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隠し味に愛を少々。
神楽ちゃんと喧嘩した銀ちゃんが土方さんのお部屋に泊めてもらっています

恋人未満な2人です




「チャイナと喧嘩して家を追い出されただァ!? 」


どこか少し切羽詰まったような顔をして、今この瞬間土方の目の前に座り込んでいる人物は夜更けの突然の来訪の理由をそう告げた。


「そ!そうなの!だから、今晩ここに泊めて土方くん!お願い!」

「あのなぁ、それで何で俺んとこなんだよ。眼鏡はどうした、眼鏡は。てめーんとこの唯一頼れる従業員だろうが。」


土方が目を眇めて指摘すると、来訪者である万事屋の主、坂田銀時はうっと言葉を詰まらせ、それからそっと視線を逸らした。


「新八ん家は、今日はお妙も一緒らしいから…おつまみとか言って暗黒物質出されたりなんかしたら…さすがにそれはちょっとどころか、かなり身の危険的なものが…」


青ざめながら銀時はそれは無理だと首を振った。


「別に他にも行くあてならあんだろ?」

「…酒飲みながら夜明かそうにも全然金足んねーし、ホテルは絶対無理だし。」

「だからって、何で俺の部屋に来るんだよ、てめーは。」

「いいじゃん!市民が困ってんなら助けるのがおまわりさんの仕事だよ!ほら、善良な市民が泣いてるよー!」


両手で顔を覆ってめそめそ嘘泣きを始めた銀時を見やって、土方は大きな溜め息を吐いた。


「……仕方ねェな。」

「土方くん!」

「分かった。泊めてやる。」


ここに来る理由が分からないと断る態度は見せたのだが、何となく気になって仕方がない相手からの申し出であったので、結局は断ることなどできなかったのだ。(それに、山崎が勝手に渡したらしい来客用の白い薄物の着流しをこれまた勝手に着てこの部屋に入って来ていたので、今さらもう追い出す訳にはいかなかった。)屯所の中なんだから部外者は大人しくしてろよと続けて釘を刺すと、銀時は黙って大きく頷いた。


「で、そもそもの喧嘩の原因は何だ?お前、何やらかしてここに逃げて来ることになったんだ?」

「あ、それね、うん…」


今晩の寝床を無事確保できた安心感と喧嘩の原因を話さなければならない気恥ずかしさのようなもの、その両方が銀時の顔に浮かんだ。


「ここに泊まるなら、喧嘩の原因くらい話してもらわないとな。」

「…分かった。えっと……実はさ、神楽と一緒に飯作る約束してて。」

「飯を作る、約束…?」

「それが原因なんだよね。」


甘い物の取り合いかなんかで向こうが遂に限界点突破したか、自堕落な生活ばかりしている社長にいい加減腹が立って抑えられなくなったのか、どうせそんなところだろうと考えていたので、全く想像していなかった単語が銀時の口から飛び出したことに土方は瞬きをした。だが、銀時はそんな土方に構うことなく、ゆっくりと話を続けた。


「つってもあいつから一方的だったんだけど。で、多分お前も分かると思うんだけどね、あの怪力だし、台所が色々大変なことになるのは目に見えてんじゃん?それにあーだこーだお互い文句言いながら作るのもめんどくせーし。だからやっぱなしっつったらさ、あいつ、すっげー怒って…んで、反論したら問答無用で襟掴まれてそのまま玄関から放り出されたっつう訳です。」


話している内にその時の状況をはっきり思い出したのだろう、銀時はしかめっ面になって頭を掻いた。


「飯一緒に作る作らねぇで喧嘩すんだな、お前ら。」

「…神楽の友達、寺子屋に通ってる奴らが多くて、何かこの前授業参観っぽいのがあってね、そこで家族と飯作るみたいなのが…」

「ああ、なるほどな。つまり話を聞かされて羨ましかったんじゃねーのか。で、お前と一緒に作りたくなったと。」

「うん…」

「なのにお前が乗り気じゃねぇから拗ねちまったのか。」


天真爛漫なあの娘が顔を真っ赤にして怒る姿を土方は脳内で想像してみた。何だかまるで母と幼い子の可愛らしい喧嘩のようだと思ってしまった。あの少女にとって銀時は父のようでもあり、母のようでもあるのだろう。大切なもう1人の家族。そんなかけがえのない存在に無碍に扱われて酷く傷付いた訳だ。


「ま、そりゃお前が悪いな。」


からかうように言ってみたら、くそっ、てめー神楽の味方かよ、と泣きそうな声が返って来た。


「だって俺、そんなん知らなかったもん!さすがの万事屋も詳しい寺子屋情報なんて持ってないからねー!……銀ちゃんなんか大っ嫌いって、言われちまって…俺……」


銀時の声は段々と尻すぼみになっていき、最後の方は掻き消えそうなほどに小さくなった。当たり前といえるのだが、この男も夜兎の少女のことを自分の家族のように大切に思っているのだ。


