つぼみの花 お疲れ様 「さぁ、虫の息のその体を頂きましょう」 痛い…痛いよ。 もう死ぬのかな…。 みんな、ごめん。 俺…ここまでだ。 もうたくさんだ。こんな痛いのも、こんな怖いのも。 俺は思い目蓋をゆっくり閉じた。 ごめん、マヒロ。帰ってくるって言ったのに。 おまえは始終泣きそうな顔で、それでも笑って見送ってこれたのに。 ―今度こそ、おまえを泣かすことになるのかよ… すると、目蓋の奥でぼんやりと光が見え始めた。 だんだん視界がはっきりすると、それは今や遠く昔のように感じる自分の部屋。 そして母さんが小言を言いながら部屋を掃除している様子。 黒川が俺の国語のテストを馬鹿にしている様子。 ハルや京子ちゃんが俺を応援してくれている様子。 次々と景色が変わり、そして次に映し出されたのはマヒロだった。 『急いで!!シャマル先生!!』 『おいおい、真尋ちゃん。おじさんをそんなに急かすなよ?車には制限速度というものがなぁ…』 『悠長なこと言ってられないんです!!綱吉たちの身が危ないんです!先生と"あの人たち"だけが頼りなんですよ!』 どうやら彼らはここ、黒曜ランドに向かっているらしい。 "きちゃ駄目だ!" そう伝えたいのに、俺の声は彼女たちには聞こえない。 『綱吉、みんな!待っててね!!今助けるから…!!』 マヒロ…。 危険なのを分かっていて、俺たちを助けようとしてくれるのか。 また視界が切り替わると、それは先ほどまで自分たちがいたこの建物の外だった。 『俺と同じ過ちをおかすな』 そう、その声は俺と戦ったランチア。 『仲間を守れ』 『お前のその手でファミリーを守るんだ…!!』 俺は残りのわずかな力を手に込めた。 そうだ、こんな弱音を吐いている場合ではない…!! 「俺の小言は言うまでもねぇな」 リボーンのこの一言で完璧に目が覚めた。 そうだ、俺がみんなを守る!マヒロとの約束を守るんだ…!!!! * * * 「山本くん…!!しっかりして!!」 黒曜ランドに着いて中に入ってみると悲惨な光景が広がっていた。 私は思わず息をのみ、そして傷つき倒れている山本くんを見つけると駆け寄った。 生きているのを確認すると、大きくそして深くため息をついた。 「…またため息ついてんな」 「馬鹿…これは安堵のため息よ」 彼は良かったと笑い、そして私が呼んだボンゴレ医療部隊の人たちに搬送されていった。 彼がその様子だと、綱吉たちも同じくらいか、それ以上に傷ついているに違いない。 私はシャマル先生たちを引き連れて、建物内に入った。 中は大層風化や老化が進んでおり、時々転びそうになりながらも前に進んだ。 一刻も早く彼らの所に辿り着かねばならない。 私は逸る動悸を抑えつつも、彼らの無事を祈った。 時々シャマル先生が"あいつらなら平気だ、リボーンもついてるんだからな"と励ましてくれた。 そして最上階の最後の扉を思いっきり開け放った。 「綱吉!みんなっっ!!!」 私の目にまず飛び込んできたのは、ボロボロになって立ち尽くしている綱吉。 そして血を流しながら倒れている雲雀先輩や獄寺くん、ビアンキさん。 「ナイスタイミングだぞ、真尋」 そうリボーンくんが言ったと同時に、それまで立っていた綱吉は倒れこんだ。 リボーンくん曰く、何やら酷く体を酷使させたため全身筋肉痛になったらしい。 「いたたたたぁー!!!いてぇー!!」 痛くて叫ぶくらい元気なら一先ず安心である。 救助隊の人によれば、とりあえず全員命に別状はないらしい。 ほっとしたら、せき止めていた思いが一気にあふれ出てくる。 力が抜けて綱吉の隣に座り込んでしまった。 「良かった…みんな死なないで本当に良かった…!」 ぽたぽたと握り締めていた手の甲に涙落ちる。 そんな私を見て、綱吉は片手で私の頬に伝わる涙を拭った。 「心配かけてごめんな、マヒロ」 その手のひらはとても温かく、生きているんだと改めて実感する。 私はその傷だらけの手に自分の手を添えた。 「こんな思いはもう二度とごめんだからね…!!」 「うん…」 そして彼は痛みと疲れでそのまま意識を失ってしまった。 私はそんな彼の頭をそっと撫でて、"お疲れ様"と微笑んだ。 [*前へ][次へ#] |