人それぞれ
恋愛感覚がちょっとズレてるタッツミーです
軽いノリで読んで下さいませ
ミニゲームを中心にした今日の練習が終わり、他の選手達と同じようにロッカールームで着替えていると、毎回自分の為に良く働いてくれる犬達の会話が耳に入って来た。背中越しで交わされる会話にそれほど興味はなかったが、何となくそのまま聞いていると、どうやら彼女は居るか居ないかといった年相応の話題だった。周囲を巻き込んで盛り上がっている割にはどうやら2人とも彼女は居ないようで、結果的に今の所はフットボールが彼らの大切な存在になっているようだ。
「…王子は彼女居るんスか?…まぁ居るとは思うっスけど、やっぱ複数ですよね?」
大方着替え終わった自分に向けて小生意気な方の忠犬が尋ねてきた。飼い主のことはそれなりに気になるものらしい。
「フフ、さてどうだろうねぇ、ザッキー?」
以前の自分ならば、片手では足りないくらいの数の女性とそつなく付き合っていることを自慢しただろう。だが今の自分には彼女は居ないし、複数の女性とも関係を持ってはいなかった。何故なら、現在進行形で真剣に恋をしているからだ。悲しいことにそれは片思いだったりする訳なのだが。そのままはぐらかして着替えを続けていると、頭の中に愛しくて堪らない1人の顔が浮かんで来た。恋愛経験は人より豊富な方だと思うが、どうやら自分は本気な相手にほど慎重になってしまうようだった。何度か食事に誘って一緒に美味しい料理を味わい、煌めくような楽しい時間を過ごすことに成功はしていたものの、まだ彼に告白すらしていなかった。別れ際にキスすることも、誰もが虜になる笑顔を使って部屋に連れ込むことも、達海に真剣だからこそできなかった。
「多分そんな答えだろうと思ってたんで。王子が誰と付き合おうが別にいいんスけど。…そういえば、この前同じ質問を監督にもしたんスよ。」
「…タッツミーに?」
先ほどまで頭の中を占めていた人物の名前に思わず肩が跳ねそうになったが、いつもの笑顔を崩さずにその先を促した。
「数日前の練習終わりに廊下で偶然監督と会って、俺と椿と世良さんで色々話してたんスよ。そしたら話の流れで。…確か監督、付き合ってる人居るとか居ないとか…」
それは一体どちらなんだい?はっきりしてくれないかな?タッツミーに付き合っている人が居るのか居ないのかは、ボクにとってはすごくすごく重要なことなんだよ。目の前の忠犬にそう言ってやりたい気にもなるが、ぐっと耐えた。
「ザキさん。はぐらかしてましたけど、確か…監督、付き合ってる人居るっぽかったですよ。」
赤崎の近くで黙々と着替えていた椿が思い出したようにのんびりとした口調で呟いた。そうだったな、そうっスよと頷き合っている2人のことなど最早視界に入らず、気が付けばロッカールームを飛び出して、愛しい人の居る狭い部屋へと走っていた。
*****
「どうしたんだよ、ジーノ。そんな慌てて。」
「ねぇ、タッツミー!…今付き合っている人が居るって、本当なのかい?」
「ん〜、あれ?お前と付き合ってんじゃないの?」
「えっ!?それは一体…」
思いもよらない返答が返って来てしまい、部屋のドアを開けたまま固まっていると、とりあえず入りなよ〜と手招きされた。達海は先ほどまでのDVDのお供だったのだろう食べかけのスナック菓子の袋とジュースの缶をテーブルの端に置くと、テレビの電源を切った。そしてベッドにでも座ればと言いたげな目をした。促されるままにスプリングの悪いベッドに腰掛け、混乱している頭で口を開いた。
「タッツミー。確かに今、ボク達が付き合っているって言ったよね?」
「うん、言った。」
自分はまだ達海に好きだと告白してなどいない。せいぜい何度か一緒に食事をしただけの関係に過ぎない。達海はいつも楽しそうに料理を食べてはくれるが、ただそれだけのはずだ。もしかして自分は今、都合の良い夢でも見ているのだろうか?それとも達海にからかわれているだけなのだろうか?色々な感情が頭の中を駆け巡る。1人で考え込んでしまっていると、ジャージのポケットに手を突っ込んで座っていた達海がゆっくりとした動きでこちらを見上げてきた。
「だって、お前と何回もご飯一緒に食べに行ったじゃん。…だからさ、俺達付き合ってるってことなんじゃないの?」
「えっ…」
