さあ、君と恋しようか
銀ちゃんが1日限定で5年後のパラレル世界にタイムトラベルしたお話です
映画の内容とは関係ありませんが、土方さんの髪型は5年後の設定でお読みくださいませ(デコ方さんがとても格好良かったので///)
「何なんだよ、あのニコチンマヨ中毒馬鹿!あー今でも腹立ってるわ、コレ。」
久々に万事屋に舞い込んだ依頼を終えた帰り道、銀時はスクーターを走らせながら昨日の土方との喧嘩のことを思い出していた。依頼のおかげで懐は温かく、目に映る空も青く澄み渡っているというのに、脳裏には喧嘩相手の顔が浮かんでしまって何とも言えない複雑な気分だった。子供達を連れて買い物をしていた途中に偶然通りで会った土方と喧嘩をしたのだが、殴り合いの喧嘩という訳ではなく、子供じみたいがみ合いを繰り広げてお互いに散々なことを言い合った。そして結局お互い一歩も退かなかったので、銀時は新八と神楽、土方は若い隊士達に宥められて何とかその場は落ち着いたのだった。
「くそっ、イライラするんですけど。」
銀時は様々な出来事を通して土方とは腐れ縁のような関係となっており、決して和気あいあいという間柄ではない。勿論友人でもなかった。それはお互いが感じていることだった。会えば憎まれ口を叩いたり、マヨネーズやストーカー上司の話題を持ち出してからかってばかりだった。けれども実は銀時は何となく土方のことが気になっていた。認めてはいけないに決まっているが、そんな風に心のどこかで気になっているからこそ、通りで土方を見つければ声を掛け、何か反応が欲しくてちょっかいを出していたのかもしれないと最近では思うようになっていた。
「俺、もしかして、土方のこと…いやいやあり得ないからね!なに乙女思考になっちゃってんの、俺は!うん、そうそう、別にちょっと気になるかもしれないかなーって思うだけで……えっ…!?」
スクーターを運転中だというのに土方のことをあれこれと考えていたせいで注意力が散漫になってしまっていたのだろう。交差点を抜けてそのまま右の角を曲がろうとした銀時の目の前に信号無視で交差点に入って来たトラックが迫っていた。うそっ、やべっ、こりゃ本当にマズいだろと必死でトラックを避けようとしたが、スピードを落とさないまま進入してきたトラックを回避する時間は銀時には残されていなかった。
「ああ、俺…」
死ぬな、確実にコレ。そう覚悟した瞬間、走馬灯なのだろうか、銀時の頭に大切な家族や仲間、旧友の顔が次々と浮かんで消えた。
「…悪ぃな、おめーら。」
死を覚悟して目を閉じる瞬間、昨日の喧嘩相手の顔が瞼の裏一杯に広がり、銀時は最後の最後まで土方のことを考えてしまった自分に笑うしかなかった。
「…時様。」
「……ん、」
誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。全身がふわふわと揺れるような不思議な感覚の中で銀時はうっすらと瞼を開いた。
「銀時様。」
「俺、は……」
意識が突然引き戻され、銀時はハッと我に返ると真っ先に自分の体をまさぐった。依頼の仕事が終わった帰り道、スクーターに乗っていた自分は確かに信号無視のトラックに轢かれたはずだった。だが銀時の体はかすり傷ひとつすら負っておらず、さらに不思議なことに先ほどまで乗っていたスクーターはなくなっており、ヘルメットもどこかに消えていた。一体何が起こったのか訳が分からなかった。舗装された道路の端に座り込んだまま辺りを見回そうとして、銀時は誰かが自分の目の前に立っていることに気が付いた。
「大丈夫ですか?」
「えーと、あれ?何でお前が…?」
スナックお登勢で働く機械のたまが銀時を見つめるように立っていた。たまは微笑みを浮かべながら、銀時に手を差し伸べてくる。銀時は彼女の手を取って立ち上がったが、この状況に動揺を隠せないでいた。
「たま、…だよな?何でお前がここに…つーか、俺、さっき…」
「色々と驚かれるのも無理はありません。さらに驚かせてしまいますが、私は、あなたの知るたまではありません。」
「は…?」
真剣な瞳を向けられたが、目の前の彼女はどこからどう見ても銀時のよく知る機械の少女だった。
「私は時間の流れを管理する存在の一個体です。本来は名前も明確な姿形もないのですが、あなたの時間を覗かせて頂いて、この姿ならばまだあなたが落ち着いて話せるのではないかと判断しました。ですから、たまと呼んで頂いて構いません。」
