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黒白ワルツ 1
W副長パロです




何となく気に食わない。だから多分絶対にウマも合わないだろう。それが銀色の髪をした男を見た時の第一印象だった。上からのお達しでな、今日から俺達の仲間になることになった坂田銀時だ。トシと同じ副長だから、これからは副長が2人になる訳だが、皆仲良くしろよ。突然何の知らせもなしに、近藤が自分達を広間に集めてもう1人の副長になるという人物を紹介した時には心底驚いた。副長というのは真選組の支柱である局長の近藤を支え、実質的に組織を統制する立場にあり、仕事も非常に忙しく、責任だって他の隊士達と比べ物にならないほど大きいのだ。だからこそ、はっきり言って目の前の男にそれが務まるのかと思ってしまった。人を見た目で判断するべきではないと頭では分かっているが、近藤の横で面倒くさそうな顔で気だるげに立っている男を見ていると、別に自分以外に副長などいらないのではないかと言いたくなる。そのどこか投げやりにも見える顔をじっと見つめていると、取りあえず俺も皆に自己紹介した方がいいよねと、男がうんうんと頷いた。その頭の動きに合わせて銀色がふわりと揺れる。


「えっと、今日から真選組の副長になる坂田銀時で〜す。あ、俺…副長なんて呼ばれるのかったるいんで、別に坂田とかでいいから。俺なんかよりちゃんとした副長は別に居るんでしょ?」


赤い瞳がそっと自分に向けられる。お互いの視線が合いそうになったが、別に合わせる義理もないと思ったので、あからさまだったかもしれないが自分からフイと逸らした。


「だからさ、堅苦しくしなくていいからね。それと、仕事はまぁうん、ちゃんと頑張ろうとは思ってるんで、とりあえずこれからよろしくな。」


それなら、俺は旦那って呼ばせてもらいやす。隣に座っていた総悟が楽しそうな声を出すのを苦虫を噛み潰したような顔で睨んでしまった。あぁやはり見た目通りだった。へらりと総悟に笑い返す男をちらりと見やって、知らず小さく溜め息が零れた。


この坂田銀時という男は、どうにも気に食わない奴だ。これから先自分と上手くやれるとは思えない。これがもう1人の副長を初めて見た時の自分の素直な気持ちだった。


*****
「入るぞ、いいか。」

「どうぞ〜。」


すぐ隣の部屋の障子を開けると、うず高く積み上げられたジャンプの山が目に入り、次いで甘ったるい香りが鼻についた。その香りの正体が何なのかは、この数ヶ月で嫌というほどに分かってしまっていた。机の上に視線を向けると、多分飲みかけなのだろう、飲み口にストローが入ったままのいちご牛乳のパックが置かれていた。そのピンク色のすぐ横には書類が何枚も積み重ねられていて。誤ってジュースを零したらどうするつもりなのだろうかと文句を言ってやりたくなった。だがグッと堪えて机から視線を戻すと、部屋の主は自分が部屋に入って来たというのに起き上がることもなく、仰向けのままで楽しそうにジャンプを読んでいる。今は仕事中であるということを分かっているのだろうか。ちゃんと隊服を着ているだけまだマシなのかもしれない。そんな風に考えて何とか心を落ち着かせると、この部屋に来た目的を告げた。


「もうそろそろお前の巡回の時間だ。俺はこのまま午後から書類仕事だからよ。銀時…お前、その机の上の書類はちゃんと処理したんだろうな。」

「い、今からやろうと思ってたの。だけど、俺の巡回の時間なんだろ?だったら土方が俺の分もやればいいじゃん。お前、今から書類仕事やるって言ったし。」

「あのな、そこにある書類は全部俺の署名はし終わって、後はお前だけなんだよ。漫画ばっかり読んでないで、ちゃんと仕事しろ。」


思わずきつい口調になってしまうのも仕方がない。けれども銀時は自分に注意されてもそれほど気にする素振りは見せず、よいしょと畳の上から起き上がった。そして、帰って来たらちゃんとやるからそんなに怒んないでよと小さく笑って、じゃあ行ってくるねと、ゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。


