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comfortable green
ジノタツと植物のお話です




ボクね、今タッツミーを育てているんだよ。練習が終わってクラブハウス内にある達海の部屋に入って来てすぐに、ジーノがそんなことを言い出した。先に部屋に戻っていた達海は何言ってるんだよ、と目を眇めてジーノを見た。


「俺、昔も今もお前に育てられた覚えなんてないんだけど。」

「ハハ、当たり前じゃない。」


何を言ってるのかい、とジーノが馬鹿にしたように両手を広げる。別にジーノは達海を馬鹿にしている訳ではないだろうが、絵になるのにどこか大仰な態度が何故だか達海にはそんな風に見えてしまった。


「イタリア人でフラワーショップを経営している友人が居てね、あっ…タッツミーに渡す花は全部彼の店で買っているんだよ。…それでね、この前ふらっとお店に寄ったら、小さなサボテンを貰ったんだ。」

「ふ〜ん。それで、何となく予想はできるけど…」

「そのサボテンにタッツミーって名付けて育てている訳さ。」


やっぱり。達海はテーブルに頬杖をついて面倒臭そうにジーノを見上げた。時々ジーノって、女みたいなことするよね。恥ずかしげもなく真面目に告げられた内容に達海はちょっとだけ笑いそうになった。


「でも、サボテンに俺の名前って…」

「サボテンは棘があってツンツンしているでしょ?タッツもツンツンしているじゃない。」

「誰が!…俺は別にツンツンなんて…」

「ツンツンしているよ。恋人のボクになかなか素直にならないツンな所なんて、本当にそっくりだと思うけどね。」

「うるさいよ、ジーノ。」


達海はジーノの言葉を否定したかったが、実際にはその通りなのだから笑えない。年下の恋人になかなか素直に甘えられないでいる。自分に向けられる惜しみない愛情に未だに慣れなくて、どうしても気恥ずかしさが抜けないのだった。


「ボク、そのサボテンをさ、タッツミーと思って愛情をたくさん注いであげたいんだ。」

「あ〜、うん。もう頑張って育てろよ。」


あっタッツミー、どうでもいいって思っているね。ボクはタッツミーに会えない日は、サボテンを代わりに少しでも心を慰めようと…そんな風に続けるジーノに、もういいよ、分かったから、と達海は無理矢理話を終わらせたのだった。


*****
「という訳で。はい、タッツミー。」

「何が、という訳だよ、ジーノ。」


ジーノとの約束もない久々の休みの日だったので、今日はのんびりしようと思っていたのに。突然現れたと思ったら、ベッドに腰掛けて楽しそうにしている端正な顔に達海はこっそりと溜め息を零した。


「で、これを俺に?」

「うん。この観葉植物はアイビーといってね、初心者でもお世話が簡単らしいんだよ。葉もハート型で可愛いよね。」


タッツミーにお裾分けだよ。達海はメモやDVDで散らかっているテーブルの上に視線を注いだ。そこにはたった今ジーノから貰った小さな鉢があった。


「タッツミーの部屋はボクの部屋に比べてすごく狭くて殺風景でしょ?だから少しでも緑があると、雰囲気も随分と違うと思うんだよね。それにこの部屋の窓は結構大きいから、窓の側に置いておけば大きくなるんじゃないかな。」

「まぁ…せっかくお前がくれたんだし。うん、いいよ。貰う。」


達海が頷くと、ぱぁっとジーノの顔が輝いた。そんなに喜ばれると何だか照れてしまう。達海だって恋人のジーノから貰う物は何でも大切にしたいと思うのだ。勿論素直にありがとう、とは言えないのだが。


「じゃあさ、タッツミーもこのアイビーに、ボクの名前を付けて育ててよ。ジーノってさ。」

「はぁ!?何言ってんの。やだ。そんな恥ずかしいことできないね、俺。」

「え〜恋人のボクがお願いしているんだよ。いいじゃない、タッツ。」

「やなもんはやだ。」


本当につれないなぁ、とジーノは拗ねたような顔をしたが、仕方ないね、タッツミーだもんね、と諦めたようだった。達海が自分があげた観葉植物を育ててくれるだけでも良しとしたようだ。


「タッツミー、とりあえずボクだと思って大切に育ててあげてね。」

「…う〜ん、分かった。植物とか育てたことないけど頑張ってみるわ。」


こうして思いがけずジーノからアイビーの鉢を貰うこととなり、達海の部屋に新しい住人が増えたのだった。



*****
窓から射し込んで来る朝陽の眩しさに、もぞもぞと布団の中から顔を出すと、達海は欠伸を1つした。受け皿に乗せられた小さな鉢が、ベッド脇でこちらを見上げるように葉を広げている。


「おはようさん。……ジーノ。」


そう声を掛けて、急激に自分の中に恥ずかしさや馬鹿馬鹿しさが広がって達海はそのまま枕に突っ伏した。やっぱりこれはないわ。すごく恥ずかしい。2週間ほど前にジーノにこの観葉植物を貰い、さらには自分の名前を付けるようにと言われた。絶対に名付けるものかと思っていたのに、毎日水をやって話し掛けている内に段々と愛着が湧き始め、恋人と同じように大切なものの1つになっていた。そんな風に思うようになったからなのか。この緑をジーノと名付けてもいいかな、なんて考えてしまった。実際にジーノと名付けたことで、よりこのアイビーが可愛く見えるのも否めない気がするのだ。自分でも大概だとも思うのだが。それに、もしジーノと名付けたことをジーノに知られてしまったら、ますます調子に乗せてしまうに違いない。だから…


