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お付き合いはじめてみます
銀ちゃんに振り回されても頑張る土方さんのお話です




「おい、今、なんつった…?」


ここがどこなのかも忘れて万事屋が突然叫んだ内容がにわかに信じられず、俺はカウンターに突っ伏すようにしてこちらを見上げてくる赤い瞳を見返した。俺が馬鹿みてェに目を見開いて聞き返してきたことが不満だったのか、万事屋は俺を見据えたままむうと唇を尖らせた。


「だーかーらー!誰か俺と付き合ってくんねーかな、ってそう言ったの。」

「……」

「ひとりはやっぱ寂しいんだよー。心が凍えてんの、軽く氷河期迎えてんの。俺だってね、もう三十路間近なんですよ?」

「……んなの、知ってる。」

「とにかくさー、誰でもいいから俺と付き合って欲しいの。誰でもいいから付き合いたい!」


ああ、この野郎、酷く酔ってやがる。だからそんなことが言えんだと思った。俺の気持ちなんざ全く気付いてないくせに平気でそんなこと言うのか。それでもこの想いを伝える訳にもいかず、飲みかけの冷酒を見つめたまま黙っていると、万事屋はだるそうに上半身を起こし、耳まで赤くなった顔でじっと俺を見た。


「何だよ…」

「……そういうや、土方くんってさ、男前だし高給取りだし、意外と優しいとこあるし男前だし…考えてみたら付き合う相手としちゃあ超高級物件じゃん!灯台もと暗したぁ、このことじゃねーの?土方くん、俺と付き合っちゃう?なぁなぁ、どうよ?」

「俺とお前が…」

「そうだよー。俺とお前で付き合うの!」


万事屋は空になったジョッキの縁を指でなぞりながら、いい考えじゃんと笑った。周りの誰にも、ましてや今目の前でへらへらしている本人にも伝えたことなどないが、俺はこの男に惚れている。自分でもどうすることもできねェくらいに。だから、万事屋からの提案は俺にとっちゃ願ってもないことだった。すげー魅力的な申し出だった。こいつが酔っているだとか、偶然居酒屋で相席した相手だからなのかとか、同性同士ってことを気にしないのかとか、そんなことはもう関係ないし、どうでも良かった。とにかくこいつと付き合えるのなら。ならば。自然と喉が鳴った。


「…いいぜ、分かった。その言葉、嘘じゃねぇなら、万事屋、てめーと付き合う。」

「まじでか!」

「ああ。」

「じゃあ、俺と土方くんは今日からお付き合いするってことだからね!」


ふにゃっと笑う万事屋を見ていたら思わず叫び出したい気持ちに駆られそうになった。万年昼行灯でマダオと呼ばれているこいつが可愛く見えてどうすればいいのかと思っているというのに、そんな破壊力のある笑顔を向けられたら。もう落ちるしかないと思う。いや、もうとっくに万事屋に落ちているんだが。


「とりあえずよろしくな、土方くん。」

「ああ。」


それからしばらく万事屋と肩を寄せ合うようにして酒を飲んだ。2人で笑い合って満足するまで飲んで。別れ際に家まで送ってやるからと言ったら、大丈夫だからそんなのいいよと断られちまった。だがその代わりのように、今度会った時は銀時って名前で呼んでよと耳元で囁かれ、頭の芯が沸騰した。あんなに頬が熱くなったのはもう随分と久しぶりの感覚だった。本当に参っちまう。万事屋は最後まで俺に爆弾を落とすことを忘れなかったんだ。


「じゃあな〜、土方。」

「おやすみ。ゆっくり休めよ。」


小さく頷く万事屋がどうしようもなく可愛くて。俺は1人になってから今さらのようにあいつと付き合うことになった実感を噛み締めた。見上げた月が綺麗だな、普段全く気にもしない夜空に浮かぶ丸い月に対してそんなことを思っちまうくらいに高揚した気分のまま、俺は軽い足取りで夜の道を歩いた。



*****
「銀時!」


ふわふわと揺れる銀色を視界に捉えた瞬間、俺は大きな声でその名前を呼んでいた。銀時と会うのはあの夜以来久しぶりのことで、人の波に見え隠れする愛しい姿にどうしようもなく胸が躍った。もっともっと近くに行こうと自然と歩くスピードが速くなる。


