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流れ星に願いを
ここ数日見続けていた試合のDVDも大方見終わり、作戦も頭の中で纏め終わったので、達海は今日は部屋でごろごろしていた。最近はすっかり朝晩冷え込んできていたが、部屋でじっとしていたら突然アイスが食べたくなってしまった。夜になって外は暗く寒そうだったが、コンビニまでそれほどかからないからいいか、と達海は以前ジーノから貰ったマフラーを巻いてコンビニに向かった。





コンビニでお目当てのアイスを見付けて、達海は満足だった。そのままアイスをレジに持って行こうとしたが、不意に数日前のジーノとの会話を思い出した。そういえば、練習終わりにジーノが何かのファッション雑誌に載ったから見て欲しいなって言ってたっけ。う〜ん、一応探してみるか。達海は一旦アイスを戻すと、のんびりと雑誌コーナーに足を向けた。そして、そのままその場で動けなくなってしまった。何故ならジーノと目が合ってしまったからだ。


ジーノは雑誌の中から、こちらに爽やかな笑顔を向けていた。達海は吸い寄せられるように、その雑誌を手に取っていた。ジーノのページを探してパラパラと雑誌を捲る。ジーノはクラシカルな服装に身を包み、綺麗な笑顔で微笑んでいた。誰もが惹かれるような笑顔で皆に微笑んでいるようであるが、誰も見ていないような笑顔に達海には見えた。


皆は、あいつの作られた笑顔しか見えないんだ。くるくると変わる豊かな表情は、恋人の俺だけしか知らないんだよな。そう思うとすごくくすぐったくて、変な感じだった。



*****
雑誌にはインタビュー記事も載っていたので、帰ってから読もうかなと達海は結局、その雑誌を買ってしまった。一緒に買ったアイスを帰り道で食べ終えると、さっそく部屋に戻ってジーノのインタビューを読むことにした。そこには日常生活の話題から、フットボールのこと、そして恋愛のことなど色々なことが書かれていた。へぇ、ジーノって、こんなこと考えてんだ。記事を読み進めていた達海は、ある質問に自然と目が行った。それは『大切な人は居ますか?』というものだった。


『勿論居るよ。恋人かどうかは、ここでは言えないけどね。その人はさ、ある1つのことに集中してしまうと、全然他のことを顧みなくなってしまうんだ。それに強い人で、ボクに全然辛い顔を見せない。だからボクがずっとずっと支えてあげたいと思ってる。』


ジーノの言葉が達海の胸を打つ。…あいつ、俺のこと支えたいんだ。何だろう、すごく嬉しい。



「相変わらず部屋の鍵を掛けてないなんて、物騒だよ、タッツミー。」


突然ジーノの声が耳元で響いて、驚きのあまり達海の肩が大きく揺れた。雑誌に集中し過ぎていたようで、ジーノが部屋の中に入って来ていたことに全く気付かなかった。


「あれ?その雑誌は…」


ジーノに見付かってしまう前にと、慌てて雑誌を隠そうとしたが、笑顔のジーノに取り上げられてしまった。


「ちゃんと買ってくれたんだね。ボク、とても嬉しいよ。…そうだ、せっかくだからサインでもしてあげるよ?ボクのサインはレアだからさ。」


端正なジーノの顔が本当に嬉しそうに輝いていた。その表情に見とれてしまい、達海は誤魔化すように別にいらないし、と言うのが精一杯だった。


「それよりさ、何しに来たの?…今日って何か約束してたっけ?」


ジーノは自分の恋人で自分達は付き合っているので、2人で出掛けることも多い。だが今日は特に約束はしていなかったように思う。


「いいじゃない、ボクが会いたい時に会いに来てさ。…今日はドライブにお誘いに来たんだよ。行こうよ、タッツ。…さぁ準備して。」


今日は特にすることもなかったので、このままだらだらと部屋に居るのならば、ジーノと居た方がいいと達海は思った。まぁジーノに付き合ってやるかなと、テーブルに置いてあったマフラーを首に巻くと、ジーノと共に部屋を出ようとした。


「あっ、タッツミー、ボクがあげたマフラー、使ってくれているんだね。」

「温かいからね、お前がくれたこのマフラー。」


達海の首に巻かれたチャコールグレーのマフラーを見て、ジーノがふわりと微笑む。マフラーも勿論温かいが、その笑顔の方がずっとずっと自分の心を温めてくれるなんて、恥ずかしくて言えなかった。



