伝えたいこの気持ち 2(完結)
(土方視点)
くそっ、何なんだよ。
ここ数日、ずっと俺は苛ついていた。
その原因は分かっている。あいつ、万事屋だ。
*****
3日ほど前、万事屋が俺の部屋を訪れた。あいつは俺が事務仕事の日に決まって部屋に来る。あの日もそうだった。あいつが来ると、どうしても相手をしなきゃならなくなるから面倒だった。だからもう来ないように、あいつの提案を逆に利用してやった。
万事屋はパフェを食って満足そうだったから、もう大丈夫だろうとほっとした。なのに。
泣いていた。あいつは別れ際、俺を見て静かに泣いていやがった。訳が分からなかった。何でテメェはあの時泣いてたんだよ。
それからだ。仕事をしても何をしても、万事屋の泣き顔が浮かんだ。そのまま浮かんで、俺の目の前から消えてくれることはなかった。それだけでも調子が狂うのに、もう1つ俺を苦しめることがあった。
…綺麗だと思っちまった。あいつの涙を。どうしたんだよ、俺は。今まで万事屋に会っても特に何も思うことはなかった。嫌なやつに会ったな…せいぜいそれくらいだったはずだ。それなのに、あいつの涙を綺麗だなんて。しっかりしろ。俺はおかしくなってしまった思考を元に戻したくて必死だった。でも相変わらず万事屋の顔は消えてくれず、どうにもできない苛立ちは増すばかりで、まさに悪循環だった。
*****
総悟の奴、またさぼりやがって…俺はいつも以上に高く積まれた書類と格闘していた。午前中の巡察を終えて休むことなく、事務仕事をこなす。最近の苛立ちも相まって、灰皿は煙草の吸い殻で山のようになっていた。
次の煙草に手を伸ばしつつ、書類に目を通していく。単調な作業に疲れを感じ始めた頃、俺の部屋の前の廊下で、ぎしっと音がした。
俺の仕事中は、緊急でない場合は基本的に誰も部屋に来ることはない。
「…万事屋か?」
俺は部屋の障子を少し乱雑に開けた。だがそこに居たのは万事屋ではなく、どこからか迷い込んできた野良猫だった。猫はな〜と鳴くと、そのまま縁側を降りて庭の方へ歩いていった。
「何だ、猫かよ…」
そうだ、万事屋がここに来るはずねぇだろ。俺が奢る代わりにもう来るなって言ったんだから。何あいつのことばっか気にしてんだよ、今は仕事中だろ。
俺は自分にそう言い聞かせた。だが何となくすっきりしない気持ちは、俺の中から消えてくれなかった。
*****
(銀時視点)
土方のことはもう忘れなきゃいけない。だってこれ以上、どうなるっていうんだよ。どう考えてももう終わりだろ。
あの時の土方の顔。何冗談ぬかしてんだ、と言った時の嫌そうだった表情。あれが全ての答えだ。だからこのやり場のない想いは捨てなければならない。
「…捨てられる訳、ねぇだろ。捨てられねぇよ、土方。」
神楽もぐっすりと眠って、静かになった部屋で俺は1人うなだれていた。ずっと胸が苦しいままだった。もう酒でも飲まないとやってられねぇよ。俺は万事屋を出て、馴染みの居酒屋へ行くことにした。空には明るく月が輝き、その優しいまでの光に、俺は何だか泣きそうになってしまった。
顔馴染みの居酒屋の暖簾をくぐると、店内は客で一杯だった。酒をあおり、楽しそうに話す声があちこちで聞こえた。
「よぉ、銀さん。今日はちょっと混んでてさ。今奥のテーブル席しか空いてなくて。悪いけど相席してもらっていいかい?」
申し訳なさそうな店の親父に構わねぇよ、と言って俺は店の奥へと進んだ。
「すんませんけど、店混んでるんで、相席…」
俺はテーブル席に座っていた人物を見てそれ以上言葉が紡げなかった。それは相手も同様で、ビールの入ったグラスを持ったまま、じっと俺を見ていた。何でよりにもよって土方がここに…俺はそのまま後ずさると、親父の方に向き直り、
