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jellyfish
ユキハナ様からの4周年&7万HIT感謝リクエストで、付き合うようになったけれど、土方さんがヘタレで呆れてる銀ちゃんが土方さんの格好いい一面を見て惚れ直すお話です




あのさ、ちょっと本当どうにかなんねーの、お前と呆れちまってどうしよもないことがある。あ、それは俺が最近付き合い始めた奴のことなんだけどね。


「…ぎん、いや……あ、その…万事屋。」

「………」



おいおいおいおい、ちょっと待て。だから何でわざわざ言い直すんだよ。俺達の関係なんてもうとっくに周りの奴らにばれて周知の事実になっちまってんだから、別に普通に銀時って呼んでも俺ァ構わねーんだけど。べたべたの甘い関係を望んでる訳じゃねーけど、でも、少しはお前と付き合ってる実感が欲しいかもって思ったりしてんの、銀さんは。そうは見えねーかもしれねぇけど、そうなんだよ!なのによ、お前の態度はどう考えてもおかしいだろ。何なの?いつになったら俺のこと名前で呼ぶの?鬼の副長のくせにほんと意気地無しだよ、こいつ。言っとくけど、今の言い直し、何もこれが初めてじゃないからね。もう片手じゃ数えるの足りないからね。毎回ばったり会う度これだからね。まともに俺の名前も呼べねーのかよ、このヘタレ。


「……ったく、またかよ。」


目の前の相手に自然と溜め息が出ちまうのも仕方ねーよな。うん。それからさ、何で言い直す度にそんな動揺すんだよ。お前、フォロ方って言われてんだろ?ゴリラ上司とろくでもない部下達のフォローはばっちりできても、てめーのフォローは満足にできないってどういうこと?しかもこの状況に呆れてる俺のフォローもできねーってまったくもってどういうこと?ほんと仕事はできる奴なのにな。顔もいいし高給取りで女なんて選り取り見取りのくせに恋愛下手って全然面白くねーから。


「旦那、毎回大変ですねィ。」

「まぁ、な。」

「旦那が器の大きい人で良かったですねィ、土方さん。付き合ってるのに名前も満足に呼べないヘタレ野郎なんざ、普通とっくに捨てられてますぜ。」

「うるせー!黙ってろ、総悟。」


気色ばむ土方の隣に立っていた沖田くんが俺に同情の目を向ける。俺は曖昧に笑ってその視線を受け止めた。彼氏の部下に心配されるとかもう終わってるよ、色々。


「ま、しょうがねーだろ。こいつはそういう奴みてーだし。沖田くんが居ても居なくても俺のこと名前で呼べねーんだよ。」

「…っ、ぎ、……万事、屋。」


土方が変な顔になったけど、それ以上にうんざりしてんのはこっちだ。こんなんじゃ、付き合う前と何も変わんねーじゃん。たまたま一緒になった居酒屋の帰り、お前が好きだ、惚れてるって言われて最初は何の冗談かと思ったけど、土方の真剣な想いを知って、俺はそれを受け入れた。一緒に歩いて行くのは結構楽しそうだと思ったんだよ。土方のこと、嫌いじゃねーし。そしてまぁ今に至る訳なんだが、こいつが肝心な所で情けねー奴だと分かって俺は頭を抱えることになっちまった。せっかくこうして偶然仕事中の土方に会えたってのに、ちっとも嬉しくなかった。


「なぁなぁ、沖田くーん。ヘタレマヨ副長の教育よろしく頼むよ。あいつのこともっと鍛えてやって。ありゃ駄目だよ。」

「旦那の頼みなら何でも引き受けやすぜ。」

「それじゃあ頼むわ〜。」


ドS王子と冗談を言いながらこそこそ話してる横で土方は焦った表情を浮かべてやがるくせに黙ったまま何も言おうとしない。そこはさ、そいつは俺のだ、とかカッコいいことのひとつも言えない訳?あー、言えないか、土方だもんな。


「俺、もう行くわ。じゃーな。」


このままコンビニ前で無駄な時間を過ごしてんのが馬鹿らしく思えて、俺はくるりと踵を返した。土方が何か言いたそうな表情をしてたような気がしたけど振り返らなかった。昼下がりの通りを少し進んでから小さく息を洩らして気持ちを切り替えると、俺はこのまま新台を覗きに行ってみようかなと決めた。土方のヘタレ野郎はといえば、結局最後まで俺に何も言いやしなかった。



