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星に願いを
#297のミニゲーム後にこんな感じで2人で会っていたらいいなという原作捏造です




あれはいつだったかな。戯れに訊いてみたことがあったんだ。


『ねぇ、タッツミー。君は若くして引退したことをどう思っているんだい?』

『もうちょい長くピッチに立てなかったのはやっぱ残念だけどね。でも言っとくけど、後悔なんてそんなものしてねぇよ。俺は全力で走り抜けたんだから。』


迷いも躊躇いもなく真っすぐに返された言葉だった。だから、その言葉通りなんだろうなと思ったんだ。


改めて言うことではないけれど、ボクにとっては今のタッツミーが何よりも大切で、彼の過去のことは敢えて詮索しようとは思わなかった。タッツミーがボクの隣で笑ってくれて、ボクのプレーに目を輝かせてくれるだけで十分に幸せを感じていたから。


ボクにとっては今のタッツミーが何よりも大切で。それは偽りのない本当の気持ちなんだ。だけどね、心のどこかでは、彼と一緒にボールを蹴ってみたいと思わない訳じゃなかった。きっと楽しいんだろうな。きっと面白いんだろうな。実現することのない儚い願いを夢見ない訳じゃなかった。


だから、今日のことはまるで夢のような出来事に感じられた。彼はいつもピッチの向こう側の存在だったのだから。大好きな君と同じピッチに立った。大好きな君と一緒になってボールを追い掛けた。大好きな君の楽しそうな笑顔。大好きな君のボールを蹴る姿。本当に夢みたいだった。


でもね、夢は醒めるものなんだ。夢のような楽しい時間はそう長くは続かなかった。本当にあっという間だったよ。それはボクも最初から分かっていたことだったけどね。それでもやっぱりボクはタッツミーと一緒にプレーできて嬉しかった。そして、もがきながらも今を一生懸命生きる君を何よりも愛しく感じたんだ。


ボクは今日この日のことをずっと忘れないでいるつもりだよ。タッツミー、君もそうだよね?



*****
旧用具室の室内にある簡素なベッドの脇に腰掛けて、夏の暑さなど全く感じさせない優雅さを纏って脚を組んでいたジーノは、すぐ傍らでタンクトップ姿で体を伸ばして寝転がっている恋人に声を掛けた。


「大丈夫かい?もうつらくはない?」

「お前、ミニゲームの前も終わった後も訊いてきたけど、大丈夫だって。お前がここに来る前に医務室行ったし、今は大分落ち着いてるよ。自分の足のことは自分が一番よく分かってるから大丈夫。」


心配そうな声にいつもののんびりとした声が返された。ジーノは、ケアした足に負担を掛けないようにと仰向けになっている達海の顔を覗き込んでみたが、確かにゲーム終了直後よりは調子が良さそうだった。


「それならいいんだけど。」


心配してくれんのは嬉しいよ、とからかうように目を細めた達海に、心配するに決まってるじゃないか、ボクは君の恋人なんだから、とジーノは真剣な顔で言葉を紡いだ。夢のような幸せな時間に覆い隠されてしまいそうだったが、恋人の足はもう自分と同じではないのだ。十分過ぎるくらいに分かっていたことだったが、この強がりな年上の恋人は弱く脆い部分をなかなかジーノに見せようとはしない。だから、心配になってしまうのだ。愛しいが故に。


「…あの時さ、ゲーム続けろって言ってくれて、あんがとな。」

「皆に伝えたいことがあるんだろうなって思ったんだよ。君の気持ちを尊重して優先したかったのさ。」


お前には俺のこと、何でもお見通しなのかなーと、達海はどこか楽しそうな声で呟いた。


「それしてもさ、お前、今日はいつになく楽しそうな顔してなかった?やけに爽やかっていうか、何かそんな風に見えたんだけど。」

「それは仕方ないよ。タッツミーと一緒にプレーできたんだから。それがボクにとってどれだけ意味のあることなのか…」

「ふーん、そっか。」


「今の君がボクにとっては何よりも大切だよ。だけど、君と一緒にボールを蹴りたい、君とサッカーができたら…。そんな風に思う気持ちも確かにボクの中にはあった。ボクはね、欲張りなんだよ。」


恋人としての自分は今の彼が大切な存在であると感じていて、選手としての自分はほんの短い時間でいい、彼と一緒にピッチに立ってみたいと思っていた。叶うはずもなかった願いが今日、こうして思わぬ形で現実となったのだ。現役時代は素晴らしい選手だったと想像するに難くないプレーを披露した姿。そして、思うように動かない足で懸命にボールを追っていた切なさの漂う姿。きっと真剣な思いで臨んだのだろうから、途中で降りるようなことはせずに最後までやり抜くようにと声を掛けたが、そのどちらの姿もジーノの心を震わせ、様々な感情が去来しない訳がなかった。


「なぁ、10番のエースから見て俺のフットボール、どうだった?…訊くまでもねぇけど、やっぱどう考えても老いぼれのプレーに違いなかったよな。最後の試合だったのにさ。」

「そんなことないよ。素晴らしいプレーだったよ。」

「んな訳ねーよ。」


達海が上半身を起こしてじっとジーノを見つめた。慰めなんかいらない。ジーノにはそんな表情にも見えた。ボクは、本当に素晴らしいと思ったよとありのままの気持ちを口にして、ジーノはそっと微笑んだ。


「ゲームの前半、タッツミーはボクの求めている理想のパサーだった。だから君のプレーに応えてボクもシュートを打ったのさ。…それに、足が言うことを聞かなくなっしまってからも最後まで一生懸命ボールを追い掛けようとしていたよね。それは、素晴らしいプレーだとは言わないのかい?」

