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不器用で愛しい君
不器用な銀ちゃんに不安になる土方さんです




俺達って、本当に付き合ってるって言えんのか?それはここ最近、仕事以外でぼんやりとしている時に土方の頭の中に何度となく浮かんで来る言葉だった。いや、最近という訳ではない。今まで目を逸らして考えないようにしてきただけであって、銀時と付き合い始めてすぐに脳裏をよぎったことだった。自分達は果たしてちゃんと付き合っているといえるのだろうかと。


そもそも告白した時から、銀時はどこかそっけない態度だった。お前のことが好きだ。俺と付き合って欲しい。自分から好きになって、こんな風に誰かに告白することなどこれが初めてであり。ここまで本気で好きになって守りたいと強く思った相手は居なかった。銀時以外はもう無理なのだ。普段の自分からは考えられないほど必死になって告白をし、2人を包み込む沈黙に緊張しながら返事を待った。土方をじっと見つめていた銀時は、まぁ別にいいけど〜と、のんびりとしたというより、どこか投げやりにも聞こえる口調で付き合ってもいいと返事をしてくれた。その時の土方は、別にそれだけで構わなかったのだ。銀時が自分の告白を受け入れてくれた。その嬉しさでただ胸が一杯だった。だが告白をしたその日の夜、1人になった部屋の中で土方は大きな溜め息を零していた。銀時は付き合ってもいいよとは言ってくれた。だが、決して自分のことを好きだと言ってくれた訳ではなくて。スタートからして自分達は上手く行っていなかったのだった。


それからの2人の関係は、誰しもが簡単に予想がつくだろう。デートに誘うのはいつも土方の方ばかりで、銀時から誘ってくれたことは一度もなかった。2人で一緒に居ても甘い雰囲気になるようなこともなく、それでも土方は銀時に触れたい心を抑えきれず、万事屋のソファーやホテルのベッドの上に銀時を押し倒した。切羽詰まった声で自分の名前を呼んでくれることもなく、まるで早く終われとばかりに目を瞑り、必死に声を殺して快楽に耐える銀時の姿にいつも胸が軋んだ。もしかしたら、好きだと思っているのは自分だけなのではないか。目の前の銀時の心は靄がかかったように全く見えなくて、不安で気持ちは焦るばかりだった。それでもやはり銀時を手離すことはできず、土方は悩みながらも銀時の側に居続けたのだった。



*****
巡回の休憩時間になって、土方は今日一緒の担当であった平隊士に次の集合時間を伝えると、そのまま1人で大通りを歩き出した。そして隊服のポケットから携帯電話を取り出すと、もう何度となく掛けてきた番号を選んだ。もし都合が合えば、銀時に何か甘い物でも食べさせてやろうと思ったのだ。こうでもしないと銀時には会えないのだから。土方は複雑な思いを胸に雑踏の中を歩き続けた。


『もしもし、万事屋ですけど〜。』

「銀時、俺だが…」

『……土方か。何かあった?用事?』

「…お前に甘い物でも奢ってやろうと思って。今から出て来られるか?」

『誘ってくれるんなら、まぁうん、行くわ。』


銀時が淡々と呟く。自分はいつでも会いたくてこんな風に電話してしまうというのに。自分達の間にはっきりとある温度差に胸が苦しくなりそうだったが、土方は今は考えないように頭の隅へと追いやった。


「じゃあ、どこか行きてぇ所とかあるか?俺もついでにコーヒーでも飲める所がいいんだが。」

『別に…どこでもいいよ。土方の行きたい所で。』

「どこでもって…」

『本当にどこでもいいんだって。別に俺は、何でもいいし。土方の好きにしてさ。』

「……だったら、良く行く大通りのファミレス前で待ってる。」

『分かった。じゃあまた後で。』


電話を切った土方の胸には言いようのない虚しさが去来していた。どこでもいい。何でもいい。土方の好きにしていい。一見すると、恋人である自分の意見を尊重してくれるようにも見える。だが土方には、別にどうでもいいと言っているように感じられた。考えてみれば、いつもそうだった。俺は土方の行きたい所でいいから。別に土方の好きにしていいよ。俺は別に何でもいいから。デートを重ねても、いつもそんな風にしか言ってくれなかった。少しくらい我が儘を言って困らせても全然構わなかったのに、銀時は一歩引いて土方に合わせていた。それは今も変わることはなくて。待ち合わせの場所へと向かう土方の足は酷く重くて、心までも苦しくて仕方なかった。





