一緒に居るための定義
ジノタツの日(10月7日)のお祝い文です
部屋でごろごろしている2人です
本来1人用の安物のベッドに男2人で寝そべるというのは、毎回思うのだが物理的に無理がある気がする。ジーノの奴、もう少しだけ向こうに行ってくんないかな。ちょっとどころか大分狭いんだけど、こっちは。達海は布団の中で小さく身じろぐと、同じように布団に入って頬杖をついているジーノの横顔をチラッと見た。今現在一緒に布団の中に居るといっても、服を脱いで2人で抱き合っているという訳ではなく、達海とジーノの視線はそれぞれ真っすぐにテレビの画面へと注がれていた。
「右サイドの彼、無意識だとは思うけれど、やっぱり少しだけ上がりが遅いよ。そのせいで一瞬スペースが生まれてしまっているからね。」
「だろ?お前もそう思う?」
「うん。他の試合の映像でも同じように感じたよ。きっとあの彼の癖なんだろうね。」
「そうだよなー。やっぱ次の試合の時は、そこを徹底的に攻めねぇとな。」
相手チームの情報はどんなことでも忘れないようにメモしなければいけないと、達海はリモコンの一時停止ボタンを押した。それから脇に置いてあった書きかけのメモ帳に手を伸ばすと、布団を被って寝そべったままの格好で熱心にペンを走らせた。得られた情報から頭の中で導き出される幾通りもの作戦を書き出していると、ジーノがこちらを覗き込むようにして顔を近付けてきた。睫毛と睫毛が触れそうなその距離に、達海は驚いて勢い良くジーノから離れる。だが所詮は狭いベッドの上、ジーノから十分に距離を取ることなど不可能だった。ふふ、そんなに驚かなくてもいいんだよ、とジーノは王子様の笑みで笑っていたが、その瞳は今し方達海が色々と書き込んでいたメモ帳をじっと見つめていた。
「タッツミーって、すごくすごく可愛いのに、字は…汚いよね。ボクでも解読できない時があるもの。」
「…う、うっさいな。別に俺が自分で読めれば何も問題ないじゃん。そーいうの余計なお世話です。」
「もう、素直じゃないねぇ。あっ、そうだ!ねぇ、タッツミー、ボクの名前を書いてみてよ。さすがに恋人の名前なら、ちゃんと綺麗に書けるよね?」
ジーノの瞳に楽しそうな色が浮かぶ。達海が自分の名前を書いてくれる所が見たくて堪らないのだろう。それは滅多にないと言っていいことだからだ。さぁ早く早くとジーノの笑みに促されるままに、仕方ないなぁと達海は再びペンを握った。
「ルイジ吉田って書けばいい訳?」
「ジーノでいいよ。それなら簡単だからね。」
ん、分かったと頷くと、達海はメモ帳を1枚捲り、真新しい紙の上でゆっくりとペンを動かし始めた。綺麗に書こうと意識しているのか、達海の顔は思ったより真剣だった。達海はジーノの名前を書き終えると、手を出して嬉しそうに待ち構えている相手に、はいどうぞと、小さな紙を手渡した。
「……うん。ヅーノとしか読めないんだけれど。これはどう見てもヅーノって書いているじゃないか。タッツミー、片仮名すらもきちんと書けないなんて…」
本当に困った人だね。ジーノは呆れたように小さく笑うと、ボクがお手本を書いてあげるよと、達海の手から優しくペンを掬い取った。そしてそのまま流れるような仕草でサラサラと自分の名前を書いていく。達海の視界にペンを握る長い指と、黒いカットソーの袖口が映り込んだ。布団の中で寝転んでいるので、達海は勿論ジーノも自身が着ていたカーディガンを脱いだラフな格好をしていた。達海はジーノの袖口をちょいちょいと摘むと、いいから見せてみ、とメモ帳を覗いた。
「あ〜、やっぱ顔がいい奴ってのは字も綺麗な訳?何か…ムカつく。」
「あぁ、拗ねないでよ、タッツミー。あのね、もう1枚捲ってみて欲しいんだ。」
「うん?もう1枚書いたの?」
綺麗な英文字でジーノと書かれている紙を捲って現れた文字の羅列に達海の頬がじわりと熱くなった。隣に居る王子様は恥ずかしがることもなく、平気な顔でこんなことをするから困ってしまう。
「ジーノ、お前…これ…」
「『Ti amo』って書いたのさ…愛しているよ 、タッツミー。」
「うっわー、相変わらずだね、お前。」
ボクはタッツミーのことが本当に大好きなんだよ。伝えきれないくらいに好きで好きで。ジーノは優しい瞳で達海を見つめると、ふわりと花が咲いたように微笑んだ。ジーノはいつもストレートに愛情を表現してきて。恥ずかしい奴だなと思いながらも、その愛情が酷く心地良くて安心できて。達海は思う。こんな風に一緒に布団に入ったり、仕事中に口を出されても気にならなくなったり、抱き締められると小さな幸せを感じたり。ジーノだけなのだ。これからも一緒に居て欲しいと思うのは。笑い合っていたいと思うのは。
「俺にとって、ジーノは…」
ジーノに聞かれてしまわないように達海は小さく小さく呟くと、一瞬何かを考える素振りを見せた。そしてリモコンを掴んで操作すると、そのままテレビの電源を切った。
「おや、タッツミー、まだ途中だったよね?消してしまって大丈夫なのかい?」
「うん、大体の作戦はちゃんとまとめたから、別に大丈夫。」