「親父〜、俺用事思い出したから…やっぱ帰るわ。」
不自然にならない程度で俺は足早に店の入り口へと歩いた。今は土方に会いたくなんてない。あんなことがあったばかりで話せる訳ないじゃん。
出ていこうとした俺の耳に、親父、わりぃけどここに金置いとくから、と土方の声が聞こえ、席を立つ音がした。なっ…何でだよ。俺は慌てて外に出て、とにかく目の前の通りを走った。
「待てよ、万事屋!」
後ろから俺を追い掛ける土方の足音がした。待てって言って待つ訳ないじゃんか。…これ以上ついて来るなよ。
「待てって言ってるだろ……銀時。」
不意打ちに名前を呼ばれて、思わず足が止まった。その隙をついて土方が俺の腕を掴んだ。 大分走っていたので、2人とも若干肩で息をしていた。
「テメェ、何で…逃げる?」
「別に、逃げてなんか…」
「まぁいい。万事屋、お前に話がある。」
真剣な土方の瞳に捕らえられて、俺はその場から動けず、黙って話を聞く以外になかった。
「万事屋、この前のことだが…あれ、本当は冗談なんかじゃなかったんだろ。最初は俺も、質のわりぃ冗談としか思ってなかったが、色々考えて…」
俺はそのまま土方の言葉を聞いていた。そうだよ、冗談なんかじゃない、本気なんだ、そう言いたかったのに唇が震えて言葉にならなかった。
「テメェ、俺のこと……好きなのか?」
「…そうだよって、言ったら?」
「まだ良く…分からねぇ。俺、お前のこと今までそんな風に見たことなんてねぇからよ。」
いいんだよ、土方。それでいい。それが普通の反応だよ。お前はちゃんと俺に向き合ってくれた。それだけで俺はもう十分だ。
「だけど…」
「だけど?」
だけど、何だ?俺は土方に聞き返した。すると土方はまっすぐ俺を見た。
「…あの時のテメェの涙は、すごく綺麗だと思った。」
「…っ。」
そっと微笑んだ土方に、心臓を捕まれた気がした。いや、心臓だけじゃない、俺の全てを。
「…だから、万事屋…俺を惚れさせてみせろよ。俺の気持ちはこれからどうなるか、俺だって分からないんだからよ。」
そう言って土方は、少しだけ意地悪く笑った。何だかすごく土方らしかった。やっぱり俺の好きな人はこうでないとな。
「上等じゃん!覚悟しろよ、土方。銀さんのアプローチにメロメロになっても知らないからね。」
「メロメロってお前。古いな。」
土方がおかしそうに肩を揺らした。その顔はファミレスで俺が惹きつけられた時と同じように、綺麗で眩しい笑い顔だった。
とりあえず大通りで土方に惚れさせる宣言をした後、土方の仕事に響くといけないので、俺達はそのまま別れた。別れ際にじゃあなと土方に頭を撫でられ、俺の全身の血が沸騰しそうになったことは秘密だ。
帰り道を歩きながら、俺は土方の顔を思い浮かべていた。こんな日が来るなんて、想像すらしてなかった。勿論まだ土方に、好きだと決定的な一言を貰った訳じゃない。まだ最初の一歩に過ぎないんだよな。だけど、もう前みたいに自分の気持ちを伝えられずに苦しくて辛いことはなかった。代わりに温かい気持ちが生まれていた。
「よし、まずは手料理からだ。男は胃袋を掴めって言うもんね。待ってろよ、土方!」
俺は高らかにそう叫んで、万事屋への道を歩いた。
END
あとがき
今回は鈍ちん土方さん×乙女銀ちゃんのお話です。
私、本当に乙女な銀ちゃんが好きなので、こうなるのはもう仕様です^^
土方さんはあんなこと言ってますが、銀ちゃんのことを気にしている時点でもう好きになってますから、何も問題ないですね(・ω・)/
後はどんどん銀ちゃんの魅力にハマっていくのでしょう(*^^*)
読んで下さって本当にありがとうございました♪
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