[携帯モード] [URL送信]
あなたにアイラブユー 4(完結)
自分の頬に何かが触れたような気がして、ジーノはそれが何かを確かめようとそっと瞼を開いた。熱のせいで潤む視界の中には、今もそしてこれからも絶対にここに居るはずのない人物の姿があった。


「タッツ、ミー…?」

「はは、本当に酷い声じゃん、ジーノ。せっかくのいい声も風邪で台無しだね〜。」


ジーノが寝ているベッドの脇に座っていた達海が面白そうに笑った。だがすぐに黙り込んでしまうと、徐に腕を伸ばしてジーノの額に触れた。熱っぽい今の自分には達海の体温は酷く心地良く、ジーノは小さく息を漏らした。


「う〜ん、まだ少し熱はあるっぽいな。」

「ねぇ、タッツミー…どう、して…ボクの部屋に…」


ジーノは達海に疑問をぶつけた。何故自分の部屋に達海が居るのか。彼には以前、携帯の番号や住所を書いた紙を渡したことがあったので、このマンションに来ようと思えば簡単に来ることはできる。だが日頃の練習で顔を合わせる達海がわざわざ自分の部屋を訪れるはずがないのだ。


「…お前が風邪でぶっ倒れてるかもしれないって言って、何だっけ?…コンシェル、ジュ?その人に頼んで開けてもらった。」


俺、今これ着てるからETUの監督って信じてもらえてさ。達海はジャケットの胸ポケットの上にあるエンブレムを指差して笑った。ボクが風邪を引いて寝込んでいることをタッツミーも聞いたんだね。ジーノはそう確信すると、ゆっくりとベッドから体を起こした。


「ジーノ、寝てなくていいの?」

「昨日より随分楽になってきているから大丈夫だよ。それより…ごめんね、タッツミー。ボク、タッツに毎日会いに行くって約束したのに。少し雨に濡れたくらいで風邪引いて…」


ジーノは達海に頭を下げた。不甲斐ない気持ちで胸が苦しかった。達海に自分が本気なのだと、真剣に好きなのだと証明する為に頑張っていたのに、結局中途半端で終わってしまった。それ所か、めったに引かない風邪まで引いて迷惑を掛けてしまった。ジーノはもう一度謝ろうと顔を上げて、そのまま目を見張った。目の前の達海は、ジーノが今まで見たことのないような表情をしていた。眉根を寄せ、切ない顔でジーノを見つめていたのだ。


「俺の方こそ、謝んなきゃいけない。…ジーノ、俺はお前が来なくなって、結局その程度だったんだって…そんなこと思う資格なんてないのにさ。俺、今でも誰かを好きになるっていうのは良く分かんないままだけど…だけどね、お前となら一緒に居て楽しいだろうなぁって分かる。それにジーノが俺に笑ってくれると何かあったかくなるんだ。だから、こんな俺だけどさ…」

「タッツミー…タッツミー。」


ジーノはベッドから身を乗り出すようにして、愛おしむように細い体を抱き締めた。ずっと窓越しでしか達海に近付けなかった。自分の腕の中で愛しい存在が気恥ずかしそうに下を向く姿にジーノは静かに微笑んだ。



*****
このまま抱き締めていては達海に風邪をうつしてしまいかねない、とジーノは慌てて体を離そうとした。達海は代わりのいない大切なETUの監督なのだ。本当はずっと抱き締めていたいのだけどね、我慢しなくちゃ。だが急に達海の腕が背中に回り、ジーノを抱き締め返した。


「タ、タッツミー!?風邪がうつるから…」

「うん?俺、こう見えて頑丈だから、こんくらいじゃ大丈夫。…あ〜、それにしても何かお前の腕の中って落ち着くかも。」


安心しきった子供のような表情で達海がジーノを見上げる。その上目遣いの表情に体温が一気に上昇しそうになった。ただでさえ風邪で熱っぽいのに、これ以上は無理だと今度こそジーノは達海の体を離した。達海も大人しくジーノから離れると、再び床に座り込んだのだが急にあっ、と思い出したような声を上げた。


「…そういえばさ、俺、急いでここに来たから財布の中身確認してこなかったんだけど、実は…帰りの電車賃が足りないんだよね〜。」

「それは大変だ。ボクが…」


でさ、良かったら今日ここに泊めてよ。もう夕方だし、明日は休みだから何もしないでごろごろするつもりだったし。甘えたようにねだる達海の言葉にジーノは飛び上がりそうになった。達海は自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。これが計算ではないから厄介なのだ。達海はジーノをこんなにも惹き付けて離そうとしない。


「大丈夫。ジーノの邪魔にならないようにリビングのソファーで寝させてもらうから。俺の部屋のベッドよりふかふかそうだし。」

「分かったよ。…タッツミーの好きなようにしていいよ。」

自分が風邪など引いていなければ、達海を抱き締めて朝まで一緒に眠ることができたのに。自分に笑い掛ける達海に微笑み返しながら、ジーノはこっそりと肩を落としたのだった。



*****
それから数日後の昼下がり。練習を終えたジーノは、達海の部屋の中に居た。風邪も完全に完治した訳であるから、もう達海に触れてもいいだろうと、ベッドの上に座っている達海に腕を伸ばした。だがいつかの夜のように、その手はすげなく振り払われてしまった。


「ちょっと、タッツミー。ボク、もう元気になったんだから…いいでしょ?」

「前言ったじゃん。お前と一緒に居て楽しいけど、まだその…良く分かんないって。」


達海は恥ずかしそうに小さく呟く。一緒に居て楽しい。それはもうボクのことが好きなのと同じだと思うけどね。ジーノは困ったように笑うと、達海のすぐ隣に腰掛けた。


「ゆっくりでいいよ、タッツミー。こうして今この瞬間、隣に居られるだけでボクは幸せな気持ちなんだから。」

「ジーノ…」

「それより本当にいいの?もう夜に会いに行かなくて。ボクはまだまだ大丈夫なんだけど。」

「もう十分だよ。十分お前の気持ちは分かったしさ。」


だからいいんだよ。達海の声はどこか嬉しそうだった。達海がいいならそれでいいか、とジーノはすぐ横に居る達海に近付くとその腰に手を回した。


「おい、ジーノってば…」

「これくらいは許して欲しいな。ボク、タッツミーが大好きなんだから。」

「…知ってる。」


達海は少しだけ頬を膨らませてはいたが、首元が赤く染まっているのが見えてジーノは嬉しさで一杯だった。これからも少しずつ達海と一緒に楽しい時間を過ごしていきたい。ジーノは達海との未来を想いながら、隣にある優しい温もりに目を閉じた。






END






あとがき
ジーノが痛い感じですみません(><;)好きな人と窓越しに会うのっていいかも…と思って勢いだけで書きました\(^_^)/

ジーノが毎夜真剣に愛を囁きに来たら、タッツミーも落ちちゃうと思います^^フットボール一番なタッツミーの心の中にジーノの居場所ができて、それがどんどん大きくなって、タッツミーの大切な人になっていく…という感じが大好きです♪


ここまで読んで下さいましてありがとうございました。

[*前へ][次へ#]

24/87ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!