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雪華舞い散る
クリスマスイブのお話です




お互いを求め合った後の心満たされた感覚と心地良い疲労感を全身に感じながら、銀時は土方の隣に体を預けるようにして座っていた。今日はクリスマスイブだから、これでもかってくらいにお前を愛したいんだと恥ずかしげもなく真剣な顔付きで言われてしまえば、もうどうしようもなく心が震えてしまって、家に来た土方をそのまま寝室に案内するしかなかった。そうして土方と幸せなイブの時間を過ごして。今、銀時は隣に座る恋人の温もりを静かに感じている。2人共簡単に服を着て寝室の窓際に座っていたのだが、不意に土方が手を伸ばして寝室の窓を開け、四角く切り取られた濃紺の空を見上げた。


「雪降らねーな、今年も。」

「えっ!?何?ホワイトクリスマス期待してたの?土方くんはロマンチストだねー。」

「そんなんじゃねぇよ。」


土方は否定の言葉を口にしたが、明らかに照れた表情になった。別にちげーよ、と恥ずかしそうにそっぽを向く土方の横顔を見つめながら、こいつって可愛い奴だよなと、銀時は心の中でこっそりと笑った。土方は自分はロマンチストではないと言ったが、いいや、そんなことはないだろうと銀時は思う。ロマンチストでなければ、優しく甘い声で好きだの愛してるだの毎回さらりと口にはできないだろうから。銀時は土方に向けて俺もお前が好きだとか愛してるとか、愛の言葉を告げることは滅多にない。どうしても恥ずかしさが勝ってしまって、なかなか言葉にすることができないからだ。だから恥ずかしがることもなく、さも当然のように愛を囁く土方のことをすごいと思ってしまう。よくそんなことが言えるよなぁと。先ほど土方の腕に抱かれた時もこれ以上ないくらい恥ずかしくて赤面してしまうような甘い言葉を何度も贈られたのだ。普段の土方は組織を纏める立場に相応しく寡黙な雰囲気を身に纏っているのだが、自分と一緒に居る時だけは目を細めて幸せそうな顔を見せ、お前が好きだと笑ってくれる。銀時はそれが嬉しくて、少しくすぐったい気持ちになるのだ。だから今この瞬間も銀時は土方の隣でそんな風に感じていた。


「別にそんな照れなくていいって。…まぁ確かに最近はイブの日に雪降んなくなったよな。」


銀時も窓から見える冬の空を見つめた。開け放った窓からは冬特有の冷たい空気が流れ込んでくる。随分と冷え込んではいるが、土方と過ごす2回目のイブも多分雪は降らないのだろう。残念ながら朝の天気予報でそう言っていたからだ。銀時は窓際に膝立ちになって外を眺め続けていたが、ひやりとした空気に寒さを感じて思わず身を震わせた。


「何か寒くなってきたよ、コレ。」

「銀時、こっち来い。」

「っ、ひじ…」


振り向くより早く背中から抱き締められてしまい、気が付けば土方の顔がすぐ間近にあった。見飽きているはずのその端正な顔に銀時の心臓は大きく跳ねた。突然何すんだよと声を上げて気恥ずかしさを誤魔化そうとしたが、さっきは無理させちまったし、寒そうだったから心配になったと優しく微笑まれてしまえば、もうお手上げだった。密着した背中から伝わるもう1つの体温が愛しくて。離さないとばかりに腰に回された両腕の強さに嬉しくなってしまって。本当に土方には勝てないと思い知らされた。腕の中に居る銀時が急に押し黙ってしまったことに薄着だからやはり寒かったと思ったのだろう、土方はこれでも掛けようぜと寝室に置かれていた掛け布団を引っ張ると、銀時と自分の背中に羽織るように掛けた。寒くねぇかと問い掛けてくる土方に、大きな黒い犬が引っ付いてっから大丈夫と冗談混じりに頷いたが、銀時はもう少しだけ土方に近付き、彼からこっそり温もりを分けてもらった。