驚いて声が裏返りそうになる。今までフットボールだけが良くも悪くも彼の全てであったせいで、恋愛に関して他人と考え方が大きくずれてしまっているのかもしれない。食生活も自分などでは到底考えられないほど偏っているのが良い例ではないだろうか。彼がそんな風に考えているのならば、部屋に入ってキスでもしようものなら、結婚なんてことになるかもしれないねと冗談でも思ってしまった。
「でも…GMやコーチ達とも一緒にご飯食べたりしているんでしょう?…タッツミーの考え方なら…」
「後藤には昔良く奢ってもらったりはしたけど、今はないよ。というか、後藤は友達だし、仕事仲間って感じだもん。」
「そうなの?」
「そ〜です。」
達海がベッドの脇まで移動して来たので、すぐ近くに所々跳ねた茶色の髪が見える。そのまま優しく撫でてみたい気持ちになり、伸ばし掛けた腕に思わず苦笑した。
「松ちゃん達コーチ陣はさ、食べる時は絶対にお酒がセットだから…酔うとうるさいし、面倒なんだよね。」
「うん。何となく分かる気がするよ。」
「ジーノは…」
突然ふわりと笑い掛けて来たその笑顔に心臓がドキドキして、じわりと頬が熱くなった。
「ジーノとご飯食べてる時、すごく楽しいなって思ったんだ。それで、ジーノと一緒に居たらもっと楽しいんだろうなぁって。……だって、お前も俺と同じだろ?お前も俺と居る時、すごく幸せそうな顔してたから、あぁ一緒の気持ちなんだなって。…だったら2人で結構ご飯も行ったし、付き合ってるようなもんかなぁと思ったんだよね。」
「タッツミー…」
恋人同士になるまでのステップがおよそ普通ではないが、この際そんなことはもうどうでも良かった。自分は達海のことが好きで。達海も自分のことを好きでいてくれる。そうでなければ、自分と付き合っているなんて考えるはずないのだから。
「…今さらになるけれど、ボクはずっとタッツミーのことが好きだった。だからタッツミーがボクと同じ気持ちで、しかも付き合っていると思っていてくれたなんて嬉しくて堪らないよ。」
「俺も嬉しいよ。ジーノがそんな顔してくれるから。」
もう我慢できなくて、目の前の細い体を思い切り抱き締めていた。達海はくすぐったそうにしながらも、腕の中で大人しくしていた。
「ねぇ、タッツミーは恋愛に関してちょっとアレだから教えてあげるけれど、恋人になったらキスとかするんだよ。…勿論それ以上だって。」
「そんなの知ってんよ。」
「そう、それは良かった。だったら…」
何だよ〜と見つめてくる愛しい人に頷くと、そっと顎を掴んで口付けた。少し甘ったるい味のキスは何とも彼らしくて、微笑ましくなってしまった。
「…キスしちゃったから、ボク達結婚かな?」
ゆっくりと唇を離し、先ほど頭に浮かんだ冗談を言ってみる。達海がどんな反応するか窺っていると、パチリと瞬きが返って来た。
「うん、結婚だね。…吉田猛かぁ。」
真剣な表情で達海はうんうんと頷いている。まさか本気なのだろうか。いや、さすがにこれは冗談に決まっているだろうが、嬉し過ぎて一瞬どうしようかと思ってしまった。
「タッツミー、それでも吉田は絶対に駄目だから。」
「でもそうなると思うけど。…でさ、式場とかはどうすんの、王子様?」
ニヒーと笑って身を乗り出してくる達海がそれはもう可愛くて。答えの代わりに2人だけで誓え合えば、ボクはそれで十分だよと耳元で囁いた。それもそうだね〜と納得して自分に甘えてくる達海がただ愛しかった。
「あっ、俺、お前とまたご飯食べに行きたいから、今週よろしく。これ、監督命令じゃなくて恋人命令だかんな。」
「うん、ボクのタッツミーの仰せの通りに。」
きっとこれまでに体験したことのないくらい毎日が楽しくて。そして2人で幸せな愛を育んでいける気がして。腕の中で楽しそうに笑っている大切な温もりを逃がさないように優しく抱き締めた。
END
あとがき
2人のキャラ崩壊が酷くてすみません(><;)フットボール以外は全然駄目で、恋愛に関して変な方向に走ってるタッツミーって可愛いかなぁと思ったのですが…(´・ω・`)半分本気で半分冗談なタッツミーだと思って読んで頂ければなと思います^^
読んで下さいまして、どうもありがとうございました♪
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