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焦がれ求める太陽
屋上でまったりしている2人です




「あ〜、あったかい。」


午後の陽射しが俺の頭上に柔らかく降り注ぐ。ぽかぽかとした陽気がとにかく全身に気持ち良い。その気持ち良さに思わずうーんと伸びをしたくなっても仕方ない気がする。俺はいつもより随分と近くに感じる青空からゆっくりと視線を戻すと、目の前の布団をじっと見つめた。


「…やっぱ有里に言われて布団干したの、正解だったな。」


俺の頭の中に、ほらみなさいよと得意気に頷く顔が浮かぶ。数時間前に敏腕広報が眉を吊り上げて俺の部屋に入って来るなり、いい加減に布団を干せとか何とか言ってきたんだよな。達海さん、今まで全然布団干してないんでしょ。せっかく天気が良いんだから、今日こそはちゃんと干してもらいますからね。対戦チームの研究が一段落して部屋でぼけっとしていた俺に有里は早くしなさいと詰め寄った。俺はそんな有里の剣幕に気圧されながら、パイプベッドの上でぐちゃぐちゃになっている掛け布団を横目で見た。確かに忙しさにかまけて、もう長い間干してない気がする。さすがにもうそろそろ干した方がいいかもしれない。布団を干すってなるとさ、どこでも干すことができるパイプでできた折り畳み式の奴があるじゃん?名前は良く分かんないけど、一人暮らしの奴が良く使うよね。あれと布団をセットで持ってわざわざ屋上に行かなきゃならなくて、その時の俺は内心面倒だなぁと思ってしまった。俺の部屋の窓を開けて干すよりも屋上の方が日当たりがいいから、屋上に干して来なさいよってうるさくて。これ以上ごねて怒られるのは嫌だったから、結局有里の命令通りに布団を干した。だけどここに干して良かったな、これ。


「だって、すっごいふかふかだもん。」


俺は子供のように布団に顔を埋めてみた。日光をたくさん浴びた布団はふんわりと膨らんでいて、頬に触れる感触が心地良い午後の眠りを誘う。今なら立ったままでも寝れそうだ。布団を部屋に持って帰ろうとこうしてまた屋上に来た訳だけど、もう少しだけこのままで居たい。だって、あったかくてふわふわで。


「タッツミー!そんな所に居たんだね。」

「ん…?今のって…」


もうすっかり耳に馴染んだ、少し高くて甘い声が下の方で響いた。俺は干してあった布団から勢い良く顔を離すと、少し端に移動してそのまま地上を見下ろした。そこにはジャケットを優雅に着こなした王子様が居て、優しく俺を見上げていた。


「部屋に居ないから探していたんだけど、屋上だったんだね。」

「…うん、干してた布団をそろそろ部屋に持って帰ろうかなぁって…」

「そうなんだ。ねぇ、ボクも今から屋上に行くからさ、待っててよ、タッツミー。」


俺に綺麗な笑顔を向けると、ジーノはそのまま颯爽とクラブハウスの中に入って行った。俺の恋人は相変わらずいつも突然やって来る。今だってジーノの声がして結構驚いた。よくもまぁ毎回毎回飽きずに俺の所に来るよなと思う。だけど、嬉しそうに笑っているジーノを見ていると、こんなのもいいかもしれないなんて、ふわりとした温かな幸せを感じてしまう訳で。自分でもこの歳でうわっ、恥ずかしいって分かってるけど、結局俺もジーノのことが好きなんだよなぁ。



*****
「お待たせ、タッツミー。」


キラキラって表現がぴったりな笑顔でジーノは屋上にやって来た。少しだけ風が吹いて、ジーノの漆黒の髪がさらさらと揺れる。乱れた前髪を指で整えるその姿がサマになってて、悔しいくらいに美形だなって思ってしまった。うん、綺麗なんだよな、ほんとに。ジーノは楽しそうに俺の所まで歩いて来ると、俺の隣に陣取っている布団に視線を向けた。


