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キス+ハグ=?
恋人未満な2人です




本当にあいつ、どうにかなんないかなぁ。最近の達海の頭の中は、大好きなフットボールと、この2つのことで占められていた。


チームのエースである10番、ジーノが所構わず抱き付いてきたり、人目のつかない場所でキスを仕掛けたりしてくるようになったのだ。


例えばそれは、練習中の紅白戦で。華麗なゴールを決めた際、ジーノは選手達と喜び合うこともせず真っ先に達海の所に来ると、ボクすごかったでしょ、と言ってハグをしてくるのだ。また例えばそれは、クラブハウス内の廊下で。練習が終わって作戦を考えようと、上の空で歩いているといきなり腕を引っ張られて、掠めるようなほんの一瞬のキスをされる。


最近はジーノと会うと、ずっとこんな感じだった。だが達海は、何故ジーノが自分にこのようなことをするのかが分からなかった。


自分はまだETUの監督になって日が浅い。新しい監督をからかっているのだろうか。外国人は挨拶や喜びを表す際には、相手が誰であろうと、男女構わずキスやハグをする。達海自身も長くイングランドで暮らしていたので、人よりそういったことには慣れている。だから実の所、ジーノにキスやハグをされても、そういったものの延長なのかなぁと、そこまで驚くことはなかった。だが1つだけ疑問が残る。ジーノがそういったことをするのは、何故か自分だけなのだ。椿や赤崎などジーノが目をかけている選手は勿論、チームの仲間にですらハグする所など見たことがなかった。





「何で俺ばっか?…う〜ん、やっぱからかってるとしか思えないんだけど。」


クラブハウスの自室でDVDに没頭していても、頭の片隅で端正な顔がちらついてしまい、なかなか考えが纏まらない。達海は床に寝転がった。


「あ〜もう、あいつのせいで仕事が進まないじゃん。…こうなったらもう、直接確かめるしかないかな。」


何故キスやハグをするのか?それも自分だけに。からかっているだけならば、今すぐやめて欲しい。今度ジーノに会った時に、はっきりそう言おう。優雅に微笑む顔を無理矢理頭から消し去って、達海は再びテレビ画面に意識を集中させた。



*****
「タッツミー…」



自分を小さく呼ぶ声に、それが誰か理解するより早く、達海は腕を引っ張られていた。そのまま廊下の壁に体を押し付けられる。自分にこんなことをするのは、たった1人しか居ない。


「おい、ジーノ、お前何…」

続けようとした言葉は、音になることはなかった。ジーノが自分の体を預けるように達海にキスしたからだ。今までよりも長く深い口付けに、さすがに達海の頭は混乱した。


「…ん、ジー、ノ。」


練習を終えたジーノはユニフォーム姿のままだったが、彼からは爽やかな香りしかしなかった。何度も角度を変えて繰り返されるキスに、このまま流されてしまいそうになったが、自分達の居る場所を思い出し、達海はジーノから距離を取った。


「お前…何してんだよ。」

「そんなに怒らないでよ。…だけど怒った顔も可愛いよ、タッツ。」


ジーノは腕を組んで悠然と微笑んでいる。このまま誰が通るか分からない廊下で話す訳にもいかず、達海はジーノを自分の部屋に入れることにした。





「まさかタッツミーから誘ってくれるなんてね。狭くて散らかっているのはこの際我慢するよ。」

「別に誘ってね〜よ。」

「でもこんな風に部屋の中にまで入れてくれて、ボク嬉しいよ。」


ベッドに腰掛けたジーノが少年のようにくしゃりと笑った。何故いつもこんなことをするのか、そう切り出そうとしていたのに、その笑顔に不覚にも見とれてしまった。優雅な笑みとは違う、ジーノの心が表れたようなそんな表情は初めて見るもので、達海はますますジーノの本心が掴めなくなってしまった。