時間を管理する存在?これは夢なのだろうか。それとも死んでしまった後の世界に居るのだろうか。銀時は風に揺れる緑色の髪を困惑したまま見つめた。
「銀時様、あなたはあの事故で亡くなってしまうはずでしたが…5年後の世界に来てしまった。……イレギュラーなことが起きてしまったようです。」
「はあ!?ご、5年後!?え、ちょっと待って!よしまずは落ち着いて深呼吸しよう!」
「銀時様。」
「俺は大丈夫!びっくりしたけど大丈夫だからね。……ってことは、ここは…」
「ここはあの時にあなたが亡くなった後の未来の世界なのです。もしもの数だけ未来がある訳ですから。」
「俺がさっきの事故で死んじまった場合の世界ってことか。じゃあ俺、まだ死んでねーの?」
「そうですね、現状では…そういうことになると思います。今のあなたは時間の海を彷徨っている状態です。」
普通ならば信じられないような話であるが、銀時は信じるしかなかった。事故に遭ったはずなのに何事もなく生きているのが時間を飛び越えてしまった証拠だと思えたからだ。それだけではない、通りに視線を向けてみると、見知った馴染みの店と店の間に銀時の知らない店が幾つか建ち並んでいた。短期間で次々と店が新しくなることなど考えにくく、やはり5年後の世界に来てしまったのだと納得することしかできなかった。
「ちゃんと…戻れんだよな。」
「このようなことは初めてで。…私も…ですが、多分…」
「おい、それじゃあ、俺はずっとこのままだって言うのかよ!」
「…っ、銀時、様。」
目の前の肩が小さく跳ねた。銀時は彼女に八つ当たりしてしまったことに後悔を覚え、俺って馬鹿な奴だと俯いた。
「悪ぃ……大声出しちまって。お前に当たっても意味ねーのに。」
「どうぞ私のことは気にしないで下さい。」
「お前…」
「私はあなたの力になりたいんです。銀時様を元の世界に帰えさなければ秩序が乱れてしまいます。」
「……俺がこんな世界に来ちまったのには、きっと何か意味があると思うんだ。そうじゃなけりゃ、こんな体験なんてしねーだろうし。多分何とかなるんじゃね?だから、たま、よろしく頼む。」
俺1人じゃないだけでも心強いんだから。時間を管理する存在の彼女―銀時は彼女の言葉通りにたまと呼ぶことにした―に大丈夫だろ、と頷いた。
*****
とりあえずは移動してかぶき町を歩いてみようということになり、銀時はたまと共にのんびりと歩を進めた。見知っていはずなのにどこかが違うかぶき町の風景。銀時は視線を彷徨わせながら、ここは未来なんだから変わってて当然か、と心の中で呟いた。
「そーいや、万事屋、どうなってんだろうな。」
「銀時様、万事屋へ向かうのは構いませんが、約束は覚えていますね?私の姿は見えないから良いのですが、あなたの場合は…」
「分かってる。」
あなたはこの未来の世界では交通事故で亡くなっていることになっています。正しい時間の流れの中ではあなたは坂田銀時としてこの世界に存在してはいけないのです。私の力で今のあなたは別の他人の姿に見えるようにしています。ですから、親しい人達に会ったとしても自分は坂田銀時だと名乗ってはいけません。この約束を守って下さいと、たまは銀時に念を押したのだった。約束はちゃんと守るとたまに笑ってみせて、銀時は万事屋へと続く道を進んだ。あともう少しだ、とたまに話し掛けようとして、銀時は向こう側から歩いてくる2人組に視線が釘付けになった。
「新八…!神楽…!」
5年の月日が経って大人びた風貌になってはいたが、新八も神楽も変わってはいなかった。服装や見た目がそれほど変わっていないことよりも2人の明るい雰囲気が変わっていないことが銀時にとっては嬉しかった。スーパーの帰りなのか、新八が両手に白いビニール袋を提げており、その横で神楽が楽しそうに何か話していた。
「今日の仕事もバッチリだったアルな、新八!」
「そうだね、神楽ちゃん。」
「帰ったら買ってきたいちご牛乳供えてやるネ。」
「銀さん、きっと喜ぶよ。」
たまの力が働いているので、2人は銀時に気付いた様子もなく、そのまま通り過ぎて行った。
「2人で銀時様の意志を継いでしっかりと万事屋を営んでいるようですよ。」
「そうなんだな。」
「声を掛けなくても…?」
「今の俺の姿は誰か別の他人なんだろ?話し掛けたってあいつらを混乱させちまうだろうし。それに新八も神楽もちゃんとやってるって分かって安心したよ。」