*****
今日は土方とかぶき町にあるファミレスでデートだった。ま、デートっつっても、パフェ食うだけなんだけど。毎日忙しい土方とは飯食ったり飲んだりくらいしかできなくて、しかも誘うのは大抵俺の方からなんだけど、勿論現状に満足してる訳じゃねーよ、でもそれでも俺は土方とのそんな時間を大切にしたいと思ってる。面と向かって言うつもりはねぇけど、やっぱ一緒なのは安心するし。本音は、まぁもうちょっと向こうから誘ってくれると嬉しいんだけどな。うーん、少しずつ頑張らせてみる必要があるよなぁ、やっぱ。


土方は俺と違って絶賛仕事中でも短い休憩時間を使って待ち合わせ場所のファミレスにやって来る。俺はいつも分かるように出入り口付近に立つことにしてて、黒い隊服を見つけると片手を挙げて出迎える訳だ。


「悪い。少し遅れた。」

「いいって。何?午前中の仕事、大変だった?」

「毎回だが総悟がな。」

「ははっ、ご苦労さん。」


俺と目が合うと、土方は眉尻を下げてふっと笑う。そういう顔を見るのが実はこっそり好きだったりする。ヘタレだけど、こいつは文句なしの男前なんだよな。ほーんとあとそこだけ直してくれりゃ文句ねーんだけどさ。そしたら完璧彼氏じゃんね。俺は内心でそんなことを思いつつ、時間がないからと土方を促して早速店内に入った。あ、勿論言うまでもねーけど土方の奢りだから。


「あ〜美味い!」

「今日は新しいやつなんだな。」

「そ。春限定の『さくらパフェ』っつーやつ。」


俺は自分の手元にある淡い色をしたパフェに目を落とした。綺麗な色をした桜あんと白玉の組み合わせはいい感じだし、ソフトクリームの部分に桜の花が飾り付けられてて見た目も春っぽい。俺、こういうの好きだな。だって美味い物食いながら季節も感じられるのってよくね?新作のパフェを見つけるとファミレスとかスイーツ専門店とか茶屋とか関係なく店に入って糖分摂取することにしてる訳よ。これは俺のライフワークの1つだし。でもそういうことしてっと言わずもがな財布が厳しくなってくるから、土方と一緒の時に味わうようにしてるんだけど。土方に奢ってもらえるのは嬉しいし、美味いって言ったら良かったなと小さく笑ってくれるのも悪くねーし。


「美味そうに食うよな、いつも。」

「だって美味いもんは美味いんだよ。」


言っとくけどお前にはやらねーからと笑ってみせて、うっすらと桜が香るクリームをスプーンで口に運び続けていると、土方がちらりと俺を見た。それから何か言いたげに視線を泳がせ始めたもんだから、俺も何?と目線で問い返した。


「ついてるぞ。」

「あ?」


土方がぼそりと呟く。パフェを食いつつ土方に視線を移すと、土方はもう一度俺に声を掛けた。


「生クリーム、ついてる。」

「えっ、マジで!?」

「ああ。」

「どこ?」

「ここだ、ここ。」


向かいに座る土方が俺に分かるようにと、俺のではなく自分の口元に人差し指を軽く当てた。俺はそんな土方にちょっとむっとした気分になった。俺もいい歳した大人だから分別はある。けど、お前が取ってくれてもいいじゃんとか、そう思っちまった。平日の昼下がりのファミレスはそこそこ客で賑わってるって分かってっけど、土方があんまりだからよ。つい柄にもねーようなこと思っちまってもしょうがねーじゃん。ちょっと手伸ばすだけなのに。つーか、お前ってさ、「生クリームついてんぞ、銀時。…ったく、可愛い奴だな」って俺の口元の生クリーム指先で拭って見せつけるようにペロって舐めて、その後ちょっと意地悪く笑うようなキャラなんじゃねーの?お前ってそういうキャラだろ?何もしないとかさ、別の意味でキャラ崩壊じゃねーか!だから、俺は向かいに座る土方をじっと見据えたまま、ゆっくり口を動かして言葉を発した。


「………じゃあ、土方…」

「ん?」

「お前が取ってよ。」

「は…?えっ…」

「だからお前が取れよ、手ェ伸ばしてさ。」

「い、いや…俺は…」

「できねーの?」

「……それは、その…」


土方はそりゃもう明らかに狼狽え出した。俺の言葉に目を丸くして驚くわ照れるわ恥ずかしがるわ、そんな感情がありありと伝わって来た。周りの目もあるし、実際やられたら俺だってそりゃ恥ずかしいに決まってるけど、それでも周りの奴らなんざ気にするかよって言ってくれる土方が見たい。もういい加減少しは男らしいとこ見せてくれよ。


