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あなたにアイラブユー 1
一緒に居ると何だか楽しい。決して綺麗で可愛い女性という訳ではないのに。それなのに、フットボール以外でもっともっと一緒の時間を過ごしてみたいと感じる。そんな風に思ってしまったのならば、自分は最早その人のことを好きだ、と言えるのではないだろうか。



面白そうな監督だなぁ。ちょっと童顔で、親しみやすそうな所もいいね。それがジーノの達海に対する第一印象だった。初めて彼を見た瞬間から、彼には自分を惹き付ける何かがあったように思う。今までのETUの監督と彼は、何かが違う。達海のフットボールは自分を楽しませてくれそうな予感がしたのだ。


ジーノの予感は見事に的中した。達海のフットボールは、今まで自分が接してきたものと全く違っていた。相手チームを綿密に研究して導き出された奇抜な作戦に感心したのは勿論だが、選手1人ひとりを理解して真剣に向き合う達海がジーノには新鮮だった。彼に興味を持った。最初は興味だけのはずだった。だが気が付けばいつの間にか、練習や試合中に達海の姿を目で追うようになっていた。達海の頭の中にある最高のフットボールを、自分が彼の代わりに体現してあげたいと思うようになっていたのだ。そして彼と一緒に居たら、きっと楽しいのだろうなとも。ジーノは自分の心の中に生まれた達海に対する確かな感情に、愛と名前を付けた。そして自分は達海に真剣に恋をしているのだと理解したのだった。



*****
達海の頭の中は、フットボールのことと後は体に悪そうなお菓子やジュースで占められているのではないかとジーノは思う。そこに自分が入り込める隙間は果たしてあるのだろうか。だが何としても達海には振り向いて欲しい。自分の気持ちを受け入れて欲しいのだ。



「何?…お前、用もないのにまた来たの?」


達海の部屋のドアを閉めて、その前に静かに立っているジーノの耳に少しだけ面倒そうな声が届く。達海はテーブルの上に散らばっているたくさんのメモを纏めながら、本当に用があるなら聞くけど、俺今忙しいんだよねとぶっきらぼうに告げた。


練習の後の軽いミーティングが終わり、私服に着替えたジーノはそのまま駐車場にある愛車のもとへは向かわず、真っすぐに達海の部屋を訪れていた。ジーノがこんな風に達海の部屋を訪れるのは、実はもう日常のようなものになっていた。達海のことが好きなのだと理解した瞬間から、少しでも彼に近付きたくて、達海の迷惑になっていることに目を逸らしつつ今日も会いに来たのだった。


「用ならあるよ。…好きな人ともっと一緒に居たいっていう、ボクにとって大切な大切な用がさ。」

「あのさ〜。ジーノ、お前、俺の部屋に来る度にいつも俺のこと…好きだとか愛してるとか言うけど、そういう冗談はやめろよ。」

「冗談なんかじゃないよ。…ボクは本当にタッツミーのことが好きなんだ。…本気、だよ。」

「あのね、俺、男だよ?分かってるよね?…それに俺は監督、お前は選手。何かあっちゃまずいじゃん。」


床に片膝を立てて座る達海は、ジーノの言葉を容赦なく切り捨てた。ジーノはグッと拳を握る。毎回達海の部屋を訪れる度に自分の想いを告げてはいるが、達海には全く響いていない。だがそうだといって諦める訳にはいかない。これからもずっと一緒に居たいと思える人を漸く見付けたのだ。離したくない。


「分かっているよ。…それでもボクはどうしようもなくタッツが好きなんだ。」

「そうやって、俺のこと好きだ好きだって言うけど、何か軽いっていうか…お前、他の女とかにもそんな風なんじゃないの?」


達海がサラリと告げた言葉にジーノは唇を噛んだ。確かに以前の自分は、意中の女性に何度も熱心に好きだと告げて落としてきた。自分の中に半分流れる色濃いイタリア人の血のせいか、相手に好きだ、愛していると告げることは恥ずかしくも何ともない。それに想いというものは、はっきりと口に出さなければ伝わらないものだとジーノは常々思っている。だから今だって、達海に自分の想いを告げている。それなのに達海には、自分の行動は薄っぺらく映っていたようだった。


「…だったら、ボクが本当にタッツミーに真剣なんだって、分かってもらう為に…好きだという証明として明日から毎日会いに行くよ。」

「ちょっ、何言ってんだよ。そんなの迷惑だからやめろって。」

「…だったら、タッツミーの部屋には入らないよ。外に居る。外からならこの部屋はカーテンもないし、ボクが来ても分かるよね?」


狼狽える達海に、ジーノはこれならいいでしょ、と笑顔を向けた。


「日本ではさ、確かすごく昔だけど、男性が好きな人の所に夜になると会いに行ってたんでしょ?だからそれと同じだよ。ボクもタッツミーに会いに行く。ボクが本気だって分かって欲しいから。」

「……もう、勝手にしろよ。」


予想以上に引き下がらないジーノに諦めたのか、達海は溜め息を零しながらジーノを見上げた。その眠たそうな瞳には、もうどうにでもなれという投げやりな色が浮かんでいたが、とりあえず自分の提案を受け入れてくれたことが嬉しかった。


「ありがとう、タッツミー。明日から月夜にはタッツミーと窓越しの逢瀬ができるね。」

「俺、DVD見てたらジーノのことなんて気付かないから…絶対無駄足だと思うけど。」

「いいの、ボクがやりたくてやってるんだから。タッツミーを見つめてるだけで、本当に幸せな気持ちになるんだよ。」


ジーノがそっと微笑み掛けると、達海は息を飲んで視線を逸らし、そのまま下を向いた。


「…今日はもう帰るよ。色々混乱させてしまってごめんね。」


自分の想いを分かってもらう為とはいえ、達海を困らせるようなことをしている自覚はあったので、ジーノは今日はもう帰ることにした。達海の部屋のドアを開けて廊下に出ようとした瞬間、離れがたい名残惜しさを感じてしまい、そっと達海を振り返った。思いの外真っすぐで真剣な瞳がジーノを捕らえる。胸が切なく疼いて仕方なく、ジーノは達海に背を向けると着ていたシャツを握り締め、そっと廊下に出たのだった。

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