[携帯モード] [URL送信]
背中越しの君の体温
現代パロで同棲している設定です




ほら、早くしろって。もたもたしてると会社遅れちゃうんじゃね?玄関先に座り込み、急いで革靴を履こうとする土方の頭上から声が降って来る。耳に届いたその声は、急げと言う割にはどこかのんびりとしたものであり。自分の恋人は普段からこんな調子であるので、土方は特に気にすることもなく靴を履き終えて立ち上がった。すぐ目の前には玄関のドアにもたれ掛かるようにして、土方の恋人である銀時が立っている。寝癖のせいで銀色の髪はいつも以上にふわふわと左右に跳ね、赤いマフラーに埋めた顔は起きて間もないからだろうか、まだどこかぼんやりとしていた。眠気と戦いながら必死に欠伸を噛み殺す顔は、いつも思うが本当にあどけなく見えて可愛い。土方は玄関に突っ立ったまま銀時を見つめていたが、よっしゃ行くかと玄関を開ける銀時の姿にハッと我に返った。


「何ぼけっとしてんだよ、土方。置いてくぜー。」

「お、おぅ。わりぃ、待てって、銀時。」


土方は玄関脇に置いていた鞄を持つと、慌てて銀時の側に移動した。部屋を出ると外はまだ薄暗く、冬の寒さに自然と体が震えた。土方は冷たい風に小さく身震いすると、黒のロングコートの前を合わせた。隣に立つ銀時は相変わらず眠そうな顔でダウンジャケットのポケットから部屋の鍵を取り出している。そんな銀時を微笑ましい思いで見つめながら、土方はこんな風に銀時の側に居られる幸せを感じていた。



*****
「やっぱママチャリにして正解だったよな〜。」


だって2人乗りがすっごい楽だからね、コレ。土方もそう思うだろ?少しばかり弾んだ声と共に背中に柔らかな温もりを感じて、土方は自転車を漕ぎながら、あぁそうだなと口元に笑みを浮かべた。後ろに乗っている愛しい人の重みで自転車はなかなか思うようにスピードが出ないのだが、土方にとってはこの重みはかけがえのない幸せの重さと同じだった。もうすっかり毎日の日課になってしまっているのだが、銀時はこんな風に会社に行く土方について来て、最寄り駅まで見送ってくれるのだ。2人で住んでいるアパートは家賃が安い為に駅から遠く、徒歩ではそれなりに時間が掛かってしまう。社会人になったばかりの土方では、フリーターの銀時を養いながら駅の近くの高級マンションに住む余裕はまだない。いつかは綺麗で高機能なマンションに引っ越して、銀時を喜ばせてあげたいと密かに考えている。けれども駅から遠くに住んでいるからこそ、こうして朝から小さな幸せを感じることができるのだから、今の生活も存外悪くないのだと思えた。


「土方、もっとスピード出さねぇと遅刻すんぞ。ほらほら〜。」


土方の腰に腕を回していた銀時が突然体を乗り出すようにしてグッと土方の背中に体重を掛けた。不意を突かれてバランスを崩しそうになった土方の耳に、クスクスと忍び笑いが届く。銀時はこの状況を楽しんでいるようだが、土方としてはもう少し大人しく乗っていて欲しいと思ってしまう。できれば、そっと寄り添うように自分の背中にその身を預けてくれないだろうかと。


「おい、銀時!体重掛けんなって。危ねぇだろうが。」

「そんなに怒んないでよ、土方君ってば〜。」


今日の銀時はどうやらいつも以上に機嫌が良いようだ。自分の後ろで楽しそうにはしゃぐ気配が伝わって来る。太陽が昇りきらない薄暗い住宅街の道は、会社員や学生達がちらほら歩いているだけだ。時折吹く強い風に土方の巻いているグレーのマフラーの先がふわふわと揺れ、マフラー飛んでっちゃいそうだねとぽつりと銀時の呟く声が聴こえた。