「なぁ、ジーノ。…お前何で俺にキスとかハグすんの?」


意を決して達海はジーノに尋ねた。するとジーノは達海に顔を向けて、少しだけ目を丸くした。


「…分からないのかい?」

「分かんないから聞いてんじゃん。」


唇を尖らせる達海に対して、ジーノはそっか、と顎に手を当てて考えるような仕草をした。その仕草すら絵になっていた。


「…どうしてだと思う?」

「はぁ?」


質問に質問で返されてしまい、達海はちゃんと答えろよ、と強い瞳をジーノに向けた。だがジーノは答えることなく達海に小さく微笑み掛けると、ベッドから立ち上がった。


「ボクがどうしてあんなことをするのか、当ててみてよ、タッツミー。」

「何言ってんの、ジーノ。ちゃんと答えろよ。」

「少し考えたら分かると思うけどなぁ。…タッツが答えを出すまで、ボク、キスやハグはやめないからね。」


達海をひらりとかわすと、綺麗な笑顔で手を振りながらジーノは部屋を出て行ってしまった。達海もマイペースな方だが、ジーノのマイペースさにはさすがの達海も勝てなかった。


「自分で考えろって…何なんだよ、ジーノの奴。」


結局ジーノのキスやハグが、何の意味があるのかはっきりしないままになってしまった。ただの遊びではないのか?挨拶の延長ではないのか?今の達海には明確な答えは出せず、何だか釈然としない気持ちが胸の中に残ったのだった。



*****
今までこんなに誰か1人のことを考えたことがあっただろうか?…多分初めてだ。DVDを見終わった達海は、ベッドに横になってそんなことを思っていた。


自分の頭の中は常にフットボールが大部分を占めていたのに。ジーノと話したあの日から、達海はジーノのことをこれまで以上に考えるようになっていた。ともすればそれはフットボール以上かもしれなかった。


四六時中ジーノのことを考えてしまっている自分に気付いて、俺何やってんだよ、と笑うしかなかった。それに笑ってしまうことはもう1つあった。達海は寝返りを打つとぽつりと呟いた。


「俺、最近絶対に変だ。…何か分かんないけど、あいつのキスとかハグが前より…心地良いかもなんて…」


そんなの笑うしかない。ジーノに考えてみろと言われて、あれから達海は達海なりに真剣に考えてみることにした。ジーノも相変わらず達海に触れることをやめることはせず、楽しそうな顔でキスやハグを繰り返した。優しく抱き締められ、大切な物に触れるように口付けられていく内に、段々と達海の中でジーノの行為が心に響くようになっていた。


いつもいつもジーノのことを考えていたから、頭が麻痺してしまったのかもしれない。だけど自分を優しく包む腕の強さを心地良いと感じるようになってしまったのは確かなのだ。もしかしたら、ジーノが与えてくれる温もりに絆されてしまったのだろうか。達海は最近の自分の心の変化に戸惑うしかなかった。


多分ジーノのことを意識し過ぎて、変に心が反応しているだけだと思う。そうでなければならない。だけど、その一方で本当にそうなのかとも思ってしまうのだ。あの逞しい胸に頼ってしまいたい気持ちが、心のどこかにある気がする。そのまま身を預けたら、ジーノはきっと自分を大切にしてくれるのではないだろかと。思えばジーノに触れられることは、戸惑い疑問に思いこそすれ、嫌ではなかったように思う。達海は目を閉じて、ジーノ以外の顔を思い浮かべる。他の選手や仲の良い後藤でさえも、あんなことされるのはごめんだと体が震えた。


「俺、何でジーノは大丈夫なんだよ。…昨日抱き付かれた時だって、何か温かくて気持ちいいなって思っちゃったし。」


自分に触れられて嬉しいとでもいうようなジーノの笑顔が再び目に浮かんで、達海は動揺した。俺、絶対おかしい。おかしいって。何でジーノの顔思い出しただけでドキドキしてんの?


