[携帯モード] [URL送信]
もう1人のキミが笑う世界 1
ジーノ×26歳タッツミー
タッツミーがそのまま現役選手なパラレル世界に、ジーノがタイムトラベルしています。色々捏造ありです;




たとえば、もしも。


もしも、ボク達が居るこの世界とは別に、もう1つの世界があったのならば。


キミは、その世界でも笑っているのかな。



*****
ジーノはロッカールームでユニフォームに着替えながら、昨晩のことを思い出して1人頬を緩めていた。昨日は久しぶりに恋人である達海と彼の部屋で甘い夜を過ごした。達海は不器用にしか甘えてはくれないが、それが自分だけということが、ジーノにはいつも嬉しいことだった。


今日は午後から紅白戦だったので、恋人とのしばしの別れを惜しむと、ジーノは愛車で一旦マンションへと戻っていた。だがマイペースが個性ともいえる彼は、時間を気にせずそのままゆっくりと準備をして再びマンションを出たので、既に練習試合は始まっていたのだった。


ジーノはユニフォームに着替え終わって、そのまま乱れた髪を整える。多分タッツに、お前遅刻〜!って言われちゃうかな、とジーノは考えた。だが恋人の怒った顔も可愛いだろうと、すぐに頭の中は大好きな達海のことで一杯になる。


「そろそろ行こうかな。皆、ボクのことを待っているだろうしね。」


ジーノは独り言を呟くと、グラウンドに向かう為に、ロッカールームを出ようとした。だがその瞬間、今まで感じたことのない大きな揺れがジーノの全身を襲った。


「地震…!?…嫌だなぁ。」


段々と揺れは大きくなり、ジーノは立っていられなくなって床にしゃがみ込んだ。仕方がない。今は揺れが落ち着くまでここでじっとしていよう。そう考えたジーノは壁に背中を預けた。あれ?何かおかしいよね?酷い揺れが続く中でジーノはあることに気付いた。立っていられないほど激しい揺れが続いているというのに、選手達の荷物は床に散らばることなく、きちんとロッカーに置かれていたのだ。こんなに揺れているのに、部屋の中が滅茶苦茶にならないのはおかしいよね。そんな考えがジーノの頭をよぎった時、突然目の前が真っ白になった。まるで部屋の中が光り輝いているようで、その光の強さに耐えきれずに、ジーノは思わずギュッと目を閉じた。



*****
いつの間にか揺れは収まっていたようで、ジーノはまだチカチカする目をそっと開けた。部屋の中の光も揺れが収まったと同時に消えており、安堵したジーノは立ち上がろうとしてロッカールームに誰か人が居ることに気が付いた。

「えっと、誰…?」


その人物は自分以外に人が居たことに驚いたのか、タオルで汗を拭きながらジーノをじっと見た。


「…タッツミー…?」


ジーノは目の前の人物に見覚えがあった。だが自分の恋人であるはずがない。達海は今はETUを率いる監督であるのだから、ユニフォームを着て汗を流している訳がないのだ。それに目の前の彼は、恋人よりも随分と若かった。


「タッツ、ミー?…俺はタッツミーじゃなくて、達海なんだけど。てかさ、選手じゃないよね?何でここに居るの?」


達海は不審げな視線のままジーノに近寄る。その姿を見たジーノの頭の中に、1つの仮定が浮かび上がった。もしかして、ボクは…所謂タイムスリップをしてしまったんじゃないかな。だってどう見ても、タッツミーはボクと同い年くらいだもの。ジーノが現在置かれている状況は普通ならば有り得ないようなことだったのだが、ジーノはそれほど驚くことなく、すんなりと現実を受け入れていた。ジーノは我ながら自分の冷静さに感心した。そして自分の考えた仮定が正しいかどうかを確認する為に、目の前の達海に話し掛けた。


「ねぇ、タッツミーは今…何歳なの?」

「えっ?…26…だけど。」

ロッカールームに現れた見ず知らずの男に突然年齢を聞かれ、達海は困惑しながらも律儀に答えた。


「26歳?あれ…?」


達海の答えにジーノも困惑の表情を浮かべた。達海から詳しく聞いた訳ではないが、彼は10年前までイングランドに居たのだ。ならば、26歳の彼が日本に居るのは辻褄が合わないのではないだろうか。ボクはてっきり過去にタイムスリップでもしたんじゃないかなと思ったのに。ジーノの仮定はどうやら微妙に間違っていたようだ。ならば考えられる答えは、自分が居た世界の過去に来たのではなく、それとは全く別の世界に来てしまったということなのではないだろうか。多分ここは、足を怪我して引退することなくそのままフットボールを続けているタッツミーが居る世界なんだ。しかもボクと同い年のタッツなんて、うん、可愛いなぁ。ジーノは1人納得すると、自分に近付いて来た達海の手を取った。


