early summer memory 夏の日のジノタツです ほのぼのしております 「こんな所で寝転んでいたら日焼けするよ。最近日光が強くなってきているんだからね。」 「ジーノ…?」 「そうだよ、君に会いに来たんだ。」 ジーノはピッチの端の方にごろんと寝転んでいた恋人の顔をひょいと覗き込んだ。後ろで手を組み、少しだけ背中を丸めた体勢で声を掛けたので、仰向けになっている達海の顔に薄く影ができる。鳶色の瞳の中に優しい笑みを浮かべた自分が映り込んでいることにジーノは小さな幸福感を覚えた。突然目の前に現れたジーノに達海は少しだけ驚いた顔を見せたが、すぐにまたいつもの表情に戻った。 「まだそんなに暑くないから日焼けは大丈夫だろ。」 彼の言葉通り、本格的な夏の到来はまだ先だ。だが、外見の良さも華麗なプレーに必要な物の1つだと思っているジーノは日焼けには割と敏感で、きちんと七分袖のシャツを着ていた。 「確かにそうかもしれないね。」 ジーノは笑って頷くと、そのまま達海の横に腰を下ろした。てっきり早く部屋に戻ろうよと促され、ジーノが隣に座ると思っていなかったのだろう、達海は慌ててその身を起こした。 「お前こそ日焼けすんじゃねえの?そういうのいつも気にしてんじゃん。」 「日焼けは嫌だけど、君の隣を離れるのはもっと嫌だからね。それにちゃんとケアしているから大丈夫だよ。だから、いいよね?」 「好きに、しろよ。」 座ったまま少しだけ距離を詰めてみると、達海は小さく肩を揺らして伸ばしていた両足を少しだけ右にずらした。付き合うようになってそれなりに時間が過ぎたが、ジーノが近付いてその距離をなくそうとする前に恋人はいつも照れた反応を見せる。そういう所がどうしようもなく愛おしいと思いながら、ジーノは達海の左肩にもたれるように身を寄せた。 「そういえば、さっきまでここで何をしていたんだい?」 「んー、色々作戦考えてたら煮詰まっちまって。外で考えた方が頭回るかなーと思って散歩して、ここに来たんだ。」 「そうだったんだ。部屋を覗いたら誰も居ないから、もしかしたらと思ってここに来たのは正解だったね。」 「……」 何だか最近俺の考えがお前に読まれてんなと達海は唇を尖らせた。愛の力のなせる業だよと微笑み返し、腕を伸ばして達海の腰を引き寄せようとしたが、何言ってんだよと恥ずかしがる恋人に軽く頭を叩かれてしまった。勿論痛みはないし、それ以上に彼が気を許して自分だけにこんなことをしてくれるのだと思うと、くすぐったくて仕方がなかった。 「タッツミー。」 達海の体温を感じると、心が満たされて穏やかな気分になる。ただそれだけで幸せなのだ。それは小さくて些細なものなのかもしれない。けれどもその幸せを手にすることは簡単なようでいて、本当はずっとずっと難しいのではないかとジーノは思うようになった。愛しい人の傍らで感じるその幸せは、ジーノが今まで知らなかったもので、そしてこれからも決してなくしたくない温かさだった。 「風、気持ちいいな。」 達海が目を細めて呟いた。夏が近付いているからだろう、頬を撫でる風に心地良さを感じる。爽やかな風がジーノの髪を揺らして楽しそうに駆けて行った。見上げた空も青くて、そんなことに心が躍るようになったのも、達海と一緒に過ごすようになってからだった。彼が隣で笑ってくれるようになって、ジーノの中での愛や恋、そしてフットボールに対する価値観が変化したことは明らかだった。 「そうだね。とても気持ちがいいよ。」 「だよな。あ、なんかちょっといい考え浮かびそうかも。」 嬉しそうな声を出した後、達海は脇に置いていたタクティクスボードを太ももの上に置いた。そして頭の中で描いたのだろうピッチの状況通りに赤いマグネット達を指で動かし始めた。 