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君と小さな幸せ
高校生な2人です




日常の小さな幸せというのはこういう時に感じるのかなと思いながら、銀時は隣を歩く土方の横顔を見つめていた。学校の授業が終わって放課後に一緒に帰り、帰り道の途中でコンビニに寄り道をして。そんな風に2人で一緒に居るだけで楽しいのだ。だからこれが何気ない小さな幸せなのだろう。銀時は土方に気付かれてしまう前にそっと視線を戻すと、肉まんを食べている土方と同じように両手で包むように持っていたあんまんを頬張った。寒い季節になると、ついつい何か温かい物が食べたくなってしまうので、土方は肉まんを、銀時はあんまんをコンビニで買ったのだった。


「あ〜冬のあんまんってほんとやばいわ。美味すぎですよ。」


すっかり冬の装いとなった通い慣れた通学路をのんびりと歩きながら、やっぱあったかくて甘い物は最高だよなーと土方に話し掛けると、お前って本当にそういうのが好きだよなと、少しだけ呆れた調子の声が返って来た。そうだよ好きなんだよ別にいいじゃんと反論しようとしたが、楽しそうな土方の表情に惹き付けられてしまい、そのまま口を噤んだ。困った奴だと言いながらも、土方は銀時の甘い物好きなところをすごく可愛いと思っているらしい。だからといってそんな顔するとかずるいと銀時が内心で悔しがっていると、不意に冷たい冬の風が吹いて銀時と土方の髪を揺らして流れていった。こんなに寒いとせっかくのあんまんが冷めちまうと、銀時は残りを慌てて口に入れた。土方はどうやら銀時よりも先に食べ終わってしまったようで、学校指定の鞄からペットボトルの緑茶を取り出すと中身を口に含んだ。土方はそのままペットボトルを鞄の中に戻そうとしたのだが、ふとその手を止めて銀時を見た。


「なぁ、飲むか?」

「は?…いや、何言ってんの?」


俺ら、付き合ってそんな経ってないからキスどころか手だって繋いだこともねーのに間接キスとか絶対無理に決まってんだろ。そこんとこちゃんと察しろよ。つーか俺も持ってるからね、緑茶。銀時は恥ずかしさのあまりに俯き加減になりながら差し出されたペットボトルを断固拒否すると、代わりに鞄の中から自分で買った物を取り出して半分ほど残っていた中身を土方に見せつけるように一気に飲み干した。銀時の動揺する姿がおかしかったのだろう、土方は肩を震わせて笑い出した。顔は文句なしに格好良くてちょっと誰かに自慢できるくらいであるし、基本的にすごく優しいが、自分より余裕のある彼氏を持つのは考え物かもしれないと銀時はこっそり思った。時々こんな風にからかわれるのはどぎまぎしてしまって心臓に悪過ぎるからだ。


「…あー、えっと、その…今日はすげー寒いわ。」


この恥ずかしい状況を何とか変えようと誤魔化すように言ってみたら、くくっと喉を鳴らして笑っていた土方もそうだなと頷き返した。銀時の言葉通り、今日はマフラーやコートを身に纏っていても木枯らしの寒さに身体が震える日だった。銀時は寒さから少しでも逃れようと、赤いマフラーにぽすっと顔を埋めた。


「せっかくあんまん食ったのにな。あっ、そういえばさー、土方にお願いがあったんだ。すっかり忘れてたけど。」

「ん?何だ?言ってみろよ。」

「お前、理系クラスだから数学進むの早いだろ?でさ、ちょっと課題教えて欲しいなーって。俺、数学全然解けねーもん。だから、明日の昼休みとかいい?」

「ああ、勿論いいに決まってるだろ。」


土方は俺に任せろと嬉しそうに頷いた。銀時は文系クラスで現国が得意であり、数学や物理が得意な土方とはクラスが違っている。だからこうして土方の部活が休みの日に一緒に帰ることは、2人にとって大切な時間のひとつだった。それにしても自分の彼氏は本当にすごいよなと銀時は思う。剣道部の副主将としてほぼ毎日部活に励んでいるのに成績は常に上位で、風紀委員会の仕事も真面目に取り組んでいるのだから。何でも適当にこなす自分とははっきり言って本来ウマが合うはずがないのだ。それなのに2人で居ると楽しくて。いつも笑っていられて。何気ないことが嬉しくて。銀時は土方と一緒に過ごす今の日常に心満たされているのだと感じた。


「ありがとな、土方。お前に教えてもらったら、課題のことはもう心配ねぇわ。」

「そうか。お前に頼られるのって、悪い気がしねーっていうか…やっぱすげー嬉しいな。」

「えーと、大袈裟じゃね?そこまで嬉しいって…」


嬉しいに決まってんだろと照れた表情になった土方を見て、銀時まで何だか照れくさいような、くすぐったいような気持ちになった。あーもう俺まで照れる。恥ずかしいわ。銀時は心の中で呟くと、愛おしむように見つめてくる土方の視線を振り切るように冬の空を見つめた。少し灰色がかった夕方の空に吐き出した吐息が白く揺れた。