「銀時…!」


あの夜に約束した通り、もう一度名前で呼んだら俺に気付いた銀時は軽く目を瞠った。仕事中の俺と偶然出会って驚いちまったかと思っていると、黒光りするあの害虫を部屋の中でうっかり見つけてしまった時の反応と同じように思いっきり嫌な顔をされた。


「あ?なに人のこと勝手に呼び捨てにしてんだ、てめー。何様のつもりなんだよ?」

「え…?」


ああそうか、照れてんだな。今はガキ共連れてるから。くそっ、可愛い奴。俺の声に足を留めた銀時の側には俺から見ればまだ幼いといえる眼鏡とチャイナが立っている。どうやら3人で買い物をしていたらしく、全員が食材が入った袋を両腕に抱えていた。買い物帰りなのに邪魔しちまったかもしれねーが、俺らは今付き合ってんだから少しくらいは時間を割いてもらったっていいと思う。別に悪くねェはずだ。それに呼び捨てにしろって言ったのはてめーの方じゃねーか。


「別に恥ずかしがるこたぁねーよ、銀時。ま、恥じらうお前も可愛いがな。」

「はあ?何で俺がてめーなんかに恥じらうんだよ!あとその呼び捨てやめろ、上からって感じがとにかく腹立つわ!」

「あの、銀さん…土方さん、一体どうしたんですかね?何だかいつもと…その、雰囲気が柔らかいというか…」


眼鏡が訝しむような視線を俺に寄越しつつ、銀時にひそひそ声で話し掛ける。チャイナの方は俺になんざ興味ねぇらしく、俺をちらりと一瞥した後は紙袋の中をごそごそ漁ってお目当ての酢こんぶの箱を取り出し、早速その場で中身を食べ始めた。銀時と眼鏡が揃ってじとりと俺を見る。だから、何でそんな目で俺を見るんだよ。なぁ、銀時、俺とお前、付き合ってるよね?そうだよね?


「どうせ腐ったマヨネーズでもすすりすぎて、頭おかしくなっちまったんじゃねーの?」

「土方さんに限ってそんなことないと思いますけど…」

「おい、銀時。」

「だから!何でおめーはそんなに俺に馴れ馴れしいんだっつーの!俺達、同中出身の仲良しだとかそんな関係でもないよね?俺のこといきなり呼び捨てとか何なの?」

「それは、お前が……なぁ、俺達、付き合ってるだろうが。」

「は?」

「え?」


銀時は目を丸くして口を開いたままぴしりと固まった。その反応で俺はようやく合点がいった。恥ずかしがったり照れたりしてるんじゃねーんだってことに。銀時はあの夜の出来事をすっかり忘れちまっているんだってことに。あの時酷く酔っ払っていやがったから、もしかして記憶が飛んじまったってことか。ああ、なるほど、そういうことか。


「……って、そんなの全然良くねーだろうが!おい、銀時!お前、この前俺と偶然酒の席で一緒になった夜のこと覚えてるか?覚えてるよな?覚えてねェなら今すぐ思い出せ!」

「わっ、ちょ、何いきなり…」


胸倉を掴む勢いで銀時に詰め寄ると、銀時は反射的に仰け反って俺から距離を取ろうとする。だが俺はそうはさせるかとさらに距離を詰めた。顔が近い、顔が近いよ土方くんと狼狽える銀時に構わず目の前の肩をぎゅっと掴むと、何だそういうことですかとどこか冷めた声が背後から聞こえた。


「銀さん、そういうことなら僕ら先に帰りますんで。」

「え…?新八!?」

「銀ちゃんの荷物は私が持って帰ってあげるネ。そういうことなら今夜は帰って来ないに決まってるアル。」

「ちょ、神楽ちゃん…?」

「銀さん、騒ぐと恥ずかしいんで、ほどほどにして下さいよ。」

「おい、おめーら!ちょっと待って!この状態で俺を置いて行くなああああ!」

「土方さんもですよ。銀さんと仲良くするのはいいですけど、ここ外ですからね。」

「あ、ああ。悪ぃ。」


言われるままに頷いた俺に眼鏡は分かってるならいいですよと言った。そして俺ががっしり肩を掴んでいるせいで動けないでいる銀時の腕から器用に紙袋を奪い取ったチャイナを連れて、万事屋へと続く道を歩いて行った。


「ちょ、もう!いい加減離しやがれ!」


銀時が声を荒げる。俺は我に返って掴んでいた両肩から手を離した。銀時を怒らせるのは本意じゃねーし、さっき眼鏡に言われた言葉を思い出して心を落ち着けようと小さく息を吐いた。


