愛情は詰まってます
銀ちゃんが土方さんにご飯を作ってあげているお話です
『お前の飯が食いたい。今からそっちに行きたいんだが、大丈夫か?』
時々忘れた頃になって、そんな電話が万事屋に掛かってくる。それは大抵銀時が1人でのんびりとしている昼下がりの時間に多くて。新八と神楽がよく出掛けている時間帯に掛けてくる辺り、向こうも考えてやがるなぁと思ってしまう。屯所の食堂のメニューに飽きた。お前が作ってくれる料理が恋しい。土方は毎回電話口でストレートにそう告げて、銀時に昼食を作って欲しいとお願いをしてくるのだ。なんか面倒くさいから嫌だと言ってみた所で、強引に万事屋に押し掛けてくることは目に見えている。だから結局は、分かったよと言うしか選択肢はなかったりするのだ。一応土方とは世間一般に言う恋人関係であるので、昼食を作ってくれと言われれば、まぁ作ってやるしかないのかなぁと、銀時はいつもそんな風に思っていた。
『…じゃあ、もう少ししたら行くから。』
「ん、分かった。何か適当に作って待っとくわ。」
電話の受話器を置くと、銀時は読みかけだったジャンプをソファーの端に置いた。そのまま先ほどまでの電話の内容を頭の中に思い浮かべる。そういえば土方から電話を貰ったのは久しぶりな気がした。土方は基本的には仕事の休憩中に屯所の食堂で遅い昼食を取るらしいのだが、時々無性に銀時の手料理が食べたくなるという。なるべく銀時の迷惑にならないようにと土方なりに考えているのか、昼食を食べに来るのは1ヶ月に2、3回程度であったし、子供達の手前、夜に食べに来るようなことはなかった。夕食に関しては2人で待ち合わせをして居酒屋で飲めばそれで十分だと考えているようだった。
「今日はどうすっかな…」
土方の電話はいつも突然なので、銀時は前もって恋人の昼食を用意しているという訳ではない。確か冷蔵庫に昨日の夕食の残りがあったはず。あとは何かあり合わせの物を作ればいっか。銀時はそうしようと頷くと、のんびりとした足取りで台所へと向かった。
*****
そんな当たり前みたいな顔して座られるとさ、何となくムカつくんですけど。土方に聞こえないように銀時は心の中で呟いた。別に料理をすること自体は嫌いではないし、1人で暮らしていた時期もあったので、そこそこちゃんとした物も作ることができる。だから土方の為に料理を作ることも本当の所は別に苦ではない。それよりも、ここで食べるなら材料費くらい払えよなーという気持ちの方が銀時の中では大きかったりする。食費はできるだけ切り詰めているというのに。だから俺、当たり前みたいな顔してる土方に若干イラっとしたのかも。食費だけでなく、人件費も支払って欲しい所だ。小鉢を乗せたお盆を持って台所から居間に戻って来た銀時は、ちらりと土方に視線を向けた。土方は隊服の上着を脱いでソファーに座り、気持ち良さそうに煙草を吸っている。だが銀時が戻って来たことに気付くと、煙草をガラスの灰皿に押し付けた。勿論その灰皿は、銀時が事前に用意してテーブルに置いていた物であるが。
「電話、突然だったからさ、昨日の残り物が多いんだけど…」
銀時は我慢しろよなと呟いて、土方の前に料理を並べていった。土方は午後からも仕事があるので、残念ながら毎回の如くビールはお預けだ。昨日はちょうど銀時が料理当番であったので、その時に作った肉じゃがと味噌汁、それから先ほど急いで用意したほうれん草のおひたしと出汁巻き卵が食卓を彩ると、土方は明らかに嬉しそうな顔を見せた。
「食べていいか?」
「どうぞ。」
土方はいただきますと丁寧に両手を合わせると、早速肉じゃがを食べ始めた。口に出したことはないが、ずぼらな自分と違って土方のこういう礼儀正しい所が、こっそり好きな部分だったりする。銀時は、美味しそうに肉じゃがを頬張る姿を向かいのソファーに座って眺めた。
「やっぱり、銀時の味付けの方がいいな。食堂のは濃すぎだ、あれは。塩も多い気がするし。」
「俺、味付けなんていっつも適当なんだけど。そんな大層なもんじゃねーよ、悪いけどさ。」
「いや、やっぱり嫁の味が一番美味いに決まってんだろうが。」
