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I'll be there
朝まで一緒に居た後の2人のやり取りです




お互いを思うままに求め合い、その後疲れて眠りに就いてしまったとしても。隣にある温もりをいつも無意識に感じているような気がする。包み込まれるような、酷く安心できる感覚を。


束の間、夢の中の世界を旅していたのだとしても。目が覚める前にはいつも優しく抱き締められているのだと分かる。布越しに肌と肌が触れ合って、その場所から自分達の熱が溶け合い、1つになってしまったのではないかと錯覚してしまうほどに。


2人静かに眠って朝を迎える時はいつもそうだ。幸せで、温かくて、ただ穏やかで。普段よりもお互いの体温を近くに感じられて。それが嬉しくて堪らなくて。傍らに感じる存在が泣きたくなるほどに愛しいのだ。


あぁ、今日も目が覚めると自分はあのかけがえのない温もりに浸っているのだろう。自分だけが許された、特別な場所。全てをそっと包み込んでくれるその腕の中で。



*****
意識の覚醒とは、いつも不意に訪れるものだ。窓の向こうのぼんやりとした薄明かりは、銀時の瞼を開かせるのには十分な役割を果たしていた。遠くから雀達の鳴き声が微かに耳に届く。万事屋の前の道を通る人の気配はなく、枕元の目覚まし時計を確認せずとも、まだ起きるのには随分と早い時間であることが分かった。体にはどこか心地良い疲労感と、ふわりとした温かな感覚。銀時は昨日の夜のことと今現在の状況を思い出して、布団の中で勢い良く顔を上げた。見上げたすぐ目の前には目を細めて嬉しそうにしている恋人の顔があった。


「おっ、やっと起きたな、銀時。」

「…土方。」


自分の寝顔なんて、それこそ数え切れないほど見られてはいる。けれども銀時は何となく恥ずかしくなり、慌てて布団の中に潜ろうとした。だが、背中に優しく回されていた腕に少しばかり強引に引き寄せられ、銀時の頬が土方の肌に触れた。その肌と肌が触れ合う感覚に心が震える。銀時は抱き締められたままで視線だけをそっと動かした。どうやら土方は下は穿いているようだったが、上半身裸なのだと分かった。 あれ?それじゃあ、俺は?と、銀時は視線を戻して自分の格好を確認する。いつもの着流しを1枚羽織っているだけであったが、下着は穿いていた。そういえばいつの間にか体も綺麗に清められていて、汗もかいておらず随分さっぱりとしている。しかしながら一体いつ着替えたのか、銀時には全くと言っていいほど記憶になかった。これはどう考えても自分が眠っている間に目の前の恋人が全てやってくれたに決まっている。いつもこんな感じで色々世話焼いてくれんだよな。そんな風に思っていると、背中に回されている腕の力が強くなった。この腕の中の距離が本当は嬉しくて幸せであるのに、恥ずかしくて心の中で思っていることを口には出せなかった。


「…土方、お前、起きるの早くね?…まだ外に誰も居ない時間じゃん。」

「仕事でいつも早く起きるからな。これくらいの時間になると、自然と目が覚めちまうんだよ。まぁ今日もこの後屯所に帰ったら仕事だしな。」


土方は名残惜しそうに銀時から腕を解いて布団から起き上がると、そのまま静かに立ち上がった。無駄な物など何一つない鍛えられた体が銀時の瞳に映る。健康的な色をした土方の背中を銀時は眩しい想いで見つめた。自分の肌は男らしくなく女性のように白い方だと思っているので、こっそり土方が羨ましかったりする。それでも、お前の肌は雪のように白くて綺麗だなと甘い睦言を囁かれてしまうから、絶対に自分は土方には敵わないのだ。