「全っ然話が見えないんですけど!一体何がどうなりゃ俺とお前が付き合うことになんの?」


銀時が胡乱な瞳で俺を見つめる。本当に覚えてないんだなと諦めに似た気持ちを感じながら、事情を説明してやると前置きをしてあの夜のことを話した。


「――とまぁ、そういうことだ。男なら一度交わした約束は守りやがれ。」

「そう言われてもよ、俺酔ってたんだし…全然覚えてねーもん!」

「もん、じゃねーよ。」


ああくそ、可愛いんだよ。唇尖らせやがって、何だこのくそ可愛い生き物は。って違う違ういや違わねーけど、そうじゃなくて、あー、一旦落ち着け俺、話が逸れちまう。


「お前とお付き合いとか、そんな約束、俺ァ知らねーし。」

「知らねーし、じゃねェんだよ。俺とお前は現在進行形で、付き合ってんだよ。」

「…何でそんなに俺と付き合いたいんだよ?俺、立派な野郎ですけど。」

「……」


思わず言葉に詰まった。銀時の言葉はもっともだ。正論だ。俺もお前も男だとか、そんなのよく分かってる。本来交わるような関係にないことなんざ俺自身が一番分かってんだ。でもな、そういうことを抜きにしていつの間にかお前のことを好きになっちまったんだ。お前の生き方に惚れちまったんだよ、俺ァ。


「とにかく俺とお前は付き合ってるんだ。いいな?」

「だから何でそうなるの…」

「お前は俺の恋人だ。…そういう訳だから。」

「ちょっと待てよ、恋人、って…」

「悪ぃが俺ァそろそろ仕事に戻る。じゃあな、銀時。」


今日はもうこれくらいで引いた方がいい。俺はそう判断した。これ以上銀時に問い詰めたとしても結果は変わらないように思えたからだ。俺は混乱している銀時に別れを告げると大通りの道を歩き出した。背中にひしひしと視線を感じたが、俺は振り返らなかった。


「忘れちまったってんなら、もう一度付き合いたい、そう思わせりゃいいじゃねーか。」





俺は本気だってことをお前に教えてやる。そんな決意を胸に秘めて、俺はあれから時間を作って仕事終わりに頻繁に銀時に会いに行った。ついでに当直明けの時も屯所に戻る前に万事屋の戸を叩いた。一度眠ったらそう簡単にチャイナは起きねェらしいから、総悟でも連れてなきゃ俺が少しの時間、銀時に会いに行くのに問題はない。俺には別に問題はないが向こうにはあり過ぎるほどにあるらしく、何でこう夜遅くとか朝早くにいちいちここに来んだよ、お前わんこのくせに真っすぐ帰れねーのと会う度にしかめっ面をされた。だからこの前の飲み屋で付き合うようになっただろうが、だから恋人に会いに来るのは当然だろうがと何度説明しても、知らねー覚えてねーよの一点張りだった。


俺は好きになった奴には優しくしてやりたいと思っている。だからどんなにすげなくされようが諦めることなくお前が好きだと繰り返し告げた。真剣な瞳で、声で。銀時は俺がそういうことを平気で言える奴だとは思っちゃいなかったのか、俺が想いを伝えるといつも言葉を詰まらせてそれから勢い良く視線を逸らした。そんな銀時を思い出すだけで可愛すぎて変な顔になっちまうのはもう仕方ねェよな。


『照れてんのか?』

『…そんな訳あるか!どんだけ都合のいい解釈してんだよ。お前の頭が残念過ぎて目合わせたくねーんだよ!』

『お前な、俺はいつだって真剣なんだからな。』


言っとくが俺だって普段から好きだの惚れてるだの簡単に口になんざしねーよ。近藤さんじゃあるめーし。お前だからなんだ。だから少しは俺の言葉がその心に響いてくれるといい。ただそれだけを願いながら、俺は人気洋菓子店の手土産を片手に今日も通い慣れたかぶき町の道を歩くのだった。



