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思い出のカケラ
ジーノがタッツミーの部屋を片付けるお話です

タッツミーが乙女です;;




可愛い恋人の為ならどんなことだってしてあげたいし、欠点だって些細なことだと目を瞑ってあげる。達海の傍らに居る時、いつもジーノはそう思っている。恋人が笑顔になって目一杯喜んでくれる。それが自分の幸せだからだ。だがそんな風に恋人に甘いジーノでも、どうしても我慢できないことがあった。


「ねぇ、タッツミー。今日こそはこの部屋を片付けてもらうよ。見てごらん、この散らかりようを。あまりにも酷いよね。ボクの足の踏み場もないじゃないか。」


口に出したことはなかったが、ジーノは前々から思っていたのだ。達海の部屋を訪れる度に。床一面に広がる資料とメモの海、積み上げきれなくてぐちゃぐちゃに倒れてしまっているDVD、テーブルの上には空になったお菓子の袋が悲しく口を開いたままで放置され、ベッド脇には普段着がきちんと畳まれることなく無造作に引っ掛けられている。美しくない上に、こんな状態で住み続けていたら恋人の健康に何かしらの影響が出るのではないかと思っていたのだ。だから天気の良い絶好の掃除日和である今日この日に、達海に部屋の片付けをするように提案したのだった。だがベッドにもたれ掛かるように座ってジーノの話を聞いていた達海は、唇を尖らせて明らかに嫌そうな顔をした。


「えー、俺、片付けとかって苦手なんだよね。別にこのままで良くない?ここは俺の部屋なんだし、俺の使い勝手が良ければそれでいいじゃん。」

「何言ってるんだい、タッツミー。片付けた方が部屋の中がすっきりとして気持ちが良いし、それにきちんと整理した方が作業効率が上がるに決まっているでしょう?だから今すぐ綺麗に片付けてもらうよ。」


この部屋はもうずっとまともに掃除すらされていないだろうから、部屋のあちこちに埃が溜まっているだろう。だから本来はきちんと大掃除をするべきなのだ。ジーノはそんな風に考えていたのだが、さすがにそこまで言ってしまうと大掃除なんて面倒くさいと駄々をこねられるに違いないので、今日は散乱している物の整理整頓で妥協したのだ。だが達海はそれすらも面倒だからやりたくないとそっぽを向いている。恋人の我が儘は可愛い物だが、さすがに片付けだけはして欲しい。達海の生活環境の改善を考えてのことは勿論だったが、ベッドに行くまでの前戯として床に押し倒した時に色々な物が散らかっていると、ムードも何もなくなってしまうのだ。これは達海に言うと確実に怒られてしまうだろうから、絶対に言わないでおくのだけれど。


「さぁ、タッツミー、片付けて。」

「だからさ〜、面倒だって言ってるじゃん。そんなに片付けたいってなら、そうだ、ジーノが俺の部屋片付ければ?」

「ボク?うん、勿論いいよ。」


えっ、ジーノが俺の代わりに片付けてくれんの?少しだけ驚いた達海に、代わりに片付けてあげるよと頷いた。元々達海を手伝うつもりであったし、ジーノ自身掃除や片付けは嫌いではない。ジャケットを脱いでカッターシャツ姿になると、感心したような瞳と視線が合った。


「へ〜、王子様でも掃除ってするんだな。」

「あのねぇ、ボクを何だと思っているのかな?タッツミーも良く行くから分かっていると思うけど、ボクの部屋はいつ来ても綺麗だよね?あれはボクが毎日掃除や片付けを欠かさないからだよ。」


とりあえずはテーブルの上のゴミからだと、ジーノが恋人の好きなジュースの空き缶やお菓子の袋を集めていると、手持ち無沙汰になった達海があのさ…と、遠慮がちにジーノに声を掛けた。


「俺、ほんとに片付けとか苦手でさ、多分ジーノの邪魔にしかなりそうにないし、コンビニで時間潰してくる。お前には悪いけど…片付けは適当でいいからさ。」

「分かったよ、気を付けてね。帰って来たら綺麗になっていて驚くと思うよ。」


部屋を出て行った達海を笑顔で見送ったのだが、ほどなくして再び部屋のドアが開いて達海が戻って来た。どうしたのだろうと思っていると、はいと分別用のゴミ袋を手渡された。どうやら片付けがしやすいようにと有里から貰ってきてくれたらしい。それじゃあよろしく、王子様と笑う恋人はそれはもう可愛くて。そのまま目の前の唇に口付けてしまったのも仕方がなかった。



*****
1人になった部屋の中でジーノは黙々と片付けをしていた。無残に放置されていた普段着のパーカーやジャージの上下を綺麗に折り畳んでしまいやすいようにとベッドの上に置き、テーブルや床に散らばっているゴミはきちんと分別してそれぞれの袋の中に入れた。崩れていたDVDの山は、探しやすいようにラベルに書かれていた日付やチームごとに並べ替えて均等に積み直したりもした。こうした片付けの作業はジーノが予め予想していた通り、それほど大変なものではなかった。達海の部屋はシンプルを好むジーノの部屋以上に必要最低限の物しかなかったので、散らかっている物とゴミを片付けてしまえばそれで終わりだったからだ。そろそろ片付けのゴールが見えてきた所で、ジーノは最後の仕上げに手間が掛かりそうだからと後回しにしていた大量の資料や手書きのメモの整理をすることにした。手書きのメモは恋人であるジーノでも何が書かれているか判別しにくかったので、トントンと角を揃えて小さなテーブルの上に置いた。


