[携帯モード] [URL送信]
その想い、あたたかな。
銀ちゃんの方が土方さんより体温が低いといいなというお話です




重い瞼がゆっくりと開いて目が覚めた瞬間、すぐ目の前に土方の顔があった。土方がこちらを覗き込んできたから、当然のように目と目が合う。まだ上手く働かないせいでぼーっとする頭に浮かぶのは、何故薄暗い部屋の中で土方と向き合っているのかという単純な疑問。だが昨夜の情事をはっきり思い出した途端、銀時の中でその疑問はすぐに霧散した。改めて布団の中の自分自身の姿を見なくても分かる。全身を清めてくれて、そしていつもの白い着流しとこの部屋に置いてある下着に着替えさせてくれたのだろう。2人で入っている布団の脇にはその名残りのように濡れた手拭いやら桶やら脱ぎっぱなしの黒のインナーが散らかっていた。


「あのさー、土方くん。」


おはようさんという朝の挨拶もなしに名前を呼ぶと、間近で銀時をじっと見ていた黒を纏う男は、何だと瞬きをひとつした。


「…毎回思うんですけど、土方くんのお部屋でこういうことしちゃって問題ないの?俺のことはもう今さらだけどよ、副長さんの評価が地に落ちる一方だよ?自分の部屋に男連れ込んでるって…」

「何だそんなことか。」


土方は気に留める風でもなく呟いたので、銀時は少しだけかちんときた。


「そんなことか、ってそれはねーだろ!俺は、一応おめーのこと…」


心配してやってるのに。そう続けようとしたが、土方にくしゃりと髪をかき回されてしまい、銀時は思わず口を噤んだ。


「お前を最初に呼んだ時点で組の奴らにゃ公認みてーなことになってるから、邪魔しねーようにしてくれるし、総悟に関しては書類仕事を肩代わりするってので手は打ってある。それに、ここは離れにあるから…」


別に我慢せずに声出したって平気なんだぜ。耳元で意地の悪い声が響く。銀時は羞恥心に顔を赤く染めながら土方を睨み付けたが、目の前の男はにやにやするだけだ。文句を言ってやりたくて仕方がないのに、こういう時の土方はさらにむかつくくらいの男前に見えるのだ。何だこれ惚れた欲目なのかそうなのかそんなの認めたくないと悶々としていると、布団の中から伸ばされた手に手首を掴まれた。


「な、何、いきなり…」

「いや、俺の方こそいつも思ってたんだがな。銀時、お前、体温低くねーか?」

「は?」


手首を握ったまま、いやに真面目な顔で土方が問い掛けてくる。決して広くはない布団の中で距離を詰められると、逃げ場もないのに何となく後ずさってしまう。布団からはみ出た背中が外気に触れてほんの少しだけ震えた。まだまだ日中は暑さが残っているが、朝晩は随分涼しくなってきており、しかも今は早朝ということもあって、土方の自室は十分に暖かいとは言えなかった。銀時の様子に気付いた土方が空いている方の手で帯の上から腰を引き寄せる。これなら大丈夫だろと微笑まれて、くそっ土方のくせにと銀時は気恥ずかしさを誤魔化すように内心で毒づいた。


「で、平熱、何度くらいなんだ?」

「あ?」


まだその話かよ、と思いながらも、銀時は言われてみれば俺の平熱って何度くらいなんだろうと考えた。たった今土方に言われて改めて自分は人より体温が低いのだと知った。確かに掴まれている部分が熱いと感じるのだから、土方の方が銀時よりも体温が高いことになる。


「自分の平熱なんて俺ァ知らねーよ。」

「こりゃ…お前、35度前半ぐらいしかねーんじゃねぇのか。」

「なっ、ちょっ…ひじかた…!」


あまりにも自然に額と額をこつんと突き合わされてしまい、銀時は上擦った声を出した。昨夜飽きるまで散々抱き合ったくせにこういうことが無性に恥ずかしかったりするのだ。そういや付き合ったばかりの頃はやることやってんのにキスされる度に殴ってたな、土方くんのこと。銀時が懐かしい思い出に現実逃避しそうになっていると、やっぱり低いと頷くように言われてしまった。