「はあ?嫁っ!?な、何言ってんだよ!馬鹿だろ、お前。ほんとに馬鹿だよね?」
やっぱり食べた分の食費を支払えと悪態を吐こうとしたが、目の前の幸せそうな顔に思い切り心臓を鷲掴みにされてしまって。銀時は自分の中の面映ゆい気持ちを誤魔化すように、土方の湯飲みに麦茶を注いだ。陶器製のその湯飲みは、いつもは見えないように食器棚の奥にしまってある。目の前の湯飲みもそうだが、茶碗に箸、ガラスの灰皿。いつの間にかこの部屋の中に土方が使う物が増えていた。いつの間にか土方の居場所ができていた。付き合っている訳であるからそれは当然のことなのかもしれない。以前の自分の生活から考えてみれば不思議なものであるが、それが酷く心地良くもあり。銀時は、まぁこんなのも悪くないかもと思いながら、よく噛んで食べろよと土方に笑い掛けた。土方が自分の隣で、自分が作った料理を食べて、幸せそうな顔をする。そんなほんの小さな日常の出来事が、何よりも心を温めてくれるのだと思わずにはいられなかった。
*****
「何でこんなことになってんの?っていうか何で俺、こんなことしてんの?」
午後の陽射しがぽかぽかと気持ちが良いある日のこと。銀時は目の前の障子を勢い良く開け放つと、部屋の主に声を上げた。土方は書類仕事をしていた手を止めると、座ったまま銀時を見上げて嬉しそうにを細めた。
「おい、土方!何なの、お前は。いきなり電話してきたと思ったら、弁当作って持って来いって。ほんとお前、何様だよ。」
「何様って、旦那様じゃねぇのか?俺はお前の旦那になるつもりだからな。」
何得意げな顔してんだよ。全然上手くねぇよと思いながら、銀時は持って来た弁当箱をぶっきらぼうに差し出した。何だかんだ言って結局土方の為にお弁当を作って持って来てしまったのだ。自分も本当に大概だなぁと呆れるしかなく、土方のことが好きなのだなと改めて思い知らされてしまった。
「わりぃな。一度でいいから、仕事中に愛妻弁当ってやつを食ってみたかったんだよ。」
「そのにやけた顔、気持ち悪っ。あーあ、冷凍食品ばっか詰めてやれば良かったな。…ちゃんとしたの作ってやったんだから、感謝しろよ。」
土方はおぅと頷き、目を輝かせて銀時の手から弁当の包みを受け取った。そして書類が山のように積まれている机の上に置くと、楽しそうに包みを解き始めた。もう12時を過ぎていたので、仕事を中断してそのまま食べるのだろう。銀時は土方から少し離れた畳の上に座り込んだ。
「土方、何?俺のことじっと見て…」
「いや、帰らなくていいのかと思って。」
「だって、お前が食べ終わった後の空の弁当箱、持って帰らなきゃならねーだろ。」
お前、相変わらずそういう所が可愛いな。愛しさを込めて頬に触れてくる男らしい手がくすぐったかった。
「なぁ、まだ帰らないつもりなら、この弁当、お前が食べさせてくれよ。」
「はあ?そんなの絶対やだっつーの!1人で食べろよ。」
いいじゃねぇかとじゃれてくる恋人を適当にあしらったが、お前が作るも物は本当に何でも美味いんだからな、いつも言ってるけどよと耳元で囁かれてしまい、その不意打ちに銀時は恥ずかしさのあまり固まってしまった。でも、こんな小さなことで喜んでくれるなら、これからも美味しい物を作ってやってもいいよ。だけど、たま〜にだからな。心の中ではそんな風に思ってしまって。銀時は土方の腕に抱き締められたまま、照れくさそうに小さく笑った。
END
あとがき
土方さんは銀ちゃんの作るご飯が大好きで、時々万事屋に食べに来ていたとしたら、大変萌えます!銀時の味が一番だぜ!とかさらっと口にして、銀ちゃんを照れさせてあげて下さい^^好きな人の手料理はやっぱり特別な物ですからね♪銀ちゃんは普段はやらないだけで、家事全般は得意ではないのかなぁと勝手に思っています。料理ができる銀ちゃんというのは個人的願望です。土方さんにぴったりの奥さんですね(*´∀`*)
読んで下さいまして、ありがとうございました!
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