Been a long time!
Ryo様から頂いた90000HITリクエストで「久しぶりに会ったのでテンション高めでラブラブな土銀」のお話です
今から久しぶりに土方に会う。 あ、別に喧嘩してずっと無視してたとか、そういうあれじゃないですよ。あいつは今日、1ヶ月の出張から帰ってくる訳です。だから久々に土方の顔を見ることになるっつー話よ。まぁ別に今までも主に向こうのハード過ぎる仕事のせいで何週間も会わないなんざ珍しいことでも何でもなかったのよ、俺らの場合。まぁね、お互い大人だし、毎日顔を合わせなきゃ死んじまうみたいな呪いにかかってるなんてこともないし。たかが1ヶ月じゃねーかと軽く思ってたんだけど。
『今日の銀ちゃん、』
なんかにやにや気持ち悪い顔してるアル、昨日もそんな顔してたヨって神楽に言われちまって、しかも自分でも何となくその自覚があったもんだから何も言い返せなかった。顔に出てるとかやっぱまずくね?俺そんなにそわそわにやにやしてたのかと居たたまれなくなった。
『何かいいことあったアルか?』
いいことと言えばそうなのかもしれない。けどこいつらの手前、俺はそれを認めるのがどうにも恥ずかしくて曖昧に濁したんだけどよ。
『確か…土方さん、今日帰ってくるんでしたっけ?迎えに行くなら遅れない方がいいですよ。』
そしてこのとどめのような新八の言葉。こいつらの悪意のない、それでいて確実にHPを削ってくる攻撃に動揺した俺はパチンコに行ってくらァとバレバレの嘘を吐いて慌てて家を出た。それが今から約1時間前で。
「…早く着いちまったかな。」
いや、あの、あれだよ。約束は時間ぴったりに行く派なんだからね、いつもの銀さんはね!今日は、うん、たまたま歩くのが速かっただけだから。それだけだから。そんな風に自分に何度も言い訳をして俺は無理矢理気持ちを落ち着かせた。駅構内の改札前で何ひとりであわあわしてんだよと自分が少し情けなくなる。江戸を発つ前に教えてもらっていた電車の時間まではまだ時間があったから、俺は旅行の広告が貼られてあった柱の前に移動して背中を預けた。
「あー…やべえよ。」
はあ、と大きく息を吐き出した。そのままふと右側に視線をやると、近くに女の子が立っていた。新八より少し年上に見えるその子は天井から吊るされている電光掲示板と携帯電話の画面を交互に見ている。俺と同じように大切な誰かを待ってんのかね。そんなことを考えていた俺の耳に、あ、と弾んだ声が届く。目を輝かせて右手を振り出したその子の視線の先を俺も追い掛けた。改札に向かって駆け出す彼女に応える彼氏と思しき男は大きめの旅行鞄を持っていた。それからすぐに2人から甘く柔らかな空気が漂い始めるのが分かった。おかえりなさいと嬉しそうに紡がれた声がゆっくりと遠ざかっていく。おうおう、若いねーと思いつつ横目で見てたんだけど、2人にあてられちまったんだろうか、俺の中で確かに湧き上がる感情があった。
「ひじかた。」
早く会いたい。顔が見たい。くっつきたい。そう思った。普段は全然これっぽっちもそんなこと思わないってのに。ちょっと会わねェだけでこんなんなっちまうとか、俺、土方のこと相当好きなんだと改めて思い知らされた。
「……」
土方が乗っている電車がこの駅に着くまでまだ少し時間はある。さっきの2人のような周りのやり取りを何度も見るのももう飽きた。いよいよ何もすることがなくなっちまった俺は何とはなしに視線を自分自身へと向けた。
「いつもと同じ、だよな。」
2日酔いじゃねーから顔色は悪くねーし、着物の裾やブーツの先も汚れちゃいない。よし、これなら久しぶりに会っても大丈夫だ。……大丈夫?っていやいやいやいや何が大丈夫だよ。何女みてェに気にしてんだと我に返ってぶわっと顔が熱くなった。自分の乙女思考に寒気がして思わず片手で顔を覆った。