「銀時。」


銀時の肩が小さく揺れた。土方がこれ以上ないくらいの甘い声で名前を呼んだからだ。銀時は頬の熱さを堪えるように一度だけギュッと目を瞑ると、どこか観念したようにその身を起こした。これからやらなければならないことは嫌というほど分かっている。土方と一夜を共にした翌朝は必ずやっていることなのだから。あ〜もう、毎回毎回ほんと恥ずかしいんですけど。心の中でそんな風にぼやいてみても、結局自分は抗うことなどできないと分かっている。銀時は群青色の瞳に促されるままにゆっくりと立ち上がった。とりあえず着物を羽織っているだけでは足がスースーするので、恋人の隊服と共に寝室の隅に脱ぎ捨てられていたズボンを履くことにした。銀時はそのまま土方の横をすり抜けてタンスの前まで行くと、そっと足を止めた。


「土方。それ、昨日穿いてたやつだろ?ほら…新しいのと、ついでに靴下も。俺、ちゃんとあっち向いててやるから。」


銀時はタンスから隊服のスラックスと靴下を引っ張り出すと、振り向きざまにほらよと土方に投げて渡した。土方が片手で受け取ったのを確認すると、再びくるりと背を向けた。10秒数えるまでに着替えろよ〜とのんびり声を掛けると、おぅと声が返って来た。銀時は土方が黒のスラックスを穿き終えるのを待つ間、そのままタンスの中へと視線を落とした。寝室に置かれている銀時のタンスの中には、自分の服と共に土方の隊服一式が入っている。ハンガーに掛けた上着にきちんと折り畳まれた白いカッターシャツ、ベスト、スカーフ、そして先ほど手渡したスラックスとグレーの靴下だ。土方がここに泊まって、次の日そのまま屯所に戻っても大丈夫なようにしてあるのだ。


「銀時…」

「…んな声、出すなよ。」


再び土方に甘く名前を囁かれ、銀時は分かってるからと恥ずかしそうに小さく呟くと、アイロンを掛けておいた洗い晒しのカッターシャツを手に掴んで土方に近付いた。土方とはほとんど背丈は変わらないし、体つきもそれほど差がある訳ではない。それなのに、何となく護られているように感じてしまう。そんな風に思うのは、いつもこの体に抱き締められているからなのだろうか。銀時はカッターシャツを握ったまま土方を見つめた。土方の目の前に立っていると、昨夜の幸せな時間が瞼の裏に蘇って来てしまい、まともに顔が見られなくなりそうだった。


「…毎回思うんだけど、自分で…着替えろっての。」

「いいじゃねぇか。これくらいはお前に甘えたって。」


な、いいだろ?土方がねだるように右腕を前に差し出す。あぁもう駄目だ。土方のことが、好きだから。銀時は土方に寄り添うように距離を詰めると、土方の腕を取って袖口に通した。そのままもう片方の手でシャツの襟元を掴んで、土方の背中を包み込むように着せていく。男らしくて逞しい上半身が白い色に隠されてしまうことが少しだけ残念に思えて、何考えてんだよ、俺は、と銀時は自分の気持ちを落ち着かせた。


「左腕くらいは自分でやれよな〜。」

「まぁ、今回は言うこと聞いてやるよ。」


土方は仕方ねぇなとシャツの左袖に腕を通すと、そのままじっと銀時を見つめた。射抜くような視線に嫌でも絡め捕られる。銀時は思わず小さく喉を鳴らすと、躊躇いながらも腕を伸ばしてシャツのボタンを1つひとつ留め始めた。土方が部屋に泊まる度に毎回毎回やっていることなのに、土方との距離を感じ過ぎて酷く動揺してしまう。銀時は土方を見ないように下を向いたまま、ボタンを留めることだけに必死に意識を集中させようとした。


「銀時…指、震えてんぞ。」


土方がからかうように小さく笑う気配がした。指が震えてしまったとしても仕方がないではないか。だって自分は、こんなにも目の前の相手を強く意識してしまっているのだから。


