only my prince
タッツミーが弱々しいです
ルイジ吉田。愛称はジーノ、または王子。イタリアの血が半分流れてるあいつは、気まぐれファンタジスタなETUの10番。何が楽しいんだか未だに謎だけど、皆に王子王子と呼ばせてる。
でもこいつは、本当に『王子様』だったんだ。
慣れきってしまったそれにずっと気付かないふりができたら多分もっと楽なのに。今日は朝からずっと足が痛かった。最近チームの中で色々あって、監督だけどあいつらと一緒になってボールを蹴ることがあって。伝えたいことをその短いゲームの中で示そうとした、俺なりに。だけど、ちょっと無理をしちまったからなのかもしれない、痛いのがなかなか治まってくれない訳だ。勿論ボールを蹴れば足が痛くなるなんてこと、分かりきっちゃいたけれど、それでも伝えなきゃならなかった。だから全然後悔はしてないんだけどね。してないんだけど。
「あー…やっぱ調子悪ぃなー…」
狭い部屋の中で自分の声がやけに大きくこだまする。昼は練習もあったし普段通りにしようと思っていたからまだ我慢できていたが、夜になっても痛みは続いていた。とっくの昔にこの痛みと共に生きていくことを受け入れても、やっぱり痛いもんは痛い。冷や汗が出るくらいに痛いって訳じゃないけど、次の対戦相手の名古屋を負かす作戦を考えるのを邪魔してくるくらいには頭の中を支配されていた。
「…うーん、」
これはやっぱり氷か湿布を取って来た方がいいかもしれない。そんなことをしても気休め程度にしかならないけど。それでもじっとしているよりはマシかと思い、とりあえず部屋を出ることにした。はっきりと感じる痛みのせいでいつも以上に歩みは慎重になってしまう。呼吸も少し浅くなってしまっているかもしれない。こんな姿を誰かに見られたりでもしたら、余計な心配を掛けることになる。けれど、昼間と違って薄暗い廊下には自分の気配があるだけだった。そのままゆっくりと進んでちょうど事務所の前まで来たが、電気はついていなくて、ここも廊下と同じように暗かった。
「……」
そりゃそうだ、この時間はさすがにもう誰も残っていない。頼りになる優しすぎるGMもワーカーホリック気味な敏腕広報も帰ってしまって当然のようにここには自分1人だけ。不意に寂しさのようなものを感じた気がして、それを振り払うように軽く頭を振った。このまま医務室に向かわなきゃならないってのに、気が付けばまるで何かに誘われるように事務所の中へと歩みを進めていた。大きな窓からうっすらと月明かりが射し込んでいるからか、中は完全に真っ暗という訳じゃなかった。段々と薄暗い空間に目が慣れてくると、すぐ近くの机の上で長方形の物体が色濃く浮かび上がって見えた。それが電話機だと分かった瞬間、優しく微笑むジーノの顔が浮かんだ。
「何考えてんの、俺…」
電話しようか、とか。会いたいかも、とか。思わず受話器に手を伸ばしかけた自分に笑いそうになった。ジーノに電話する?いいや、そんなことはできない。もう夜も遅い時間だから迷惑は掛けたくないし、そもそも弱ってる所なんか見せたくない。心配されたくもないし、自分から縋り付くなんて年上の威厳とかもなくなっちまうんだから。けれどもこの足は自分の言うことなんか全然聞いてくれなくて、痛みはなかなか引いちゃくれない。
「…っ、」
独りなんて慣れっこなのに。全然平気だってのに。何故か今夜は孤独を強く感じた。
「ジーノ…」
死んじまうくらいに痛い訳じゃないのに、もうこれ以上進めそうになくって、入り口近くにある誰かの机にもたれるように背中を丸めてうずくまった。両膝の上に腕を乗せ、疲れた旅人みたいにそこに顔を埋めて。全身を襲う不安から逃れるようにぎゅっと目を瞑る。体育座りの格好でじっとうずくまって余計なことは考えないようにしてたはずなのに、瞼の裏から年下の恋人の顔が消えてくれなかった。