「明日、帰ったらちゃんと謝っとけよ。そうすりゃさすがに許してくれるだろ。」


銀時の肩がぴくりと揺れる。そして、んなの、わーってるよ、と俯き加減でぶっきらぼうな声がした。この銀色の男の調子がいつもと違う姿が何だかおかしくて、土方はばれてしまわないようにこっそり忍び笑いをした。


「でも、今日は帰りたくないから、ここで寝るの決定だからね。俺帰んないから。」

「分かってるよ。もう好きにしろ。」


あ、そういえばまだこいつの布団を用意していなかった。すっかり寛いでいる銀時を見てそのことに気付いた土方は山崎に頼んで布団運ばせるからなと声を掛けた。だが、銀時は別にいいからいいからと右手を左右に振った。


「お前の布団に入れて。」

「はあああ!?」

「いいじゃ〜ん、土方くん。2人で寝るとあったかいよ。」

「な、何言ってんだ、お前…」


何馬鹿なことを言い出すのか。土方は動揺した。確かに今はまだ朝晩が寒い季節なので、冷えているよりも温かい布団の方がいいに決まっている。でも、だからといって目の前の男の提案をすんなり受け入れる訳にはいかない。土方は何となく銀時のことが気になっているのだ。街中で見掛ける度に目で追ってしまうこともしばしばある。そんな相手と一緒に寝るなんて、どう考えても避けるべきではないか。内心焦りまくっている土方の隣で全ての原因である男はへらりと笑っている。先ほどからかったから、その反撃でからかい返してきたのだろうか。そう思ったのとほぼ同時に腕を引っ張られ、いつの間にやら薄暗くなった部屋の中、2人一緒に背後の布団に倒れ込んでしまった。


「電気も消したし、ってことで、はい、一緒に寝ようぜ、土方くん。」

「くそっ…」


銀時が楽しそうに掛け布団を被せてくる。こうなってしまってはもうなるようにしかならない。どうにでもなれだ。土方は二度目の溜め息を吐くと、銀時を追い出さない代わりに身体を動かして彼に背を向けた。後ろを気にしないようにしなければならない。それでもすぐ近くに銀時の気配がある。この男の気配をここまで近くに感じたのはもしかしたら初めてかもしれなかった。堪らず土方は口を開いた。


「…万事屋。」

「……」

「おい、万事屋。」

「……」


呼び掛けてみても銀時からは反応がない。まさか本当に寝てしまったのだろうか。もう一度声を掛けようとして、土方の背中に柔らかな温もりが触れた。背中にこつんと触れてくるそれが銀時の額だと理解するのに時間はかからなかった。


「お前…」

「俺はもう寝てるから返事しません。」

「…万事屋、てめー…!」


寝てねーだろうが、それ。完全に起きてるだろ。何嘘吐いてやがる。背中に温かさを感じながら、土方は心の内で文句を言った。そうでもしないとこの狭い空間の中で変な気分になってしまいそうだった。


「だから、今から俺が言うことは全部寝言だから。」

「え…?」 

「……土方、あんがとな。話聞いてくれたり、こんな風に一緒に寝てくれて。」

「…お、おう。」

「……」


もう寝ていると言ったからなのだろう、それっきり銀時から返事はなかった。だが、土方が寝間着代わりに着ている着物の背の部分がそっと引っ張られる感覚があった。無言の返事の代わりに銀時がきゅっと握り締めたに違いない。そんなことをされれば、背を向けていることが酷く惜しい気がした。こいつ、こんなに可愛いところがあったのか。こんなに可愛い奴だったのか。


「万事屋。」

「……」

「なぁ、万事屋。」

「……」


やはり銀時は何も答えない。けれども優しい温もりはこんなにも近くにある。とうとう痺れを切らした土方は首だけをゆっくり動かして後ろを振り返った。


「なっ…」


月の光が淡く輝く薄闇の中で銀時はすやすやと眠っていた。黙って見つめてみても、その瞼が持ち上がる様子はない。つまり土方だけが起きている状況だった。


「…んだよ、そんな無防備な顔で早々に寝ちまいやがって…てめーのせいで、こっちは全然寝れねーじゃねぇか…」


手を出したいのに出せない。触ってみたいのに触れない。思わず伸ばしかけた右手が中途半端に宙を彷徨った。このもやもやした気持ちをほんの少しでもどうにかしたくて。だから、仕方なしにとりあえず。土方は伸ばしていた手を静かに下ろすと、月明かりに白く輝く銀色の髪をぎこちなく撫でたのだった。



