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甘えさせて
ユキハナ様から80000HITリクエストで頂いた「銀ちゃんが体調が悪いのを隠していて誰も気が付かないのに、土方さんだけが気が付く」お話です




読み進めていた話の内容が全く頭に入らなくなってしまったので、やっぱり駄目かと銀時はページを捲る手を止めて愛読書である漫画雑誌を無造作に机の上に置いた。そして、ちょっと出てくるからよ、と口に出してゆっくりと立ち上がった。すると机を挟んで向かい側のソファに座っている神楽がどこに行くのかという顔をした。もちゃもちゃと酢昆布を食べる少女の無言の視線が痛かったので、銀時は逃れるように明後日の方向を向いた。


「あ〜なんつーか…別に行き先は決めてねーけど、ちょっくら糖分摂取だよ。」

「銀さん、また午前中からふらふらする気ですか?」


居間の片付けをしていた新八が神楽と同様に軽い蔑みの目を向ける。こいつらのこの目は苦手なんだよなと思った銀時は早々に玄関に向かうことにした。


「あ?今日は依頼もねーんだからよォ。どこで何しようが俺の勝手だからね。」

「銀さん、そういうの大概にして下さいよ、まったく!今日も昨日と同じでずっとジャンプ読んでるだけだし…だらしないですよ。」

「駄目な大人アルな、銀ちゃん!」

「ああもう、うるせーなぁ。俺は出掛けるの。」

「ちょっと、銀さん!」


とにかくそういうことだからあとはよろしくと声を掛けて足早に廊下に出たが、子供達の非難めいた文句が背中越しにはっきり聞こえた。わざと銀時に聞かせる為か、ご立腹である2人の声は大きかった。


「……おいおい、もうちょーっと、声抑えてくんないかなぁ。…頭に響くっつーの。」


小さく呟いた声は自分でも思った以上に情けないものであり。銀時は浅く息を吐き出すと、緩く伸ばした手で玄関の戸を開けた。





やはり頭が痛い。それにほんの少しだが時々足元もふらつくような気がする。多分というか、これは確実に調子が良くない。大通りを歩く銀時は自身の体調について何度目かの吐息を洩らした。朝起きた時にいつもと違うと思ったのだ。けれどジャンプでも読んでいればその内大丈夫になるだろうと思って普段通りに過ごしたのだ。


「ま、腹ん中に糖分入れたらそれで何とかなるだろ。うん、そうだよね。」


本当は愛読書も読まず、外にも行かず、大人しく布団で寝るべきだったのであろうが、新八と神楽に迷惑を掛けたくなかった。幸いにも2人は銀時の体調の変化に気付いた様子はなかったので、それなら好都合だと外に出た訳だ。新八と神楽は勿論のこと、道行く人々も銀時の異変に気が付いてはいないようだった。くらりと貧血時の目眩に似た感覚に襲われそうになっても、銀時の足取りは普段と何ら変わってはいなかった。だから銀時の体調があまり良くはないことに誰も気付かない。銀時自身もそれでいいのだと思いながら、通りをゆっくりと歩き続けた。


「銀時!」

「ん?」


突然背後から名前を呼ばれた。その声と共に自動車が近付く音が耳に届く。銀時がそっと振り返ると、黒と白の塗装が施されたパトカーが見えた。その警察車両の運転席の窓から男が顔を出している。切れ長の瞳でこちらを真っすぐに見つめてくるその人物は、銀時に馴染みの深い男だった。


「土方。」

「お前はまた昼間からうろついてんのか。」


銀時の脇に停車した土方は窓の隙間からさらに身を乗り出すようにして見上げてくる。銀時はその視線をへらりと笑って受け止めた。


「あのね、いつも言ってっけど、俺の行動は誰にも縛れないんですー。何しようが俺の自由なんだよ。」

「お前な…」


土方は呆れたように銀時を見つめていたが、不意にその表情を変えた。


「お前、調子悪ぃんじゃねーのか?」

「は?」

「いや、だから体調良くねーんじゃねぇのかっつってんだよ。」


気付かれないようにしていたのに見透かされてしまった驚きに銀時の肩が小さく揺れた。いつも通りに振る舞っていたのだ。何でばれたのだろうと心に動揺が広がる。だがその動揺を表に出してはいけないのだ。だから銀時は狼狽えないようにしながら、何言ってんの〜と笑みを浮かべた。


「土方くん、銀さんは普通に元気だよ。」

「何が元気、だ。俺の前で無理すんな。」


土方が静かに呟いた。眉を寄せたその表情に色々な感情が読み取れて、銀時は堪らない気持ちになった。


「……」


何で分かってしまうのだろう、この男には。何で何もかもお見通しになってしまうのだろう。土方だけだった。新八も神楽も気が付かなかった。気付かせないためにいつも通りに振る舞っていたのだから、気付かなくても当然なのだ。そしてそれは土方も同じはずだったのに。


「……」


無理をするなと言われてしまって言葉に詰まった。優しい言葉が胸を打つ。銀時が言い返せなくなって立ち尽くしていると、土方が素早く運転席のドアを開けて外に出て来た。そして銀時の手首を掴むとそのまま引き寄せた。


「土方…っ、お前なにいきなり…」


これじゃ俺、完璧に周りから何かやらかした不審者って思われたじゃねーか。そう言おうとしたのだが、抵抗らしい抵抗もできず、パトカーの中に連れ込まれて無理矢理助手席に座らされてしまった。どうしたらいいのだろう。予想外の状況に銀時は酷く困惑した。だが、このまま土方を振り切ることはできそうになかった。隣から感じる気配と自身の体調のせいで。