「タッツミーはどこでもそれを持ち歩いているような気がするよ。いつもアイスか、あの甘いジュースか、そのタクティクスボードを持って歩いているイメージがあるんだけど。」 「職業病なんですー。」 「そうだね、タッツミーらしいよ。ボクの好きな君だ。」 ジーノは達海の頬に手を添えると、ふわりと微笑んでから彼の唇に自身のそれを重ねた。啄むような口付けが終わると、すぐ目の前にある恋人の顔は数ヶ月前に見た桜の花と同じ色をしていた。キスもそれ以上のことも何度もやっているというのに、達海はフットボール以外の触れ合いにはいつまでたっても免疫がない。だからどうしてこんなに可愛いのだろう。そんな蕩けるような瞳で見つめられたら困るというのに。 「誰か見てたりしたら、お前…っ、」 「大丈夫だよ。今日は練習もないんだから。」 「そうかもしんないけど!そういうことじゃなくて…」 「ボクはタッツミーが好きなんだよって、もし皆に話したとしてもね、王子ならあり得るなって納得してくれそうな気がするんだけど。」 「は?そんなのないから!」 「そうかなぁ。」 「当たり前だろ。」 すっかりジーノのペースになっていることが不満なのか、達海はがしがし頭を掻いて、あーもう!と悔しそうに洩らした。 「ジーノ、お前…覚えてろよ。」 「やだなぁ、怖い顔しないで。」 宥めるように茶色い髪をくしゃりと髪をかき混ぜてみたら、これも不意打ちだったせいか、達海は目を瞠った後、照れくさそうにそっぽを向いてしまった。お前のせいで作戦考えるの中途半端になったじゃんと隣から文句が聞こえたが、恋人が本気で怒っていないことなど分かりきっているので、ジーノはそのまま身体を傾けて、達海の肩口に頭を乗せた。 「ねぇ、タッツミー。」 「何?」 達海が少しだけ首を動かしたのが分かった。達海の首筋に顔を埋めているので彼の匂いが鼻をくすぐる。お日様の匂いだねとジーノは小さく笑った。 「次の中断期間に休みが貰えたらさ、ボクとバカンスに行かないかい?2人でゆっくり羽を伸ばそうよ。」 「無理。監督にお休みなんかありません。」 すげなく断られてしまい、ジーノは達海から身体を離して鳶色の瞳を見つめた。 「つれないなぁ。タッツミーはボクと一緒にバカンスは嫌なのかい?」 「…嫌って訳じゃない、けど。今はそんなことしてる暇はないっていうか、やることたくさんあるし…」 「分かってるよ。困らせるようなことを言ってごめんね。」 「……まー、その、お前がちゃんと頑張ったら、考えといてやる。それでいいだろ?」 嬉しいよ、ありがとうと言おうとして、ジーノはそっと伸ばされた手に頭を撫でられた。少し乱暴だけれど優しい手つきに心が震えた。彼の中にも同じように自分への愛情があることが本当に幸せだった。 「タッツミー、ボクは小さな子供じゃないんだけどね。」 「いつもやられてるからお返し。」 「ボクはこっちの方がいいんだけど。」 意地悪く笑った達海に綺麗に微笑み返して、再びその唇を奪ってやった。僅かに目を丸くした後、達海は受け容れるように静かに瞳を閉じる。ジーノはこの上ない愛しさを覚えながら、大切な人の頬を優しく撫でた。 「楽しみだね、タッツミー。」 降り注ぐ初夏の陽射しと爽やかに駆け抜ける風が絶えず心地良さを運んで来る。彼の側で彼に幸せをあげ続けよう。いつまでも笑っていられるように。腕の中に愛しい人を感じながら、ジーノは心の中で祈りを捧げた。 END あとがき 短くて申し訳ないですが、とある初夏の日のジノタツのお話を書いてみました。 タッツミーと一緒なら多少の日焼けも気にならないジーノとかいいなぁと思います(*^^*)暑い日でも仲良くいちゃついてるじのたつ可愛い! 読んで頂きましてありがとうございました! [*前へ][次へ#] [戻る] |