[携帯モード] [URL送信]
コイビトの好きなトコロ
疲れた時には、やっぱり甘い物だよな〜。頭の中で一通り作戦を纏め終えた俺は、テレビの電源を切ると、床に高く積まれたDVDに気を付けながら部屋を出た。


深夜のクラブハウスは当然の如く誰も居らず、廊下をペタペタ歩く俺の足音だけが響く。俺はそのまま給湯室まで向かい、部屋に入ると冷蔵庫の中から大好きなドクターペッパーを取り出した。


「仕事終わりはこれだよ、これ。」


手に持った缶はキンキンに冷えていて、俺は今すぐにでも飲み干したくなり、プルトップに指を掛けようとした。


「…ん?」


冷蔵庫から少し離れた小さなテーブルの上に、1冊の雑誌が置かれていた。多分、有里辺りが忘れていったんだろう。何となく気になって俺はドクターペッパーをテーブルに置くと、その雑誌を手に取った。


『恋人の好きな所ーー第1位から5位までの読者アンケートの結果発表!恋愛評論家が詳しく解説』


そんな見出しがピンク色の文字で派手に書かれていた。


「ふ〜ん、今時の女の子って、こういうの読むんだ。…恋人の好きな所ねぇ。」

俺は雑誌を無造作に置き直すと、缶を片手に給湯室を後にした。



*****
炭酸の刺激を喉に感じながら、少し前と同じように静かな廊下を進む。だけど違うことがあった。さっきの雑誌の見出しが、何故か頭から離れなかった。


「恋人かぁ…」


呟くのとほぼ同時に、あいつの…ジーノの顔が浮かんだ。一応俺とジーノは付き合ってる。恋人だからそれこそやることはやってる仲だし、まぁそういうことを抜きにしても、ジーノと居ると楽しいし、何となくだけど幸せってこういうことなのかなって感じる時がある。


「あいつの…好きな所、か。」


部屋に戻った俺は、空になった缶をテーブルに置くと、ベッドに寝転んだ。


今はちゃんと好きだけど、俺達の関係って元々はジーノの熱烈なアプローチに俺が根負けしたからっていうか…だからかな、あの雑誌を見て、改めて俺ってジーノのどこが好きなんだろうなって思ったんだ。



「ん〜、まずは顔も…そうだよな?」


静かな部屋の中で俺の声が響いた。勿論今は俺しか居ないから、相槌なんて返ってこない。

「ジーノ、本当に綺麗だもんな〜。」


目を閉じて恋人の顔を思い出す。指通りの良い艶やかな黒髪。彫りの深い端正な顔立ち。長い睫毛。高い鼻。フットボールの選手じゃなかったら、絶対に芸能人とかモデルになっていたんじゃないかと思うくらいなんだよな。あ、確かモデルは時々やってるんだっけ。


「ほんと、すっげ〜男前なんだよなぁ。」


以前試合中にフリーキックを決めたジーノに、まあまあ男前って言ったことがあったけど、まあまあどころじゃないんだよね。…いまだに見とれてしまうこともあって、何か悔しいからそういう時は、あいつの鼻をギュッて摘んでやる。…ただの照れ隠しだってばれてそうだけど。



「あいつの表情も…好きなんだよね。」


これって顔が好きなのと一緒かもしれないけど、俺、ジーノが見せる表情が好きなんだ。ジーノの奴は、練習や試合中はいつも余裕の笑顔を見せている。大抵その笑みを崩すことはない。それは騙し合いのスポーツであるフットボールでは大事なことだから別にいいんだけど。だけど。


俺と居る時ーー俺の前では、本当に色々な表情になるんだ。年相応な笑顔。拗ねてむくれた顔。喧嘩した時の傷付いた表情。キスしようとする時の甘くて優しい顔。どの表情も全部俺だけしか知らなくて。俺だけに見せてくれるもので。ジーノが俺の前でだけくるくると表情を変えてくれることが、すごく嬉しいんだ。



「それから…声も好きだな。」


少し高めの甘い声。タッツミーと、その名を呼ばれる度に胸が甘く締め付けられる気がする。ジーノは俺を抱く時、いつも愛してるよと、俺の名前を呼ぶ。普段より少し低く掠れた声で何度も。


不意にその時の声が蘇って頬が熱くなった。…やばい、何思い出してんの、俺。慌てて体をうつ伏せにすると、落ち着け落ち着けと枕に顔を沈めた。あぁ、もう本当に色々重症だよ。俺、どんだけジーノのこと好きなんだよ。



「はぁ…えっと、4つ目は…見てないようで、周りを良く見てる所かな。」


試合でそのことが良く分かる。視野が広くなけりゃ絶対にできないような所にパスしたり、仲間の動きをちゃんと把握していて、一瞬で試合の流れを変えてしまうこともある。周囲を良く見ることができる上に、ゲームメイクのセンスも抜群。後は守備だけ頑張って欲しいんだけどね。


