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特別な夜も
チームを1つでも多くの勝利に導く為には、シミュレーションや相手チームの研究、練習メニューの考案などやらなければならないことがたくさんある。だから世間では特別だと言われる今日この日でも、自分は関係なく仕事をする。そう言ったら、気まぐれファンタジスタな王子様はきっと…



自分の部屋に近付いて来る足音で誰が来たかなど簡単に分かってしまっていたが、達海はリモコンの停止ボタンを押すことなくそのままテレビに視線を向けていた。足音が止まり、それに続いてドアが開く音がした。床に座ったままなので、視界の端に恋人の長い脚とシンプルなデザインの紙袋が見えた。


「クリスマスイブをタッツミーの部屋で過ごせるのは嬉しいけれど、何で仕事しているのさ!」


高めの不機嫌そうな声が耳に届く。やっぱり怒ったか。まぁそんな顔されるとは思ったけどね。一時停止のボタンを押してゆっくりと顔を上げると、自分が想像していた通りの表情でジーノが腕組みをして立っていた。眉間に皺を寄せ、本当にもうと溜め息を吐いている。とりあえずジーノから紙袋を手渡され、メモをどけるようにしてテーブルの上に置いた。


「あのさぁ、監督に休みなんてないんです。クリスマスなんて関係ないよ。」

「少しは恋人らしいことしようよ。ボクオススメの美味しいケーキも買って来たんだから。」


最早すっかり定位置となってしまったベッドに腰掛けて、脚を組んだジーノが紙袋を指差す。どうやらこういったことに無頓着な自分の為にケーキを買って来てくれたらしい。自分と違って本当にマメだなぁとつくづく思ってしまう。


「ケーキはありがたいけど、俺さ、もうおっさんだから、いちいちクリスマスとかではしゃぐ年じゃないんだよね。」


だから今日も仕事したいんだよ。言外にそう言ってみる。だがクリスマスのようなイベント事を大切にする年下の恋人にはどうやら通用しないようで、ジーノは脚を組み直しながら口を開いた。


「ちょっと、ボクもタッツミーもまだ十分若いでしょ。…ねぇ、タッツ。」


先ほどまでの不満げな顔から一転して捨てられた子犬のような悲しげな瞳を向けるジーノに、達海はあぁ駄目だと白旗を振るしかなかった。自分はジーノのこの表情に弱いのだ。


「あぁもう分かったよ。もうすぐ見終わるから、そしたらケーキ食べようぜ。」

「ありがとう。嬉しいよ、タッツミー。」


ジーノが目を輝かせて勢い良く飛び付いて来た。目一杯自分を抱き締める恋人と嬉しさに尻尾を振る犬が一瞬だけダブってしまい、ジーノの腕の中で、見た目猫っぽいのにお前絶対忠犬の素質あるよな〜とこっそり思ってしまった。



*****
狭くて殺風景で色々な物で散らかっている部屋の中にあるクリスマスケーキは、なんだかそれだけが酷く場違いな気がして、達海は思わず微苦笑した。本当はこんな豪華なケーキはジーノの部屋の中で食べる方が良い気がするのだが、2人寄り添って食べるのも悪くはないのかもしれないと少しだけ思えた。


「ほんとは…別にこんなことしなくても良かったのに。」


夜も深まり誰も居なくなったクラブハウス内から達海が勝手に拝借して来たお皿にケーキを切り分けていたジーノの手が止まる。


「…酷いなぁ、タッツミー。そんな悲しいこと言わないでよ。」

「そうじゃなくてさ、別に特別なことしなくても…お前が隣に居てくれるなら、俺はそれだけでもう、十分なんだよ。」


普段の自分はなかなか素直になれない性格で。仕事をしなければならないと言いつつも、本当は心のどこかではいつもジーノが側に居てくれることを望んでいて。今日くらいは目の前の優しい王子様に本当のことを伝えたかった。クリスマスなど関係ない。ジーノが居てくれるならば、毎日が幸せで特別になるのだと。


「タッツミー…」

「お、このケーキ美味いじゃん。」


ジーノが何か言い掛ける前に、視線を逸らしてケーキを口に運ぶ。今何か言われたら、それこそ好きだなんて言われたら赤い顔を隠せなくなってしまうから。ジーノを見ないようにして、口の中に広がる生クリームの甘さを味わうことにひたすら集中した。


「タッツミー。」

「何だよ、俺、今ケーキ…」


近くで見るとこちらが恥ずかしくなってしまうほど整い過ぎた顔が目の前に広がっていて、次いで自分が密かに好きな香水の香りがした。優しく舌が絡まり合い、嬉しそうに目を細めるジーノと視線が交錯してゆっくりと離れた。


「うわぁ、甘いキスとか…恥ずかしい。」

「甘い味のキスなんてしょっちゅうじゃない。ボクには絶対に無理なあの甘ったるいジュースをタッツが飲んだ後とかは特にさ。」

「まぁ、そう言われるとそうなんだけど。」

「今のキスは味だけじゃなくて、雰囲気もいつもより甘かったしね。タッツミーが照れても仕方ないよ。」


俺は照れてないと反論しても、顔が赤いよ、ボクとのキスがそんなに嬉しかったんだね、と甘く囁かれてしまえば黙るしかなくて。再び口付けようと顔を近付けて来たジーノの眼前にケーキを乗せたフォークを突き出して、お前も食べろよと促した。


「うん。タッツミーには負けるけれど、ほど良く甘くて美味しいね。やっぱり買って来て良かったよ。」

「俺も、良かった。今日お前とケーキ食べて、一緒に過ごせて。」


ボクも同じ気持ちだよ。隣で微笑むジーノにそっと体を預けながら、達海は幸せを感じていた。特別な日もそうではない毎日も、この温もりと共にありたいと思いながら。






END






あとがき
クリスマス×ジノタツのお話です。


この2人はジーノの家で素敵な夜を過ごすのも似合いますし、今回書いたようなタッツミーの部屋でささやかにケーキを食べるのもアリだなぁと思います(・ω・)/とりあえずジーノとタッツミーがらぶらぶに過ごしてくれればそれで良いですよね(´∀`)


読んで下さってありがとうございました♪

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