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a peaceful day in autumn
とある秋の日のジノタツです




「おや、今のタッツミーはまさに秋を体現しているね。」


約束の時間になって会いに来た恋人からいきなりそんな風に言われて、達海は自分の姿をまじまじと見つめてしまった。自分の一体どこが秋らしいのか、いまひとつ分からない。だらしなくベッドに寝そべってコーチ陣が作成した資料を読みながらお菓子を頬張っているこの状況を見て、どうして秋を体現しているといえるのであろうか。その疑問がありありと顔に出てしまったらしい。達海の訝しげな瞳を受け止めたジーノはにこりと微笑んで、それはね、と続きの言葉を口にした。


「君はフットボールのトップチームの監督だから、スポーツの秋と関係が深いよね。そして、それ。資料だから文庫本じゃないけど、タッツミーは今読書をしていると言えなくもないだろう?あと、美味しそうにお菓子も食べているから、食欲の秋も満たしている。あ、布団の上に食べかすこぼしちゃ駄目だよ?」

「誰がこぼすかよ、子供じゃねえんだけど、俺。つーか、お前さ、秋秋言ってるけど、今の全部こじつけになんない?」


そりゃ今の季節は秋だけどね、無理あると思うけど。近付いて来た端正な顔にそう言い返してやったのだが、楽しそうなジーノは上半身を起こした達海のすぐ隣に腰を下ろした。2人分の体重を受けて安物のベッドが小さく音を立てる。細くしなやかに見えるけれど、しっかり筋肉のついた身体がぴたりと達海に寄り添った。


「でも、芸術の秋が足りないから、ボクが甘い愛の言葉を…」

「間に合ってるからいらない。」


被せるように言うと、タッツミーのいじわると不満そうな声が返って来た。別にいじわるなんかしてないんだけどと達海は心の中で呟いた。この日伊ハーフの王子様は一般人より愛情表現が大袈裟なので、貰い過ぎても対応に困るだけなのだ。少し前まで日本を離れて海外で監督をしていたので、達海自身、スキンシップには慣れている方だと思っている。慣れてはいるけれど、心を許した―それも特別な存在である相手から毎日のように好きだよ愛していると愛を囁かれてぎゅっと抱き締められていれば、気恥ずかしさの方が勝ってしまうのは当然だった。それに本当に言葉通り、たくさん貰っているから十分だった。


「仕方ないなぁ。じゃあボクも読書の秋と洒落込もうかな。」


ジーノも恋人のことをよく理解しているようで、特にへこたれた様子もなく達海に笑い掛けると、腕を伸ばしてベッド脇に置かれている収納用のボックスから1冊の雑誌を引っ張り出した。ジーノが手にしている雑誌以外にも何冊か入っているその収納用の箱はいつの間にか達海の部屋に置かれていた物だった。気付いた時には何だこれと酷く驚いてしまったのだが。


「つーか、この部屋に物置きすぎ、お前。いつの間に家具の雑誌とか我が物顔で置いてんだよ。」

「この部屋っていつ来ても散らかっているんだからさ、ボクの雑誌が1冊2冊増えたところであまり変わらないと思うけど。」

「うっ…」


そんなことは分かっているが、それでも文句は言いたくなるのは自分の性格なのだろう。だが部屋の中の状態についてはジーノに言い負けてしまいそうな気がしたので、達海は吐息を洩らすと、これ以上物増やすなよと言うだけにした。きっと効果はないのだろうけれど。


「分かっているよ。」


ジーノは達海に頷いてみせると、次いで視線を下に落とした。優雅に組んだ膝の上に置かれた雑誌にジーノは満足そうな瞳を向ける。隣で王子様が楽しそうに雑誌のページを捲り出したので興味が湧いてしまい、達海はついつい覗き込んでしまった。