銀時はそのままくるりと背を向けると、来た道を引き返し始めた。自分の家族が変わらずにたくましく生きている。その姿を見ることができただけでもここに飛ばされたこともまぁ悪くはない気がした。勿論何としてでも自分の世界に帰らなければならないが、帰った時に色々とお土産話ができそうだった。
銀時はたまを連れてかぶき町を抜けると、様々な店が並ぶ大通りへと足を向けた。次はどこに行こうかと考えて何となく人通りの多い場所に行きたくなったのだ。特に用事もなくぶらぶら歩いていたが、銀時は少し先に目を向けたまま急に立ち止まった。
「どうかしましたか?」
「あれ…土方…!?」
見飽きてしまうのではないかと思えるほどに目にしている黒い隊服が雑踏の中に見えた。土方だった。煙草を咥えている所は変わっていなかったが、未来の土方は銀時の知っている彼よりも精悍な顔つきになっていた。好きなのかもしれないと意識してしまっているせいで悔しいほど目を奪われそうになるその横顔以上に銀時の目を引いたのが土方の髪型だった。
「何あいつ、5年でイメチェンしたの?ふーん、おでこ出してんだ。V字の前髪じゃなくなってんじゃん。」
見とれてしまったのが少しだけ癪で、銀時は似合ってねーよと笑った。冗談めかしたように笑う銀時の隣で、たまは確かにイケメンの部類に入りますねと頷いていた。
「鬼の副長さんは相変わらず仕事でお忙しい訳ですか。」
巡回の帰りなのか、何か別の仕事なのか、土方は1人で通りを歩いていた。人ごみに見え隠れするその背中が何故か寂しげに見えて、銀時は土方を追い掛けていた。
「たま、来い。追うぞ。」
「分かりました。」
今の自分の外見では坂田銀時だとバレることはなく、さらに昔から気配を殺して移動することは得意であったので、銀時はある程度の距離を取りながらも土方の尾行に成功していた。5年後の世界で土方はどのように生きているのか気になってしまったのだ。自分が死んでしまった場合の未来で土方はどうしているのだろうと。
「土方の奴、どこまで行くんだよ。」
もう長い時間歩いていた。近代的なビル群を抜け、江戸の人々が暮らす家や長屋の区画を通り過ぎる頃には随分と緑が多くなっていた。建物が減って草木が増えてきてもまだ立派な江戸の町の中である。随分と外れまで来ちまったなと思いながらも、銀時は土方を追い続けた。
「…ったく、一体どこまで行くんだか。あ、もしかしてこの辺りにテロリストとか過激派の攘夷浪士の隠れ家があるとか?」
「銀時様、多分…」
たまが言葉を発しかけた時、数メートル先を歩いていた土方が歩みを止めた。そこは江戸の外れ、ターミナルを見下ろす高台の中腹にある共同墓地の入り口だった。土方はゆっくりと石畳みの坂道を歩いていくと、江戸の住人が眠るたくさんの墓を横切って、ある墓の前で立ち止まった。銀時はたまと共に土方から少し離れた躑躅の茂みの後ろに移動すると、しゃがみ込んでその身を隠した。
「あの墓は…」
「この世界のあなたのお墓です。」
墓石に自分の名前が刻まれているのは何とも複雑な気分だった。銀時は黙ったまま土方の背中を見つめた。
「さすがに毎日という訳ではないですが、土方様は時間の許す限り、多くの時間をこの場所で過ごしていらっしゃるようです。この世界の銀時様が亡くなってから毎日…」
「土方が…!?」
銀時は信じられない思いから何度も瞬きを繰り返した。あの土方が?いつも会う度に口喧嘩ばかりだった土方が俺の墓に?どうしても信じられなくて銀時は土方を見つめたが、世界や時間の流れが違っていてもやはり彼は銀時の知る面影を強く残した土方に違いなかった。
「意識してたかもしれねーってのは…俺の方じゃなかったのかよ…」
「銀時様?」
「俺と土方は会う度にいがみ合ったり馬鹿にし合ってて、でも俺は土方のこと嫌いとかじゃなくて、寧ろちょっと気になってたり、とか…最近思うようになっちまって。」
「そうなんですか。」
「…多分、好き、なのかもな。」
銀時を見て頷く彼女が心優しい機械に外見や口調を合わせてくれているからか、銀時は自分の気持ちを素直に口にしていた。だが恥ずかしい気持ちには変わりはなく、銀時はたまから視線を外して再び土方に目を向けた。土方は銀時に気付くことなく静かに佇んでいたが、不意にその肩が小さく揺れた。
