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花より…
花にまつわるお話です




恋人に贈る為に花束を買う。土方にとってそれは実は初めての行為だった。巡回中に偶然目に入った名前も知らない白い可憐な花。花屋の店頭にそっと飾られていたその花を見た瞬間、土方の脳裏に大切な恋人の微笑みが浮かんだ。新雪のように白く透き通る肌と、キラキラと陽の光に輝く銀色の髪にはきっとあの花が良く似合う。そんな風に思えたのだ。だから土方は巡回が終わって真選組の屯所へと帰る前に件の花屋へと立ち寄った。そして若い店員に頼んで、恋人である銀時に贈る為のミニブーケを作ってもらったのだった。


だが、いざ銀時に花束を渡すとなると、どうしても慣れないことに対する気恥ずかしさが勝ってしまって、土方は花束を脇に抱えると万事屋へと続く道ではなく、大通りに店を構える和菓子店へと足を向けた。そして江戸で有名なその店で銀時が好きそうな団子を数種類買い込んだ。甘味が好きな銀時に団子を渡して、そのついでのように花束を渡せば自然に花を贈ることができるのではと考えたからだ。


「これなら、大丈夫だろ。」


高級和菓子店を出て、土方はホッと息を吐いた。右手には団子が入っている綺麗な紋様の施された紙袋、左脇には慎ましやかな小さな花束。総悟に見られでもしたら確実に冷やかされること間違いなしだが、銀時のことを想えば自分のことなど構っていられなかった。


「銀時…」


小さな花束を脇に抱えて、真剣な顔付きで万事屋へと歩いていく土方の姿を通りすがりの女性達が羨望の眼差しで見つめていた。真選組の副長に花束を贈られる相手は一体どこの誰なのだろうかと。端正な顔立ちとストイックな雰囲気を纏う土方に対して憧憬の念を抱く女性は少なくなかった。だが、当の土方といえば銀時のことで既に頭が一杯であり、複数の熱い視線に全く気付くことはなかったのだった。



*****
「おおっ!今日の手土産は豪華じゃん!でかした、土方!」


今から会いに行くと少し前に電話をしていたので、銀時はどうにか理由を付けて子供達を追い出していたらしく、玄関先で出迎えてくれたのは彼一人だった。会う度にいつも安心感をくれる存在を眩しい思いで見つめると、土方は銀時に見つからないように小さく深呼吸をした。そしていつも通りの表情で、お前にやるよと花束と手土産を渡したのだ。だが案の定、銀時は土方の想いが込められた花束ではなく、高級店の団子の詰め合わせの方に目を輝かせた。恋人が多分そういう反応をするだろうことは可憐な花を買った時点で十分過ぎるくらいに分かっていた。それでも少しくらいはあの花束を気にしてはくれないだろうか。土方は案内された居間の机の上に無造作に置かれてしまった白い花に視線を向けると、心の中で溜め息を吐いた。


「お前は、花より団子だな…」

「そんなこと、ねーよ。うわっ、やっぱ美味いな、この団子。」


嬉しそうな顔で一生懸命団子を頬張っているというのに、どの口がそう言うのかと思ってしまう。隣に座る銀時は土方を気にすることなく包みを開けて黙々と団子を食べている。甘い物に頬を緩ませるその姿は側で見ていて確かにとても可愛いと思う。だが、今日はそれが目的ではなかったのに。


「…いや、どう考えても花より団子じゃねーか。」


銀時は口に入れようとしていた串刺しの団子を一旦皿に戻すと、土方から贈られた白い可憐な花にチラッと視線を送った。


「花より団子ね…」

「そうだろ?銀時、お前は…」


俺が花を贈っても全然無関心じゃねーか。土方は喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。続きの言葉を待つように掴み所のない赤い瞳が土方をじっと見つめたかと思うと、それはフイと逸らされた。そのまま俯くように床に視線を落とした銀時の横顔を土方は黙って見つめた。


「花より、団子より…土方。」

「え…?」


今日会いに来てくれて嬉しかったんだけど、これでも。2人だけの部屋に静かに溶けていった言葉に土方は目を瞠った。


「銀、時。今、お前…」


俺、新しいことわざ作っちまったんじゃね?そう言って顔を上げた銀時は照れたように笑った。不意打ちのその笑った顔がとても綺麗で、何よりも愛しくて。土方は嬉しさのあまりに自分の体温がじわじわと上がっていくのを感じた。


「今度ここに来る時、またこんな風に…花贈ってもいいか?」


土方も銀時と同じように照れてしまって上手い言葉がみつからず、そんなことしか言えなかった。


「だから…別に、花とかいらねーよ。女じゃねぇし。」

「そうか…。そうだよな。花はいらねーって言うなら、それなら甘い物だったらいいよな?」

「そりゃ勿論そっちの方が俺としちゃあ嬉しいけど…」

「銀時?」


銀時はその先の言葉を口にするのを躊躇うような素振りを見せたが、土方をチラッと見て、あのさ…とゆっくりと言葉を続けた。


「別に、花や糖分なんか持って来なくても、なんつーか、その…だから、お前がこんな風に会いに来てくれるだけでいいっていうか…いや、えっと、今のは…」

「銀時!」

「まぁ、さっきもことわざ作ったとか言ったけど、俺は花より団子より、お前がいいって…思っちまったりしてる訳よ。」


本当にどうしたらいいのだろう。目の前の恋人はこんなにも自分を喜ばせていることをちゃんと自覚しているのだろうか。銀時への愛しさが溢れ出して止まらなかった。きっとこの恋人のことだ、今日贈った白い花も大切に扱ってくれるのだろう。


「銀時。」


あー、俺何言ってんのと恥ずかしそうに唇を尖らせる銀時の腕を掴んで引き寄せると、土方は両腕の中の愛しい人を優しく優しく抱き締めたのだった。






END






あとがき
花束よりも大好きな甘味よりも土方さん、みたいなデレ銀ちゃんはとっても可愛いと思います!いつもは花より団子でも土方さんと居るとやっぱり土方さんが一番だといいなと思います!


読んで下さってありがとうございましたv

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あきゅろす。
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