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ドッグタグ
自分の恋人は外見や服装、装飾品といったものに全く無頓着だとジーノは思う。自分も過度な装飾品の類は好みではなく、シンプルなファッションの方が美しさを引き立ててくれるとは思ってはいるが、恋人ほど酷くはない。ジーノが今まで付き合った女性の多くは自分とお揃いの物を持ちたいと良く言い、ペアのリングやネックレスを買わされそうになったことがある。だがジーノは、相手に贈ることは良しとしても、自分が身につけることはあまり好まなかったので、意外にもペアのアクセサリーなどを買ったことはなかった。だが、達海と付き合うようになって、彼と一緒に過ごす内に次第にお揃いのアクセサリーを持ってみたいと思うようになった。そんな物で自由奔放な恋人を縛れる訳でもないが、いつも自分と一緒の物を身につけている、それは達海と常に繋がっていられるのではないかとジーノは考えたのだった。





「ねぇ、タッツミー。ボク達でお揃いのアクセサリーをつけないかい?…良く考えてみたらさ、恋人同士でお揃いの物を持つのって当然なんだよねぇ。…ボク、今まで勘違いをしてたみたいでさ。」

「突然俺の所に来たかと思えば…何?そんなこと?」


今日の練習も夕方で終わり、着替えを済ませたジーノはそのまま恋人の部屋へと直行したのだった。タッツミー、と機嫌良くドアを開けると、達海は次の対戦チームの研究の為なのだろう、まさにDVDを見ようとしていた。


「もう、そんなことじゃないでしょ。ボクはタッツミーだからこそ、お揃いの物を身につけたいって思うのさ。…やっぱりネックレスとかがいいかな?」

「俺、そういうのすぐなくしちゃうから、別にいらないよ。それにアクセサリーとかってあんまり興味ないし。」


達海は座ったまま1度だけジーノを見たが、またすぐにテレビへと視線を戻してしまった。


「ちょっとタッツミー、ボクは真剣なんだよ。タッツにボクとお揃いのアクセサリーを贈りたいんだ。」


ここで引き下がる訳にはいかず、ジーノは達海の目の前に座り込んで力説した。ジーノが本気であることが分かったのだろう。お前に気を遣わせたくないんだけどね、と困った顔をしながらも、ジーノの好きにしていいと了承してくれた。


「タッツミー、ありがとう。ボク、今日さっそく色々探してくるから楽しみにしててね。」

「おぅ、分かった。じゃあ気を付けて帰れよ〜。」


達海はヒラヒラと手を振ると、立てていた片膝に顎を乗せてDVDに熱中し出した。ちょっと、タッツミー、ボクはまだタッツミーと居たいから帰らないつもりだったのに。だが達海がこうなってしまうと、当分相手にしてもらえない。ジーノは達海のベッドに寝転がるくらいしかすることがなくなってしまうので、アクセサリーのこともあるからと、今日は大人しく帰ることにしたのだった。


*****
達海に自分とお揃いのアクセサリーをつけてもらって、いつも自分のことを考えてもらおうという提案をしてから1週間後。ジーノは軽い足取りでクラブハウス内にある達海の部屋へと向かっていた。



1週間前達海の部屋を訪れた後、ジーノは達海に何を贈ろうかと色々と悩んだ。指輪はまだ早いような気がしたので、ここは気軽につけられるネックレスがいいだろうと決めた。ネックレスといっても色々あるからね、どうしようかなと考えていると、ふとドッグタグの存在が頭に浮かんだ。プレートの部分に好きな文字を刻める為、恋人同士がお互いに名前を入れ合うことができ、若者達の間でも人気のアクセサリーだった。達海が試合中にいつも着ているモスグリーンのコートに合うように思われたし、普段着の黒のパーカーに合わせてもオシャレだとジーノは思った。そして何よりお互いの名前を刻める所にジーノは魅力を感じた。ボクはタッツミーの名前が刻まれたドッグタグをつけて、タッツミーは逆にボクの名前のを持つ。これって、まさにタッツミーはボクの物だと言っているようなものだよね。それからほどなくしてジーノは、アクセサリーショップを営んでいる知り合いに頼んでオーダーメイドのドッグタグを用意してもらったのだった。


いつものように軽くノックをしてタッツミー、ボクだよ、と弾んだ声でドアを開けると、達海は先ほどまで寝ていたのか、寝癖がついた髪もそのままにテーブルの上にあったお菓子を食べていた。今日はDVDを見てなくて良かったと思いつつ、ジーノは達海の寝癖を綺麗な指で整えてやった。くすぐったいよ、ジーノ、と達海がキュッと目を瞑る姿にふわりとした愛しさを感じながら。

「タッツミー、この前ボクが言ったこと、覚えているかい?」

「…お揃いのアクセサリーだっけ?」

「そうだよ。今日それを持って来たんだ。」


ジーノはそう言うと、レザージャケットのポケットから綺麗にラッピングされた色違いの袋を2つ取り出した。その1つを達海に手渡し、ボクもここで開けるからタッツミーも開けてみてよと促した。