「あ〜、やっぱあいつのせい。あいつが考えろなんて言うから、俺おかしくなってるんだよ。ジーノの馬鹿野郎。」


達海は今ここに居ない相手に向かって文句を言った。だがその顔はうっすら朱に染まったままで、ジーノがこの場に居たら確実に抱き締められてしまうものだった。



*****
達海は、部屋の中でドアに寄りかかるようにして立っている、今自分を色々な意味で悩ませている張本人をじっと見た。



今日は練習が午前中に終わり、次の対戦チームの研究もキリが付いていたので、達海は廊下で偶然会ったジーノのキスをかわして彼を部屋に引っ張って来ていた。


「タッツミーの部屋に入るのはこれが2回目だね。」


私服姿のジーノは弾んだ声を出したが、すぐに真剣な表情になって、タッツミーと呼び掛けた。


「…あれから答えは出たかい?」


達海は小さく頷いた。自分も今日この話をしようと思って、ジーノを部屋に入れたのだ。達海は、自分を真っすぐ見つめる瞳を同じように見つめ返して、少しずつ話し出した。


「本当のこと、言うとさ…まだはっきりと答えは出てないんだ。」


達海の言葉にジーノの顔が曇る。少しだけ辛そうに瞳が揺れた。


「でもさ、お前にキスとかハグされるのは…嫌じゃなくてさ。その…温かい気持ちになるっていうか、いつの間にか安心するようになっちゃってて。…俺、変だよな。」


困ったように達海は笑ったが、次の瞬間ジーノに腕を強く引かれ、そのままドアに体を押し付けられていた。ジーノとドアに挟まれて身動きができないでいると、ジーノと目が合った。泣きそうな嬉しそうな、でもどこか切羽詰まったような顔にも見えた。


「…全然変なんかじゃないよ、タッツミー。」


震えるように言葉を紡ぐジーノに、達海は無意識に手を伸ばしてそっとその頬に触れた。自分からジーノに触れるのは初めてだった。自分でも良く分からなかったが、何だかそうしたくなったのだ。突然達海が触れたことにジーノは酷く驚いた顔をした。そして達海の耳元に唇を寄せると、タッツが悪いんだからね、と嬉しそうに囁いた。


「何が…」


何が悪いんだよ。そう言おうと達海はジーノを見たが、そのまま激しく口付けられていた。ジーノの舌が達海の舌を優しく、だが強引に絡め取る。心地良くて頭がクラクラするようなキスだった。ジーノは達海の腰に腕を回しながら、反対の手で器用にドアの鍵を掛ける。達海はジーノのキスに立っていられなくなりそうになり、そっとジーノのシャツを掴んだ。ジーノはそんな達海に目を細めると、一旦唇を離した。


「タッツミー、ボクはタッツミーのことが好きだ。…好きなんだよ。」


ジーノの告白に達海は目を見開く。そうか。ジーノのキスやハグの意味が、その答えが分かった。そして達海の中でも、ジーノの告白に対する答えが見付かっていた。


多分俺も、ジーノ、お前のことが…


再びジーノが達海の口を塞ぐ。先ほどよりも幾分も深い口付けに応えるように達海は、ジーノの広い背中に腕を回した。



*****
「タッツの頭の中って、ほとんどフットボールのことばかりだよね?」


キスを終えたジーノが不意に達海に尋ねた。


「まぁ、そうなるのかなぁ。」


今はもうそれだけではない。それだけではなくなってしまったのだ。目の前の王子様も、もう達海の頭の中に住んでしまっている。お前だって俺の中に居るよ。そう言おうと思ったが、急に恥ずかしくなってしまって言葉にするのが躊躇われた。


「でもさ、タッツミーはこうしてボクに応えてくれた。…今の所はそれだけで十分だよ。フットボール1番のタッツの中にボクが入り込めてるんだから。…だからさ、タッツミー、早く答えを見付けてよ。ボク、待ってるから。」


ジーノは達海に触れるだけのキスをすると、今日はこのくらいにしておくよ、と微笑み、鍵を開けて部屋を出て行った。


「何だよ、あいつ…さっきので、もう答えは見付かったってのに。…俺もジーノのこと、好きなんだよ。」


1人残された部屋で達海はそっと、唇に触れる。まだジーノの唇の感触が残っていて、恥ずかしいけれど嬉しい気持ちで満たされていた。


「ジーノって、肝心な所で鈍いのかな。…しょ〜がない。明日辺り王子様に告白しに行ってきますか。」


ジーノに俺もお前が好きだよと言って、俺を安心させてくれってねだろうかな。ジーノの腕の温もりを思い出しながら、達海は小さく笑った。






END






あとがき
今回はくっつく前の2人です。恋人同士になる前のジノタツも大好きです♪

ジノタツはらぶらぶでも、くっつく前の状態でも何でもきゅんきゅんします(*´∀`*)


読んで下さってありがとうございました^^

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あきゅろす。
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