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この声を届けて
たった今土方から手渡された物を俺は、まじまじと見つめていた。今では誰もが持っていて当たり前の物。それはシルバーの色をした携帯電話だった。



「何コレ…」

「何って、んなの携帯に決まってんだろ。」

「そんなの分かってるし。じゃなくて、何で俺に?」


俺の言葉に、はぁ…と溜め息を吐くと、土方は頭をガシガシと掻いた。


「テメェ、携帯持ってないだろ。連絡するのに家の電話に掛けないといけないって、いつの時代だよ。」

「黒電話は古き良き時代の物なんですぅ。それに俺が携帯持ってないとか当たり前じゃん。携帯電話は家計の敵だからね!あんな家計を圧迫する物貰っても、俺困るんだけど。…電話代だって払えねぇし。」

「電話代は全部俺が払う。だから、それ、持っててくれねぇか?…俺達付き合ってるし、いつでも銀時の声が聴きたいんだよ。」


土方は照れくさそうにそう言うと、携帯を持っていた俺の手をそっと握った。まぁ、俺だってそんなこと言われたら満更でもない訳で。


「いいよ。土方が払ってくれるなら俺、心配いらね〜もん。ありがたく貰っとくわ。」


俺は携帯を片手に持ったまま、ひらひらと土方に手を振った。巡回中の土方に偶然会って呼び止められていたから、このままずっと立ち話をしてる訳にもいかなかった。俺が背を向ける前に土方は、1つだけ約束してくれと言ってきた。その携帯には俺だけ登録してくれと。


必死そうな土方の顔を見て、本当に独占欲が強いよなぁと、俺は感じていた。大丈夫だよ、土方。お前以外に登録なんてしないから。俺だってお前の声だけ聴きたいんだよ。そう言ったら、土方はびっくりするくらい赤い顔になったので、こっちまで恥ずかしくて赤くなってしまった。



こうして俺は、土方から俺達を繋ぐ物を貰った。


*****
土方から携帯を貰って、俺の日常に少しだけ変化が現れた。朝起きてメールが来ていないかチェックしてみたり、夜には土方の仕事が終わった頃を見計らって、少しの時間電話で話したり。


今では土方とも普通にメールのやり取りや会話ができるが、最初の頃は大変だった。なんせ俺、今まで携帯なんて触ったことがなかったから、実はどう扱えばいいか分からなかった。携帯ってこんな難しい物だったか?って初めは何度思ったことか。


通話はボタンを押すだけだから割と簡単だったけど、メールが問題だった。件名の所に本文を打っちゃったりして、土方に思いっ切り笑われたりした。恥ずかしくて、まじで死にそうになったからね。


それに、これも恥ずかしくて土方には内緒だけど、メールの返信にいつも時間が掛かってしまう。面と向かって話すのは全然平気なのに、メールだと何て返事しよう…と迷ってしまって、たった数行の返事にどんだけ掛かってんだよってくらいだった。



なかなか携帯には慣れない。それでも土方といつも繋がっているって思えるから、俺はもう携帯を持っていなかった頃には戻れない気がした。



*****
いつでもどこでも離れている相手と、簡単にやり取りできるのが携帯電話だ。だけど相手が忙しいなら、それは一方通行になってしまう。



最近俺は土方に会っていないのは勿論、メールや通話もほとんどできていなかった。理由は簡単。あいつ、今すっげ〜忙しいらしい。何でも以前から追っていたテロリストグループの足取りを掴めたとか。


…今日もまた出ないか。俺は携帯をパタンと閉じた。いつもなら巡回中にこっそり掛けてくる時間に俺から電話してみた。でも聞こえてきたのは、留守番電話サービスを告げるアナウンスだった。俺、そんな機械的な声なんかじゃなくて、土方の、お前の声がいいのに。


俺は机に置いた携帯をぎゅっと握った。分かってる。土方は真選組の副長なんだから、大変な時に俺が電話なんかして邪魔しちゃいけねぇ。…そうだよ、俺がちょっと我慢すればいいだけの話じゃん。そしたらまたいつもみたいにメールや電話で話せるんだしよ。