*****
「ねぇねぇ土方くんってさー、何なの?馬鹿なの?死ぬの?」

「俺は馬鹿じゃねーし、お前と色々なことできねェで死ねるか。」

「あ、そう。お、やっぱここのパフェはうめーわ。新作もはずれてないじゃん。」


客で賑わいを見せる昼下がりのでにいすで、俺の向かいの席に座る銀時は顔を綻ばせて初夏の新作だとかいうさくらんぼのパフェを頬張っている。会話には参加してくれるが、さっきからずっと適当な相槌ばかりだし、そもそも俺を見ようとはしない。だが俺の方からは幸せそうな表情でパフェを食う銀時を思う存分堪能できるから絶対に俺の方が何倍も幸せな気分だった。ああくそっ、背中に花なんざ飛ばしやがって。糖分の妖精か、お前は。


「はあ?花とか飛ばしてねーし俺のどこが妖精に見えんだよ。おいおい、頭大丈夫ですかー?」


やべっ、心の声がだだ漏れになっていたらしい。俺は誤魔化すように何度か咳払いをしたが、淡い色のアイスを食おうとしていた銀時にすごい目で見られてしまった。


「顔のいい奴ってさ、何で反比例するように中身がそんな気持ち悪ぃの?」

「気持ち悪い言うな。」


今のは地味に傷付いた。だから俺は心を落ち着けようと隊服の上着の内ポケットから煙草の箱を取り出そうとして、はたと我に返り、その手を止めた。一応喫煙可能なテーブル席に座っちゃいるが、今は俺1人じゃねーんだ。甘い物に目がないこいつは煙草の煙は嫌いなはずだ。外に出て吸って来るかと立ち上がろうとしたら、どこ行くんだよと腕を引っ張られた。すぐにぱっと手は離されたが、まさかの展開に動揺しちまって動けないでいると、銀時が上目遣いで俺を見た。


「吸えば?」

「え?」

「別に気にしねーよ。」

「でもお前、煙草の煙は…」

「あ?好きじゃねーけど、お前のはもう慣れちまったっつーか…」

「銀時…」


嬉しさに思わず口元が緩んでしまった。そんな状態で銀時と目が合っちまったもんだから、何勘違いしてんだよと盛大に舌打ちされた。それでも銀時は怒っているようには見えなかった。


「いいから大人しく座って吸ってろ。あといつも言ってっけど、勝手に呼び捨てにすんな。それとまだあと最低3つはケーキ食うから全部お前持ちな。」

「分かってる。好きなの食っていいから。」

「何でおめーの方が嬉しそうな顔してんだよ、このマヨラー。」


銀時は憮然とした表情でスプーンを口に運んだ後、やっぱこれ美味いなと小さく呟いてパフェグラスの中のさくらんぼをつついた。甘味にばかり夢中で相変わらず俺の方を見ることはなかった。それでも俺はこいつとの距離が少しだけだが縮まったような気がして堪らなかった。



*****
無理矢理誘ったファミレスデートの時に銀時がほんの少しだが素直になってくれた。だから、どうやら俺は調子に乗っていたらしい。今日も優しくしてはくれないだろうかと浮かれ気分のまま休憩時間を利用して訪れた万事屋の玄関の呼び鈴を鳴らしたら、出迎えてくれた銀時の容赦のない回し蹴りが待っていた。


「…っと、いい加減にしろよ、土方おめー!俺の前をうろちょろしやがって…今日も来るとかねェから!新八達が買い物行ってるからまだ良かったけどな、もしあいつらが居たら回し蹴りしてたからな!分かってんのか!」

「いや、もう…すごいのお見舞いされちまったんだが…」


蹴られた腰の部分が鈍い悲鳴を上げている。予想以上の痛みだ。嫁が旦那より強いのも考えもんだよなと一瞬思ってしまうほどだった。俺が蹴りを喰らっても動こうとしないのを見て銀時は俺の前に移動すると、とにかく帰れ今すぐ帰れと喚き出した。だが、俺は拒否する銀時を押し切って居間に上がり込んだ。


