[携帯モード] [URL送信]
kiss kiss kiss
土方さんにちゅーされて銀ちゃんが振り回されています




「「あっ…」」


見知った顔がすぐ目の前に現れて銀時は思わず声を出していた。それは相手も同じだったようで、銀時の目の前に立っていた男、土方も同時に小さく声を上げた。今の自分達の状況を簡潔に説明するとしたら、そう、コンビニの出入り口でばったり、というやつだった。


「あのさぁ、何なの?ほんといつも何がしたいの?何でこうも会っちまうかねェ。お前、コンビニなんかに用事でもあんの?高給取りの副長さんよォ。」

「俺ァ今、休憩中なんだよ。だからどこで何してようが俺の勝手だ。」

「あ、そ。こっちはせっかくパチンコでいい感じになったから糖分買おうかな〜って思ってたんだけど。ここでお前に会うとか気分悪ぃな、まったく。」

「……」


むすっとした顔で押し黙った土方がこちらをじっと見る。あ、これは絶対に何か言い返してくるに決まっている。それならば金属バットで勢い良く打ち返してやるまでよ、と銀時は軽く身構えたが、無言の土方に突然手首を掴まれた。


「え…?ちょ、何すんだよ…!」


土方は銀時の制止の言葉に耳を貸すこともなく黙って先を歩き出す。そして少し先に見えた店と店の間の薄暗い通路に入った。腕を引っ張られた状態であるので、勿論銀時も人気のないその細い道に足を踏み入れることになってしまう。いきなりこんなことになって訳が分からず、何がしたいのかと文句を言おうとしたが、それよりも先にコンクリートの壁に軽く叩き付けられた。


「…っ、いってー…さっきから、おめー…何やって…」


続きの言葉を紡ごうとした口は土方のそれで塞がれた。予想外過ぎて理解が追い付かなかった。土方とは身長も力の強さもそう大して変わらないはずなのに、突然のことに混乱した頭では自分を押さえ込む身体を少しもはね除けることができなかった。


「やめ…っんん、」


土方の舌の熱さを感じる。まるで覆い被さるように唇を奪われて、全身に電流のような痺れが走った。上顎の内側を舐められ逃げる舌を吸われて一瞬目の前が白く染まりかけ、銀時は土方の胸を叩いて小さく抵抗した。だがそんな風に抗うことは却ってこの男を煽るだけだったのか、さらに舌が絡み合った。


「ひじ、か…」


飲み込みきれない唾液が顎を伝う。それを土方に舐め取られてしまえば、羞恥心からもう抵抗することもできそうになかった。段々足に力が入らなくなってしまい、ずるずるとしゃがみ込みそうになった瞬間、腰に回された腕にしっかりと支えられた。


「……や、……んぅ…」


口付けが深くなる。どうしよう。どうすればいい。もう何も分からなくなりそうだった。こんな風に自分を追い込んでいる全ての原因は土方だというのに銀時は無意識に黒い隊服に縋ってしまっていた。唇は塞がったままだったが、土方が微かに笑ったような気がした。


「…万事屋。」


このままずっと続くのではないかと錯覚しそうになった口付けは、だが唐突に終わりを迎えた。銀時を解放した土方は耳元で万事屋ともう一度囁いた後、満足そうに笑ってその場から去って行った。銀時は遠ざかる黒い背中に視線を向けたが、人通りの向こうにその色が完全に消えてしまうと、今度こそ壁を背にしてしゃがみ込んでしまった。


「……くそっ…」


銀時は立てた両膝に腕を預けてそのままそこに顔を埋めた。はあはあと浅い呼吸を繰り返す。肩で大きく息をするくらいに疲労していた。


「な、何なんだよ、今の…」


自分の物とは思えない甘ったるい声と土方の整った顔。それらがぐるぐると脳内を巡ってどうすることもできず、銀時はしばらく座り込んだまま立ち上がることができなかった。



*****
「「あっ…」」


自分とほぼ同時に店の引き戸を開けて左隣の居酒屋から出て来た男を見て、銀時は目を瞠った。土方だった。土方も少しだけ驚いた顔をして銀時を見やる。今までの酔いが一気に醒めた気分になりながら、銀時も相手を見返した。