「う、うっさいな。別に震えてなんかいませーん。…いい?今ちょっと話し掛けんな。気が散るわ。」


そんな風に強がってみせても、結局恋人には全てお見通しのようで。ゆっくりと顔を上げてみると、先ほどよりも嬉しそうに笑う土方と目が合った。銀時は耐え切れずに勢い良く後ろを向くと、タンスの中に無造作に手を突っ込んでベストを取り出した。そして、幸せそうな表情を浮かべたままの土方に無言で一歩近付くと急いでベストを着せた。だがそれは端から見れば、まるで自分から土方を抱き締めるかのような体勢で。とにかく恥ずかしくて堪らず、ホックを留める手がつい乱暴になってしまった。もうこんなこと早く終わってしまえ。そう思うのに、今からが一番恥ずかしくて居たたまれない瞬間だった。土方から目を逸らした銀時の視線の先には、白く眩しいスカーフがあった。


「……巻きにくいから、ちょっと、下向けよ。」

「あぁ、わりぃな。」


昨日あられもない姿を散々見られ、あれ以上恥ずかしいことはないはずだというのに、土方との距離の近さにあり得ないほど鼓動が速くなる。俯く端正な顔がすぐ目の前にあり、土方の息遣いが頬を撫でるように耳に届く。スカーフを巻くだけなのに、心臓が馬鹿みたいにうるさくて。静かな部屋の中、銀時の手の動きに合わせてスカーフの衣擦れの音だけが響いた。


「銀、時。」

「な、何だよ…?…ひじ…」


顎を掴まれ、攫うようにそして掠め取るように唇を奪われていた。土方の手が銀時の腰に回される。薄物を羽織っただけの体は隊服越しであろうと土方の温もりに敏感で。頬がぶわっと熱を持ち、体が疼きそうになった。


「ひじ…かた…ちょっ、お前っ、馬っ鹿じゃねぇの?朝から盛るなっての!」

「目の前にこんな可愛い奴が居たら…我慢できなくなっちまうに決まってんだろ。」

「ほんと、お前は…いいから早く上着着ろ!早く!」


銀時は土方の腕の中から抜け出して引き出しの上の扉を開けると、中に掛かっていた隊服の上着を思い切り投げつけた。だが土方は難なくそれを受け止めると、照れんなよと余裕の笑みを浮かべた。銀時は照れてねぇよと叫んだが、頬は今も熱いままであり。きっと自分は真っ赤になっているのだろうなと、銀時は溜め息を零した。そんな銀時に笑い掛けると、土方は俯き加減で隊服の上着に腕を通した。着替えなど日常の何気ない行動でしかないはずなのに。凛とした空気を纏う恋人の姿にただ見とれてしまった。それはもう悔しいくらいに。


「それじゃあな、銀時。」

「あー、うん…」


いつもの隊服姿になった土方が寝室から出ようとしたが、そのまま歩みを止めて振り返った。


「どうせお前のことだから、この後二度寝するつもりだろ?」

「うっ、別にいいじゃん。早く行けよ、もう。神楽が起きたら困るし…」

「銀時、行ってくる。」


ここが自分の帰る場所だ。真剣な瞳がそうなのだと告げていた。


「いってらっしゃい。仕事、頑張って来いよ。」


小さく手を挙げて土方に応えると、彼は満足げに頷いて万事屋を出て行った。恋人の姿が見えなくなり、銀時はそのままゆっくりと布団に倒れ込んだ。二度寝なんてできるはずがなかった。土方の温もりと真っすぐな瞳と唇の熱さが余韻となって銀時を包んでいたのだから。銀時はじっと天井を見つめていたが、不意に布団から起き上がると、窓辺に近付いて外を見やった。窓の向こうには、朝靄の中でもはっきりと分かる愛しい人の背中があった。


「土方。」


遠ざかる土方に想いを込めて優しく微笑むと、銀時は視線を移して白み始めた爽やかな空に目を細めた。






END






あとがき
朝チュン後に旦那の着替えを手伝う嫁の図です^^銀ちゃんが土方さんの着替えを手伝うのって、個人的にとても萌えます!土銀の2人だからこそ着替えシーンに萌えを感じてしまいます〜(*^^*)ですが、文章で表現しようと思うとすごく難しいですね(^^;)うぅ、表現力が欲しい。雰囲気だけでも感じて下さればと思います。


読んで下さいましてありがとうございましたv

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あきゅろす。
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