もっと知りたい
銀ちゃんお誕生日ネタです
お互いに気になっている2人です
自分はもうれっきとした大人であり。ましてや小さな子供じゃあるまいし、誕生日を迎えたぐらいでいちいちはしゃぐようなこともない。祝ってもらうのは勿論悪い気はしないけれど、わざわざ自分の為に気を遣わなくてもいいと思ってしまう。お金を掛けるなんて以ての外だ。だから、別に気にすることなんてないのに。誕生日なんてものは。
普段と違う特別なことに自分はどうにも慣れていないから。だから、何気ない日常の、変わらない小さな幸せがあればそれでいい。それだけでいいのだ。
今日は昼までぐっすりと眠ったので調子も良く、遅い朝食を取りながら新聞でも読もうかな、そんなすっきりとした気分だった。銀時がまだ少しだけ眠い目を擦りながら居間に向かうと、視線の先にはソファーに座る新八と神楽が居た。銀時がおはようさんと居間に入って来るなり2人は勢い良く立ち上がると、今日は絶対に夕方まで帰って来るなと銀時に向かって強い口調で言い放った。
「絶対帰ってくんじゃねーヨ!」
「銀さん。僕、ご飯作っておいたんで、食べたらすぐに出掛けてもらっていいですよ。今日はパチンコでもファミレスでもどこでも好きな所に行ってていいですから。」
「はあ?え〜と、何?お前ら、突然…」
銀時は子供達に訝しげな瞳を向けた。普段ならば依頼がなくて暇潰しにパチンコにでも行こうものなら、この駄目人間、最低な大人の典型だ、みたいな蔑んだ目で見てくるというのに。何故だか今日に限って2人が優しいことに銀時は変な気分だった。何か裏があるのだろうかと考えてみたが、逆らうと何だか後が怖そうだったので、とりあえず大人しく子供達の言うことを聞いておくことにした。いつもの服に着替え、新八が作ってくれた朝昼兼用の食事を済ませた頃には、早く出掛けるようにと万事屋を追い出されてしまっていた。
「んじゃあ、何か良く分かんないけど、好き勝手してくるわ。」
「いってらっしゃい、銀さん。」
「当分帰って来なくていいアル〜!」
玄関先で珍しく2つの笑顔に見送られた。ま、適当にぶらぶらすっかぁ。銀時はそのまま階段を降りようとしたが、不意に玄関の扉の向こうから聞こえてきた声に思わず立ち止まった。銀ちゃんも居なくなったから、これでパーティーの準備ができるアル。新八、飾り付けはお前に任せるネ。ちょっと神楽ちゃん、声が大きいって。銀さんに聞かれたらどうすんの?そんな2人のやり取りを耳にして、銀時はあぁ…とすぐに納得した。多分自分の為に内緒で誕生日パーティーの準備をしてくれているのだろうと。改めてカレンダーで確認しなくてもちゃんと分かっている。今日は自分の誕生日だった。
「そういえば、ここ数日、新八も神楽も何かそわそわしてたっけ。」
別に俺の為にわざわざそんなことしなくてもいいのにな。階段をゆっくりと降りながら、銀時は心の中で小さく呟いた。子供達には気を遣わせたくはない。家族のように馬鹿やって過ごす毎日の中で、自分はもう十分に満たされている。それだけでいい。強くそう思う。それでも。それでもやはり、小さな嬉しさを感じてしまうのも事実だった。自分の為に心を砕いてくれる存在が身近に居ることに。
「…とりあえず、パフェでも食いに行くか。」
まずは食後のデザートからだ。銀時は一度だけ万事屋の方を振り返ると、そのままのんびりと通りを歩き出した。
*****
行きつけのファミレスでDXいちごパフェを時間を掛けて存分に味わい、団子屋でまったりした後、銀時はパチンコでもしながら時間を潰すことにした。今日は自分の誕生日なのだから当たりでも出ないだろうかとうっすら期待してみたものの、結局いつも通りの結果だった。それから長い時間、パチンコ店でだらだらと過ごしていたのだが、遂にそれすらも飽きてしまって、銀時は再び大通りへと足を向けた。次はどこへ行こうかと目的もなく歩いていると、少し先のコンビニの前で見知った人物を見つけた。
