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hello good-bye , my world
劇場版ネタのお話です




『さて、ここで土方くんに問題です。ででーん!ある日突然銀さんがどこかに行ってしまいました。土方くんはどうしますか?』

『は?何だそりゃいきなり…』

『1番、銀さんのことは忘れる。きれいさっぱり。2番、坂田銀時?はぁ?誰だそりゃ。最初から銀さんのことなんて知りません。3番、さっさと新しい相手を見つける。さぁ、何番を選ぶ?』

『だから何だその質問は。酔ってんのか?』

『別に酔ってねーよ。いいからさっさと答えろっつーの!』

『…んなの、お前を捜すに決まってんだろ。』

『……』

『あ?何でそこで黙るんだよ。』

『おいおい、何そんな真剣な顔してんの?こんなのただの冗談じゃん。もしもの話だよー?うん。土方ってさ、ほんと俺のこと好きだよねー。恥ずかしいわ、まったく。』

『…っ、当たり前だろうが。俺はお前に惚れてるって知ってるだろ。』

『知ってる知ってる〜。』

『お前は本当に…』

『なぁ、』

『何だよ。』

『俺は、どこにも行ったりしないよ、土方。』


『どこにも行ったりしねぇから。』






5年前、最後に聞いたその声はいつも脳裏に響いている。幾ら月日が流れても決して忘れることなどできやしないものだ。


『俺は、どこにも行ったりしないよ、土方。』

「何がどこにも行かない、だ。俺を置いて勝手にどっか行っちまったくせに。」


あの日を境に土方の世界はすっかり色をなくしてしまった。薄暗い灰色の世界に変わってしまったのだ。その世界を彩る大切な存在は、もう――






珍宝という、名前の通りに珍妙な格好の男が突然土方の前に現れてから、今まで止まっていた時間が急速に時を刻み出し、荒廃した江戸の街の中で事態は大きく動き始めた。魘魅という存在が全ての元凶であり、江戸を救う為にその諸悪の根元たる存在を討ち滅ぼす。土方を始めとしてそれぞれが皆、明るい未来が来ることを信じて行動を始めたのだった。


「ここも随分と変わっちまったもんだよな。」


土方の世界と同じように崩壊し、無惨な姿を晒しているターミナルが夕焼けの赤に染まっている。いつもよりも血の色を濃くしたようなその空の色に妙な胸騒ぎを覚えた土方は、共に魘魅捜索を続ける近藤や沖田達に断りを入れ、かつての江戸の象徴であったその場所に1人で向かったのだ。眼前に聳え立つ廃墟を見上げる。何故かは分からないが、魘魅を捜している最中、遠くに見えるこのターミナル跡地が妙に気になって仕方がなかった。土方は昔から直感が働き、勘が鋭かった。そのおかげで幾度も死線を潜り抜けてきているのだ。そんな自分の勘がここには何かがあると訴えている。閑散としてまるで死の世界のようなその場所を目の前にして、その思いはさらに強くなった。


「まさか…」


5年間も行方をくらましていた人物が都合よくここに居るなんてことがあるのだろうか。土方はターミナルの残骸を見据えたまま、ぐっと唇を噛んだ。銀時が姿を消してからの日々が走馬灯のように駆け巡る。最初はどうせまた厄介事に巻き込まれているのだろう、その程度くらいにしか思っていなかった。けれども1ヶ月、2ヶ月と時間が経つにつれ、銀時と会えずにいることに不安を覚えるようになった。そうする内に子供達にわんわん泣きつかれ、銀時が消えてしまったのだと知った。銀髪に独特の着こなしという、あんなに目立つ容姿であったのに有力な目撃情報はなく、絶望的な状況に耐えながらただひたすら必死に手掛かりを求め続けた。そうして結局何も変わらない日々過ごし続ける中で土方を取り巻く環境は大きく変化した。江戸で奇病が流行し、人口は激減して自分達の住む場所は死に覆われてしまった。武装警察真選組として治安を維持していたはずの自分は隊服を脱いで攘夷志士となった。土方の人生はこの数年で激変してしまったと言えよう。それでも銀時を捜すことだけはやめなかった。諦めてしまったら、本当にこの世界から銀時が居なくなってしまう。それだけは認めたくなかった。そして、今、銀時に繋がる細い糸が目の前に見えている気がするのだ。止まっていた時間は5年の時を経て急速に動き始めた。だから諦めたくはない。


『俺は、どこにも行かないよ、土方。』


「頼む、銀時…」


どうかもう一度その顔を見せてくれ。土方はロングコートのポケットに入れっぱなしの煙草の箱を取り出すと、中から1本を手に取って火を点けた。肺一杯に煙を吸い込んでゆっくりと吐き出す。赤い色の世界に溶けて消えていく白い煙を見送った後、土方は革靴の底で煙草の火を消した。両手で握り拳を作り、唇を引き結んで真っすぐ前を見る。ここにはきっと望むものがあるはずだ。土方は打ち捨てられたターミナルの入り口へと一歩踏み出した。