*****
クラブハウスを出ると、外の気温は日中よりもぐんと下がっていて、吐く息も白かった。その寒さに達海は思わずマフラーに顔をうずめる。ジーノも寒いのだろう、ショートコートの襟元を手で押さえていた。


「さぁ、お乗り下さい。ボクのお姫様。」


ジーノが茶目っ気ぽくそう言って、助手席のドアを開けて達海を案内する。ジーノの愛車に乗る時は毎回こうで、慣れてしまってはいても、気恥ずかしさはなかなか抜けなかった。





2人を乗せたマセラティは、東京の街を軽快に走り抜けてく。夜の街はネオンがキラキラと輝いて、昼間とはまた違った雰囲気だった。車内の会話はそれほど多くはなかったが、達海は決して退屈ではなかった。ジーノが選んだ穏やかなクラシックが耳に心地良かったし、運転するジーノの端正な横顔を見ているだけでも十分だったからだ。


*****
車はそのまま街を抜けると、郊外の高台で停まった。車から出てみると、すぐ目の前には東京の街が広がっていた。防護柵まで歩いていくと、2人は夜の東京の街を眺めた。達海は、たまにはこんなデートも悪くないもんだなと感じていた。ふと空を見ると、先ほどコンビニの帰りで見上げた時よりも星が綺麗に見えた。


「東京でも、こんなに綺麗に星が見える所もあるんだな。」

「うん、綺麗だね。」


達海の体にぴたりとその身を寄せて、ジーノが呟く。触れ合った肩がジーノの温もりでほんのりと温かくて、達海は安心した気持ちになっていた。



「あっ、タッツミー、流れ星!」


ジーノが突然叫んで、夜空を指差す。達海の目にも、夜空を駆けて行く星が見えた。


ジーノがずっと側に居て、支えてくれますように。ずっと俺の側に居て、支えてくれますように。ずっとずっと支えてくれますように。


とっさに願いを込めて流れ星を見る。消えてしまわない内に自分の願いを。達海が心の中で願い終わったのと同時に流れ星は消えてしまった。


「あ〜残念。消えちゃった。ボク、タッツとの願いごとがあり過ぎて、どれにしようか迷っちゃって、結局言えなかったよ。…タッツミーはどうだった?」

「俺はちゃんと言えたよ。でも秘密な。」


意地悪く笑ったら、え〜気になるなぁとジーノは詰め寄った。だが、願いごとを他人に話したら叶わなくなるからね、と大人しく引き下がった。達海は自分の隣で笑顔を向けるジーノをそっと見た。自分と居て楽しそうなジーノを見ていたら、あることが頭に浮かんだ。


あぁ、そっか。流れ星に願いなんて込めなくても、俺の願いって叶ってたんだ。こうして俺の隣にジーノが居る。それだけでもう、俺は支えられてるんだ。前を向いて進んで行けるんだ。


そうだと気付いたら急にジーノのことが愛しくなった。だからだろうか。やっぱり高台は寒いね、と言って体を震わせていたジーノに近付くと、達海は巻いていたマフラーを半分ジーノの首に巻き付けた。突然のことにジーノは驚いて目を見開いたが、すぐにとろけるような幸せそうな顔になって、達海を抱き締めた。


「…お前、寒そうだったから。だけど、抱き付いていいなんて言ってないんだけど。」

「タッツミーがボクと恋人巻きしてくれるなんて!どうしよう、ボク、幸せだよ。」


ジーノは達海の言葉も耳に入らないのか、そのまま優しく抱き締め続ける。その手が不意に達海の手を握った。革の手袋が達海の右手を包む。ジーノと目が合うと、だってと微笑まれた。


「ボクもお返し。タッツミーの手が寒そうだったから。…こうすると、もっと温かいでしょ。」


ジーノは革の手袋を外すと、達海の両手を持ち上げて握り締めた。ジーノの手が優しく触れて、手袋越しよりもずっと温かかった。


達海は自分はこんなにも幸せなんだと思わずにはいられなかった。ジーノは自分のことを好きだと言ってくれて、隣に居て支えてくれる。ジーノが居てくれる。それだけで達海は幸せで、フットボール人生を歩む力を貰えるのだ。


「…じゃあ、俺も…お返しのお返し。」


達海は小さく呟くと、ジーノの体を自分から抱き締めた。こんなことは滅多にしないから、ジーノの顔を見なくて済むように、ジーノの体に顔を押し付けて。


「好きだよ、タッツミー。」


甘い声が耳朶をくすぐっていった。顔など見なくても、ジーノが今どんな表情をしているかなんて簡単に想像できてしまい、達海はジーノに体を預けたまま、楽しそうに笑った。






END






あとがき
冬の寒い中、夜空の星を見ながらデートするというシチュエーションが好きでして、ジノタツの2人にらぶらぶしてもらいましたo(^▽^)o

寒い日は2人で温め合っていれば良いと思います(^∨^)


読んで頂き、ありがとうございました♪

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