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キライ? スキ?
ジーノって多分俺のこと嫌いだよね。まぁ、仮に嫌いまでいかないのだとしても、好きじゃないんだろうなと思う。だって練習中とかにあいつと目が合うと、難しい顔されるっていうか、思いっ切り睨まれてる気がするんだよね。別に俺自身は嫌われててもいい。本音を言えば、そりゃあ人から嫌われるのはあんまり気持ち良くはないけど。だけど例え俺のことは受け入れられなくても、俺のフットボールを嫌いにならないで居てくれるのなら、それでいいと思う。俺の頭の中にあるフットボールを俺と同じように楽しいと感じて、それをピッチで体現してくれるならば、俺自身は嫌われていようと構わないんだ。


うん、やっぱりまた俺のこと見てる。変な顔で。ジーノは綺麗な顔してんだから、そんな眉間に皺寄せたような顔してたら、戻んなくなった時に困ると思うんだけどなぁ。午後の練習での恒例のミニゲーム中、ピッチの側まで行って細かい指示を出していたら、不意に強い視線を感じた。視線の先を辿っていけば、どこか不機嫌な顔をした王子様が俺のことをじっと見ていた。だけどピッチの外から声を掛けようとする前に、プイとその視線は逸らされてしまって。俺は練習が終わったらちゃんとジーノと話してみた方がいいかのなぁとぼんやり思った。





「なぁ、ジーノ。お前って、俺のこと嫌いなの?」


練習が終わって一番最後にロッカールームから出て来たジーノを待ち構えていた俺は、驚いて目を丸くしている王子様の腕を掴んで無理矢理自分の部屋に連れ込んだ。そして思い切って訊いてみた。俺のこと嫌いじゃないの?って。


「いきなり部屋に連れ込まれたから驚いたけど…ボクは、別にタッツミーのことは嫌いではないよ。」

「え〜そうなの?でもお前、いつも何か嫌そうな顔で俺のこと見てない?」

「ボク、そんな顔…しているかな…」


いつもはっきり物事を言うジーノにしては珍しく、歯切れが悪い返答だった。夏木や赤崎辺りにはズバズバ言ってるから、てっきり俺にもはっきりと言ってくれると思ったんだけど。


「タッツミー、話はそれだけかい?…それだけなら、ボクは失礼するよ。」


ん〜どうしよっかなと考えていたが、ジーノの言葉に考えが中断してしまった。結局俺は、嫌いじゃないなら別にいっかと結論付けて、ジーノを帰すことにした訳だった。



*****
あいつ、嫌いじゃないとか言ってたけど、やっぱり俺のこと気に食わないんじゃねぇの?あれからジーノは、練習中やクラブハウス内ですれ違う度に、王子様の呼び名が台無しになるような眉間に皺を寄せた顔で俺を見た。そして何か言いたそうな目をするから、俺から声を掛けようとしても足早に去ってしまう。何なんだよ、ジーノの奴。調子狂うじゃんよ。最近の俺はずっとそんな感じだった。別にジーノのことなんて気にしなければいいのに、頭の中に常にジーノの顔がチラついてしまい、本当にもう勘弁して欲しかった。


そんなことが続いていたある日の夕方。練習終わりに俺は医務室に行き、冷蔵庫からアイスを取り出すとそのままのんびり食べ歩きをしていた。今日はDVDは夜から観る予定だったから、アイスはちょっとした息抜きだ。アイスを食べながら部屋の前の廊下まで来た時、ドアにもたれ掛かるようにしてジーノが腕を組んでいるのが目に入った。ジーノは俺と目が合うと、やぁと気障っぽく片手を挙げた。


「ちょっと話したいことがあるんだ。今、大丈夫かい?」

「うん、い〜よ。中入って。」


俺はドアを開けてジーノを部屋の中に入れた。ついでに手に持っていたアイスの棒をゴミ箱に投げ捨てて、そのままベッドに腰掛けた。ジーノにも適当に座るように言ったけど、ボクは大丈夫だよと返された。立ったまま俺を見つめるジーノの瞳は、試合中に見せるような真剣なもので、これから何か大切な話をするのかなと感じた。


