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世話焼き王子様 1
恋人未満な2人です

ジーノがタッツミーのお世話に勤しんでいます




あれ?何これ?俺は自分が置かれている状況が理解できず、頭の中が疑問符だらけだった。俺って、さっきまでずっと床に積んであった資料読んでなかったっけ?何でベッドの中なの?それに何でか知らないけど、おでこの辺りが痛いような…。色々な疑問がぐるぐると脳内を駆け巡っていたけど、正直今の俺にはそんな疑問なんてどうでも良かった。何故ならきゅっと眉を寄せたジーノが心配そうに俺の顔を覗き込んでいたから。え?何でジーノが俺の部屋に居んの?全然意味が分かんなくて、俺は思わず飛び起きようとした。だけどそっと伸ばされた腕に優しく止められてしまい、再び仰向けになってベッドの中で大人しくするしかなかった。


「タッツミー、まだ寝ていた方がいいよ。」

「えっと、あのさ、ジーノ…」


何でお前がここに居る訳?布団の中から顔だけだして尋ねようとして、俺は目を丸くしてしまった。だって資料を読んでいたのは真夜中だったはずなのに、窓からは朝陽が射し込んでいてジーノの黒髪をキラキラと眩しく照らしていたから。まるっと数時間分の記憶が思い出せなくて、今度こそ俺はガバッと身を起こした。あぁ駄目だよ、タッツミー、と心配した声を出したジーノをじっと見つめると、どうやら状況説明が必要のようだねという顔で王子様に微笑み返された。


「今日はオフの日だけれど、いつもより早く起きてしまってね。そうしたら急にタッツミーの顔が見たくなって、こうして朝早くに誰も居ないクラブハウスに来たんだよ。」


ふ〜ん、それでジーノが俺の部屋に居た訳か。俺はジーノがここに居たことを一応納得した。でもさ、普通早起きしたからってチームの監督の顔なんか見たいって思わないよね?だって俺、早起きして時間があってもジーノの顔見たいとか思わないし。そのまま気持ち良く二度寝するけどな。う〜ん、ジーノって良く分かんない奴だな…って違う違う、何か思い切り話が逸れちまった。そんなことより何で俺がベッドに寝てたのか知ってるとしたら、教えて欲しかった。


「ジーノ、お前が俺の部屋に居た理由は分かったけどさ…」

「うん。何でベッドに寝ているのかなってことだよね?それはボクがタッツミーをお姫様抱っこして運んだからだよ。」

「えっ…?ちょっと待て。お前が…?」


あっ、そんな目で見ないでおくれよ、タッツミー。そこまで重くなかったから、足は大丈夫だから。酷く慌てた様子でジーノがベッドのすぐ脇に近寄る。俺、ジーノに運ばれた?しかもお姫様抱っこで?いやいや、あり得ないだろ。それでそのままベッドに寝かされたのかよ。ますます訳が分かんなかった。


「タッツミーの部屋に行こうとしたらね、扉が半分開いた状態で床にたくさんの資料が散らばってて。それで廊下に半分体を出す格好で君がうつ伏せに倒れていたんだ。ボク、声も出ないくらい本当に驚いたんだからね。何かの発作とか、あとは事件に巻き込まれたのかと思ってしまって。慌てて抱き起こしてみたら、タッツミーは眠っていただけだったから安心はしたんだけど。それで床の資料を片付けて、君をベッドに運んだという訳さ。」


ジーノの言葉に俺の中でぼんやりとだけど昨日の夜の記憶が蘇って来た。そうじゃん。確か俺、ずっと資料読んでて歯磨きするの忘れてたから、寝る前にしとかないとなって思って部屋を出ようとしたんだ。だけどここ最近ずっと徹夜続きだったから、頭はフラフラしてて、実は結構限界で。それで多分ぶっ倒れて、そのまま朝まで廊下で寝ちゃったんだな。だから目が覚めた時、おでこが少し痛かったんだ。そっか、そういうことか。うんうんと俺が1人納得していると、タッツミーと名前を呼ばれた。ベッドの中からジーノを見上げると、どこか困ったような瞳と視線が合った。


「ねぇ、タッツミー。もしかして昨日の夜は…あれだけしか食べていないのかい?」


ジーノが俺から視線を外して散らかっているテーブルの上を見る。そこには、もう飲んじゃって空になった俺の大好きなドクターペッパーの缶と食べかけのタマゴサンド、そしてこれまた食べかけのフライドポテトもどきのお菓子があった。食べかけにしておいたのは、次の日の…って、正確にはもう今日なんだけど、朝食にでもしよっかなぁと考えたからで。ジーノの質問にそうだよと頷くと、隣に居た王子様は形のいい眉を明らかに顰めた。


「タッツミー、こんな物ばかり食べていては駄目じゃないか。きちんと栄養のある物を食べて、しっかり睡眠を取らないと。こんな食生活で徹夜を続けて、また倒れたらどうするつもりなんだい?ボク、とても心配だよ。タッツは替えのきかない大切な…監督なんだから。」