「……」

「……」


銀時も土方も自分達が出て来た飲み屋の前で馬鹿みたいに立ち尽くしていたが、銀時の方が相手より早く我に返った。今日は先ほどまで飲んでいた居酒屋と土方が飲んでいたらしい居酒屋のどちらにするか悩んで迷ったのだが、最終的に味より値段を取って、あっちの店で飲まなくて本当に良かったと思えた。もしも今夜財布の紐を少し緩めて隣の店を選んでいたならば、土方と一緒の空間で飲まなければいけなかったという訳だ。それはあまりにも気まずい。気まずいに決まっている。この前、あんなことがあったばかりなのだから。


「あ、えっと…あ〜、そっちは…仕事終わりに飲んでた訳ね。」


またもや偶然会ってしまった訳であるが、あの日のことはほじくり返す必要はない。うやむやにしなければならないのだ。だから、適当に話をして、そしてそのまま逃げ出そう。銀時はそう決めた。絶対にそうしなければならないと脳内の自分が喚いていた。


「副長さんは俺なんかと違っていつも夜遅くまで頑張って大変だねー。お疲れさん。」


銀時の前に立つ土方は彼が非番の時によく着ている着流しではなく、真選組の隊服を纏っていた。部下をまとめる副長にもなると、銀時の知らないような仕事をたくさん抱えて遅くまで動き回っていたとしても何ら不思議ではない。だが、何故かこうもお互いの行動範囲が被ってしまうことは不思議でならなかった。けれどもその理由を今確かめたいとは思わないし、何よりもこれ以上ここに留まるつもりはなかった。うやむやにしたいと思うけれど、あの日路地裏で口付けられたことを忘れた訳ではなかったからだ。


「ってことで、じゃ、俺はそろそろ…」

「待て。」

「ひ、ひじかたくん…?」


土方の脇を急いで通り過ぎようとして、覚えのある感覚に銀時の肩が跳ねた。右手首に自分とは異なる熱を感じた瞬間、土方に強く手を引かれているのだと理解した。あの日の記憶が嫌でも蘇る。


「土方っ、離せ…!」


この状況から逃れようと自由な方の手で土方の指を引き剥がそうとしてみたが、びくともしなかった。どうしようと気持ちばかりが焦る。そんな銀時の様子などきっと分かっているはずなのに、土方は早足で進んでいく。そして銀時が先ほどまで1人で飲んでいた居酒屋の裏側に回り込むと、寂びれた店の壁に銀時を追い詰めた。


「万事屋。」


土方は酔って誰かと間違えてこんなことをしているのではない。混乱する頭の中でそれだけは理解できた。こうもはっきりと名前を呼ばれて。逸らすことを許さないと見つめてくる瞳は真剣そのもので。だから、今夜もどうしていいのか分からなかった。整った顔がゆっくりと近付いて来るのを黙って見つめ返すことしかできなかった。


「ふ…ぁ…」


酒と煙草の味が口の中に広がる。どちらも少しも甘くはないのに、何故か大好きな糖分を口にする時のように心が震えた。土方が銀時の顔のすぐ横に左手をつき、もう片方の手を腰に回してさらに深く求めてくる。生理的に浮かぶ涙で次第に視界がぼやけ、目の前に広がる端正な顔が滲んで焦点が合わなかった。


「…ひじ…ん…」


土方との濃厚なキスで上手く頭が働かなくなっていた。だが、それでもやはりこんなことをされる意味が全く分からなかった。だから、このまま流されてしまわない為にも今すぐこの男を殴ろうと思った。銀時はかろうじて自由になる右手を持ち上げると、拳を作ってそのまま前に突き出した。


「…ってぇ…てめ、いきなり、何しやがる…」

「何しやがる…?それは、こっちの台詞だバカヤロー!」


まだ上手く呼吸も整わず、涙目の状態のままだったが、銀時は何とかそれだけ叫ぶと鳩尾辺りを押さえて低い声で呻く土方を見ることもなく、踵を返して駆け出した。何でこんなことをするのか。からかっているのか。ふざけているのか。冗談にも程がある。


「…んだよ、こんなの、まったくもって冗談じゃねーよ。」


月明かりに照らされる暗い夜道をひたすら走る。浅い呼吸を繰り返しながら銀時は右手の甲で唇を拭った。だがそれでも甘く痺れたような感覚がまだそこに残っているような気がした。