「ちょ、勝手に入って来んなって!お前と付き合うとか、そんなのありえねーから!だからもう帰れ!」


それでも俺は一歩も引かなかった。こいつに対する想いは本気だったからだ。このままじゃ埒が明かないと思ったのか、銀時は喚くのをやめて代わりに大きく溜め息を吐いた。


「…ったく、お前も強情な奴だな、土方。」


淡い緋色と視線が絡む。先ほどまで俺の来訪に眉を顰めてげんなりしていた銀時の口元に歪な笑みが浮かんだ。


「……だったら、土下座してみろよ、土下座。」


銀時が馬鹿にしたような瞳で俺を見た。そして一歩近付いてもう一度同じ言葉を口にした。


「土下座してくれるっていうなら、銀さん、土方くんとお付き合いしてあげてもいいですけど?」


ま、プライドの高い副長さんにはそんなの絶対無理な話ですけどねー。銀時がせせら笑ったが、俺は悔しくなどなかった。土下座か。土下座ぐらいでこいつが手に入るならば。普段ならそう簡単に頭なんざ下げねェとこだが銀時の為なら俺は何でもできんだ。こいつとの恋愛におけるプライドなんざその辺に捨てられんだよ。こいつのことにはそれだけ本気なんだ、俺ァ。


「土下座でいいんだな?」


俺は黙って床に両膝をついた。そのまま両手を床に伸ばそうとしたら、何やってんだよ、やめろよと慌てた声が降って来た。どこか必死なその声に促されて立ち上がると、銀時は酷く複雑な表情をしていた。


「……お前、そんなに俺のこと、好きなの…?」

「愚問だな。」

「本気ってことだよな…?」

「ああ、本気だ。どうしようもなくてめーに惚れてる。」


銀時が小さく息を飲んだのが分かった。俺を見つめる赤い瞳がゆらゆらと揺れた。


「……こんなおっさんのどこがいいんだか。」

「全部だ。」

「なっ…」

「なんならお前の好きなところ、1つずつ説明してやろうか?そうしたら信じてくれるか?」

「そ、そんなのいいから!ぜってーやめろ!」

「それくらい、好きなんだよ。」

「……そういう顔、やめろよ。」


そういう顔ってどういう顔だと思っていると、あーもう降参だわと銀時が小さく呟いてがしがし頭を掻いた。


「…俺は臆病者だから、一度捕まえたらもう離してなんかやんねーよ?それでも…いいっての?」


呟かれた声は震えているようだった。求めるように零れ落ちた声。俺は一歩銀時に近付いた。


「お前に捕まるなら本望だ。」

「おいおい、犯罪者捕まえるおまわりさんが何言ってんだか…いや、俺の方が何言っちゃってんのって話だな。」

「俺は、お前が隣で笑ってくれるだけでいいんだよ。」

「土…方。」


照れた顔。当たり前なんだが、銀時の照れた顔なんざ初めて見た。なんつー可愛い顔しやがんだ。こっちまで照れるだろうが。ああ駄目だ、誰にも見せたくねェし、誰にも渡してやらねェよ。


「銀時。」

「あー…その、なんだ、よろしく…お願いします…?」

「何で疑問系なんだよ。あと何で急にそんな殊勝な態度なんだ?さっきまで回し蹴りとか土下座しろとか、すげーSだっただろうが。」

「だ、だってよ!面と向かってこういうのって、こっぱずかしいだろうが!酔ってる訳でもねーんだし…殊勝にもなるわ!察しろよ、ばか土方。」


頬を朱に染めて照れたその顔はものすげー破壊力を持っていやがって。ああそうか、酒の席で見せてくれたあの姿が本当の銀時なんだよなと思ったら、愛しくて堪らない気持ちになった。


「お、おう。……悪ぃ。」

「これだから顔のいい馬鹿は困んだよ。銀さんと付き合うなら、そういうとこ直せよ。」

「おう。」


分かればよろしいと頷く銀時は赤い顔のままだった。ああ、くそっ、だから何でそんなに可愛いのか。理由を30文字以内で教えてくれ。頭の片隅でそんな馬鹿なことを思いながら、俺は目の前の愛しい奴にそっと手を伸ばした。






END






あとがき
銀ちゃんに誰でもいいから付き合いたい、馬鹿なの?死ぬの?、土下座しろよという台詞を土方さんに向けて言ってもらいたくて書きました。あとは銀ちゃんに振り向いて欲しくて頑張る土方さんも書きたくて^^


銀ちゃんが土方さんをあしらって冷たかったのは、本当に俺なんか好きになって付き合っていいのかよという不安の裏返しです。そんな銀ちゃん可愛すぎです!


お酒を飲んで酔っ払った時の方が銀ちゃんって心の深層の部分が出やすいかなと思うと、最初から土方さんのことを受け入れていた訳で、やっぱり可愛いなと^^ちゃんとお付き合い始めたら2人でいちゃいちゃしてるといいなーと思います。


読んで頂きましてありがとうございました!

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