2人だけの静かな部屋の中、達海はジーノに向き直る。布団の中では嫌でも距離が縮まるが、今は却ってそっちの方がいいかもしれないと思えた。タッツミー、どうしたの?達海にじっと見つめられ、ジーノが小さく瞬きをする。達海は、あのさ、と口を開くとゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺ね、結婚とか…そういうの全然したいって思わないんだ。フットボールが大事だから、家庭に縛られたくないっていうか…」
「えっ!?いきなりどうしたんだい?…まさか、タッツミー、ボクとの結婚を遠回しに断るつもりなんじゃ…そんなこと、ボクは…」
「はあ?ジーノ、何言ってんの?俺もお前もれっきとした男なんだから、結婚できる訳ないじゃんよ。…俺が言いたいのはさ、そういうことじゃなくて。」
「うん…」
「俺が一緒に居て欲しいって求める形ってのは、パートナーなんだよね。」
「パートナー…」
ジーノは目を見開くと、達海の言葉を復唱するように小さく唱えた。
「うん、パートナー。パートナーはさ、お互いを尊重し合って、対等で、ずっとずっと一緒に歩いて行く。そんな関係だよ。」
「尊重して…対等…」
「…俺にとってのパートナーは、ジーノ、お前しか居ないんだ。これからもずっと一緒に歩いて行きたいって思うのはさ。」
「タッツミー…」
「お前のことだから、ほんとは『恋人』って言う方がいいかもしれないけど…俺は、ジーノとはパートナーでいたいって思う。俺の中ではそういう定義なの。…お前が隣に居るってのは。だから、その…」
「タッツミー!」
息が止まるのではないかと思うほど強く抱き締められ、与えられる優しいまでの温もりに目眩がした。ボクもタッツミーとはパートナーでいたい。これからもずっとずっと一緒だよ。甘い声が達海の鼓膜を震わせる。達海はジーノの腕の中でそっと体を動かすと、ジーノが自分にしているのと同じように目の前の大切な人の背中に腕を回した。ジーノは抱き締める腕の強さはそのままに少しだけ体を離すと、照れくさそうにしている達海を見つめてきた。
「タッツミー。パートナーっていう考え方をするようになったのは、やっぱり…向こうで暮らしていたから?」
「…まぁ、そうだなぁ。イングランドに居た時の知り合いの中に、男同士っつーか、そういう奴らも居たからね。」
「ちょっとタッツミー、まさか誰かに言い寄られて、そのまま朝まで…なんてことはあったりしないよね?…ないよね!」
「お前な、心配しなくても大丈夫だって。付き合って、しかもそういうこと…やったのは、ジーノが初めてだよ。俺にはずっとフットボールだけだったからね。それに、これから先だってお前以外なんて絶対考えられねぇし…」
「本当に可愛いことを言ってくれるね、ボクのパートナーは!」
ジーノは嬉しさを隠しきれないとばかりに満面の笑みを浮かべると、達海の頬を愛おしむように撫でた。ジーノにそんな顔をされるとどうしたらいいのか分からなくなってしまう。本当はパートナーの話などするつもりはなかった。勿論気恥ずかしさもあるが、わざわざ話すようなことでもないと考えていたからだ。だが結局、達海はジーノに話してしまっていた。これからもこんな風に一緒に居たいから。一緒に居て欲しいから。だから自分の中では、ジーノ=パートナーの定義が存在していることをちゃんと伝えたかったのだと思う。そんな風に考えていたからか、達海はジーノが顔を近付けてきたことに反応するのが遅れた。端正な顔が達海の目の前に広がり、そのまま唇を奪われた。
「ん…ジ、ーノ。」
何度も角度を変えて交わされる口付けは、幸せ過ぎて泣きたくなるほど達海の心を満たしてくれた。ジーノは口付けを終えると、達海の下唇を指で撫でて満足そうに微笑んだ。
「タッツミー、ボクを選んでくれて、本当にありがとう。」
「あ…えっと、どういたし、まして?」
もう、何で疑問系なんだい?ああ、照れているんだね?ジーノは楽しそうに笑ったが、すぐに真剣な瞳になると、ありがとうと、もう一度囁いた。その幸せそうな顔に再び頬が熱くなって。顔が赤くなってしまうのはもう仕方がないなと苦笑すると、達海も想いを込めたありがとうを音に乗せた。
END
あとがき
ジノタツ大好きです!サイト3年目のジノタツの日のお祝い文は甘く幸せな2人を目指して書いてみました。
タッツミーの部屋でまったりしていたけれど、いつの間にかパートナー談義に発展していたジノタツです。タッツミーの中でジーノという存在がこんな感じだったら素敵だなという1つの妄想ですv恋人は勿論なのですが、パートナーの方が、2人でずっとずっと一緒に居られる気がしますよね^^
公式で遂にジノタツ回を拝むことができて、ますますジノタツ愛が深まっております!ジノタツ可愛いよー^^これからも2人を愛でていきたいです。
読んで下さいましてありがとうございました!
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