「…ほんとこの頃ずっと寒ぃよな。…土方、お前、剣道部の朝練きつくねーの?つーか、よく起きれるね。」

「確かに最近寒いとは思うが、それくらい平気だ。まぁ、俺は遅刻ギリギリのお前とは違うからな。」

「だってしょうがねーじゃん。布団から出られねーの!あんなにあったかいオアシスからそう簡単に旅立てるほど俺は強くないからね!」

「……」

「何だよ、土方。黙ってねーで何か言えよ。」


急に口元に手を当てた土方にどうしたんだよと銀時は訝しげな視線を向けた。土方は銀時の視線を受け止めると、ゆっくりと手を離して可愛すぎだろと小さく呟いた。


「あと5分、あと5分だから…ってなかなか布団から出られねー寝起きのお前を想像したら、あり得ないくらい可愛くてだな。」

「…っ、可愛いとか言うんじゃねー!」

「銀時は本当に可愛いんだから仕方ねーよ。」

「仕方なくなんかねーから!」


ああもう、この馬鹿を誰かどうにかしてくれないだろうかと思いながらも、そんな土方と一緒に居ることが楽しくて幸せで。銀時は困ったなと小さく笑うしかなかった。






帰り道をゆっくりと進みながら、その後も2人で色々な話をした。友人の話。クラスでの馬鹿騒ぎ。最近ハマっている音楽や漫画の話。お互いの思っていることを。 銀時はどちらかと言えばよく喋る性格であったので、土方の隣を歩きながら話を続けた。土方が目を細めながら聞いてくれることもあり、銀時は夢中になって言葉を紡ぎ続けた。


「なぁ、土方、聞いてる?」

「…あー、うん。聞いてる。」

「…ならいいけど。」


銀時は一旦言葉を切ると、ちらりと土方を見た。土方は少し前から銀時の話に生返事を返すようになり、どう見ても明らかに上の空な様子になっていたのだ。俺の話聞いてると訊ねてみると聞いてると返って来るが、とてもそうは見えない。一緒に居るのだから他のことなど考えて欲しくはなくて。やはりちゃんとこっちだけを見て欲しくて。2人きりの時には土方を独占していたくて。銀時は黙って手を伸ばすと、隣で揺れていたタータンチェック柄のマフラーの端を掴んでを思い切り引っ張った。確かブランド物だよな、これ、でも関係ねぇしと思いながら。銀時の突然の行為に喉元を締め付けられ、苦しそうに咳き込みながら土方は驚いた顔になって銀時を見た。あ、こっち見てくれたと銀時は小さく安堵すると、小悪魔のように笑ってみせた。


「……銀、時…いきなり、何すんだよ。びっくりしたじゃねーか。」

「お前、さっきからずっと何か別のこと考えてただろ?いやらしいことかなーって。」

「ちげーよ。」

「じゃあ、何考えてたんだよ。」

「…今度、その…」


土方は口をもごもごさせて続きの言葉を言いにくそうにしている。


「んだよ、さっさと言えっての。」

「銀時。」

「何?」

「今度、一緒に…イルミネーションでも見に行かねーかなって考えてたんだよ。人気のスポットがあるんだ。俺、部活で忙しいから、なかなかお前に構ってやれねぇしよ。だから…」

「土方…」


お前と一緒に見たいんだ。お前を喜ばせたくて。お前の幸せそうな顔を見たら、俺も幸せなんだ。土方は頬を赤らめ、照れた表情で銀時を見つめた。甘い誘いを受けるとは少しも考えてはいなくて。そして、いつも自分より余裕のある恋人がこんな風に照れて恥ずかしそうにしている姿が珍しくて。けれどもそれ以上に土方に対する愛しさが込み上げてきて。今この瞬間にまたひとつ小さな幸せを感じることができて、銀時は嬉しさで一杯だった。


「そんなのお前と一緒なら…見に行くに決まってんだろ。」

「銀時!」


土方は銀時の返事に目を輝かせて喜んだ。土方の喜ぶ姿は、まるで主人に尻尾を振って今にも飛び掛かりそうな黒い犬のようであり。銀時は年相応な表情で嬉しがる土方に笑みを浮かべた。


「誘ってくれて、嬉しいよ。」

「本当か!?」

「うん、嬉しいって。だけどさ…」

「銀時?」


土方がどうしたんだよと銀時に視線を向けた。銀時はちょっと意地悪になるかなーと思いながらも、頭の中に浮かんだことを口にした。


「当日までのお楽しみのサプライズだったら、もっと嬉しかったかもな、土方くん。」

「あっ…!」


土方は、しまった、銀時の言う通りじゃねーかと悔しそうな顔になって頭を抱えた。土方は勉強も運動も何でもできるくせに、こういうことには意外にも頭が回らないのかもしれない。俺のこと可愛い可愛いって言うけど、お前も十分可愛い奴だよなーと、銀時は笑みを浮かべて土方を見つめた。


「じゃあ、次はすっげーサプライズ期待してっからね、土方くん。」

「おう、次こそは任せとけ!期待していいからな、銀時。」


じゃ、お言葉通りに次は期待してるからと上目遣いでお願いをしてみせたら、案の定土方はすっかり元気になってしまって。やっぱり単純で可愛い奴なんだと心の中で苦笑しながら、銀時はすぐ側に居る土方へ静かに肩を寄せた。触れ合う肩と肩からお互いの想いが確かに伝わって、銀時は嬉しくて温かい気持ちだった。幸せをくれる土方の温もりは、どこまでも自分を包んでくれる。銀時はそんな風に感じながら、優しい眼差しの土方に微笑み返したのだった。






END






あとがき
初々しい感じの学生土銀を目指して書いてみました^^放課後に一緒に帰るだけでも幸せなんだよって思う学生銀ちゃんはきっと可愛いに違いないと思いまして( ´∀`)こんな風に放課後デートする土銀にとても萌えるんです。すみません…;;


何気ない日常の小さなやり取りを土銀の、しかも学パロで考えるときゅんとしますね♪読んで下さいましてありがとうございました!

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