「この前のことなんだけれど、タッツミーがボクに自分のことが嫌いなんじゃないかって訊いた…」

「あ〜、うん。」

「…ボクの気持ちはどちらかというと、嫌いの正反対の気持ちなんだ。」

「嫌いの反対ねぇ。あぁ、好きってことか。…え?ちょっと待て…好き?」

「ボクも困っているんだよ。だってボクは可愛くて綺麗な女の子が好きなはずなのにさ。」

「いやいや、困るのは俺の方だって!」


どうしたんだよ、ジーノ。そう続けようとして、俺は思わず口を噤んでいた。ジーノがすごく苦しそうな顔をしているように見えたから。自分の中に生まれた感情をどうしていいか分からない、そんな風だった。俺だってどうしたらいいか分かんないよ。だってジーノは冗談なんかでこんなこと言ってる訳じゃないだろうから。


「ボクがタッツミーに変な顔をしていたのは、タッツミーを見る度に気になってしまう自分に戸惑って、ボクは何を考えているんだって自己嫌悪していたのが顔に出てしまったからだと思うんだ。…あぁ、本当にボク、どうしてしまったんだろうね。」


困ったように小さく笑いながら、ジーノが俺に視線を向けた。そっか、ジーノのこれまでの表情の意味が漸く分かった。俺のこと嫌いだとか気に食わないとかじゃなかったんだ。俺はそのことに少しだけ安心していることに気付いて、何考えてんだと心の中で呟いた。


「それでね、確かめたいんだ。ボクは本当にタッツミーが好きなのかを。」

「確かめるって…でもお前、どうやって…」

「キスさせて欲しいな、タッツ。」

「は?いきなりそんなの無理だか…」


言い終わらない内に優雅に近付いて来たジーノによって俺の唇は塞がれていた。王子様のキスは悔しいけど上手いと認めるしかなくて。頭の芯が溶けそうに感じるキスに、いつの間にか俺も夢中で応えていた。しばらくして満足したようにジーノは唇を離すと、俺の唇を親指でそっと撫でて微笑んだ。


「ボク、タッツミーとキスして、今とてもドキドキしているよ。こんなにドキドキしたキスは初めてかもしれない。」


ジーノが嬉しそうな声で瞳を輝かせている。そんなジーノには何となく言いたくない。俺もお前とのキスに柄にもなくドキドキしちゃっただなんて。本当に俺の方がどうしようだよ。俺が悶々としていると、ジーノがおや、という顔で俺を見た。


「フフ、タッツミー、顔が赤くなっているよ。ボクとのキスが気持ち良かったりした?」

「あ〜もう、そうだよ!俺もお前とのキスにドキドキしたよ。悪いかよ?」

「タッツミー!」


ベッドに座ったままの俺の体をギュッとジーノが抱き締めてくる。やっぱり好きだよ、愛してるんだと甘い声で囁かれてしまえば。溢れる想いを真剣に向けられてしまえば。俺も満更でもない気がして。王子様に想われるのも悪くないかなと思ってしまって。


「明日から、もう変な顔で俺のこと見んなよ。見たら嫌いになるかんな。」


今の俺には恥ずかしくて、それだけ言うのが精一杯だった。



*****
俺との約束通り、ジーノは俺に変な顔をしなくなった。自分の気持ちがきちんと分かって、自分の中ですっきりしたんだと思う。悩んでいる王子様なんてあいつには似合わないから、俺も良かったとホッとした。だけど、だけどね。


「タッツミー。」


ピッチの中からジーノが俺に極上の笑みを向けてくる。今は練習試合の真っ最中で、他の奴らは皆必死にボールを追い掛けている。そんな中でジーノはゆったりと歩きながら、俺に微笑み掛けてくるんだよ。心臓に悪いから本当にやめて欲しい。そんな王子様スマイルなんか向けられたら、ジーノで頭が一杯になって集中できなくなるんだよ。それでもやっぱり嬉しくないなんて言ったら嘘になるから。


「ちゃんと走れよ、ジーノ!」


俺はジーノに向けて叫ぶと、自分に向けられる綺麗な笑顔に応えて、小さく手を振った。






END






あとがき
ジーノの王子様スマイルは本当に素敵だと思います!しかめっ面ばかり見ていたタッツミーも、想いのこもった綺麗な笑顔を見せられたら、ころっといっちゃいますよねv


読んで下さってどうもありがとうございました♪

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