「てめーが死んじまって今日でちょうど5年だな。てめーは死ぬとしたら戦いの中で誰かを護って死ぬんじゃねーかと俺は思ってた。交通事故なんざ笑えねぇんだよ。」
零れ落ちた低い声を包み込むような爽やかな風が土方の後ろ髪を揺らして駆けて行った。
「なぁ、銀時。」
銀時はまるで自分のことを呼ばれたような気がした。
「何で俺はてめーにちゃんと好きだと伝えなかったんだろうな。つまらねー意地張らねーで、ちゃんと気持ちを伝えてりゃ、こんな後悔なんざしなかった。」
土方の肩が震えた。銀時は食い入るように土方の背中を見つめた。土方はそのまま銀時の墓に回り込むように近付くと、手を伸ばして墓石を愛おしむように撫でたので、その横顔がよく見えた。
「…っ、ひじ、かた。」
『相変わらずマヨと煙草くせーんだよ、おめーは。死ね。』
『昼間からフラフラしやがって、この腐れニートが。てめーが死ね。』
そんな風に口喧嘩ばかりしていたのに。土方は泣いていた。肩を震わせることもなく、嗚咽も漏らしていなかったが、土方の頬に一筋の涙が流れ落ちたのが見えたのだ。この土方は未来の、しかも銀時があのまま交通事故で死んでしまった5年後の世界の人間であるが、銀時にはもうそんなことは関係なかった。自分が死んだとしたら、土方はきっとこんな風に泣いてくれるのだろう。土方の泣いた姿など初めて見たが、胸が締め付けられるように痛かった。
「…また来る。」
土方は銀時の墓に背を向けると、元来た道を歩き始めた。
「土方っ。」
銀時は夢中で躑躅の茂みから飛び出していた。
「あ?誰だ、てめーは。」
勢い良く飛び出したものの、今の自分は土方の知らない他人の姿になっていたこと思い出して銀時は慌てた。銀時から少し離れて立っている、今はたまと呼ばせてもらっている彼女も銀時にしか見えない存在だった。
「あ、えーと、俺は…そうそう、昔、銀さんに世話になったことがあって。江戸に寄ったついでに墓参りでもしようかと思ってここに…」
「そうか、あいつの世話になったのか。」
咄嗟に吐いた嘘であったが、土方は銀時の話に耳を傾けた。
「…あんた、土方だろ?」
「そうだが。そういや、お前、さっき俺のこと…」
「待て待て、俺、あんたのこと知ってんの。俺、銀さんと屋台で飲んだことがあってさ、結構仲良くなっちゃって、その時聞いたんだよ。…銀さん、喧嘩したり、いがみ合ったりしてたけど、あんたのこと…好きかもしれないって。……あんたも好きだったのかよ。」
「……」
土方が目を見開いた。その表情はたった今聞かされた言葉に明らかに動揺している物だった。自身を落ち着かせる為だろう、ゆっくりと息を吐く姿を黙って見つめながら、銀時は土方の言葉を待った。目の前の人物は今後会うこともない赤の他人だから構わないと思ったのか、土方は少しだけ逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。
「俺も同じだ。素直になれなかったが、ずっとずっと好きだった。」
今でも好きだがな。そう呟くと、土方は困ったような顔をしながら隊服の内側に手を忍ばせ、愛用の煙草を取り出して吸った。そして満足げに紫煙を吐き出すと、今度こそ銀時の前から去って行った。
*****
夕方になって辺りが茜色に染まり始めた頃、家路を急ぐ人々の波に逆らうように銀時とたまは交通事故現場であるあの交差点へと戻って来た。
「……やっぱ俺も、素直にならなきゃいけねぇよ。だから、俺、帰りてーよ。」
必死な声は銀時の焦りを如実に表していた。自分が死んでしまった後の5年後の世界に理由も分からず飛ばされてしまっても、多分何とかなるだろうと思っていた。けれども未だに元の世界に戻れないでいるのだ。このままでは新八や神楽達に会えないままになってしまう。それ以上に土方に気持ちを伝えることがもう二度とできないかもしれないことが悲しかった。
「けど……」
銀時は弾かれたように隣に立つたまを見た。
「考えてみりゃ、俺、元の世界に戻っても結局あのまま事故で死んじまうんじゃねーの?ってことは、どっちにしろあいつらには、もう会えねぇってことに…」
「銀時様。強い思いがあれば、きっと大丈夫です。未来は変えられます。時間の流れの中でイレギュラーなことが起きただけなのですから。…大切な人達の所へ帰りたいと強く願えば、あなたの思いは届くはずです。賭けかもしれませんが、私はそう思っています。こんな存在ですけど。」