*****
「キスってさ、普通どんな時にするもんだと思う?」

「は?」

「あ、言っとくけど、この魚の方じゃないからね、新八君。」


銀時が食卓の真ん中に並んでいるきすのからあげを行儀悪く箸で指し示した。依頼のお礼として現金とは別に貰った物で、それを今日、銀時が夕食のおかずに料理した訳だった。


「ちゅーだよ、 ちゅー。口と口くっつけるやつ。」

「ちょ、銀さん…!」


豆腐とわかめの味噌汁のお椀を取り落しそうになった新八が、いきなり何をという顔で銀時を凝視した。


「おめーらだってキスの1つや2つとっくに済ませてんだろ?何赤くなってんだよ、ぱっつぁん。」

「あの、僕は…」

「そうネ。今のドラマなんかもキスなんてそんなの当たり前アル。新八、その反応は自分の恋愛経験を暴露してるようなもんアル。これだから眼鏡は困るネ。」

「神楽ちゃん!」

「あ、確かにお前はそういうのとは無縁だったわ。」

「銀ちゃんの言う通りアル。新八の場合眼鏡と書いて童貞と読むの忘れたアルか?」


白米を食べることに集中していた神楽が途中から会話に混ざり、隣に座る新八を小馬鹿にするようににやりと笑った。


「神楽は話が分かるな。」

「もっと褒めるヨロシ。」

「ちょっと、2人共、僕をからかうのは……だから、銀さん、その……キス、の話ですけど、それって…仕事か何かと関係あったりするんですか?浮気調査、とか…」

「あ?えーと…」


銀時は自分から訊いておきながら、口を開いた当初の目的を忘れそうになっていたことに気付いた。だがそれを目の前の子供達に問うにあたって、ある程度の嘘が必要だった。


「そうそう、仕事だよ、仕事!ちょーっと大人な仕事が入っちまってよ。今回は銀さんが担当するけど、お前らもここの社員なんだし、一応訊いとくか、みたいな。あ、それに別にそんな真剣になんなくていいからね。」


言っておくが、普段こんなことを彼らに訊くことなどない。だからこれは精神的に相当参っているということになるのだろう。だがこうでもしないと、銀時は土方のことでぐるぐる悩んで爆発しそうだったのだ。とりあえずお茶を飲みながら2人の答えを待っていると、味噌汁を豪快に飲み終えた神楽が先に言葉を発した。


「銀ちゃん、質問の答えは簡単ネ。キスは好きな人とするものアル。昔、マミーが言ってたヨ。」

「そうですよ。僕も…そう思います。神楽ちゃんと同じです。」

「好きな人と、ね…」


頷く2人に銀時は今までの土方との口付けを思い出した。それはいつも強引で、一方的だった。甘い言葉などありはしない。いや、勿論そんな物があってはいけないのだが。とにかく土方とのそれには甘さなど微塵もないのだ。だから。


「ないないないない。それはないから。好きとかないから。絶対違う。」

「何でそんなに否定するアル。好きな人するのがキスじゃないアルか?じゃあ、何の為にちゅーするネ?」

「俺に言われてもな、そんなの分かんねーよ。こっちだって何が何だか…ああもう!この話はやめだやめ!飯食え、飯。」

「爛れた恋愛しかしたことないの丸わかりアルな、銀ちゃん。」

「はは…神楽ちゃん、そんな風に言ったら銀さんが可哀想だよ。」


勝手に話を終わらせた銀時を放って、新八と神楽は食事を再開し始める。銀時はそんな2人に一応謝る素振りを見せた後、視線を外して小さく呟いた。


「好き、か…」


そんな訳ない。そんなはずが、ない。それなのに、思い出すのは今もあの男のことばかりだった。



*****
「万事屋。」

「土方…」


何度も繰り返されたことなのに、結局また避けることができなかった。それは、どうしてなのだろう。


「土方、手ェ離せよ…!」


足早に近付いて来た土方が銀時の腕を強く掴む。またしてもこんな状況に陥っているというのに、この感触と体温にすっかり慣れてしまった自分に笑いそうになった。けれどもそれでいいはずがない。