「いや、大袈裟だよ、ジーノ。そこまで心配しなくても、これはただ…」


単に徹夜続きで寝てないだけで、体調は悪くないんだから。そう言おうとしたのに、俺の言葉は楽しそうな高い声に遮られて続けることができなかった。


「そうだ!ボク、いいことを思い付いたよ!毎日は無理だかろうからオフの日だけになってしまうのは残念だけれど、タッツミーにボクが作った朝食を届けてあげる。朝食は1日のスタートを決める大切な物でしょう?…そうすれば、少しはタッツミーの健康にもいいだろうし、朝から会えるんだから、ボクとしては一石二鳥だよ。うん、我ながらいい考えだ。やっぱりボクはすごい。」


俺の体調を心配して朝食作ってくれるって、まるでジャンクフードばっかり食べてる息子の健康を気にする母親みたいじゃん。お前は俺のお母さんかよ、ジーノ。俺は思わず心の中でツッコミを入れてしまった。王子様がお母さんって何だか少し笑える。だけど、いい考えだと目を輝かせているジーノを見ていたら、まぁ別に作ってもらってもいいのかなぁなんて思ってしまって。そんな風に思ったことに俺は心の中で少しだけ驚いていた。だってジーノと俺はチームの監督と選手ってだけで、個人的に親しい訳でも何でもないのに。でも断ったら、王子様のことだからへそ曲げそうだし。そうなったら後々面倒そうだもんよ。それにさ、朝食がお菓子ってのは、さすがにないよなと俺も思うっちゃあ思うんだよね。毎日じゃないにしてもジーノが朝食を届けてくれるってのは、確かにありがたいことなのかもしれない。


「ジーノ、お前がそう言ってくれんなら…じゃあ、うん、お願いしよっかな。」

「本当かい!?ありがとう、タッツミー。ボクのお願いを聞いてくれて。」


嬉しそうな笑顔を向けるジーノを見ていたら、何だか俺まで少しだけ嬉しくなった。寧ろ俺の方が色々とありがとうなんだけど。ベッドに運んでくれて助かった訳だし。こんな風に朝食を持って来てくれる約束をしてくれた訳だし。考えてみたら、ジーノには良くしてもらってばっかりになるよな。俺はベッドから立ち上がってジーノの前に立つと、とりあえずよろしくと口にした。そんな俺にジーノは目を細めると、幸せそうにうんと頷いた。


そんなこんなで結局の所、俺はお母さんよろしく王子様に朝食のお世話をされることになってしまったんだ。



*****
パチリと目を開けると、テーブルを挟んでにこやかに微笑むジーノが居た。あ〜確か前にも似たようなことがあったような。あれは確かちょうど1週間くらい前だったっけ?寝起きでぼんやりとしていた頭が次第にクリアになっていき、状況を理解した俺は慌ててベッドから起き上がると、片手を挙げていたジーノの向かい側に座った。テーブルに視線を向けると、清潔感のある白いナプキンの上に美味しそうな手作りのタマゴサンドが並べられていて。隣には紙パックの野菜ジュースがそっと置かれていた。そのジュースはコンビニで良く見掛ける物だったから、もしかしたらここに来る前にコンビニに寄って来たのかなと思った。でもジーノがコンビニに行くなんて珍しいというか、全然イメージ湧かないけど。そんなことを考えながら大きめに刻まれた卵がたっぷりと入ったサンドイッチを眺めていると、急速に空腹感に襲われた。俺は手を伸ばしてサンドイッチを掴むと、そのままぱくっと口に含んだ。


「うわ…美味い。コンビニのやつと全然違う。」

「それはそうだよ。ボクが愛情を込めて作ったんだから美味しいに決まっているじゃない。でもやっぱりタッツミーに美味しいって言ってもらえて嬉しいな。」


残さずどんどん食べてね。頬杖をつきながらジーノが静かに俺に微笑み掛ける。うっ、そんなにじっと見つめられたら恥ずかしくて食べにくい。俺は1つ目のサンドイッチを食べ終えると、とりあえずジーノにお礼を言った。


「ありがとな、ジーノ。ほんとに美味しかった。でもさ…作ってもらっといて何だけど、今度からはさ、もう少し遅く来てもらっていいっていうか…」

「ボクは別に大丈夫だよ。」

「お前はいいかもしれないけど、俺はちょっと…」


何となくジーノに寝顔を見られることが嫌というか、恥ずかしかった。俺もジーノも男だから別に気にすることはないんだろうけど。ただ何となくね。ジーノは俺をまじまじと見ると、何かを思い出したように小さく笑った。


「あぁなるほど。…確かにタッツミーの寝顔は可愛かったよ。独り占めしたいと思うほどにね。」

「おい、可愛いって言うな!ジーノ、いい?今度からはもう少し遅くに来いよ。絶対な。」

「はいはい。分かったよ。残念だけど君に言われたら仕方ないからね。」


その代わりにこれからもボクの作った朝食をちゃんと味わってもらうよ、タッツミー。花のように笑うジーノがそれはもう眩しくて。俺は2つ目のタマゴサンドを頬張ることも忘れて、その綺麗な笑顔をいつまでも見つめてしまっていた。

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