「こんなに寒かったら、雪でも降りそうだけどな。」

「さっきから雪雪って、どうしたんだよ、土方。そんなに雪降って欲しいの?」


なあ、どうしてだよ?銀時は頭を傾けてヒョイと土方の顔を覗き込んでみた。間近で銀時と思い切り目が合ってしまった土方は嬉しそうにした後、少しだけ恥ずかしそうな顔になった。あのさー、普段見せないそういう顔はやめて欲しいんですけど。マジで心臓に悪いわ。ほんと馬鹿じゃねーの?こいつ分かってんのかなー、と銀時は心の中でぶつくさ文句を言った。土方が恋人として自分だけに気を許して色々な表情を見せてくれることがこんなにも嬉しいのに、だからこそ胸に広がるどうしようもない嬉しさを持て余してしまって、ついつい文句を言ってしまうのだ。結局振り回されてるなぁと思いながら、そういえば雪の話だったと銀時は我に返って再度土方に問い掛けた。


「ひじかたー。質問の続き。なぁ、ちゃんと答えろよ。」

「…ああ、そうだったな。」


土方は銀時を腕の中に抱き締めたまま小さく頷いた。だが肝心の答えを口にはせずにフッとその口元を緩めると、銀時の頬を愛おしむように手のひらで何度も撫でた。土方に体を預けていた銀時は、背中越しの優しい温もりと愛情を感じさせる指先の感覚にふわふわとした心地良さを感じた。あまりの幸福感にそのまま夢の世界に旅立ちそうになったが、何だか土方にはぐらかされているように感じられて、体を捻ると自分を抱き締めている人物をじっと見つめた。言っとくけど、そんなんで俺は誤魔化せないからね、と。だが土方は銀時の視線を受け止めても特に動じることはなく、頬を撫でていた手を動かして今度は銀時の頭を包むようにそっと撫でた。


「何なんだよ、土方。」


土方は銀時の質問に答えることなく、愛しさの滲んだ眼差しで銀時を見つめては頬や髪を撫でるだけだった。土方に愛されているのだと感じられることは、確かに心がほっこりする。けれども銀時は段々とこの状態に飽きてきていた。基本的に恋人に触られるのは嬉しいが、もう十分だろう。それよりどうして自分の質問に答えないのか。銀時はそちらが気になった。もしかして土方は聖なる夜に小さな子供みたいに外で雪遊びでもしたかったのだろうか。だけどいい大人だし、そんなこと恥ずかしくて言えないとか?もし本当にそうだとしたらすげー笑えるな。神楽や新八と毎年雪遊びをしていることを棚に上げて銀時が心の中でにやにやしていると、不意に耳元で土方に名前を呼ばれた。


「……雪見てるとな、銀時、お前のことを思い出すんだよ。白くて綺麗なお前を。」

「えっ…」

「雪が降ったら、白い雪が映えて、綺麗なお前がもっと綺麗に見える。だから今日、雪降らねぇかなって考えてた。」

「は?ちょ、何恥ずかしいこと言ってくれちゃってんの!?…別に俺、綺麗じゃねーよ。お前、馬鹿だろ?馬鹿だよね?」


馬鹿にはこうしてやらなきゃならねーな、と銀時は土方の頭を叩いた。割と力を込めて強く、だ。恥ずかしいことをこうもさらりと言われては、こんな反応をしてしまうに決まっている。顔を殴らなかっただけマシだろう。力強く頭を叩かれた土方は、いってーと涙混じりの声を出して銀時を見たが、すぐに表情を和らげると、困った奴だなと眉尻を下げて苦笑した。