土方がその場所に辿り着いた時、全てはもう終わった後だった。赤い光が薄暗い空間をその色全てに染め上げて、何もかもを飲み込んでしまっていた。その中でただひとつ、くすんだ白い色が土方の双眸に映った。


「銀時!」


目を閉じて階段にもたれ掛かるように腰を下ろしている人物へと急いで駆け寄る。ずっとずっと会いたくて堪らなかった銀時にようやく辿り着いた土方は、この数年分の想いを伝えるかのようにその身体を強く抱き締めた。


「銀時…、銀時…銀時!」


色素が抜け落ちた髪は銀色から薄汚れた白になり、顔や首筋には呪いの文字のような紋様が浮かんでいる。銀時の容姿は酷く変わり果て、着ている服も以前の見慣れた物ではなかった。そして、浅い呼吸を繰り返す彼の足元には沈み行く太陽の光を受けて鈍く光る赤黒い血溜まりが広がっていた。思わず目を背けたいそれらの光景は、無情にも土方に全てを伝えるのに十分な役割を果たした。


「ひじ、かた…?」


今にも消えてしまいそうなか細い声が耳に届く。腕の力を緩めて少しだけ身体を離すと、赤い瞳が土方を捉えていた。


「ああ、俺だ。銀時…会いたかった。ずっとずっと会いたくて堪らなかった。」

「土、方。」


想いが次から次へと溢れてくる。土方は腕の中の銀時を抱え直した。着ているコートが赤く染まるのも構わず銀時を抱き寄せる。伝えたいことはそれこそたくさんあるのに、もう時間が残されていないことがやるせなかった。泣きたくなるくらいに苦しかった。銀時がひゅうひゅうと喉を鳴らしながらじっと土方を見つめる。その視線に静かに微笑みを返すと、土方は最後に伝える言葉を紡ぐべく、そっと口を開いた。


「銀時、」

「ん…?」

「あの時の質問、覚えてるか?」


5年前、最後に交わした言葉。それはいつも土方の脳裏に響いていて、決して忘れることなどできやしなかった。


「……あー、あれ…ね、うん…覚えてるよ。」

「答えは、あの日と同じで、やっぱりあの中にはなかったな。」

「……」

「俺の答えは、4番だ。お前を必ず見つけ出す。…どうやらこの答えが正解だったな。」

「あーあ、…敵わねーなぁ、副長さん…には。」

「俺ァもう副長じゃねーよ。」

「あれ?…あ、そう、だったね。」


副長じゃなくなってもお前は男前だから腹立つな。息も絶え絶えにそう言いながら、銀時は嬉しそうに目を細めた。


「銀時…」

「……」


土方の背中に回る腕の力が弱まっていく。土方は震える身体を落ち着ける為に静かに息を吐いた。腕の中の銀時が土方を見上げる。5年の歳月が経とうとも、銀時は綺麗な瞳のままだった。


「よく頑張ったな。」

「なに?褒めて、くれんの…?」

「ああ。お前にしちゃあよくやった。」

「へへ、初めて、褒められちまった、な。あんがと、土…方。俺を、見つけて…くれて。」

「銀時。」

「なぁ、銀時。」

「銀時。」


土方の世界はようやく色を取り戻したのだ。ずっとずっと探し続けた銀色を見つけ出すことができたのだから。


「好きだ、銀時。」


微笑みを向けたとしても、もうその赤い瞳に自分は映らないけれど。愛の言葉を囁いてその名を呼んでみても、もう応えてくれる声はないけれど。力なく下ろされた腕は温もりをなくして、もう二度とこの背中に回ることはないけれど。それでも土方の世界は色を取り戻した。愛しい愛しい銀色を。


「ああ、どうやら頃合いのようだな。」


崩壊の音が聞こえた訳ではないが、この世界がもうすぐ終わるのだとはっきり肌で感じた。あの奇妙な男の話の通りなら、魘魅を倒せばこの世界は救われる。つまり、新しく創り変えられるこの世界はここで終わるのだ。土方はもう一度銀時を強く抱き締めた。


「銀時、俺はお前がずっとずっと好きだからな。お前以外の奴に惚れることなんざ、この先二度とねぇんだ。」


最期の瞬間を一緒に迎えられる、それはどんなに幸せなのかと思えた。終わりを迎える世界で自身の世界に色を取り戻した土方の心は凪いだ海のように穏やかだった。






「さて、ここで土方くんに問題です。ででーん!ある日突然銀さんがどこかに行ってしまいました。土方くんはどうしますか?」

「は?何だそりゃいきなり…」


酒の席で突然意味不明な質問をされてしまい、土方は眉を顰めて隣に座る銀時を見た。この男の言動は時々理解不能だ。付き合ってからもそれは少しも変わらない思いだった。飲み始めたばかりなので銀時はまだ酔ってはいないようだったが、もう十分酔ってるだろと土方は溜め息を洩らした。