「土方。」
「万事屋か。」
相変わらず暇そうだな。銀時に気付いた土方がゆっくりと近付いて来る。銀時も少しだけ歩みを速めて土方の隣に立った。土方君がコンビニって珍しいじゃんとからかってみると、俺だってコンビニくらい行くに決まってんだろと、ぶっきらぼうな返事が返って来た。
「今、巡回の休憩中なんだが、ちょうど煙草が切れちまってな。自動販売機は近くにねぇし、今日は山崎は一緒じゃねぇから、自分で買いに来たんだ。」
「ふ〜ん、そっかぁ。」
銀時は、以前から何となく土方のことが気になっていた。土方とは言うなれば腐れ縁のような関係であり、街で会えば口喧嘩をしたり、いがみ合ったりしている。それなのに、いつの間にか目で追うようになってしまっていた。言葉を交わす度に笑った顔が見たいなと思うようになってしまっていた。土方のことが好きなのか、土方とどうこうなりたいのか、自分でも良く分からない。でも、もう少しだけ一緒に居たいかなと思うのだ。銀時は土方をそっと見ると、意を決したように、あのさと声を掛けた。
「…俺、実は今日、誕生日なんだよね。」
「ああ、知ってる。」
淡々と紡がれた言葉は全く予想外の内容であり、銀時は目の前の整った顔をこれでもかと凝視してしまった。
「えっ、ちょっ…何で!?お前に俺の誕生日って教えてないよね?何!?真選組って2人もストーカー居んのぉ!?普通に怖いんですけど。」
ちょっと気になっているかもしれない相手が自分の誕生日を知っていたことに動揺してしまい、何か冗談でも言わないと落ち着いていられなかった。だが土方は銀時の内心など知る由もない訳で。今、俺、変な顔してないよね?と、銀時はこっそり深呼吸をした。土方はそんな銀時の動揺に気付いた気配はなかったが、少しだけ言いにくそうにしながら口を開いた。
「ストーカーって…そんなんじゃねぇよ。まだテメーが白夜叉って判る前だけどな、こっちで色々と調べたことがあったんだ。お前、桂達の騒ぎに巻き込まれたりしてただろ?だから攘夷浪士の奴らと関係してねぇかって、お前の調書を作らせて、それ読んだ時に、まぁ…誕生日も分かっちまったんだよ。」
調書か。土方の紡いだ言葉に銀時はなるほどと納得した。確かに仕事のできる土方ならば、真選組の副長として、どんな小さなことでも不安要素は調べ上げそうだと思えた。勿論銀時は現在攘夷活動をしている訳ではないし、土方もその辺りはちゃんと分かっているだろうから、特にまずいことはなかった。銀時にとって寧ろ問題なのは、土方が自分の誕生日を覚えているということだった。調書を読んだのだとしても、普通誕生日まで気にするだろうか。どうしてなんだよ、土方。そんな風に尋ねてみたかったが、その先の言葉を続けられそうになかった。
「まぁ、その時はまさか伝説の白夜叉だとは思いもしなかったがな。さすがに俺も驚いたな、あれは。」
「あ〜、それは…何ていうかさ…土方、お前になら、俺が白夜叉だったってばらしてもいいかなって思ったんだよな。ムカつく奴だけど、お前のことは、その…信用してるし… 」
銀時は土方を真っすぐに見つめながら自分の中にあった気持ちを伝えた。土方ならば。それは、嘘偽りのない銀時の気持ちだった。土方にならば、自分のことを知って欲しいという思いが心のどこかにあったのだろう。銀時は戸惑いながらも改めてそんな風に感じた。
「俺、だから…俺だからか?」
土方が僅かに目を見開いて呟いた。それは銀時が初めて見る表情で。真剣な瞳に銀時の心臓が小さく跳ねた。
「万事屋、まだ少し時間いいか?」
「俺、今日は早く帰って来んなって言われてるから、別に大丈夫だぜ。」
「そうか。じゃあ、ちょっとここで待ってろ。」