「まずいよこれ本格的にまずいっての…」
「銀時!」
「……っ!?」
突然名前を呼ばれた驚きにぎゃあああと心の中で叫んで顔を上げた俺と改札の向こうからこっちに近付いてくる男の視線がばちりと合う。土方だった。土方が帰って来た。今、俺の目の前に立ってる。その事実を飲み込むよりも早く俺は普段通りの表情を作り、懐に突っ込んでない方の手をさっと上げてみせた。
「よう、お疲れさん。」
大丈夫、いつも通りの俺だ。何もおかしいところとかないからね。浮かれた顔とかしてないからね。
「迎えに来てくれたんだな。」
「あー…うん、たまたま近くに寄ったついでだけど。」
それでもいいと言って土方が俺を見て嬉しそうに笑った。うん。なんか今ので俺の体温が確実に2度は上昇した。ちょっと何これ。何で俺こんなにどぎまぎしてんのォ!?何だか心臓がうるせーことになっちまってる。くそっ、それもこれも全部こいつの無駄に整った顔が悪い。男前がそういう顔で笑うとか卑怯だと思うね、俺は。
「そ、そういやぁ、お前荷物はどうしたんだよ?手ぶらで帰って来たの?」
何か喋ってないと浮かれた変な顔になっちまいそうで、すげーどうでもいいことを土方に訊いた。
「荷物は先に送っておいた。」
「あー、そうなの。」
「で、山崎に迎えに来させようとか思ってたんだがな、お前が来てくれたからもうその必要はねェな。」
土方は満足げな顔で頷くと、じゃあ行くぞと俺を促して歩き出した。だから俺も土方を追い掛けて駅を出た。ちょうど昼前の時間だからか大通りは割と人が多い。俺と土方は人の波に乗ってゆっくりと歩いた。
「こういうの、いいよな。」
随分と柔らかな声が俺の耳を優しくくすぐる。ちらりと隣を見れば土方は穏やかな顔をしていた。
「そうだな。」
悪くねェどころか、お前が隣を歩いてるってのがこんなにも嬉しいんだ。あたっかい感覚がじわじわと俺の心の中に広がっていく。
「天気はいいし、土方くんはご機嫌だし。」
「そりゃ、お前が俺の隣を歩いてるからな。」
「……」
何で俺と同じこと考えてんだよ。にやにやしそうになっちまうじゃん。土方ってさ、ほんとにずるい奴だと思う。どんだけ俺を喜ばせれば気が済むんだろうなぁ。こいつのそういうところが好きだから、離れたくねェんだ。
腹減ったから何か食おうぜと土方に誘われて2人の馴染みの定食屋で昼飯を食うことになった。店の外観は年季が入っているせいでお世辞にもいいとは言えないんだけど、味は文句なしに美味いんだよ。俺も土方もお気に入りの定食セットがあるからそれを頼んだ。カウンター席を2人で陣取って座り、程なくして出された昼飯に揃って手を合わせた。
「いっただきまーす。」
「いただきます。」
土方と隣り合って座って飯を食うこの時間が俺は堪らなく好きだったりすんだよね。こういう何気ない時間をこいつと過ごすことができる。それは些細なことなのかもしんねーけど、俺にとっちゃすげー幸せなんだ。
もぐもぐ食ってる俺の隣で土方は俺に気を遣ったのか、いつもの黄色い物体を出してくることはなかった。あ、もしかして荷物の中に入れちまってて持ってなかっただけかもしんないけど。まぁそんなことを考えながら白菜と人参の味噌汁を味わって、つやつや光る白米をかき込んでいると左側から視線を感じた。
「ついてるぞ。」
「へ?」
何がと問うより早く、土方の指が俺の口元に触れた。突然のことに水色の茶碗を持ったまま動きを止めた俺を一瞥してから土方は指先に挟んでいた米粒をぱくりと食った。それからふっと笑ったこいつがまるで可愛いものを見るような目で俺を見てくるから。だから、俺は何もできずにぴしりと固まっちまった。
「土…方、お前…」
ああもうだからそういうのはなしでお願いしますっつってんだろうが!何なの!?この子恐ろしすぎるわ、俺の心臓を何回爆破する気なの!