今は土方の仕事の為にも我慢しねぇと。俺はそう決めた。だけど心は厄介なもので、頭では分かっているのに、どうしても少しだけでいいから声を聴きたいと願わずにはいられなかった。こんなことは初めてだった。携帯を持つ前は少しくらい土方に会えなくても、寂しさを我慢できていたのに。俺は目の前の携帯を見た。こんな小さな機械に振り回されてるなんてな。自分でも馬鹿みたいだって思ってる。だけど土方に会いたくて、その声が無性に聴きたかった。



*****
夜になって、いつもなら布団で寝ている時間なのに、俺はソファーに寝転んで携帯を見ていた。


昼間に俺から電話してみた訳だけど、あれから土方の方からは何も反応がなかった。俺の電話に気付かないほど忙しいらしい。まぁこればっかりは、

「…仕方ないよな。……んなこと分かってる。けど。」


震える指で昼間と同じように通話ボタンを押した。やっぱり結果は同じで無機質なアナウンスが耳に響いた。だけど俺はそれを遮るように言葉を発していた。



「会いたいよ、土方…」


今の俺の頭と心を占めている言葉だった。会って声が聴きたい。ただそれだけだった。


…何やってんだか。もう寝るか。そう思ってソファーから起き上がった瞬間、手に持っていた携帯が勢い良く震え出した。慌てて画面を見る。そこには土方の着信を知らせる文字が踊っていた。俺は神楽を起こさないように足早に玄関を抜けて外に出た。逸る胸を押さえて土方からの電話に出た。



「…もしもし。」

『銀時か?』

「うん。」

『さっき…それに昼間も電話くれただろ。出られなくて悪かった。』


申し訳なさそうな土方の声はどことなく震えていて、俺だけじゃなくて土方も携帯を気にしてくれていたことが嬉しかった。そのまま話そうとした俺の耳に大勢の叫び声や怒号、何かの爆発音が届いた。


「もしかして、土方お前今、仕事中なんじゃ…」

『もしかしなくても仕事中だ。前に話したテロリスト達のアジトを掴んでな。今総攻撃中なんだが、近藤さんに言って抜け出してきた。』

「ちょっ、お前何してんの!仕事してんなら早く戻れよ。俺のことなんていいから。」

『いい訳ねぇだろ。あんな声聴いて我慢できるかよ。…俺もここずっとお前に会いたくて仕方なかった。』

「…っ。」


会いたかった。電話越しの土方のその真剣な言葉に、俺は言葉が出なかった。嬉しくて嬉しくて、携帯を持つ手に力が入った。


『そうだな、この仕事が終わったら、どこか食べに連れてってやるよ。最近デートしてなかったろ?どこがいいかまたメールでいいから教えてくれ。』

「…うん。うん!ありがと。楽しみにしてるから。」


わりぃけど、そろそろ戻らねぇといけねぇと言う土方に促されるように俺は電話を切った。ほんの2、3分の会話。たった数分だったけど、俺は小さな幸せに胸が熱くなっていた。今日電話して良かった。土方が気付いてくれて良かった。それに何よりも俺達を繋いでくれる携帯があって本当に良かった。今日ほどそんな風に思わない日はなかった。



*****
本当は何でも直接会って、顔を見て話すのがいいに決まってる。勿論俺だってそれが1番大切だって分かってるよ。


でも、会えなくて寂しい時や離れた場所に居る時は、そんなことは不可能だ。会いたい。声が聴きたい。そんな想いを今すぐ伝えたいから、


「…もしもし、土方?この前のことなんだけどさ。うん、そう。お前メールでいいって言ってたけどやっぱ電話しちゃった。って、何で照れてるんだよ!…でさ、美味しいパフェの店があるんだけど…」



さぁ、今日も俺の声を想いを届けようか。まぁこんな小さな箱じゃ、全部は伝えきれないんだけどね。






END






あとがき
コミックス40巻の携帯ネタで、銀ちゃんが携帯の操作が苦手という公式設定に激しく萌えまして、土銀で携帯のお話を書いてみました。


土銀が携帯を持つと絶対にらぶらぶ度が上がると思います(^O^)お互いに電話来ないか、メール来ないかそわそわしてたらすごく可愛いです!



読んで下さってどうもありがとうございました^^

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