寄り添い合える幸せ
タッツミーとデートをする時は、大抵ボクが彼を華麗にエスコートする。タッツミーに満足してもらえるように、素敵な夜景を見せたり、ボクの愛車でドライブをしたり、一緒に美味しいディナーを味わったり。いつもフットボールばかり考えているタッツミーも、ボクと過ごす時には少しだけ幸せそうな顔を覗かせる。タッツミーがそんな風にボクを喜ばせてくれるから、ボクもついついデートを成功させようと張り切ってしまうんだよね。
「え?タッツミーが?」
「うん。たまにはさ、俺がリードしたいっつ〜か…今度のデートは俺に任せてくんない?」
腕の中に居たタッツミーが小さく身じろいでボクを見上げた。本当は今日はタッツミーとデートの予定だったんだけど、タッツミーに急に外せない仕事が入ってしまって、彼の部屋でのんびりと過ごしていたんだ。ボクは、たった今タッツミーが告げた言葉を頭の中で反芻した。タッツミー、今度のデートは自分がエスコートしたいと言ったよね?いつもいつもボクの方からデートに誘うばかりで、彼は大人しくボクについて来るだけだった。それがタッツミーの方から積極的にデートに誘ってくれるだなんて…ボクは嬉しくて仕方なくて、タッツミーの手を取って大きく頷いた。
「勿論大歓迎さ。タッツミーの方からデートのお誘いだなんて…ボク、幸せだよ。」
「…でも、あんまり期待とかすんなよな。俺、お前と違ってオシャレな店とか全然知らね〜から。」
「大丈夫だよ。ボクはタッツミーと過ごせるのなら、どんな場所だって構わないんだから。」
「ん、じゃあ…再来週の日曜日に、また俺の部屋に来て。」
分かったよ、タッツミー。ボクはタッツミーの耳元で囁いた。ジーノ、くすぐったいからやめろよ〜、とタッツミーは体を預けたままボクの頭をぺしりと叩いた。文句を言いつつも、タッツミーはそのまま優しくボクの髪を撫でる。タッツミーのふわりとした手の感触に、ボクは心が温かいもので満たされていくように感じた。彼の側に居られることが、ボクにはこんなにも幸せなことなんだと思わずにはいられなかった。
*****
ボクは、温かそうな湯気が立ち上る目の前の器を凝視していた。隣に座るタッツミーの、ジーノ、早く食べないと伸びるよ、というのんびりした声にハッと我に返った。
「タッツミー…ボク、ほとんど食べたことないんだけど、ラーメンって。」
「ここのラーメンは値段も手頃ですげ〜美味しいから、騙されたと思って食べてみ。」
タッツミーとの約束通り、お昼前に彼の部屋を訪れたボクは、そのままタッツミーに連れられてクラブハウスを出て、近くの商店街へと向かった。ちょうどお昼だし何か食べようぜ、とタッツミーがボクの腕を引いて入ったのは、お世辞にも綺麗とは言えない何十年とやっていそうなラーメン屋だった。まぁ、うん…タッツミーが素敵なリストランテなんて知っている訳ないのは、ボクが1番良く知っているからね。
「分かったよ…お腹も減っているし、頂くよ。」
ボクは割り箸を割って、目の前の豚骨ラーメンの麺を口に入れた。…本当だ。ボクはラーメンなんて食べないから、はっきりとは言えないけど、タッツミーの言う通り確かにこれは美味しいと思う。
「ジーノ、お前…ラーメン食べる時までサマになってんな。何かお前が食べると、ラーメンも高級に見えるから不思議だよ。」
親父もそう思わねぇ?タッツミーは楽しそうに店主に話し掛けた。中年の頑固そうな店主がフライパンを動かしながらカウンター席に座るボクをチラリと見て頷いた。そして彼は視線を戻すと、再び調理に集中してしまった。
「ここの親父さ、たまに店を休んでETUの試合観に行くんだって。今季のETUを見てると、ワクワクするって言ってた。……俺がもっともっと面白くしてやんよ。ジーノ、お前らと一緒に。」
目を輝かせてタッツミーがボクを見る。ボクだってタッツミーが来てから、今までに感じたことのないくらいフットボールが楽しくなっている。そして大好きなタッツミーの為に彼をたくさん勝たせてあげたいと思うんだ。
「タッツミー、応援してくれる皆に応える為にもボク、もっと頑張るからね。」
「…お前は今でも十分過ぎるくらいやってるよ。まぁ、もうちょっと守備も頑張って欲しいけど。」
「守備をカバーするくらいのプレーをしているんだからいいじゃない。」
「…ったく、分かったよ、王子様。」