「いきなり何しやがんだよ!」
気持ちを昂らせたまま俺は箸を握り込んでいる土方の右手をぺしりと叩いた。何だよと訝しむ男前にこの馬鹿野郎と返して、だけどそのままその手の甲に指で触れた。だってやっぱ触りたくなっちまったんだ。あんな顔見せられたらさ。久しく感じていなかった土方の体温。その温かさを指先でなぞっていると土方が俺を見て、ああそうかといった風に小さく頷いた。そして割り箸を箸受けに置いて俺の指にその長い指をそっと絡めてくれた。
「銀時。」
何もかもお見通しなところが悔しいのに嬉しくて。どうにもなんないくらい心臓がきゅってなって。結局はさ、こうなっちまうんだよ。指先を軽く触れ合わせたまま俺達は顔を近付けて笑い合った。表立って愛を囁くようなことはそう簡単にはできないから。だから、こんなじゃれ合いがちょうどいいんだ。
ごちそうさんと親父に挨拶をしてから定食屋を出た俺達は再び街の中を歩き出した。別れ道までは一緒に居てもいいよなと自分に言い聞かせて、俺は土方の隣から離れなかった。出張先での土産話に耳を傾け、相槌を打ったり茶化したりした。そうだ、食後の糖分でもねだっちまおうかなーと考えた俺は一旦会話を中断させて、ちょうど運良く通り掛かったコンビニに土方を誘った。
「なぁ、土方、俺さぁ…」
店の出入り口まで来たその時、目の前の自動ドアが左右に開いて前をよく見てなかったらしいおっさんが思いきり俺にぶつかってきた。中年太りのそのおっさんの力が思いの外強くて、俺の足元がぐらりとふらついた。
「わっ、」
「大丈夫か?」
はっと気付けば群青色の瞳がすぐ近くにあって、俺は土方の腕の中にすっぽりと収まっていた。つまり後ろから抱き留められたんだ、俺ァ。両腕でしっかりと支えられ、筋肉のついた身体を隊服越しにはっきりと感じた。俺の頭ん中が土方で一気に占領されていく。さっきの定食屋ので我慢しようと思ってたのによ。我慢しなきゃいけなかったんだ。だけど。もう駄目だった。
「銀時?」
「………」
がばりと身を離して訝しむ声から逃れた俺は無言で土方の腕を掴むと早足で進んだ。そして目についた細い道に勢い良く引っ張り込んだ。裏路地に続くその道をいくらか進めば、そこはもう俺と土方だけの世界になる。
「おい、ぎん…」
どうしたと続く言葉を唇で奪った。いきなりの俺の行動に土方は最初こそ困惑してたみてェだけど、すぐに俺に応えて腰を抱き寄せてくれた。キスの合間に背中を撫でられて全身に甘い痺れが走った。俺は土方にしがみ付いて唇を重ね続けた。嗅ぎ慣れた煙草の香りが強く鼻を掠める。たった1ヶ月ぽっち会わなかっただけなのに、この香りに懐かしさを覚えた。それくらい恋しかった。
「寂しかったか?」
「……馬鹿言うなって、言いたいとこなんですけど…」
その通りだった。会えて嬉しい気持ちと同じくらい、会えない間の寂しさが俺の中にあって。上唇を啄むような優しさの滲む触れ合いに落ち着いた頃、俺は小さく頷いた。
「お前からこういうことされるの、初めてだよな。」
「え?あ、うん。そう…かも。」
「なぁ、可愛いことすんなよ、銀時。」
土方が俺の髪を撫でてふっと笑む。ああもう。幸せを形にしたらこんなんじゃねーのかなって思っちまうくれェに嬉しそうな顔で笑いやがって。
「どうしよ、俺、土方くんにますます惚れちまってるよ。今すっげー満たされてる気分。」
「俺だってこんな可愛いことするお前に惚れて直してたところだ。」
お互いに抱き締める腕の力を強める。ぴたりとくっついていると隙間なんかそんなのもう全部なくなっちまうような錯覚を覚えた。耳元で土方が小さく笑う気配がする。ぎゅっと抱き合えば抱き合うほど俺の想いが土方に伝わるような気がした。
「そういや、すっかり言い忘れてたわ。おかえり。」
「こんな所で言うなんざ、そういうの本当にお前らしいよな。」
ここ路地裏だぞと続けて土方は若干呆れたような顔になった。だけどすぐにその表情を戻して俺にくっついてきた。
「ただいま。」
「おう。」
久しぶりの2人だけの時間。あともう少しだけこのままで。そうしたらその後に土方にいちご牛乳と豆大福でも奢ってもらって、そんでお礼にもっかい銀さんのちゅーでもあげよっかなぁとか、そんな甘い時間を想像しながら大好きな土方の背中に腕を回した。
END
あとがき
その後、なんかもう色々駄目っぽいから屯所までついてくわーって土方さんの部屋まで行ったら、そんなことされたら俺が我慢できなくなるだろうがって照れながら怒る土方さんに追い返されてしまう銀ちゃんがいるんだと思います^^
2人でらぶらぶしてるのを目指しましたが中途半端な感じですみません…;;どこか少しでも気に入って下さる所があれば嬉しいです(*^^*)
Ryo様、この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!
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