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世界は美しく変わる
#327辺りのジノタツ妄想です

まだ付き合っていない設定にしていますが、両想いな2人です




変わる、ということは何とも不思議な感覚だと思う。


変わる、ということは本当に素敵なことなんだと思う。


彼に出会って、ゆっくりと、けれども確実に自分は変わっていった。


練習には遅れないようにしなければいけないね、と思うようになった。彼に出会う以前は遅刻することに別に躊躇いはなかったのに。


試合がつまらないなと感じることもなくなった。彼の考える作戦は毎回楽しくて、気持ちが高ぶって仕方なくなった。それは今までにない高揚感だった。


雨の日の試合はボールのコントロールにいつも以上に気を遣うし、全身が濡れて酷く不快であるし、セットした髪が乱れて額に貼り付くし、とにかくもうやる気が出なかった。それなのに、最後までピッチに立っていたいと思うようになった。濡れた髪から視界を遮るように零れ落ちる水滴も気にならなくなった。


誰かの為にゴールを捧げたいと初めて強く願った。自分のプレーで勝利を掴んで喜ばせてあげたい。初めてそう思った相手が彼だった。


彼に出会って、冗談ではなく世界がさらに広がって見えた。もっと綺麗な色になって見えるようになった。


変わる、ということは何とも不思議な感覚だ。





「おー、ご苦労さん。今日はよく頑張ったな。」


ロッカールームに戻る前に追い付いた達海の腕をきゅっと掴んだら、振り返った彼にそんな風に労られた。小柄だが機動力のあるヘッドコーチを先に帰してしまったのだろう、達海は背負われることなく1人でゆっくりと廊下を歩いていたのだ。こちらを真っすぐに見つめながら、嬉しさを隠そうともしないで笑う達海に胸が甘く締め付けられて、ジーノは達海の腕を握り締めたまま黙って頷いた。


「お前、前までは雨の日だとやる気が出ないとかなんとか言ってたけど、最近はちゃんとやってくれて、今日も交代までピッチに立ってたよな。」


それは想いを寄せる大切な人に喜んでもらいたいと思うようになったからだ。それが君に伝わるといいのになと思いながら、ジーノは指先に少しだけ力を入れてもう一度達海の手首をぎゅっと握ると、それからゆっくりとその手を離した。


「なんかさ、お前、髪が濡れてっと年相応な感じになるね。いつも思うんだけどさ、ちょっと可愛いっつーかさ。」

「可愛いのは君の方だよ、タッツミー。君も後半はベンチから外に出て指示を出していたからね。」


雨に濡れた茶色の前髪が額にぺたりと貼り付いている。ずっと年上であるというのにあどけなさを覗かせるその姿がジーノには可愛く見えて仕方がなかった。


「試合、勝ったね。」

「ああ、勝った。」


その時の光景を思い出したのか、達海が笑う笑う。勝利の嬉しさを噛み締めて、だがもっと先を望むような意思を感じさせる眩しい笑みだった。


「ねぇ、タッツミー。」

「うん?」

「ボクは、変わった。そしてチームだけじゃなくクラブ全体ももっといい方向に変わろうとしている。それって本当に素晴らしいことだと思わないかい?」

「ジーノ…」

「君のおかげだよ。」

「だから、ボクはこれからもずっと君にゴールを捧げたいんだ。」


ジーノは溢れる想いを込めて達海に告げた。ジーノの言葉を黙って聞いていた達海が僅かに目を丸くする。鳶色のその瞳をじっと見つめ返すと、達海はジーノを見据えたまま、そっと口を開いた。


「…前半の時も言ってたけど、それってつまりお前なりの決意表明みたいなもんなの?今日は守備も頑張ってたし。そう!俺、びっくりしたんだからな。ジーノ、お前の中で10番背負う自覚が大きくなってんだなって。…気まぐれファンタジスタも卒業かな?」

「これからも気まぐれで、だけど最強のファンタジスタでいるつもりだよ。」

「ははっ、言うじゃん!」


達海はそりゃいいやと楽しそうだった。そんな達海にジーノの口元も自然と綻んだ。透き通る瞳がただ綺麗で、その中に自分が映り込んでいることがとても幸福なことに感じられてどうしようもなかった。


「ま、確かにそうかもな。まさかあんなに必死に走ってるお前が見れるなんてね。」

「やられっぱなしや言われっぱなしは癪だったからね。ボクは王子なんだから。世話係に昇進させてあげたバッキーからは酷い扱いを受けてしまったけど。まさか、走れと言われるなんてね。あれは驚いたよ。」