「1番、銀さんのことは忘れる。きれいさっぱり。2番、坂田銀時?はぁ?誰だそりゃ。最初から銀さんのことなんて知りません。3番、さっさと新しい相手を見つける。さぁ、何番を選ぶ?」

「だから何だその質問は。お前、飲み過ぎだな。」

「うっせーな!まだそんなに飲んでねーし!いいから早く答えろって……あり?……俺、前にも土方くんにこの質問したっけ?」

「は?何言ってんだ、お前は。そんな訳分からん質問2回もされたらさすがに黙ってねーだろ。糖分摂り過ぎてとうとう耄碌したんじゃねーのか?髪もそんなんだしな。」


からかって頭を撫でてみれば、俺はまだ20代だ、耄碌すっかと怒りの声が返って来た。


「で、いいから答えは?何番?」

「俺の場合、どれも違うな。」


そう言ったら銀時は僅かに目を見開いた。そういう顔も好きだから、してやったりな気分になった。土方は銀時を真っすぐに見つめて言葉を紡いだ。


「お前が勝手にどっか行っちまったら、俺ァどこまでも追い掛けて、銀時、必ずお前を見つける。で、俺に何も言わねーで消えた罰として足腰立たなくなるまで思いきり抱いてやるよ。仕置きは必要だろ?そういうこった。ま、覚悟しとくんだな。」

「……」

「それか、そもそもどっかに行っちまわないように屯所の留置部屋にでも繋いでおくって手もあるな。」

「ちょ、目据わってるよ、土方くん!鬼の副長モードになってっから!ここ居酒屋だよ!」


お前こえーよと怯える銀時に半分冗談だと笑ったら、残り半分は何なんだよと若干泣きそうな声が続いた。


「勝手にどっかに行っちまっても止めねぇがな、俺はお前の力になるってこと、忘れんじゃねーぞ。」

「…うん。」

「分かってりゃいいんだよ。」

「なぁ、」

「何だよ。」

「俺は、どこにも行ったりしないよ、土方。」


それは土方を安心させる為の方便なのかもしれない。この男は付き合ってからも心の中を全て見せてくれた訳ではないのだから。だが土方は何故かこの言葉は銀時の本心ではないかと思った。どうしてそう思うのかなんて分からなかったが、土方の心はそれが正しいと訴えていた。


「あ、でももし黙ってどっかに行かなきゃならなくなった時はさ、お前も連れてくわ。」


ビールが注がれたコップに手を伸ばしながら、銀時が何気ない風に言葉を紡ぐ。


「え?」

「その方が戦力になりそうだし。お前、俺のこと好きだから護ってくれんだろ?」


ふにゃりと柔らかく笑うその顔は何よりも綺麗で、愛しくて。血生臭い土方の世界にいつだって優しい色をくれるのだ。


「当たり前だ。お前を護れんのは俺だけだからな。」

「うっわー何カッコつけちゃってんの、土方のくせに。」

「おい、銀時!」

「言っとくけどね、ほんとは銀さんの方が強いんだからね。」

「それ言っちまったらお終いだろうが!」

「でも、土方くんのこと信じてるよ?」


そういう言い方は卑怯だと思うのに、結局頷いてしまうのだ。


「ま、背中合わせで護ってやるよ、ずっとな。」


これから先もお互いに大切なものの為に戦うのだ。だから目の前に立って庇い合うことはできないけれど、背中を預けることはできる。そうして護ることができる。


「それでどうだ?」


土方の問い掛けに満足そうに頷くと、銀時はそれから不敵に笑った。銀色が輝いて見えて、とても綺麗だった。銀時の、魂の色だ。土方の世界を彩るその色は褪せることなくいつまでも輝きを放っていた。






END






あとがき
劇場版 完結篇が公開されて1年が過ぎて今さら感が半端ない上に何番煎じな展開のお話ですが、魘魅銀ちゃんとでこ方さんのお話を書いてみました。書きたいところだけ書いてます。まとまりがなくてすみません…´`


完結篇は大好き過ぎてどうしようもないのですが、魘魅銀ちゃんを思うと切なくて直視できない!でもやっぱり好き!みたいな気持ちになります。どこかの未来の世界で2人が幸せに笑い合っているといいなと思います(*´ω`*)


最後は居酒屋でらぶらぶっぷりを周囲に見せびらかしているいつもの土銀の2人を入れてみました^^言わずもがないつもの2人もずっと幸せでいて欲しいです!


読んで下さいましてありがとうございました!

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