「これ…ドッグタグ?」

「うん、そうだよ。タッツミーの方にはボクの名前が刻まれてて、ボクの方には勿論タッツミーの名前が入ってるのさ。」


ジーノは自分のドッグタグを取り出すと、手の平に乗せて達海に見せた。達海はじっとジーノの手の中を見ていたが、不意に視線を逸らして、何かを小さく呟いた。ジーノの耳にはそれが、恥ずかしい奴だよ、お前は…と聞こえ、達海の照れ隠しだと分かって胸が熱くなった。


「でもさぁ、俺はともかく…ジーノ、お前ってあんまりドッグタグとか似合わない気がすんだけど。」

「タッツミー、何もそんなにハッキリ言うことないと思うけどな…」


似合わない。恋人に指摘される以前に自分でも何となくそうかもしれないと思う所はあった。ジーノが持っている洋服はクラシカルなものが多いので、確かにドッグタグは浮いてしまう。ボクの犬達なら、2つの意味で似合うのだろうけどね。ジーノの頭に赤崎達の顔が浮かぶ。年齢的にも忠犬という意味でも、彼らならば似合いそうだった。


「せっかくタッツミーとお揃いになれると思ったんだけど…恋人に似合わないなんて言われてまで身につけるのもね。…いっそのこと車のキーにでもつけようかなぁ。」


ジーノがそう呟いている間、達海は何かを考えるように黙っていた。そしてそのままジーノをじっと見つめると、あのさ…と口を開いた。


「やっぱお前、ちゃんとこれ首に掛けとけよ。」

「え?タッツミー…?」


達海はジーノが手に持っていたドッグタグを奪うと、ニヒーと悪戯っぽい笑顔でジーノの首にドッグタグを掛けた。達海の名前が刻まれたプレートがジーノの胸で揺れる。達海はそれをどこか満足そうな顔で眺めた。


「ジーノ、お前にさ…フラフラされたら困るから、やっぱしっかりこれつけといてもらわなきゃね。」

「タッツミー、それって…」


達海がこのドッグタグで、まるで自分を離さないとでも言っているように聞こえて、ジーノは顔が熱くなった。ボクはタッツミーが1番なんだから、こんな物がなくたってどこにも行かないよ。


「お前のことだからさ、どうせこれで俺と繋がりたいとか思ったんだろ。」


達海に言い当てられてしまい、ジーノは言葉に詰まった。どうして彼には自分の想いが分かってしまうのだろう。本当に達海には敵わない。


「…うん、タッツミーの言う通りだよ。少しでもタッツと繋がっていたいって思ったんだ。不安って訳じゃないけど、僕はタッツミーが好きで仕方ないから。」

「お前、欲張りだなぁ。大丈夫だよ、俺もいつもお前と繋がっていたいって思うし。まぁ、こんな物あってもなくてもね。」


達海は小さく笑うと、ジーノに掛けたドッグタグにそっと触れた。その指がプレートに刻まれたジーノの名前を優しくなぞり、ジーノは自分が達海に撫でられたように心がじんわりとしたのだった。



*****
いつものように練習メニューの紅白戦が終わり、ジーノはゆっくりとした足取りでロッカールームへと向かった。簡単にタオルで髪を拭い、洋服の上に置いていたドッグタグを首に掛けようとして、ジーノは近くで着替えていた椿に声を掛けられた。


「お疲れ様っス。…あれ?王子、ドッグタグなんてつけてたんですね。」


「あぁ、これかい。…フラフラしてどこかに行かないようにってつけられたのさ。」


王子って恋人居たんですか!?顔を赤くして椿が狼狽える。ジーノは達海とのことは隠すことはないと思ってはいるが、自分から広めることもないと思っているので、椿には何も答えずにフフと笑っただけだった。


「王子の…恋人って独占欲が強いんスね。羨ましいなぁ。…あ、じゃあ、俺、お先に失礼します。」


着替え終わった椿は、そのまま足早にロッカールームを出て行った。彼が出て行ったので室内はジーノ1人だけとなった。


「独占欲…ね。」


確かにこれをつけていると、達海と繋がっていると思う以上に、彼が自分が遠くに離れて行かないように想ってくれている気分になって、嬉しくて堪らなかった。


「タッツミーの独占欲は、ボクには最高だよ。」


ジーノは嬉しそうに笑うと、ドッグタグに刻まれた達海の名前を愛おしむように撫でた。






END





あとがき
分かりにくいけれど、実はジーノに対して独占欲があるタッツミーってすごく可愛いと思いますv


お互いが大切だから、形のある物を通して繋がっていたい訳ですよ(^∨^)普段飼い主なジーノも、タッツミーになら繋がれていいと思っているんじゃないかなぁと勝手に思っています(*^^*)


読んで下さってありがとうございました!

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あきゅろす。
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