「あー、冬の朝は辛いね。…ほんと寒いわ。」

「銀時、寒ぃんだったら…ほら。」


恥ずかしがらねぇでもっとくっつけよと土方は後ろを振り返ったが、荷台に座っている銀時は予想外に黙ったまま唇を尖らせていた。どうしたんだよ、急にそんな顔してと尋ねると、さっきくっついたら危ねーってお前怒ったじゃんと、銀時は拗ねたような顔になった。あぁもう本当に愛しくて可愛くて。土方は黙って前を向くと、左手をハンドルから離して銀時の手にそっと触れた。革手袋越しに温かな銀時の手の感覚がする。だがすぐに、片手運転は危ねぇだろうがと、ぺしりと手を叩かれてしまった。本当は嬉しい癖に素直じゃない奴だなと思いながら、土方はペダルを漕ぐ足に力を込めた。



*****
駅までの道も半分以上が過ぎ、閑静な住宅街の道からコンビニや小さな店が建ち並ぶ通りに差し掛かった。後ろに銀時を乗せて長い道を走って来たせいか、土方はほんの少しだけ息が上がっていた。考えてみれば、会社に着く前に結構な運動をしていることになる訳だが、疲れたとしても銀時に代わってもらおうとは思わない。恋人が自分の背中にくっついて腰に腕を回してくれる方が嬉しいに決まっているのだから。ギュッと抱き締めてくる銀時の腕の強さに幸せが込み上げて、ずっとこのままでもいいのになどと無理なことを考えてしまった。


「なぁ、土方。」

「ん?どうした?」


土方の後ろで大人しくなっていた銀時が再び土方に声を掛けた。気が付けば駅も近くなって来ており、一緒に自転車を乗っている時間もそろそろ終わりが近付いて来ていた。


「…今日の夜さ、何食べたい?」

「そう、だな…」

「あ、言っとくけど、困った時に良く言う『お前の料理は何でも美味いから任せる』ってのはナシだからね。」

「お、おぅ…じゃあ…肉じゃがと、カレイの煮付けが食いたいかな。昨日、中華だっただろ?だから和食がいい。」


おっけ〜分かった。お前が食べたい物作ってやるよ。俺に任せとけと銀時が張り切った声を出した。こんな何気ない日常のやり取りに土方の心はこんなにも満たされる。銀時がくれる温かな気持ちにもっと浸っていたかったが、悲しくも駅の入り口が土方の視界に映り込んだ。


「…駅、着いちゃったな。」


少しだけ残念そうな声が土方の耳に入り、次いで銀時がゆっくりと自転車から降りて土方の隣に立った。土方も自転車のカゴから鞄を取り出すと、行ってくると銀時に片手を挙げた。


「うん、いってらっしゃい。」

「ああ、じゃあな。」

「あのさ…俺、今日のバイトいつもより早く上がれるんだよね。昨日店長に言われてさ。…だから、今日は帰りも迎えに行ってやるよ。」

「銀、時…」


銀時は毎日朝の見送りはしてくれるが、会社が終わって迎えに来てくれると言ってくれたのはこれが初めてで。ちゃんとメールしろよと言う銀時に、土方は思い切り頷いた。あぁこれで今日も1日頑張れるな。土方は銀時と別れる時にいつも思うことを今日もまた同じように思った。


「今日も仕事頑張れよな、土方。」


自転車に跨って小さく手を振る銀時に愛しさを覚えながら、土方は人混みの向こうに消えていく大切な人の背中を見送った。






END






あとがき
見送りの彼女を後ろに乗せて必死に自転車を漕ぐ会社員の彼氏を通勤中に偶然見掛けたのですが、これって土銀で考えたら萌えるかも!と思って書いてみましたら、ほのぼの甘めの土銀になりました^^朝から2人乗りしてらぶらぶな土銀可愛いですv


読んで下さいましてありがとうございました!

[*前へ][次へ#]

55/111ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!