「お前がジーノってことは絶対にジーノには内緒だかんな。」


達海はベッドから起き上がると、最近の隠れた日課である朝の水やりの為に、眠気でまだぼんやりとした頭のままクラブハウス内の洗面所に向かった。


*****
どうしよう。達海は焦っていた。最近、ジーノの元気がないのだ。ベッド脇の日当たりの良い場所に置いているし、毎日ちゃんと水やりもしているはずなのに、葉の色がくすんで明らかに弱っていた。自分には誰にも負けないフットボールの知識はあるが、植物に関しては全然駄目なのだ。どうしていいのか分からず、達海はただジーノに頑張れよ、と声を掛けることしかできなかった。





「嘘…昨日より弱ってる。本当に俺、どうしたら…」


早朝に目が覚めた達海は、目に入ったジーノを見て思わず上擦った声を出した。このままでは枯れてしまう。せっかくジーノが自分の為を思ってくれたものなのに。達海はそのまま飛び起きると、無我夢中で部屋を出てクラブハウスのロビーへと向かった。誰も居ない静まったロビーにある電話の受話器を慌てて取ると、急いで電話を掛けた。


『もしもし…』

「どうしよう、ジーノが元気ないんだよ。俺、どうしたらいいか…」

『タッツ、ミー?…こんな早くにどうしたの?…ボクは別に元気だけど…』


眠そうなジーノの声に達海は自分の失言に気付いて頬が熱くなった。


「あ、いや…お前から貰ったアイビーが全然元気がなくて…俺、植物のこと良く分かんないし、お前にしか頼めなくて。」

『分かった。タッツミー、すぐ行くから待ってて。』


ジーノの優しい声に心が落ち着き、達海は待ってると告げるとそっと受話器を置いた。





それから30分ほどしてジーノは達海の部屋を訪れた。白いカッターシャツにカーディガンを羽織っただけの服装で、髪も簡単に整えているだけだった。自分のことを心配して急いで駆け付けて来てくれのが分かって、達海は嬉しさに胸が熱くなった。


「タッツミー、もしかして毎日たくさん水をあげていなかったかい?」


元気がなくぐったりとしている葉を触りながら、ジーノが達海に尋ねた。


「うん。あげたけど…」

「友人に聞いたんだけどね。アイビーだけじゃなくて、観葉植物全般に言えるらしいんだけど、あまり水はあげなくてもいいみたいだよ。根腐れを起こしてしまうらしいから。」

「そうなの?俺、知らなくて…」

「勿論あげ過ぎないのも駄目だけど…適度に、がいいんだよ。」


少し水やりを控えて、お日様に当ててあげればきっと大丈夫だよ。ニコリと笑うジーノに達海は安心したように息を吐いた。


「それにしてもタッツミー、本当にこのアイビーにボクの名前を付けてくれていたんだね。フフ、嬉しいなぁ。」

「それは、何ていうか…」

「ありがとう。ボクのお願い聞いてくれて。」


ジーノが達海をふわりと抱き締めた。赤くなっている顔を見られたくなかったから、ジーノが抱き締めてくれたのは却って好都合だった。


「あっ、そういえばね、ボクが育てているタッツミーに蕾が出たんだよ。多分もう少ししたら花が咲くと思うんだ。」

「へぇ、すごいじゃん。お前、植物育てる才能もあるんじゃない?」

「毎日愛を囁いているからね。それで、花が咲いたら写真に撮って見せてあげるよ。」

「写真はいらないよ。」

「そんな酷いこと言わないでよ。」

「写真なんかいらないから、花が咲いたらお前ん家に呼んでよ。…お前の部屋に行く口実になるじゃん。」


照れ臭くて小さく呟いたら、ジーノが先ほどよりも強く抱き締めてきて、耳元で勿論だよと甘く囁いた。達海はジーノの温かさを感じながら、早く元気になれよ、ともう1人のジーノを優しく撫でた。






END






あとがき
ジノタツの2人が誰だコレ…ですみません(><;)植物を育てるタッツミーって何か可愛いよねって思いまして。


ジーノの場合は植物ではなくて、コレクションしているお気に入りの椅子に普通にタッツミーと名付けていそうですよね(´∀`)


読んで下さってありがとうございましたv

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あきゅろす。
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