「…やっぱ、お前は…そういう奴だよな。」

「万事屋…?」


俺の声は小さすぎて届かなかったみてーだ。俺は困惑してる顔にへらりと笑ってみせると、今の別に冗談なんだけど、本気で焦るとか馬鹿じゃねーのとからかってやった。口元に手を当てて必死に動揺を隠す土方は可愛く見えるけど、でも俺はそれで満足はできねーんだよ。もっとこう男らしくどーんと構えてて欲しいんだよなぁ、俺の隣では。別にこれは欲張りな願いじゃねーと思うんだけど。そこんとこどうなんだよ、土方。





店を出ちまえば、俺らの時間はそこで終わりだ。休憩時間ギリギリまで俺と過ごしたがる土方はそのまますぐに仕事に戻ることになる。依頼もなくて暇な時間が多い俺はいつも途中まで見送ることにしてるが、今日はこいつと一緒に歩いていても微妙だった。さっきのは冗談だからと済ませたけど、俺はそうじゃなかった。土方くんは何もなかった顔で俺の隣を歩いてますけど。しかも微妙に距離があるんですけど。何だよ、お前のヘタレ具合気にしてんの俺だけかよ。


「なぁ、土方。」

「ん?どうした?」

「……いや、別に何でもねーよ。」

「そうか。」


あーあ、甘いパフェ食っても最後があれじゃあな。分かってんのかね、土方くんは俺の気持ち。そう言ってやろうかと思ったけど、結局言うのはやめた。


「俺、ちょっとぶらぶらすっから今日はここで。じゃ、お仕事頑張ってね〜。」


分かった、じゃあなと頷く土方に手を振って、俺はいつもより早く黒い背中を見送った。基本的に俺に優しいし、俺の我が儘にも付き合ってくれるけど。けど、やっぱ俺の彼氏ってカッコいいって思わせてくんねーかな。土方の背中をしばらく見つめた後、俺も人通りをゆっくりと歩き出した。



*****
ターミナル前の大通りに繋がる道は、かぶき町の中を走る道路と違ってきちんとコンクリートで舗装されてて、車の通りも割と多い。店もたくさん並んでるからいつも人で賑わいを見せている。道路に並んで真っすぐ伸びている歩道を依頼の帰りに1人でのんびり歩いていると、少し先にかっちりとした隊服を着た黒い背中を見つけた。


「土方じゃん。」


よっしゃー何か食わせてってねだってやろうと俺は早歩きして土方に近付こうとした。そのまま進んであともう少しで土方の背中に追い付くその時、不意に視界の隅で白っぽい小さな塊が動いた。


「ん…?」


何だと思って目線を下へ向けようとして、それが勢い良く車道に向かって行くのが分かった。そして、まるでその白い塊を追い掛けるように土方が車道に飛び出すのが俺の視界一杯に広がった。


「土方っ…!」


土方は僅かな瞬間で自分達に向かって来る車の位置をちゃんと把握して計算に入れたのか、危なげのない動きで受け身を取りながら白い塊を拾い上げ、反対側の歩道へと滑り込むように辿り着いた。


「土方の奴…!」


俺は俄かに騒がしくなった人の波を掻き分けるようにして土方の許へと急いだ。土方の身体能力を考えれば大怪我はしないだろうことは分かっちゃいた。だが、何無茶してんだよ、びっくりさせんなバカヤローくらいは言ってやろう。そう思った俺の視線は土方の両腕の中の物体へと吸い寄せられてしまい、近付く前に思わず足が止まった。


「大丈夫か、お前。怪我はねーよな?」

「にゃあ。」

「大丈夫みてーだな。良かった。」


少し離れた場所に立つ土方は、白い色の、光の加減によっちゃ銀色にも見える毛並みの野良猫を両腕に抱き抱えていた。腕の中の猫に向けるその笑顔がすげー綺麗で。


「カッコつけやがって、土方のくせに。猫、助けるとか…男前じゃねーか。」


その横顔に馬鹿みたいに目を奪われちまった。ときめいちまったんだ。ああ、俺、土方が好きなんだよなって。あんな顔を見るのは初めてだった。男らしくて、それでいて優しさの滲む表情を。