「フフ、タッツミーったら本当に子供だよね。」


達海にしか分からないであろう単語や文章の羅列の中に、所々何かのキャラクターのような落書きが描かれている。綺麗に整えたメモをパラパラと捲ってみると、その落書きは他の紙にも見られた。こういう子供のような幼い部分を持っているからか、達海は本当に自分より年上なのかと思ってしまうこともある。まぁそれが恋人の可愛い所でもあるのだが。


「よし、後は資料を整理したら終わりだね。」


ジーノはゆっくりと立ち上がると、テレビの前にそのまま移動させていた資料を丁寧に拾い上げていった。資料に書かれているページの番号順に並べていけば良いのだが、如何せん量が多い。これは少し骨が折れる作業だねと思いながら黙々と資料を拾っていると、テレビが置かれている金属製のラックの一番下の部分と床の隙間、ちょうど埃が溜まりそうなその場所に資料が何枚か入り込んでいた。屈み込んでそれらの資料に手を伸ばそうとしたジーノは、奥の方に何かがあることに気付いた。


「何だろう…気になるね。」


奥に手を入れて取り出してみると、中から出て来たそれは、チョコレートやクッキーのアソートなどが入っているようなタータンチェック柄の四角形の缶だった。蓋の部分にはジーノも知っている高級洋菓子店の可愛らしいロゴが印刷されていた。ジーノは、恋人であろうとお互いのプライベートの部分はきちんと尊重したいと考えている人間だ。だから達海のプライベートをあれこれ詮索するようなことはして来なかった。達海の過去についてもだ。だがそれは達海と浅い付き合いで良いからではなく、恋人である彼を信頼しているからで。自分達には幸せな今と、その幸福が続く未来があればそれだけでいい。そうであるからこの箱は、今すぐ元の場所に戻すべきなのだ。けれどもまるで隠すかのように奥にしまい込まれていた缶の中身がどうしても気になって仕方がなかった。


「まだ、帰って来ない、よね…?」


ドアの向こう側の気配を探ってみても、達海が戻って来た気配はなかった。中身を確認したら何事もなかったように戻してしまえばいい。ジーノは息を詰めて、スポーツ選手にしては手入れの行き届いた手でそっと蓋を開けた。


「これって…」


数枚の映画の半券。水族館の入場券。メニューの写真が載った高級レストランのパンフレット。どれも見覚えがある物だった。2人でデートをした時に観た映画のタイトルや、一緒に食べたお気に入りのイタリアンレストランの名前が目に入った瞬間、言葉にできない想いがジーノの心に溢れ出して止まらなかった。


「ただいま〜っと。ジーノ、片付け終わった…って、おい、それ…」


不意に背後で聞き慣れた声が響き、慌ててドアの方を振り向くと、コンビニのビニール袋を提げた達海が真っ赤な顔で立っていた。そして急いで部屋の中に入って来ると、片付けの途中で何やってんだよと押しのけるようにジーノの手から缶を奪い取った。


「タッツミー。その中身って、ボク達が…」


それ以上言わなくていいから。あー、見つかんないようにもっと違う場所にすれば良かった。達海はジーノに奪い返されてしまわないように缶をベッド脇に置きながら恥ずかしそうに呟いたが、不意に黙り込んでしまった。タッツミー、恥ずかしがらなくていいんだよと声を掛けようとしたが、達海がじっとジーノを見つめてきた。


「俺さ…昔の写真とかトロフィーとかファンからの手紙とかさ…そういうの全部捨てちゃってて、何も残ってないんだよね。」


突然の達海の言葉にジーノの肩が僅かに揺れた。考えてみるまでもなく、達海が住処としているこのクラブハウスには、現役選手だった頃の彼の痕跡を今でも端々に見出すことができる。笑顔で映っているユニフォーム姿の彼の写真だって、きっと飾られているはずであろうから。何かしら思うこともあったのではないだろうか。とうに乗り越えているのだとしても。ジーノは決して表情に出したつもりなどなかったのだが、いつの間にか隣に座り込んでいた達海がそんな顔しなくても大丈夫だよと、小さく呟いた。


「だけどね、ジーノとの思い出の物だけは捨てたくないんだ。こういうの見てると、お前と過ごした時のことを色々と思い出せるんだよ。その時の幸せな気持ちとかもさ。だから笑っちまうかもしれないけど、捨てられないんだ。俺はね…お前との今の、そしてこれから先の思い出があればいいんだ。」

「タッツミー…ボクも…ボクも同じだよ。タッツミーとの思い出は絶対になくしたくない大切な物なんだ。これからもずっとずっと2人だけの思い出を作っていきたいよ、ボクだって。」


ボクはずっとタッツミーの側に居る。その想いを伝える為に隣にある温もりを静かに抱き締めた。だが腕の中の達海は、いいから片付けの続きをしろよと、照れくささを隠すように声を上げた。そんな達海に、それにしてもあの可愛らしい缶はどうしたんだいと少しだけからかいの笑みを向けてみたら、あれは有里から貰ったんだよとぶっきらぼうな返事が返って来た。取材に来た出版社の記者からのお礼のお菓子の缶らしい。あの缶をどんな顔をして貰ったのかと思うと、とても微笑ましくて。自分は確かに達海に愛されているのだと感じながら、ジーノは片付けの続きをするねと嬉しそうに頷いた。


目に見える物も、見えない物も。2人の思い出のカケラは、そのどれもが大切な大切な物なのだから。





END





あとがき
タッツミーはこんな乙女なようなことはしない人ですが、もしもジーノとの思い出の物を取っていたとしたらジーノがとても喜ぶよね!と思いまして^^あれです、ジーノを喜ばせてあげたかっただけです(*^∨^*)


読んで頂きまして、ありがとうございました!

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あきゅろす。
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