「タッツミー、やっと布団を干したんだね。確かに今日は天気も良いから、布団を干すのにはぴったりだからね。」

「…まぁね。えっと、本当はさ、面倒だったんだけど、有里が干せ干せうるさくて。俺の健康が心配だとか、色々…」


あぁなるほど。彼女にくどくど言われたんだね。ジーノはうんうんと頷くと、面倒なんて思わずにちゃんと干さないと駄目だよと微笑んだ。


「ボクだって、休みの日はちゃんと干しているんだからね。」

「え〜、お前が?あの高級布団干すの?ははっ、全然似合わないんだけど。」

「タッツミーって結構ボクに失礼だよね。まぁ…基本的に部屋の掃除やベッドメイキングとかはマンションのコンシェルジュに任せているけれど、ボクも時々は自分で干したりするんだから。」

「ふ〜ん。」


俺の恋人は私生活も王子様の呼び名そのままに優雅だけど、意外に庶民的な所もあるんだ。ジーノも布団とか干したりすんのか。何か可愛いかもって思っちまった。


「タッツミー。」

「ん〜、何?」


少しだけお願いがあるんだ。ジーノが距離を縮めるように俺に近付いた。綺麗な顔がすぐ目の前にあって。ねだるように少し上目遣いになるジーノに俺の心臓が大きく跳ねた。


「…何だよ、お願いって。」

「簡単なことだよ。」


ジーノは小さく笑うと、そのままゆっくりと俺の布団に顔を近付けた。布団掛けはそんなに高さがある訳じゃないから、ジーノは少しだけ体を曲げている。おい、ジーノ、俺の布団で何やってんの、お前は。ていうか、それがお願い?さっき俺も同じことやったんだけど。


「ジーノ、お前…」

「フフ…やっぱりタッツミーの匂いとお日様の匂いがする。」


ボクの好きな匂いだ。ふかふかの布団に顔を寄せたまま、ジーノは幸せそうに目を細めた。うっとりとしたその声と表情に俺は恥ずかしくて、どうにかなりそうだった。


「ジーノ!分かったから!だから布団から離れろ。今すぐ。」

「本当に仕方ないね。タッツミーから情熱的に手を握られてしまったら。」


とにかく離れろよと、ジーノの手を慌ててぐいぐいと引っ張ったら、名残惜しそうな顔で王子様は布団から離れてくれた。こんな風になるんだったら、さっさと布団しまっときゃ良かった。ジーノの手を解きながら少しだけ後悔していると、タッツミーとジーノが俺の名前を甘く呼んだ。


「タッツミーは、お日様…うん、太陽みたいだよね。」

「は…?いきなり何?」

「フットボールに真剣なタッツミーは、キラキラしていて本当に眩しいよね。温かい陽の光と同じように優しくボクを包んでもくれる。そして、ボクが歩く道をタッツミーはいつも照らしてくれているんだ。…タッツミーはボクの太陽なんだよ。」

「太陽…」


太陽か。そういえばずっと昔にETUの太陽になれって言われたことがあった。選手の俺がETUの太陽になって、皆を照らし導く存在になれって。そんな風に言われたけど、結局俺はETUの太陽にはなれなかった。だけど今は。そんな俺が、ジーノ、お前の太陽になれてるんだな。


「なぁ、ジーノ。今から一緒に…寝ない?」

「えぇっ!?」

「布団干しただろ?だからふかふかの布団で一緒に昼寝したら、気持ちいいかなぁって思って。言っとくけど、俺が寝てる時に手出したら承知しないかんね。」

「うっ…それはすごく生殺しだけど…でも確かにあのふかふかの布団だったら、気持ち良くてすぐに寝てしまいそうだよね。」


布団の中でタッツミーを抱き締めていたら、あっという間に寝てしまうかも。だから抱き締めるくらいはいいよねと笑顔を向けるジーノに仕方ねぇなと笑って頷くと、王子様は明らかに幸せそうな表情になった。俺だってお前に負けないくらい今が幸せなんだからなと心の中で呟くと、ジーノと一緒に眩しい輝きを放つ太陽を見上げた。






END






あとがき
この後ジーノはタッツミーのお布団を部屋まで運んであげるんだと思います^^タッツミーってちゃんと布団を干しているのか謎ですが、ジノタツ妄想と絡めてみました(*´`*)


読んで下さってありがとうございました!

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