「…じーの……」
届く訳もないのに、口が勝手に動いた。
「じー、の…」
「タッツミー!」
ルイジ吉田。愛称はジーノ、または王子。イタリアの血が半分流れてるあいつは、気まぐれファンタジスタなETUの10番。何が楽しいんだか未だに謎だけど、皆に王子王子と呼ばせてる。でもこいつは本当に『王子様』だったんだ。
「ジー…ノ…?」
「そうだよ、ボクだよ。タッツミー。」
「え…!?なんで…お前…」
急に明るくなったせいで目がチカチカして、その場に座り込んだまま上手く反応できなかった。一瞬、目の前のこいつは幻なんじゃないかと思った。自分で勝手に作り出した幻なんだと。だけど違った。心配そうな顔でこちらを覗き込んでくるジーノは確かに本物だった。くそっ、このタイミングで目の前に現れて手を差し伸べてくるなんて、童話の中の王子様みたいじゃんか。そう思わずにはいられなかた。
「何でだよ…」
「今日の練習中、何となく様子がおかしかったような気がしたから。やっぱりどうしても気になってしまってね、だからこんな時間だけど愛車を走らせて会いに来たんだよ。君の部屋に行ったんだけど姿が見えなかったから、もしかしたらここかなと思って…。」
「でも、だからって…」
ジーノは恋人のことが心配ならこうして会いに来るのは当たり前だという顔をしていた。
「大丈夫かい?明かりもつけずにこんな暗い所に座り込んだりして…もしかしてだけど、タッツミー、君、足の調子がまだ…」
「ちげーよ。……なんか…1人で部屋に居るのが寂しくなっただけだよ。そんでぶらぶらしてて疲れたからちょっと休んでただけ。別にそんだけ。」
「……」
多分こいつは見抜いてる。というよりこんな苦し紛れの嘘なんかこいつに通じるはずもないんだけど。だからきっと全部分かってるんだ。あのミニゲームの時もそうだったし。言いたいことだってあるんだと思う。だけどいつだって俺の気持ちを尊重してくれるんだ。何よりも大切にしてくれる。
「そう、それならもう寂しくないよ。ボクがこうして一緒だからね。」
大丈夫だよ、タッツミー。大丈夫。耳元で優しく愛おしむ声が響き、ぎゅうと抱き締められた。不思議だった。たったそれだけのことなのに痛みを忘れそうになるくらい心が安心した。
「お前って本当に王子様なんだ。」
「いきなりどうしたんだい?…でもそうだよ、ボクは王子のように完璧さ。そして君だけの王子だよ、タッツミー。」
「ははっ、完璧って…自分で言ってりゃ世話ねーな。」
「ちょっと、ボクが王子様って言ったのは君なんだよ、タッツミー。」
「うん。そうだね。」
ジーノの腕の中に体を預けたまま、ぎゅっと抱き締め返した。密着した所からジーノの体温がゆっくりと伝わってきてどこまでも安らいだ気持ちだった。
「なぁ、ジーノ、」
あと5分だけこうしてて?もう少しだけこの穏やかな心地良さを感じていたくて、恋人の耳元に唇を寄せた。
あぁ、やっぱりこいつは誰にも渡せない。
俺だけの王子様。
END
あとがき
童話の王子様みたいにきゅんとする行動をジーノにしてもらいたくて、タッツミーを抱き締めに来るお話を書きました。側に居て欲しいと言えないけれど会いたくなった時に、まるでその気持ちを感じたかのように会いに来るなんて素敵ですよね!ジーノはそういうことがさらっとできると思ってます^^
ジーノには絶対タッツミーアンテナが備わってますよね(*^^*)離れていてもタッツの気持ちを受信して寂しくないように愛を囁きに行くんじゃないかなとv
読んでくださいましてありがとうございました。
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