「35度って低いのかな。」

「低いだろ。俺、36度5分以上はあるぞ。」


お前な、平熱が1度違うだけで免疫力が40%近く低下すんだぞ、知ってんのか、覚えとけ、と土方が言う。だからそんなの知らねーよ、それに何でちょっと俺が怒られたみたいになってんのと銀時は思ったのだが、言い返すのも面倒なので、そのままこくりと首を縦に振る。こればかりは体質の問題だろうし、土方はああ言うけれど、銀時自身に特にこれといった問題はない。それよりも何故土方がそこまで気にするのかよく分からなかった。いつもは他人に考えを読ませないのが得意な銀時だ。だが寝起きのせいだからか、上手く制御できず、その思いが顔に出てしまったらしい。何で気にしてんだって顔してるな、と土方は銀時の頭に浮かんでいた通りのことを口にした。


「そりゃ、まぁ…土方くんがしつこく話題にすっから…」

「寒くねーのかな、ずっとそう思ってた。」

「……」


別にそういうの大丈夫なんだけど。銀時はそう続けようとした言葉を飲み込んだ。土方の瞳が揺らぐのが見て取れたからだ。免疫力云々の話を知っているくらいなのだから、平熱の低さがなにもそのまま寒さに直結する訳ではないと分かっているであろうに、寒くはないかと銀時のことを心配するのだ。この男のこういう所がどうしようもなく好きだから、離れ難いと思ってしまう。


「土方…」


心配されるのは悪くないどころか、やはり素直に嬉しい。自分の体温が恋人よりも低いことを銀時はこの時初めて感謝した。


「寒くねーよ。お前がくっついてっから。くすぐったいくらいあったけーな。」


土方が僅かに目を見開く。銀時が素直にそんなことを言うとは思わなかったのだろう。だが驚いた表情を浮かべたのはほんの一瞬のことで、土方はふっと笑い、幸せそうにその笑みを深くした。


「まだ少し時間があるからな。こうしててやる。」


布団の中で動く気配がしたと思ったら、正面から土方にぎゅうっと抱き込まれた。背中から腰に回される力強い腕。吸っていなくても染み付いてしまっているらしい煙草のかすかな匂い。首筋にさらりと触れる髪の感触。そのどれもが銀時に穏やかな安心感をくれるのだ。そのまま土方の腕に包まれていると、銀時、と名前を呼ばれた。もぞもぞと頭を動かして土方に視線を合わせる。深い青の瞳には愛おしむような色が浮かんでおり。心までも温めてくれている気がしたのは、きっと錯覚ではないだろう。


「……なんか、黒くてでけー犬にじゃれつかれてる気分だわ。」

「茶化すなよ。」


土方が年相応の不満げな顔になる。憮然としたその声に、だって土方くんが可愛いことすんだもんと小さく笑って銀時も土方の背中に腕を回した。


「ありがとな。」


こんなにくっついていたら土方と同じ体温になってしまいそうで。そんな風に考えると、それがどうにも嬉しくて。じゃあもう少しこのままな、と銀時は甘えるように土方に耳打ちしたのだった。







END






あとがき
銀ちゃんの方が平熱が低いという設定に個人的に萌えるのですが、共感して頂ける方がいらっしゃったら嬉しいです(*^^*)


そして短文ですみません;書きたいところだけ書くとこうなります…。行為中のやり取りも愛がいっぱいで大好きなのですが、朝ちゅん後のお布団の中でのやり取りも可愛くて好きなので、2人にらぶらぶしてもらいました。寝起きの銀ちゃんは可愛いだろうなーと思うと萌えて仕方ないです^^


読んで下さいましてありがとうございました!

[*前へ][次へ#]

82/111ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!