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精一杯の愛を込めて
バレンタイン×ジノタツな小ネタです




待ちに待った今日は、チョコレートという形で恋人に堂々と愛をねだることができる日だった。ジーノはみっともないくらいに頬を緩ませながら、達海の部屋へと続く廊下を歩いていた。チームの仲間達が今の自分を見たら、自分のもう一つの呼び名に相応しくない顔をしていると酷く驚いてしまうだろう。おっといけない、ボクは王子なんだからね。ジーノは我に返ると、いつも周囲に見せているどこか余裕のある表情を作った。だがその足取りはいつも以上に軽くなっており。どうやら舞い上がる気持ちだけはどうしても抑えられないようだ。それも仕方がないよねと、ジーノは小さく笑った。タッツミーからキスして欲しいな。ねぇ、タッツミーの方からボクを抱き締めてよ。そう言って達海の方からの触れ合いをねだってみても、彼は恥ずかしそうに頬を赤らめていつも全くと言っていいほど取り合ってはくれない。だが今日はバレンタインデーなのだ。達海が自分にチョコレートを渡してくれる。それはつまり、達海の方から愛情を示してくれることに他ならない訳であり、今日は日頃見ることのできない達海を堪能することができるのだ。あぁ何て幸せなのだろう。心の中に広がっていく嬉しさに再び頬が緩みそうになる。達海に早く会いたくて堪らない。ジーノは早足になると、愛しい人が待つ部屋へと急いだ。





「タッツミー、ボクだよ。ねぇ、今日は何の日なのか勿論分かっているよね?さぁボクに…」

「ジーノ!?突然来て何かと思ったら、いきなりクイズか何か?…ん〜今日?何かあったっけ?」

「ちょっと、それは本気で言っているのかい?今日は恋人達にとって特別な日、バレンタインデーだよ。…まさかタッツミー、ボクへのチョコレートを用意していないなんてことは…」


あ〜今日ってバレンタインなんだ。のんびりとした口調で、達海は日付を確認する為かテーブルの上のデジタル時計をちらりと見た。そして先ほどまで読んでいたと思われる資料の束を無造作にテーブルの脇に置くと、とりあえず突っ立ってないで入りなよと、ジーノを手招きした。達海がチョコレートを用意していなかったという全く想像すらしていなかった想定外の事態に、ジーノは動揺を隠せないまま、フラフラとした足取りでベッドに腰掛けた。これはあんまりなではないだろうか。バレンタインデーに自分にチョコレートを渡してくれないなんて、何て酷い仕打ちだろうとジーノは肩を落とした。


「タッツミー、ボクにチョコレートを用意してくれていないなんて酷いじゃない。ボク達は恋人同士なんだよ?だったら今日は…」

「え〜、だって俺、最近ずっと仕事で忙しかったし、チョコ買う暇とかなかったんだけど。…っていうか、俺、男なんだからそもそもチョコなんて買う訳ないじゃん。お前、何か期待してたみたいだけど。」

「酷い。酷いよ、タッツミー!ボクが今日この日をどれだけ待ち望んでいたか…タッツミーにはボクの気持ちは分からないんだろうね。」

「う…何だよ。チョコ買ってなかったってくらいでそんなに怒んなくてもいいじゃんよ。」

「何言ってるんだい、タッツミー。ボクにとってはとても大切なことなんだよ。ボクがどれほどタッツからのチョコレートを楽しみにしていたと思ってるの?」


思わずベッドから立ち上がって達海に詰め寄ってしまうほど、ジーノの心は悲しみで溢れそうになっていた。自分はこんなにも達海からのチョコレートが、彼の愛の形が欲しくて堪らないのに、達海は今日この日を自分と同じように大切には思ってくれていなかった。目の前で困ったような顔をして溜め息を零した恋人にチクリと胸が痛んだ。


「何かさ、お前と話してたら疲れちゃったから、ちょっとコンビニ行ってくる。さっきまでずっと資料も読んでたし。息抜きにジュースかお菓子でも買ってこよっかな。」

「タッツミー…」

「そんな顔すんなって…すぐ戻るから、ジーノはこのままここに居ろよ。」


達海はジーノから目を逸らすように立ち上がると、そのままゆっくりと部屋を出て行ってしまった。呆れられてしまったのかもしれない。チョコレートが欲しい欲しいと取り乱してしまったのだから。嫌われてしまったのかもしれない。今の自分はただのしつこい男でしかなかったのだから。


「ボク、何をやっているんだろうね。こんな格好悪いボクなんてタッツミーに見せたら駄目なのに。」


1人になってしまった部屋の中で再びベッドに腰掛けると、ジーノは大きな溜め息を吐いてただうなだれるしかなかった。





ジーノ、何辛気くさそうに俯いてんだよ。上から降って来た声にジーノはハッと顔を上げようとして、そのまま大きく目を見開いていた。ジーノのすぐ目の前には1枚の板チョコが差し出されていたからだ。


「お前、チョコ欲しかったんだろ?だから…はい、受け取れよ。」

「ボク、こんなバレンタインチョコを貰うのは初めてだよ。」


ジーノは達海の手からチョコレートを受け取ると、手に持ってまじまじと見つめた。リボンや花などで綺麗にラッピングすらもされていない、コンビニで売っているただの板チョコをバレンタインデーに貰うことになるとは。初めてのことに困惑しそうになったが、いつの間にかジーノは小さく笑みを浮かべていた。


「だけど、タッツミーらしいチョコレートだよね。シンプルで飾らない…うん、やっぱりとても嬉しいよ。ありがとう、タッツミー。」

「ハッ、そうかよ。…だったら今年はそれで我慢しろよな。」

「今年は、ってことは、来年こそは期待していいのかな?」


目を輝かせて達海を見つめると、目の前の恋人は慌てたように何言ってんだよと、顔を赤くして狼狽え始めた。達海はそのままジーノに背を向けると、俺、監督の仕事で忙しいから絶対って言えないけどねと小さく呟いた。たった今貰ったチョコレートをベッドの上に置き、ジーノは背を向けたままの達海に近付くと、後ろからそっと腕を回して細い体を抱き締めた。


「タッツミー、大好きだよ。ホワイトデーは期待していてね。スイートルームで存分に可愛がってあげるから。」

「いや、それだとお前が嬉しいだけじゃないの?」


腕の中で嫌そうな声が聴こえたので、タッツミーだって本当は嬉しいくせにと達海の顔を覗き込んだジーノは、嬉しさから抱き締める腕に力を込めた。恥ずかしそうに頬を染める達海が愛しくて愛しくて堪らなかった。来年の今日の日もこんな風に達海の愛情を感じていたいと思いながら、ジーノは達海の首筋に静かに口付けを落とした。






END






あとがき
バレンタインにチョコレートを用意していなくても、結局少しでもジーノの喜ぶ顔が見たくなって買いに行ってしまうようなタッツミーってアリだと思うのですが、大丈夫でしょうか(><;)ちゃんとチョコレートを用意していて、恥ずかしそうに渡すタッツミーも可愛いと思いますので、また来年辺りにリベンジします^^


ジーノはホワイトデーには、とても高級なホテルでタッツミーを目一杯甘やかしてあげるんだろうなぁと思います!やっぱり王子ですからね(*^∀^*)


読んで下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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