「やっとボクも今の状況が分かったんだ。…ボクは、ルイジ吉田。ジーノと呼んでくれて構わないよ。多分すごく驚くと思うけれど、ボクの話を聞いて欲しいんだ。」


ジーノは達海の瞳をじっと見つめると、自分がETUの選手であることや、ロッカールームで感じた大きな揺れや謎の光のこと、気が付けばここに居たことなどをかいつまんで話した。不審がられることを覚悟していたのに、達海は真剣にジーノの話を聞いていた。勿論途中でジーノの手を振り払うことは忘れなかったのだが。


「う〜ん、何かまだ良く分かんない所もあるけど、ジーノのこと…信じるよ。とりあえずジーノは未来の…しかも別の世界から来たんだろ。俺、ETUのそんなユニフォーム見たことないし。…信じるしかなくね?それにわざわざお前が俺に嘘吐く必要もないしね。」


達海は頭を掻きながら、ジーノをチラリと見た。やはりどの世界でも達海は達海なのだ。自分のことを信じてくれる。


「タッツミー、ボクの話を信じてくれてすごく嬉しいよ。やっぱりボクの恋人は、どの世界でもボクに優しいんだね。」


ジーノは綺麗な笑顔を達海に向けたが、彼は恋人!?と素っ頓狂な声を上げた。あぁ驚いているタッツミーの顔も魅力的だね。ジーノは目を白黒させている達海に微笑んだ。


「うん、そうだよ。あっ、そういえばさっき話してはいなかったけどね、ボクの世界ではタッツミーはETUの監督で、ボクの可愛い恋人なのさ。35歳なのに、それはそれは可愛いんだよ。」

「俺、フットボールしか興味ないのに、そっちではジーノと付き合ってんの?……でもまぁお前、綺麗な顔してるもんな。もう1人の俺、優しくされたりとかで、うっかりときめいちゃったのかもね。」


達海はジーノが良く知る少年のような笑みを浮かべた。だが不意に気難しい顔をすると、あのさ、とジーノに話し掛けた。


「なぁ、そっちの俺って35なんだろ?なのにもう監督やってんの?」


達海の言葉に僅かにジーノの肩が揺れる。そして瞼の裏に愛しい顔が浮かんだ。この世界の彼に話してもいいのだろうか?ジーノは静かに目の前の彼を見る。この世界のタッツミーは、ボクの居る世界の彼とは繋がっていない。ジーノは決心した。


「タッツは…足の怪我が原因で、若くして…現役を引退したんだ。でも今はすごく楽しそうに監督をしているよ。ETUも最近は負けなしさ。」


達海はジーノの話をじっと聞いていたが、小さく息を吐くと、後悔してないならそれでいいよと呟いた。


「そっか…俺は、どの世界でも何かしらフットボールに関わってんだな。……なぁ、俺、今日ね、自主練やりに来ててもう着替えて帰るだけなんだけど…ジーノ、お前ってこれからどうすんの?」


達海の言葉にジーノは改めて自分の状況が決して楽観視できないということに気付いた。若い達海に会えたことで馬鹿みたいに舞い上がっていたのだが、自分はこの後どうすればいいのだろう?ちゃんと元の世界に帰ることができるのだろうか?不安そうな顔をしていたのだろう、着替え終わった達海が、あのさ…とジーノに声を掛けた。


「もしお前が良かったらなんだけど…俺の所に、来ない?ジーノはこの世界に俺しか知り合い居ない訳だろ?こうして会ったのも何かの縁だし。…まぁ俺の部屋、狭くて汚いけどね。」


達海は少し恥ずかしそうに俯くと、早く来いよとロッカールームを出た。ジーノは慌てて達海の後に続く。独りぼっちにならなくて良かったな。ジーノは達海の優しさが本当に嬉しかった。



*****
達海の住むアパートはETUのクラブハウスからそれほど遠くはないらしく、2人は住宅街をゆっくり歩いていた。


「それにしても住宅街でその格好って…ごめん、笑えるわ。」


ETUのユニフォーム姿のジーノはモデルのように綺麗に歩いていたのだが、場所が場所なので酷く浮いて見えた。


「ちょっと、酷いよ、タッツミー。ボクだって不可抗力だったんだから。」

「わりぃ、わりぃ。帰ったら俺の服何か貸すから。ま、とにかくよろしくな、ジーノ。」


達海がそっと手を差し出した。ジーノも目を細めると、優しく達海の手を握り締めた。


「うん。とりあえずこちらこそよろしくね、タッツミー。」


今はなるようにしかならない。それならば、この世界を満喫してみるのも悪くはないかもね。ジーノはそんなことを考えながら、もう一度達海に微笑んだ。

[*前へ][次へ#]

7/87ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!