私には残念ながらその方法しか思い付きませんが、銀時様ならば大丈夫です。ですから、信じて下さい。強い瞳が背中を押すように真っすぐに銀時を見た。
「そうだよな。分かった。お前を信じるよ。そして俺自身の思いも…信じる。てめーがてめーのこと信じなくてどうするよ。」
銀時はぎゅっと目を瞑ると、新八、神楽、定春と順番に万事屋の家族を思い浮かべた。そして最後に土方の顔を脳裏に描いて、俺の居場所に帰りたいと強く願った。どうしても帰りたいのだと。その瞬間、瞳を閉じていても分かるほどに眩しい白い光が銀時の全身を包んだのだった。
「万事屋!お前、何やってんだよ、死にてーのか!」
「えっ…?」
ハッと気が付くと銀時はスクーターごと道路に転がっていた。すぐ目の前をクラクションを鳴らしながらトラックが勢い良く走り過ぎて行く。それは銀時がこの世界とは異なる未来の世界に行く前に銀時を轢くはずだったあのトラックだった。
「土、方…」
声がした方を振り返ると、銀時のすぐ後ろに必死な顔をした土方が立っていた。銀時は無我夢中でスクーターを起こして慌てて道路の端まで移動すると、交通事故かと集まって来た人々に自分で転んだだけなんです、すいませーん、と愛想笑いを振り撒いた。そして呼吸を整えると、土方へと近付いた。真っすぐに見つめてくる土方に、何でここに…と尋ねてみると、土方はいつもの無愛想な表情に戻り、仕事帰りでたまたまこの辺りを歩いてたら、てめーが見えたんだと口にした。
「…本当に何やってんだ。もう少しで轢かれるとこだったんだぞ、てめーは。分かってんのか?」
「…悪ぃ。」
土方に怒られながら、それでも、ああ帰って来たんだという実感がじわじわと銀時の胸に広がった。自分の居場所にちゃんと戻って来ることができたのだと。だから、一歩踏み出さなければならなかった。あの世界に飛ばされて色々な物を見て、土方の想いを知って、素直にならなければと決めたのだから。
「なぁ、あのさ……」
「何だよ?」
「……」
「話があるなら黙ってねーで…」
「あ、えーと……うん、……土方、おめー、俺のこと…好きなの?」
言葉にしたら、やはり恥ずかしくて。俺は真っ昼間の往来で一体何訊いてんだと、銀時は全身がぶわっと熱くなるのを感じた。
「…何でそれを…いや、ちげーよ。…俺は別に……万事屋、やっぱりてめー、さっき派手に転んで頭でも打ったんじゃねーのか。」
「頭は打っちゃいねーけど、まぁ、なんつーか、色々あってさ。土方、俺はね、…素直になんねーといけねぇかなって。」
「…素直、か。そうか、……万事屋、その言葉…嘘じゃねーんだな?」
からかってるつもりなんてない、本当だと土方を見つめて、銀時はにんまりと笑った。
「俺、土方くんに恋してたりすんだよね。」
「っ、万事屋…」
土方は肩を揺らした後、銀時から少しだけ視線を外しながら、お前が素直になるってのに俺がこのままでいい訳がねぇよな、と照れくさそうに呟いた。これが自分達の精一杯だ。けれども銀時は心が温かくてふわふわと満たされた気分だった。
「あ、そういえば…土方、おでこ出したら反則的にイケメンになんのは分かったんだけど。」
「は?突然何の話だ?」
「でも当分はそのV字の前髪のまんまでいいよ。」
「おい、だから何の話だ?」
「それは秘密!」
銀さん、ちょっと壮大な旅行に行ってたから。何のことだ?と不思議がる土方の隣で銀時は目を細めた。あの世界に飛ばされて、静かに涙していた土方に出会ったことは確かに意味のあることだったのだ。銀時が好きな、今目の前に居る土方とこれから恋をする為に。
「俺のこと好きならさ、まずはファミレスで奢ってもらおっかなー。後でスクーター停めてくっからよろしく。」
「上等だ。…その代わり、今夜は帰さねぇぞ。」
ぶっきらぼうに告げた土方だったが、その瞳は嬉しそうに輝いていた。銀時は土方の腕を掴んで頷くと、優しくしてよね、土方くん、と綺麗に笑った。
END
あとがき
おかしな所が満載のお話で申し訳ありません(+_+)あれです、土銀最高!というのと、劇場版完結篇最高!という私の気持ちが少しでも伝わっていれば、それだけで満足です(*^^*)
読んで下さってありがとうございました!
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