「え…!?土方?」
土方は銀時にそう言い残すと、再び1人でコンビニの中へと姿を消してしまった。土方の突然の行動の意図も読めないまま、銀時はコンビニの自動ドアの前にぽつんと残されたのだった。
何?何なの?何やってんだよ、土方の奴。あれからもう15分以上は経っているような気がする。銀時は言われた通り、外で大人しく待ち続けていたのだが、土方が出て来そうにはなかった。コンビニの前で1人待たされることに痺れを切らした銀時は、土方の様子を窺おうとコンビニに入ろうとした。だがその瞬間、土方がゆっくりと入り口から出て来た。
「土方、何やってたんだよ、お前…」
「今日、誕生日だろ?だから、これやるよ。」
「えっ!?」
土方が膨れ上がったコンビニの袋をぶっきらぼうに手渡す。銀時は困惑しながらも渡された袋の中を覗いてみた。中には数種類の紙パックのジュースや、シュークリーム、ショートケーキ、プリン、みたらし団子や饅頭、ポッキーの箱に板チョコなど、たくさんの甘い物が詰まっていた。
「土方、お前…」
「本当はお前の一番好きな甘味を買おうと思ったんだが、調書なんかには…載ってる訳ねぇしよ。だからとりあえずコンビニに売ってる物、手当たり次第に買って来た。」
土方が恥ずかしそうに呟く。一体どんな顔をして、どんな想いで買ってくれたのだろうか。そう考えると、鳩尾の辺りがきゅっとした。土方の優しさが嬉しくて。温かいものがじわじわと胸の奥に溢れる。銀時は参ったな、こりゃ、と頬に熱が集まっていく感覚に小さく笑った。
「…ジュースだったら、いちご牛乳で、和菓子系だったら三色団子かな〜。あっ、デザートは勿論いちごパフェね。」
「万事屋?」
「…それが、俺の大好物だよ。」
「万事屋…」
「土方、今度さ、俺に…奢ってくれない?」
銀時は勇気を出して口にした。土方ともっと一緒に居たい。今度ははっきりとそう思ったから。黙り込んでしまった土方の様子を恐る恐る窺う。土方は銀時と目が合うと、照れたように頷いた。
「おぅ、勿論だ。好きな物、奢ってやる。」
「マジで!?ありがと、土方くん!」
嬉しさを込めて土方に笑顔を向けると、俺、そろそろ行かねぇとな、と何故か土方は慌てたように背を向けてしまった。まぁいつまでも休憩してられないだろうしなと銀時も背を向けて歩き出そうとしたが、万事屋と名前を呼ばれた。
「何〜?」
「誕生日、おめでとな。」
じゃあな。片手を挙げて、今度こそ土方は人ごみの中に消えてしまった。不意打ちに何も反応ができなかった。ありがとうも言えなかった。自分には日常の小さな幸せがあれば、それ以上特別な物はいらなかったはずなのに。もっともっと土方のことが知りたかった。土方と一緒に居たくなってしまった。だってまだ土方の誕生日も、マヨネーズ以外の好きな物も何も知らないから。
「今度奢ってもらう時に色々訊いてみよっかな。」
気が付けば、空はゆっくりと茜色に染まり始めており。銀時は万事屋への道を急ぐことにした。パーティーの準備をして待っているだろう新八と神楽の笑顔が浮かぶ。2人には悪いが、この袋の中身は独り占めさせてもらおう。誰に貰ったか話したら、きっとすっごく驚きそうだな。銀時の口元に笑みが浮かんだ。
「ありがと、土方。」
茜色の空を見上げて、銀時はそっと囁いた。今日という特別な日と、大切に想う人達に思いを馳せながら。
END
あとがき
銀ちゃん、お誕生日おめでとう!!
今年はくっつく前の2人で銀誕のお祝い文を書いてみましたv今日は万事屋の皆で騒いだ後、土方さんと素敵な時間を過ごして欲しいですね^^
ああもう本当に銀ちゃんおめでとう大好き//
読んで下さいましてありがとうございました!
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