ジーノが飄々としているようで、実は周りを良く見ているのは、試合だけじゃない。それだけじゃないから、離れられないんだ。


一緒に寝ている時、ジーノに包まれて安心しているはずなのに、時々俺は夢に魘されそうになる。頭では大丈夫だと思ってても、夢ってのは過去を嫌でも思い出させる。俺はジーノに心配掛けたくないから、声を押し殺して夢が終わるのをじっと耐える訳で。ジーノは静かに眠ってるから気付かないはずなのに、俺が1人で耐えているといつも俺の体に腕を回して、ボクが居るからもう大丈夫だよと囁いてくれる。ジーノのそんな優しさに、俺は堪らなく泣きそうになるんだ。


それから前にこんなこともあったよね。俺の手術した足は、調子が悪かったり天気の関係で、時々言うことを聞いてくれなくなったりする。


確かその日は練習中に雨が降ってきて、ぐずぐずした天気のせいで足に違和感を感じた。勿論俺はそんなことはもう慣れっこだから、顔色一つ変えずに練習を終えた。そしたらさ、雨が嫌いなお前が、着替えもしないで俺の部屋に飛び込んで来たんだよな。足は大丈夫かい?辛そうだったからって。


誰にも気付かれたことなんてなかった。違う、気付かせないようにしてたんだ。だけどジーノだけが俺の小さな変化に気付いて。


どうして分かったんだよって聞いたら、ボクはタッツミーの恋人だよ、気付かない訳ないじゃない、そう微笑んでジャージの上から俺の足を労るように撫でた。その時に俺はジーノを選んで良かったって思った。ジーノになら少しだけ寄りかかってもいいかもしれないって。…それは今でも間違ってない。



だって今ジーノが隣に居ることが、俺の幸せなんだ。


あ、フットボールの次だかんな。



*****
ジーノのことを考えていたら随分と時間が経っていた。時計をぼんやり確認する。明日もあるし、そろそろ寝た方がいいかも。そのまま布団を被ろうとした俺の耳にコンコンとドアをノックする音が届いた。一瞬こんな夜遅くに誰が…とも思ったけど、そのノックの仕方には1人だけ心当たりがあって。


今までずっと考えていた人物が、ドアの向こうに立っている訳で、俺は急に恥ずかしくなった。だけどこのまま無視したらジーノの奴、何するか分かんないし。ゆっくりとドアを開けた瞬間、俺はジーノの腕に包まれていた。俺が密かに好きな香水の香りが鼻を擽る。


「タッツミー。急に会いたくなって来てしまったよ。声が聴きたくなって、いてもいられなくて。」

「おい、ジーノ。今何時だと思ってやがる。明日練習あるだろ。それに声だけなら…電話でも良かったのに。」

「練習は午後からだから問題ないよ。…それと電話って、タッツは携帯持ってないから、クラブハウスに掛けなきゃいけないでしょ。毎回この時間に掛けるからって決めるのもねぇ。…だったら会いに行った方がいいでしょ。」

「来てくれて悪いんだけど、俺もう寝たいんだよね。」


ジーノの腕から離れてベッドに腰掛けたら、ジーノもつれないなぁと不満げな声を出しながらも楽しそうな顔で俺の隣に座った。安物のベッドが2人分の体重でギシリと音を立てる。俺が黙っていると、淋しかった?と尋ねられた。


「ボクは突然タッツミーに会いに来たけど、タッツミーは仕事終わってたみたいだし。こんな時間まで起きてたのって、もしかして…ボクのことを考えてたりしたのかな?」

「なっ…違うって。お前、何言ってんだか…」


ジーノの言葉に動揺しそうになる自分を必死に抑える。本当にこいつは厄介だよ。


「…ボクはいつどんな時でもタッツのことを考えてるし、想っているよ。タッツミーが愛しくて大切だからね。」

「俺なんかより…もっとフットボールのこと考えろよ。守備とか。」


下を向いてそう言うのが精一杯だった。俺に向けられるジーノの真っすぐな想いが嫌というほど俺を満たした。


「タッツ、下向かなくていいよ。可愛い照れた顔が見えないよ。」


ジーノの手入れの行き届いた綺麗な男らしい指が、俺の顎を持ち上げたと理解するより早く、優しい口付けが落とされた。


ジーノに応えるようにそっと腕を回した。…本当に本当にもう、ジーノには…



あ、そういえばすっかり5つ目のこと忘れてた。最後の好きな所は…



俺を好きでいてくれる所――こんな風にね。






END






あとがき
タッツミーによる1人ノロケ大会になってしまいました^^

タッツミーよりもジーノの方が遥かにタッツミーの好きな所を言えそうだなと思います(^^)


この後ベッドの中で2人して、お互いの好きな所を言い合ったりしていたら可愛いです♪


読んで下さいましてありがとうございました(^^)

[*前へ][次へ#]

15/87ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!