戦いから1週間後。 私はリボーンくんと綱吉を呼び出し、学校の屋上へと来ていた。 「骸の件はご苦労だったな」 私はリボーン君を少し恨みがましく睨んだ。 彼ははきっと私が言わんとしていることは、とっくに理解しているのだろう。 ほら、言ったとおりじゃねぇかと口元が笑っている。 綱吉だけはなぜ自分が呼びされたのか分からないと言った顔だ。 リボーンくんと私の間で言葉のない会話を理解していないようである。 一息つくと、私は二人を交互に見つめそして意を決して口を開いた。 「私、強くなりたい」 綱吉は目を白黒させ、私が紡いだ次の言葉でハッと息を飲んだ。 一度は拒否して手に取ろうとしなかった『モノ』。 あの頃の私は平和な日常に慣れてしまって、こんな日がこようとは思ってもみなかった。 しかし、今の私には必要なもの。 自分自身のことは自分で守れるように。大好きなみんなを守れるように。 私は戦うというカードを選んだ。 「もう後戻りはできないぜ?」 「それはとっくに覚悟を決めてるわ」 彼は懐から長方形の箱を取り出し、それは私の手に納まるはずだったが、私の手に渡る前に綱吉がその箱を奪い取った。 「ダメだ!!絶対ダメだよっ!マヒロがマフィアに入るだなんて!!」 先ほどから黙りこくっていた綱吉は、開口一番こう叫んだ。 私とリボーンくんは大きくため息をつく。 「引き止めたって無駄よ。私、決めたもの」 私の性格上、こうなったら梃子でも動かないのを綱吉はよく知っていた。 だからいつもはここで綱吉は身を引く。しかし、今回ばかりは引こうとしなかった。 「なぜそこまで真尋を拒む?山本たちの時とは随分違うじゃねぇか」 リボーンの発言に、綱吉はウッと詰まる。 「だって…マヒロは女の子だし…「それは女性差別だわ」 私は鼻をならして言うと、リボーンも大きく頷いた。 聞いたところによると、ボンゴレ8代目も女性だったはずだ。 納得できるはずがない。 この後もしばらく揉めたが、所詮1対2の争いだ。 綱吉に勝機はなく、最後には降参したとばかりに本音をもらした。 「マヒロだけは危険な目にあわせたくない…武器なんて野蛮なモノを持たせたくないんだよっ!」 "バードの時みたいにあんな思いをするのは嫌なんだ" やっと本音が出たか、とリボーンは鼻で笑う。 私はと言うと、なんだか嬉しくて思わず顔がにやけてしまった。 「私は自分が綱吉の足手まといになりたくない。だから私は武器をとったの。大切な人を守りたいのよ」 綱吉の情けなく垂れ下がった眉が可愛らしく見えて、私は優しく彼の頭を撫でた。 彼は少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたが、急に自分の頭を撫でていた私の手を掴むと、真顔になって私の顔を覗き込む。 彼の今まで見たことのないような顔つきに私は驚くのとついでに、心臓も飛び跳ねた。 「これだけは約束して」 "おまえが危なくなったときは俺が絶対守ってやる、だから無茶だけはしないで" 私はただ頷くことしかできなかった。 私も変わったように、彼も骸との戦いで確実に変わり始めていた―。 [*前へ] |