「ジーノ…」


君は素晴らしかったよ。ジーノの真っすぐな想いが届いたのか、達海の瞳が僅かに揺らめいた。だが、年下の恋人にそこまで言われて気恥ずかしくなったのだろう、相変わらずいいゴール決めてたよなー、さっすが王子様、と早口で誤魔化すようにジーノを褒めた。


「だから、タッツミーの方がボクよりずっとすごかったよ。」


自分が発した言葉の通りだった。ほんの10分程度のミニゲーム。ジーノは真剣にボールと向き合えた。それは達海の魅力的で必死なプレーに心を惹き付けられて、最後まで彼を楽しませてやりたい、勝たせてやりたいと本気だったからだ。結果は最初から用意された物だったけれど、確かに達海のフットボールはジーノの心を掴んで揺さぶったのだった。


「最後は酔っぱらいみたいにフラフラしてたって言ってたけど、やっぱり頑張ればまだまだ現役やれるんじゃない?」


ジーノは、冗談混じりで達海と初めて会った時と同じ言葉を紡いだ。そんなジーノの冗談に応えるように達海が笑った。


「お前からのお誘いは魅力的だけど、もう今の俺はETUの王様だかんね。俺の代わりにお前らにちゃんと頑張ってもらわないと。…お前も含めて皆分かってんだろ?変わらなくちゃならないってこと。」


今日達海が現役復帰を懸けてミニゲームをしようと言った意味をジーノはちゃんと理解していた。更なる高みへ行くためには、今のままではいけないことを。ETUというまだまだ発展途上のクラブの為に一生懸命頑張ろうとする恋人は随分と年上であるけれど、どうしても可愛くて見えて仕方がなかった。


「タッツミー。」

「なにー?」

「ありがとう。今日は本当に楽しかったよ。」


腕を伸ばして目の前の細い体を引き寄せると、ジーノは達海をそっと抱き締めた。


「お前は、いつもいきなりだね。」

「皆の前だと怒るでしょう、君は。でもここならいいよね?」


あっついんだけどなと口を尖らせながらも、達海は大人しくジーノの腕の中に収まっていた。


「俺も、あんがと。お前とフットボールするとこんな感じかぁって分かって良かった。うん、やっぱ楽しかった。」

「それは良かったよ。ボクは魅力溢れる選手だからね。これからももっとタッツミーを楽しませてあげられるよ。」

「お前らしいな、その発言。」

「ねぇ、タッツミー。」

「ん?」

「ボクはタッツミーの夢を背負ってボールを蹴るよ。君の夢の続きはボクが叶える。」


もっと選手でいたかったと言っていた。ゴールももっと決めたかったと言っていた。ETUの選手として駆け抜けたフットボール人生を後悔はしていないけれども、もっとボールを蹴ってプレーしていたかった気持ちもまた達海の本当の思いに違いないのだろう。ジーノはETUの選手として今まで己の美学を第一にプレーしてきた。それが達海と出会って、彼の生み出すフットボールが楽しくして仕方がなくなった。そして、今は大切な彼の願いを背負って彼の心と共にプレーしたいと強く思ったのだった。


「…今の、今日一番びっくりした。」

「ボクはこんなにもタッツミーのことだけを考えているんだよ。」

「……うん。…お前なら期待してやっても、いいかな。俺に夢の続きを見せてよ。」

「タッツミー。」


ふわりと笑ったその顔があまりにも綺麗で。ジーノは達海の腰に回していた腕に力を込めて、さらに彼を強く抱いた。


「でもさ、期待したいとこなんだけど、一緒にやっててよーく分かった。ジーノ、本当にお前、ちゃんと守備しろよな。皆でカバーしてさ、足が短い松ちゃんが可哀想だったじゃん。」


分かってんのー?じゃないと、俺、安心してお前に夢託せないじゃんかと達海がじゃれるようにジーノに抱き付いた。


「タッツミーのお願いでもそれは難しいかもね。」

「お前なぁ…ほーんと気まぐれファンタジスタだよ。」


足の痛みが完全に治った訳ではなく、やはり決して本調子ではないだろう達海はそれでもとても楽しそうで。明日からまた監督としてクラブの為に頑張る君を支えてあげよう。それは恋人としてのボクの役目なんだからね。だからとりあえず今日はうんと甘やかしてあげるよ。君のおかげでボクの心は今こんなにも満たされているんだ。ジーノは耳元で囁くと、優しい恋人に笑顔を向けた。


真剣な瞳でピッチを見つめて采配を振るういつもの君も、少年のようにボールを蹴っていた今日の君も、今の自分自身と向き合う強い君も、ボクに笑顔をくれる可愛い君も、どんな君もボクの愛しい宝物。






END






あとがき
本誌で290話を読んだ時には痛みに耐えてボールを追い掛けるタッツミーの姿に切なくて泣きそうになったり、ジノタツに萌え叫ぶことになるとは思ってもいなかったです!!296話辺りまで本当に公式の破壊力がすごすぎてどうしようもないのですが、ジノタツ的な補完がしたかったので妄想してみました^^公式でジーノがタッツミーのことを理解しすぎていて、あまりのジノタツっぷりにやっぱり付き合ってるよね!と勝手に確信してしまいましたからね(*^^*)


原作を読んでいると、ジーノもタッツミーも自分の足で立っていて、だからこそそれがお互いに心地良い支えみたいになっているのかなぁと思うのですが、私は甘い雰囲気の2人が大好きですので、結局このお話もそんな雰囲気になりました(о´∀`о)


ジノタツは本当に最高ですね^///^タッツミーとジーノの2人で幸せになって欲しいです!


読んで下さいましてどうもありがとうございましたv


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