「…どこ行く気だよ?また路地裏にでも引っ張り込むつもりなのかよ。」

「屯所だ。午前中の仕事が終わったから、そのまま書類仕事するつもりだったが、少し後にすりゃいい。」

「は?屯所!?ちょっと待て今すぐ離しやがれ!俺ァやだかんな!お前んとことかぜってー無理…!」


大通りで偶然出会った相手を捕まえて有無を言わせずにこれから屯所に連れ込むというのか、この男は。今回ばかりは何が何でも抗議してやろうと銀時は土方を見た。腕を引くその横顔はいつもよりずっと真剣で。だからこんな状況だというのに堪らず目を奪われてしまいそうになった。


「土、方。」

「……」

「なぁ、土方…!屯所までこのままとかほんと無理だから!お前、屯所まで何分あると思ってんだよ!」

「……」

「離せっつってんだろうが!」

「……」

「土方!」


不意に土方が立ち止まる。目の前の黒い背中にぶつかりそうになって文句を言おうとしたら、銀時の手首を握り締めたまま、土方がゆっくりと振り返った。


「そしたら、てめーは逃げんだろうが。」

「……」

「そうだろ?」


目の前の男が何だか泣きそうな顔をしているように見えた。手を離したらお前は逃げる。そう言われて思わず自身の右手首に視線を落とした。


「逃げたり、しねーよ。」

「万事屋。」

「逃げたり、しねーから。」


そっと手が離れていっても銀時は発した言葉通りにそのまま土方の後ろを歩いた。逃げることなど簡単だ。だが、そうしなかった。土方の声が必死だったからか、それとも既に彼に囚われてしまったのか。もしかしたら、その両方なのかもしれなかった。






土方は人払いをしてから静かに部屋の障子を閉めた。真選組の屯所には何度か訪れたことはあるが、土方の部屋に入ったことは一度もなかった。思ったほど広くは感じない室内に土方と向き合うようにして立っていると、互いの微かな息遣いが耳に届いてどうしても変に緊張してしまう。自分からついて来てしまうなんて何をやっているのだろうと思うのに、この状況をどうすることもできなかった。


「あのさ、一応逃げずに来てやったんですけど…」


銀時はあれから何度か土方に唇を奪われていた。昼間、街で会う度に。夜、暗い道で会う度に。抵抗するべきだったのに結局いつもその熱を受け入れてしまっていた。そうして土方と唇を重ねる度に、銀時の心の中は否応なしに土方という存在に塗り潰されていったのだ。土方が銀時をじっと見つめる。土方に見つめられると、どうすればいいのか分からなくなって視線を外したくなる。こんな気持ちは初めてだった。


「こっち見ろ。」

「土方…」

「万事屋、てめーは俺だけ見てりゃあ、それでいい。」

「えーと、あの、なんか…今のそれって、口説き文句のように聞こえたっつーか…いや、そんな訳、ないよね…」

「口説いてるに決まってんだろうが 。」

「え…?何?…土方…俺のこと、好き、なの?」


絶対にないと思っていた2文字の言葉。その言葉に動揺を隠せないでいると、呆れたような困ったような吐息が聞こえた。


「お前なぁ…何言ってやがる!あんだけキスしてりゃ普通気付くだろうが!お前、糖分の摂りすぎで頭悪くなっちまってんじゃねーのか?……いや、最初から馬鹿だったな。そうだった。」

「なっ、銀さん、お前よりは馬鹿じゃねーし!」

「いや、馬鹿だろ。だから、キスして教えてやってたつもりだったんだが。」

「はあ?……あのな、考えてみ?いきなり、その…キスされっから、てっきり性質の悪ぃ嫌がらせかなんかかと、俺ァずっとそう思ってたんだよ。じゃなけりゃ、俺の中で説明、つけらんなかったし。」

「嫌がらせで野郎にキスなんざする訳ねーだろ。万事屋、お前、だからだ。」


その瞳と同様に真っすぐに向けられる言葉にじわりと頬が熱くなる。こっちを見ないで欲しいのに群青の瞳からはやはりどうしても逃れられなかった。


「土方…」


お前だからだと告げられたその言葉に嘘偽りはないのだろう。土方の瞳を見ていたら、ああそうなのかと簡単に納得できてしまった。


「万事屋、お前の顔を見たら、どうしても我慢できなくなっちまったんだよ。お前が好きでどうしようもねェから…だから俺のやりたいようにした。これからもそうするつもりだけどな。」