*****
悪どい笑みと共に生温い視線を向けてくる総悟に目の下にはっきりとできたくまを散々からかわれた日から数日後。書類仕事の息抜きを兼ねて1人で市内を巡回していた土方は、屯所に向かう帰り道で偶然銀時に出会った。


「よっ、副長さん。」

「…ああ、偶然だな。」


土方は数日前のことをまだ若干引きずっていたのだが、その原因を作っている当の相手はといえば全く普段通りの様子だった。


「ここで会えてちょうど良かったわ。屯所行く手間省けたし。ってことで、はい、これ。」


どうぞ、と何の前触れもなく唐突に渡された物は爽やかな若草色の布地に包まれていた。両手に収まるほどの大きさのその包みをまじまじと見つめていると、銀時が土方の顔を覗き込んだ。


「何だこれ、ってツラだな。まぁまぁ、いいから貰いなさいよ。爆発物とかじゃないよー。」

「…んなの当たり前だ。もし本当にそんな物騒なもんだったら、屯所までしょっぴくとこだぞ。」

「分かってるって。冗談通じない奴だよな、お前。ま、いいわ。でさ、もうお昼も随分過ぎちまってるけど、それ、役に立つから。」

「どういうことだ?」

「開けてみてからのお楽しみっつーことで。じゃあね〜。」


銀時は土方の手の中の包みを満足そうに眺めると、用は済んだとばかりにそのまま踵を返した。ひらひらと何度か土方に手を振ってそのまま通りを歩いていく。本当にこの包みを渡す為だけに土方を呼び止めたようだ。土方は包みに視線を落とした後、それから再び顔を上げ、ゆっくりと遠くなっていく銀色を眺めた。






包みを片手に持ったまま屯所に戻った土方は、今から遅い昼食でも摂ろうかと屯所内の食堂に向かった。そして、そこで銀時から貰った物の中身を知ることになった。


「くそっ、手作り弁当とか…なんつー破壊力のあるもん寄越しやがんだ…」


昼食時の賑わいが消えて閑散としている食堂の一角、土方が陣取った長机の上には弁当箱が置かれている。黒地に青竹が描かれた蓋を開けてみれば、からあげ、卵焼き、きんぴらごぼう、タコ型ウィンナー、かぼちゃの煮物、ほうれん草のおひたしやらが四角い箱の中に綺麗に詰められていた。こんな丁寧に作られた弁当を貰ったのは生まれて初めてのことであり。小さく息を吐き出して心を落ち着けると、土方は目についたからあげを頬張った。


「あいつ、料理上手すぎだろ。」


まるで外回りの仕事がちょうど終わるのを見計らったかのように現れ、気遣いを感じさせない素振りで渡されたその弁当は美味いときている。こんなのは卑怯じゃないかと思った。土方の脳裏にこの弁当を渡した相手の顔が浮かぶ。穏やかに笑っていたその表情は土方の心を確かに熱くした。どんな顔をしてこの弁当を作ってくれたのだろうか。気になって仕方なかったが、今は空腹を解消することが先だった。残り2つとなったからあげの隣の卵焼きを箸で摘まんで持ち上げ、そのまま口に運ぼうとした土方は、ふとその手を止めた。


「ぶっさいくな卵焼きだな。」


黄色のそれをよく見てみれば形は歪な長方形で底の部分は焦げていた。これは銀時ではない。間違いなくあの少女が作ったのだろう。一緒にお弁当を作ったということはどうやらちゃんと仲直りができたようだ。


「悪くねェ味じゃねーか。」


見た目に反してほんのり甘い優しい味にふっと笑みが洩れた。思うことはただひとつ。こんな風にまた2人で作ってはくれないだろうか。次に母娘喧嘩した時にも寝る場所を貸してやるから。卵焼きを咀嚼しながらついそんなことを考えてしまったが、しょっちゅう喧嘩なんかできるかと眉をつり上げて怒る銀時の顔が容易に想像できてしまって。そして、そんな彼の姿を見ることができるのは自分だけなのかもしれないと思えば、それは満更でもない気がして。


「……まずいな。」


勿論この弁当の味の話ではない。自分自身の心のことだった。


「万事屋。」


坂田銀時という男にどんどん傾いてしまっている。もう止めることなどできやしないのだ。土方はほうれん草のおひたしに伸ばそうとした箸を置くと、困ったような溜め息を零した。だが、その目元は銀色を想って甘く緩んでいた。






END






あとがき
銀ちゃんはさらっと一緒に寝ようぜって言ってますが、内心はものすごく緊張してます。後日お弁当を渡す時もそんな素振りは見せませんが、どぎまぎしているという自分設定がありました^^うわあああ恥ずかしい何言っちゃってんの俺、でも土方くんともっと仲良くなりたいんだよ、みたいな土←銀的な気持ちが裏にある銀ちゃん可愛くないですか?両片想いも美味しいです!


神楽ちゃんとは可愛らしいことでたまに喧嘩しちゃったりしたら可愛いなと(^^)そんな時は土方さんのお部屋が一時的な避難所になっていたら萌えます(*^^*)話を聞いて色々アドバイスしてくれる土方さんにきゅんとしちゃう銀ちゃんいいな〜v


読んで下さいましてありがとうございました!

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