「何あいつ、いつの間にか昇進したの?」

「まあね。」

「ふーん、そっか。でもお前、楽しそうだったけどね。俺にはそう見えたんだけど。違う?」

「そうだね。タッツミーの言う通りだよ。あの試合でボクはやるべきことをやりきった、そんな気持ちになれたんだ。最後まで大変な試合だったけれど、でも、とても楽しめたよ、タッツミー。」


今目の前に立っている彼の為だったのだ。彼に嬉しい顔をさせたかったから、ETUがこの試合に勝利する為に自分ができることをしなければと思った。それくらい必死だった。誰かのことを想ってこんなに必死になるのは多分きっと初めてのことで、それは今までの自分らしくはないけれど、悪くはない気分だった。


「あんなお前が見れるなんて、このクラブの監督やってて良かったなー。」


達海は冗談っぽくそう言って目を細めた。その優しさの滲む顔に胸が疼く。彼はジーノの変化を喜ばしい気持ちで受け止めてくれたのだ。それがはっきりと分かって、ジーノはやはり達海のことが好きで堪らないとそう思えた。


「…タッツミー、ほら、そろそろ着替えておいで。今日は試合だったから、まだこの後も仕事が残っているんだろう?濡れたままだと風邪を引いてしまうよ。髪もちゃんと拭くんだよ。いいかい?」

「ん、分かってる。お前もしっかり髪乾かせよ。今日は水も滴る何とやらになってからね、王子様。…あ、あとさ、」

「タッツミー?」


これからも王子様のいい変化っていうか進化を見せてくれよ。次も期待してるからね。ジーノの心を震わせる言葉を残すと、達海は足の不調はどこへやらと思えるほどの楽しそうな足取りで廊下の角を曲がっていった。


「やっぱり、もう限界かもしれないね。困ったなぁ。タッツミー、本当に君って人は…」


この想いにはもうずっとずっと前から明確な名前がついていて。5文字の言葉にして伝えたら、どんな顔を見せてくれるのだろうか。もう少し秘めておくべきだろうと思っていたけれど。これもいい変化なのかもしれないねとジーノは小さく笑みを零した。





冷えた体を熱いシャワーで温め、私服に着替え終わった後、愛車を停めている駐車場に向かう為に外に出ると、ジーノの眼前には綺麗な空が広がっていた。試合中は灰色の分厚い雲で覆われて泣き顔を見せていた空も、今はすっかりご機嫌な表情だった。遠くからは蝉の声もして、穏やかな空気だった。まるで今日の勝利を祝っているようで、ジーノは自然と笑みを浮かべていた。


「そういえば…」

『そうそう、有里が教えてくれたんだけど、今日の試合、雨の日初めての勝利らしいよ。しかもホームだったし。なんかさらに嬉しいよね。よし、これからも頑張んなくちゃだよなー。何せでっかい目標もあるし。』

「あの時、本当に楽しそうだったね。タッツミー、君が笑ってくれると、ボクも嬉しいんだよ。」


思わず見上げた空と同じようにジーノの心もどこまでも澄み切っていた。もしかしたらどこかで虹が見えているかもしれない。ジーノはそっと微笑むと、愛しい人のことを想った。


「君も見ているかな、タッツミー。」


ほら。雨がやんで、君が笑う世界はこんなにも美しい。


こんなにも美しく見えるんだ。






END






あとがキ
タッツミーから提案したあのミニゲーム後の名古屋戦はジノタツやら格好いいジーノやらとにかくたくさんの萌えが詰まっていたと思うので、試合後のジノタツ妄想にぶつけてみました(*´ω`*)絶対試合後に何らかのやり取りしてるはずですよね!ジノタツってますよね!


#327の展開からの妄想であれば、オールスター戦の後の時にジーノが気付いたみたいなやり取りがあったかもしれないと思ったのですが。こんな感じ→「おや、何だかあまり嬉しそうじゃないね、タッツミー。ボクも頑張ったんだけど。」「勝ったんだから嬉しいに決まってんだろ。…でもね、もっと大きなもん掴んでそんで目一杯喜びたいんだよ。……タイトルとかね。」「…っ、本気だね、タッツミー。」「俺はいつだって本気だよ。」みたいなやり取りしてないかなぁと思いつつ、このお話では試合で頑張ったジーノへのご褒美としてタッツミーにたくさん褒めてもらう流れにしました^^妄想は自由なのでいいかな〜と(*^^*)そして今回は敢えてまだ付き合ってない2人で書いてみましたが、傍から見ればもうすっかり付き合ってるという^^


タイトルを獲りに行くという、タッツミーの叶わなかった願いをジーノをはじめとして皆で叶えに行く姿をこれからも追い続けたいですよね(^^)ジャイキリとジノタツ大好きです!


読んで頂きまして本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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