「何その横暴俺様発言!お前、幕府の狗って言われたりしてんだろ?だったら待てくらいしろっつーの!人の気持ちとか考えたことある?いや、ないよね。…んだよ、強引過ぎだろ。」

「無理なもんは無理だ。お前に惚れてんだよ。」

「好きな奴を前にしたら…ってのは、百歩譲って、まぁ…理解できなくも、ねーけど…」

「万事屋。」

「何だよ…」

「お前だけなんだ、俺が欲しいのは。」


お互いの睫毛が触れるほどの至近距離で見つめられて射殺されてしまうかと思った。ぞくりと肌が粟立つ感覚がする。だがそれは恐怖からではなく、この男が放つ雄の色気を感じ取ったからだ。くらくらと眩暈がしそうだった。土方が自身の首元に手を伸ばして喉元の白いスカーフを緩める。悔しいくらいにその姿に見惚れていると、顎を掴まれて噛み付くようなキスをされた。


「ん、ぁ…」


馬鹿みたいに甘い自分の声に情けなくなりそうだったが、もうどうでも良かった。いつの間にか、土方から与えられる口付けを自分から求めていたのかもしれない。


「俺が好きか、万事屋……いや、銀時。」


耳元で囁かれて、心がざわめいた。自分も、欲しいと思ってしまった。目の前の男のことを。この男の全部を。


「そういうの、卑怯だ…」


好きなのかもしれない。だって、頭の中で考えるのはこの男のことばかりなのだから。だから、きっと。


「もしそうなら、お前からしてくれ。」

「は?」

「キスだよ。俺がしたのと同じやつな。」

「なっ、何ぬかしてんの、お前…」

「あの夜、思いきり殴られたからな。仕返しだってしたくなるもんだ。」


喉の奥を鳴らしながら意地の悪い笑みで土方が銀時を見る。お前の想いが込められたそれが欲しい。真っすぐな瞳が、ただそう告げていた。


「…くそっ、」


もうここまで来たら後戻りなどできなかった。逃げようと思えば、土方が手を離したあの瞬間に背を向けて駆け出すことができていたはずだからだ。だがそうせずにこの答えを選んだのは、他でもない銀時自身だった。


「……目、瞑りやがれ。」

「分かった。」


土方の瞳がゆっくりと閉じられる。目を瞑ったまま口の端を上げる男を見ていると羞恥心が込み上げてどうしようもなくなる。だが、もう止められなかった。引き寄せられて搦め捕られてしまったのだから。


「……ん、」


土方の唇に己のそれを重ねる。深い青色の瞳が嬉しそう細められる様をうるさい心臓の音と共に見ていると、後頭部に静かに手が添えられた。今までとは違う安堵感のような気持ちに任せるままに目を閉じて、銀時は自分からそっと舌を絡めた。以前は強引で性急な口付けだったくせに優しさの伴ったそれは酷く恥ずかしくて、それでも確かに心の奥の方が温かくなった。


「上出来じゃねーか。」


唇を離した土方が艶っぽく笑って、くしゃりと髪をかき回してくる。ああ、その顔も卑怯だ。


「……やっちまった。もう死ぬわ。死ぬしかないわ。」

「おまえに死なれちまったら困るから、それだけは勘弁してくれ。」

「……んなの、分かってるよ。」


ぎゅっと抱き締められてしまえば、ただもう頷くしかなくて。これからもこんな風にこの男に振り回されるのだろうか。ならばこちらも振り回してやるまでだ。俺の本気はすげーから覚悟しとけよと小さく笑って、銀時は土方の背中に腕を回した。






END






あとがき
ちょっと強引な土方さんを書こうと思ったらただのキス魔になりました。あれです、きっと禁煙令に我慢できなくなって、銀ちゃんの口を吸いたくなったんだと思います。


キスで蕩ける銀ちゃんも書いてみたくて頑張って入れてみましたが、私にはこれが限界でした。いやもう銀ちゃんがちゅーで喘ぐところ書くだけで恥ずかしかったです…。書くよりも読む方が断然萌える^^


読んで下さってありがとうございました!

[*前へ][次へ#]

98/111ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!