「…言ったら絶対叩かれるか殴られると思ったんだけどな、それでもやっぱり言いたくなっちまった。本当のことだからな。」

「土、方…」

「この髪もこの肌も雪みてーに白くて綺麗で、消えちまいそうに儚く見えて。でも、こんなにもあったけぇんだ。」


土方の男らしい長い指が再び銀時の頬をするりと撫でて、それからゆっくりと名残惜しそうに離れていった。


「銀時。お前の何もかもが綺麗だ。」

「なっ、何なの、お前!何?ポエマー気取りですか、コノヤロー。」


自作ポエムでも作って売る気か、と思わず突っ込んでしまおうかと思うほどに銀時は動揺してしまった。土方の真剣な顔をまともに見ることもできそうにない。はっきり言って恥ずかしくてどうにかなりそうだった。多分今の自分は絶対に顔が赤くなっているに決まっている。何故なら今こんなにも全身が熱くなっているからだ。銀時は照れた顔を思わず両手で隠そうとしたが、隠さなくていい、と目を細めた土方に優しく止められた。そしてそのまま労るように両手を包み込まれてしまった。何度も言うが、土方には絶対に勝てないと銀時は降参するしかなかった。


「…っ、銀時、見ろよ!雪だ、雪!」


2人だけの寝室に突然土方の声が響いた。窓を背にして座っていた銀時は土方の声に誘われるままに窓の向こうに視線を向けて、あ、と小さく声を出した。四角く見える濃紺の冬空に音もなくはらはらと粉雪が舞っていた。土方が嬉しそうな顔で窓から腕を伸ばす姿をほんとに可愛い奴、と横目で見ながら、銀時は窓から身を乗り出して外を眺めた。土方と同じようにそっと手を差し出してみると、白く冷たい雪は手の中に落ちて、ゆっくりと消えていった。


「白い花みてーだな。」

「うん、俺もそう思う。なぁ、良かったじゃん、土方。お前のお願い叶った訳だし。」

「そうだな。こういうことってあるんだな。」

「俺もびっくりした。だって天気予報はずれたんだもんな。」


銀時は髪や肩に付いた雪を払い、上半身を引っ込めて部屋に戻ると、窓の桟に頬杖をついて白く染まり始めた世界を眺めることにした。窓の向こうを見つめていたが、土方が急いで隣に座る気配を感じてしまい、自然と笑みが零れた。


「銀時、やっぱりお前には雪がよく似合うな。」

「あっそ。なんなら今から外にでも見に行く?」

「お前が風邪引いちまったら困るし、ここからで十分だ。」

「そう?なら別にいい…」


綺麗に笑った土方の顔が目の前一杯に広がったと思った瞬間、口付けられていた。外を眺めて少しだけ冷えていた唇は、土方の熱ですぐに温かくなって。与えられるその温もりに銀時は確かに土方への愛しさを感じた。


「…土方。」

「ん?どうした?」

「明日、クリスマスだろー?あ、もう今日だけど、とにかく俺、ケーキ食いたいから、いちごが乗ったホールのやつ買って。」


クリスマスイブは寝室に直行して土方との甘く幸せな時間は味わったが、結局ケーキは食べていなかったのだ。銀時の可愛らしいおねだりに土方は勿論当たり前だと大きく頷いた。


「じゃあ、朝買いに行くか。」

「やった!」

「…雪、積もってそうだよな。」

「どんどん降ってるしな。あっ、そうだ!ケーキ買ったら、雪だるま作ろうぜ。俺、こう見えて結構得意だからね。」

「相変わらず可愛いな、お前は。」


雪だるま作るって子供かよ。土方が喉を鳴らして笑う姿に銀時もつられるように小さく笑おうとして、楽しそうな瞳の土方に再び口付けられた。引き寄せられて目を閉じる瞬間、銀時の赤い瞳の中には優しく微笑む土方と風に舞う雪華が映っていた。






END






あとがき
クリスマスイブのお話です。今回はロマンチストではなく、銀ちゃん大好きな土方さんになりました。というよりは銀ちゃん馬鹿な土方さんですね。大真面目な顔で銀ちゃんに愛を囁く土方さんも良いと思います^^銀ちゃんを照れさせちゃってもらいたい!


クリスマスもらぶらぶな2人は本当に最高ですよね^^読んで下さってありがとうございました。

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あきゅろす。
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