「お前、ほーんと好きだね、いす。」

「うん、好きだよ。」

「そういや、会ったばっかの頃も言ってたよなぁ、200万のがどうとか。あーなんか懐かしいなぁ。何?今度はそういうのが欲しいの?」


ちょうど今ジーノが開いているページは右上の角が折れ曲がっていた。気になるページをマーキングしておく所謂dog-ear状態だ。達海はジーノと付き合っているが、椅子についてはその良さがさっぱり理解できない。いすなんて座れればそれでいいじゃん、と思っている。ジーノの趣味はよく分からないけれど、だからと言って否定する気はない。このモダンな椅子の価値は達海には分からないままであるが、ジーノによく似合うなとは思った。


「え?あ、うん。気にはなっているけど。」

「ふーん。なるほど。」


雑誌から顔を上げたジーノが達海を見つめる。欲しい物の話をするジーノはプレー中の落ち着いた表情とは異なって年相応の顔を見せた。それがどうしようもなく可愛らしく見えるのは好きになってしまったからなのだろう。


「ねぇ、タッツミー、もしかして…」


ジーノの瞳が期待に輝いたが、達海はぱちりと瞬きをしてから、言っとくけどと言葉を紡いだ。


「買わねーよ。だってすっごく高いもん。」

「うん。そうだよね。分かってたよ。」


何故かな、でも君のそういうところも好きなんだよね、ボク。どんなタッツミーでも好きなんだよねと呟くと、ジーノは読んでいた雑誌を閉じて、後で片付けるからとベッドの端に置いた。


「いすなんてさ、そこら辺にあるので我慢しろよな。あ、高いいすは無理だけど、ドクペとかアイスとかコンビニのプリンまんとかなら奢ってやるよ?」

「それ、全部タッツミーの好物だよね?」

「どれも安くて美味いよ。」

「いらないから、君でいいよ。」

「…っ、おい!」


不意に引き寄せられ、あ、と思った瞬間に達海はジーノの腕の中にすっぽりと収まっていた。さらさらとした黒髪が頬を撫でる。そのくすぐったさと腰に回された腕の強さにじっとしていると、許されていると思っている相手はさらにくっついてきた。


「こっちの方が、ずっといい。」


ああ幸せだと言わんばかりの甘い声が耳に届く。だからこういうのはやめて欲しいと思うのに、確かに心が満たされるように感じた。


「ふふ、温かい。最近急に寒くなってきたからね。君の体温、ちょうどいい温かさだよ。」

「はいはい、良かったですよー。王子様のお気に召して。」


ぞんざいな口調で返さなければ、ますます頬が熱くなってしまいそうだった。そんな達海に気付いているくせに敢えて気にしないつもりなのか、ジーノはさらに達海を抱き寄せて、甘えるように首筋に鼻先を埋めた。いつまでやってんだと文句を言ってみたら、煌めく瞳がこちらを見つめてきた。


「タッツミー、やっぱり秋はいいものだね。寒くなってきて堂々と君を抱き締めることができるんだから。あ、恋人の秋だね、まさに。」

「いやいや、お前の場合、秋だけじゃなくて1年中そういう感じじゃん!何が恋人の秋、だよ…」

「ああ、そうだね。秋より冬の方がもっと寒くなるから、これからはタッツミーを抱き締め放題という訳か。」

「おい…」

「それはとても素晴らしいね。最高だよ。」

「ジーノ、お前なぁ…」


もうこいつに付き合ってられるかと思う。思うのだが、それでもやっぱり離れたくないなという気持ちの方が大きくて。達海はそんな自分自身に小さく笑った後、ジーノの手をそっと握り締めた。


「ま、確かにこういう秋も悪くないかもね。」






END






あとがき
秋の日のお話を書こうと思って書いた割にあまり秋の雰囲気を出せませんでしたが、2人でらぶらぶしている感じが伝わっているといいなと思います。


本当にじのたつ可愛いです!


読んで頂きましてありがとうございました^^

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あきゅろす。
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