「いいから少し休め。」


隣の運転席に座り直した土方と視線が絡まる。群青色をした瞳が心配だと言っているのがありありと分かって、銀時は少しだけ俯いた。


「……そういや、お前が運転とか珍しいよな。普段はジミーが担当じゃね?」

「あ?今日は山崎は別の仕事が入って…って、もう喋るな。頭も痛ェんだろ?つらそうだ。」


土方の手が銀時の頭を撫でてそっと離れていく。優しさと労り、そして安堵させようとする想いがその男らしい指先から溢れていた。


「ひじかた…」


ああ、そうか。この男の前では誤魔化そうとしなくてもいいのか。そんなことはする必要ないのだ。そう思ったら自然と安心してしまったらしく、肩の力が抜けた。銀時はシートに深く身を預けて、ほっと息を吐いた。車内から嗅ぎ慣れた煙草の香りがしたことも今は銀時の心を落ち着かせてくれた。


「なんか、少しだけ楽になったかも。」

「そうか。屯所に戻るついでに送ってやる。」

「……なぁ、このままお前についてくのって、だめ?」


体調が悪い時に惚れている相手から優しくされれば、甘えてしまいたくなる。離れがたいと思ってしまう。酔って理性が飛んでしまった時でさえ、こんな恥ずかしいことは死んでも絶対に言わない。けれども今は土方に寄り添いたい、そんな気分だった。


「……銀、時。」


耳に届いた上擦った声に自分がとんでもなく馬鹿なことを口走ってしまったのだと改めて後悔した。銀時は驚いた顔の土方から少しでも離れようと思わず逃げ場所を探しかけたが、狭い車内にそんな空間などありはしなかった。


「あ、や、うん…今の何でもねーわ。…変なこと言っちまったよな、俺。」

「俺の部屋に来い。」

「えっ…」

「薬飲んで寝りゃあ少しは良くなるだろ。俺の部屋で寝ろ。」


有無を言わせない言い方だったが、土方の想いが込められているのは言うまでもなかった。それに銀時の中でこの男に頼って甘えたいと思う気持ちも簡単になくなりそうにはなかった。


「じゃあ…お前の言う通りにするわ。」


小さく頷くと、土方は嬉しそうに口角を上げた。


「よし、決まりだな。」


帰ったらすぐに布団と薬を用意するからなと言う土方は楽しげにハンドルを握り締めた。素直に甘えることは気恥ずかしさとくすぐったさをもたらしてくる。相変わらずまだ頭も痛むというのに銀時は満たされた気分だった。






「あー…でもやっぱ、どう考えたって邪魔だったよね。俺がここで寝てんのって…お前、普通に仕事あったもんね。」


用意してもらった飲み薬の効果はすぐには表れてくれないので、全身を包む気だるさを感じたまま、銀時は客用布団の中からすまなさそうに土方を見上げた。恋人の部屋に来るのは久しぶりだったが、体調不良の状態で訪れたことはなかった。


「……ついてくとか言って、邪魔しちまってんな。」

「んな訳あるか。謝んなくていいんだよ。」


枕元に腰を下ろして胡座をかいた土方が銀時の髪をそっと撫でた。与えられる温もりと穏やかな笑みがどうしようもないくらいに心を震わせる。銀時は応えるように手を伸ばして土方の隊服の裾をきゅっと掴んだ。


「土方、」


かつて恩師に対して感じたものと同じように子供達には自分のことで心配などさせたくはないと銀時は常々考えている。だから2人にはなるべく弱い部分を見せないようにしているのだ。けれども土方には隠していたのに気付かれてしまっても別にいいやと思えた。それはきっとこの男に惚れてしまっているからなのだろう。安心して身を任せてみてもいいのだと。それは初めて感じる気持ちだった。呆れるくらいに何とも甘ったるい感情だが、銀時には柔らかく心地の良いものだったのだ。


「あんがとな。」

「気にすんなよ。お前の弱ってる姿なんざそうそう拝めねーからな。しかも思った以上に可愛かったから得した気分だ。」


満足だと笑う土方が格好良く見えて仕方がなくて、銀時は自身の頬に熱が集中する感覚を味わった。


「お、お前に看病なんかされちまったらさ、最終的にマヨ粥とかが出て来そうだよな。俺、そんな犬のエサだけはお断りですぅ。」


赤くなったであろう顔を見られては堪らないので布団を半分ほど引き上げて誤魔化すようにそう言ってみたら、そんな軽口が叩けるなら大丈夫だな、良かった、とさらに頬を熱くさせるような眩しい笑みが返って来た。


「お望み通り看病してやるからよ。安心してゆっくり休め。な?」

「ま、そんなら、お言葉に甘えて。」


にっと笑ってみせた刹那、覆い被さるように影が落ちて来たので、銀時は土方の首に縋るように腕を回して口付けを受け止めた。






END






あとがき
銀ちゃんの体調の変化に旦那だけが気が付くのって萌えますね!王道な設定は本当に美味しいです!そして、土方さんに見事に気付かれたので、あーもうそれなら甘えてやる!ってなる銀ちゃんは可愛いと思います^^


普段弱いところを見せない銀ちゃんが土方さんには甘えられるというのが堪らなく好きです。


ユキハナ様、この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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