「…お前さー、いきなり道路に突っ込むとかひやひやしたんだけど。」


賞賛の人だかりもなくなり、背後から突然声を掛けられて驚いた土方がこっちを向いた。その拍子に腕の中の猫がひらりと軽やかに飛び降りて、俺のすぐ横を駆けて行った。その白い猫は真っすぐ細い道へ入って行く。俺は土方と一緒に路地へと消える小さな背中を見送った。


「名誉の負傷じゃねーの、土方くん。」


土方の右手の甲には擦り傷ができてて、そこには薄く血が滲んでいた。俺は土方の手を掴むと、小さな砂利や埃で汚れた手の甲をそっとさすった。あいにくハンカチなんて気の利いたもんは持ってねーから。土方はくすぐったそうにしていたが、反対の手で俺の指先を静かに撫でると、こんくらい大丈夫だと頷いた。


「俺は大丈夫だ。心配するな。」


何だかいつもより土方が眩しく見えてしょうがなくてそんな自分の単純さに笑いそうになっていると、土方がぽつりと呟いた。


「ほっとけなかったんだよ。あの猫、似てたからな…」

「土方…?」

「銀時、お前に、似てたから。」


俺があの猫に似ていると言われて、おいおい、俺は猫になんか似てねーよ。動物に例えんのやめてくんないって、そんな軽口も今は言えなかった。土方が初めてちゃんと俺の名前を呼んでくれたから。予想外の展開に俺は困惑した。何だよお前、数日前まで俺の前じゃ動揺するか恥ずかしがってすぐ赤くなるかくらいしかできなかったじゃねーか!俺が心の中でそんな風に叫んでるなんて知るはずもない土方は猫が消えてしまった細い道を再び見つめたが、それからゆっくりと俺に視線を戻した。


「お前が危険な目に遭った時は、俺が助けに行く。」

「ひじ、かた…」

「護りてェ、いつもそう思ってる。」

「…なんだよ土方、お前…ちゃんとそういうこと…言えたんだ。」

「当たり前だろ。俺は、お前が好きなんだ。惚れてんだよ。」

「……」


海のように深い色の瞳が煌めいて見えた。ずるい。卑怯だ。お前、ヘタレだろ?そんな急にカッコよくなんじゃねーっての。


「……まぁ、お前はああいう時は絶対助ける奴だしな。 …それに、さっきの、なんかいつもよりほんのちょーっとだけ…カッコよかったかなーとか…」

「万事屋…お前にそう言われるのは、すげー嬉しいな。」

「だからそうやってすぐ照れんな!あと何回も言ってっけど、銀時でいいから!」

「分かった。……銀時。でもやっぱり、名前で呼ぶの、恥ずかしいんだが……まだもう少し『万事屋』だとありがたい…」

「えーと、土方くん…」


土方は俺から視線を外して俯き加減になった。え?何で?ついさっきまで俺のこと真剣な目で見てくれたじゃん。そんで、名前もちゃんと呼べてたじゃん。やだ何なの、このV字の前髪の子!恥ずかしがるのもいい加減にしろよ。猫助けたのが台無しだよ。そして俺はいつまでお前のヘタレっぷりに付き合えばいいんだよ。イケメンだからって何でも許されないんだからね、土方くん。


「ああもうくそっ…!」


ヘタレでマヨラーでニコ中でヘタレのくせに、真っすぐで優しくて熱い魂持ってて。時々綺麗な笑顔を見せてくれて。土方十四郎という恋人は、結局は俺に幸せをくれるんだ。俺の幸せってのは形にすると土方になっちまうんだよなぁ、悔しいけど。だから、仕方ねーな、あともう少しくらいは大目に見てやるよ。






END






あとがき
頑張って書いてみたのですが、土方さんがちゃんとヘタレ方さんしていなくて申し訳ありません;;


銀ちゃんを前にすると赤くなったり、なかなか恋人らしいことができないのがヘタレ方さんかなぁと思いまして。私なりのヘタレ方さんはこんな感じです^^;そして、動物を助ける土方さんって格好良い!動物に優しい顔を向ける土方さん素敵!という私の偏った萌えで銀ちゃんに惚れ直して頂きました。原作で土方さんが猫銀ちゃんや定春に優しい表情をしていたので、そういう顔を見たら銀ちゃんもきゅんとしてしまうと思います!


このような土銀のお話になりましたが、どこか少しでも楽しんで頂ければ幸いです。ユキハナ様、この度は素敵なリクエストをして頂きまして本当にありがとうございました!

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