タッツミーは口を尖らせつつも、それがお前の個性だしな〜、と困ったように笑ってラーメンを食べることを再開した。ボクもごめんね、と心の中で小さく謝ってタッツミーと同じようにラーメンを啜った。
ラーメンを食べ終わったボク達は、タッツミーの提案でそのまま商店街を歩くことにした。休日の午後なので人で賑わってはいたけれど、そのほとんどが地元の買い物客といった感じだった。隣を歩くタッツミーはすぐに足を止めて店に入ると、店の商品を冷やかしたり、店主と盛り上がっていた。きっとこの街は彼の大切な場所の1つなんだろうな。少年のような笑みを浮かべるタッツミーをボクは少し離れた所から眩しい思いで見つめた。
「なぁ、ジーノ。あの店、ちょっと覗いて来てもいい?」
「いいよ。行っておいで、タッツミー。」
ボクは、店の中に入って行くタッツミーを外で待つことにした。不意にジャケットの裾が引っ張られたように感じて振り返ると、ボクの背後に小学1年生くらいの男の子が立っていた。
「…王子だ!本物の王子!」
「あれ?ジーノ、その子どうしたの?」
ボク達の様子に気付いたタッツミーが店を出て戻って来た。
「ボクって、女性だけじゃなくて子供にまで人気があるみたいでさ。フフ、妬けるかい?妬いてくれていいよ、タッツ。」
誰が妬くかよ。タッツミーは恥ずかしそうに呟くと、ボクの隣に居る男の子の前にしゃがみ込んだ。
「なぁ、今のETUってどう思う?」
「えっ、う〜んとね…強いチームをバンバンやっつけて、すごく格好良いよ!僕も大きくなったら、絶対ETUでプレーするんだ!」
「そっか、待ってるからな。」
タッツミーは男の子の頭をそっと撫でた。その子はボク達に手を振ると、近くで買い物をしていた母親の所に戻っていった。男の子を見つめているタッツミーの背中を見ている内に、彼がここを今日のデート場所にした理由が何となくだけど分かった気がした。
*****
商店街の道を抜けて少し進むと、橋がある広場があって、ボク達はその橋の上まで歩いた。眼下にはサラサラと静かに流れる川が見えた。
「多分、お前のことだから気付いてると思うけど…」
「タッツミー…」
コンクリートの橋に寄りかかり、前を向いたままタッツミーがポツリと呟いた。
「いつも試合のDVDばっか見てたからさ、何かたまには外からETUが見たくなって…お前とのデートを利用するみたいなことして、ごめん。」
「そんなこと気にしなくていいよ、タッツ。タッツミーの役に立てて嬉しいくらいなんだよ。ラーメンも意外に美味しかったしね。」
「俺さ…今日、ジーノと一緒に居てやっぱりすごく楽しかった。うん、楽しくて仕方なかった。」
「…っ、もうその言葉だけで、ボクは十分だよ。」
今すぐタッツミーを抱き締めたかった。周りに人が居なければ、その細い体を思い切り抱き締めることができるのに。
「ジーノ…もうこのまま帰らない?」
「タッツ?」
「何だかさ、今無性にお前に抱き締められたい気分っつ〜か、ここじゃ無理だろ?だから…」
「ボクも今同じこと考えてたよ!タッツミーを抱き締めたいって…」
マジかよ、俺ら以心伝心だね。タッツミーが照れた声を出しながらボクの腕を引っ張る。ボクは前を歩くタッツミーをそっと見つめた。チームの勝利に貪欲な監督の顔。ボクと一緒に居る時に見せてくれる無邪気な恋人の顔。そのどちらもボクには大切で、魅力的で。タッツミーはボクにとって本当にかけがえのない人なんだ。
「部屋に戻ったらたくさん抱き締めてあげるからね。勿論それだけじゃ、ボク、我慢できそうにないから…」
「調子に乗んな、王子様だろ?」
「タッツミー、王子だって恋人の前ではただの男なんだよ。」
「俺の恋人はとんだ王子様だなぁ。」
タッツミーが楽しそうに笑う姿にボクも嬉しくなって、笑みが零れ落ちた。ボク達は肩を寄せ合うように寄り添いながら、クラブハウスへの道をゆっくりと歩いて行った。
END
あとがき
タッツミーがジーノとのデートプランを考えたら、まったりデートだろうなと思いますv 2人でらぶらぶしながら地元の商店街デートをして、次の試合を頑張れるパワーを貰っていたらいいです(*´∀`*)
読んで頂きましてありがとうございました!
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