「…ったく、銀時の奴。」

銀時に遅れて部屋を出ると、そのまま隣にある自分の部屋へと戻った。隊服の上着を脱いでシャツの袖を捲り上げると、未決済の書類が積み上げられている机の前に座った。一番上の書類を手に取ろうとして、不意に何故だか銀時の顔が脳裏に浮かんだ。銀時はああいう性格であるが、隊内では彼を慕う者は多い。平隊士は勿論、総悟や山崎も旦那旦那と何かと銀時の側に居る。かく言う自分も、いつの間にか下の名前で呼ぶようになっていた。初めて会った日、お互い副長なんだから仲良くやろうぜと握手を求められても、何となく気に食わなくてその手を握りはしなかったのに。気が付けば銀時と呼び、自分の方も土方、偶にではあるがトシと呼ばれることを許していた。第一印象で上手くやっていける気がしなかったのに、文句を言いつつもそれなりにではあるが、銀時とやれている。仕事人間の自分からすれば、総悟と共にすぐにサボろうとする銀時は全くもって苛立ちの原因でしかない。だが今は、それすらも銀時だから仕方がないか…と許してしまっている自分が居る。数ヶ月前はこんな奴が俺と同じ副長なのかよと、快く思っていなかったはずなのに。一体自分はどうしてしまったというのだろう。もしかしたら、銀時の放つあの所々跳ねた髪と同じようなふわりとした雰囲気に飲まれてしまったのかもしれない。他の皆と同じように。


「銀時、ちゃんと巡回してんだろうな…」


銀時のことを考えていたせいで、そんなことが頭に浮かんだ。副長が2人になってから巡回の担当場所も二分され、自分は江戸の西側を、銀時は東側を担当することになった。巡回は江戸の街の安全確認という一見すると目立たない毎日の仕事だが、攘夷浪士達の情報収集や彼らの拠点になりやすい廃ビルの調査などの重要な役目もあった。だからこそ、副長である銀時にはできることならきちんと仕事をして欲しいと思ってしまう。


「だけど、どうせ甘味でも食ってんだろ。…ほんとに仕方ねぇ奴だよな。」


溜め息と共に口元に笑みが浮かび、ハッと我に返った。今までなら何サボってやがんだと苛々して、何かしら文句をぶつけていたはずだった。それが今はどうだ。すっかり銀時のペースになってしまっているではないか。


「何考えてんだよ、最近の俺は…」


それではいけないと小さく首を振った。馴れ合いは駄目だ。真選組ではたくさんの隊士を纏め上げる為の局中法度があり、色々と守るべき事の中に、与えられた仕事を誇りを持って全うすべしという事項もある。特別扱いなどもってのほかではないか。副長であるならばそれは尚更だ。そうでないと下の者に示しがつかない。どうやら気が付かない内に自分は銀時に甘くなっていたのかもしれない。初めの内はこんな奴…と思って、ここ最近は一緒に過ごしていく中で自分の考えが変わったのか、少しずつお互いに上手くやっていて。でもだからといって、銀時が副長としての職務を十分果たしていないことを見過ごして良いことにはならない。


「書類仕事は遅ぇし、巡回も隙を見て総悟と一緒にサボろうとするし、浪士共の大量検挙の時だって理由付けて斬り合いにも参加しねぇし…一度ちゃんと説教した方がいいかもな。」


そうするかと、次の書類に目を通そうとして、先ほど見た銀時の顔が再び浮かんできた。じゃあ行ってくるねと、自分に向けられた控えめな微笑み。ふわっと花が綻んだようなその表情は、自分の中からなかなか消えてはくれず。どうしてこうも銀時の顔がちらつくようになったのか自分でも良く分からなかった。この頃の自分はやはりどこかおかしいのだろう。そう思えて仕方なかった。

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あきゅろす。
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