テーブルの向かい側に座っている銀時は、目の前のパフェを頬張ることにひたすら夢中になっていた。それはパフェが美味しいからなのか、それとも自分と会話をしなくて済むようにする為なのか。多分そのどちらともなのだろうと思えた。土方はすっかり冷めきってしまったコーヒーを啜りながら、銀時をちらりと見た。先ほどから会話らしい会話も続かず、周りのテーブル席の楽しそうな声が酷く耳障りだった。恋人と一緒に居て嬉しいはずであるのに、土方はただ悲しかった。今もこうして一緒に居るのに、銀時の心が見えないことに胸が痛んだ。恋人である銀時の心が掴めない苦しさは、土方にとっては刺さって抜けない棘のようだった。


「なぁ、そのパフェ…美味いか?」

「うん、美味しいよ。このファミレスのオススメデザートだからな。」

「そうか。そりゃ良かったな。」

「うん…」


手を止めて土方を見ていた銀時が、再びパフェに視線を落としてアイスクリームが乗ったスプーンを口に運んだ。土方もつられるようにしてコーヒーを飲む。それっきり会話は打ち切られてしまい、銀時がパフェを食べ終わるまで土方は煙草を吸って時間を潰すしかなかった。


「ごちそうさん、土方。奢ってくれてありがとね。そんじゃパフェも食べ終わったし、俺、これで帰るわ。」


土方は席を立つ銀時を慌てて引き止めた。もう少し、あと少しだけでいいから一緒に居たい。その想いを込めて白い腕を掴んだが、恋人は困ったように溜め息を零すと、土方を見つめた。その表情が土方には自分に呆れているように映って、思わず握り締めた手を解いていた。


「土方、お前この後もまだ仕事なんだろ?だったらこんなとこで油なんか売ってないで…」

「なぁ、銀時。」

「な、何だよ?」

「俺達って……いや、何でもねぇ。」

「はあ?何でもないのかよ。ま、とりあえずお仕事頑張ってね〜。」


銀時は座ったままの土方の横を通り過ぎると、そのまま振り返ることなく店から出て行った。俺達って付き合ってるんじゃねぇのかよ?喉元まで出掛かって、結局言えなかった。面と向かって聞くことができなかった。銀時の心が分からない。本当に自分のことを恋人だと思ってくれているのだろうか。自分はもっと一緒に居たいと思っているのに、彼は同じように思ってはくれないのだろうか。


「俺達は恋人じゃねぇのかよ。どうなんだよ、銀時。」



*****
銀時と付き合うことになって、今日がちょうど3ヶ月目の日だった。世間一般の恋人達なら、その日はどこかに出掛けて楽しい思い出を作り、甘い夜を過ごすのが常なのだろう。だが自分は真選組の副長であり、簡単に仕事を休むことはできない身だった。もし仮に時間を作って銀時に会いに行ったとして、彼が無反応だったら…と思ったら、今日は会わない方がいいのかもしれないと感じた。自然と零れ落ちた溜め息に、パトカーを運転していた山崎が心配そうな視線を寄越した。


「あの、副長…?」

「別に何でもねぇから気にすんな。…まぁ何で今日お前なんかと一緒にこんなことしてんのかなとは思っちまったけどな。」

「ちょっと、そんなこと言われたら気にしますって!」


副長、俺、仕事で何かミスしましたっけ?不安げな表情になった山崎を無視するように窓の外の大通りに視線を向けた土方の瞳に、綺麗な銀色が映り込んだ。ガラス窓の向こうに見える銀時は、ちょうど買い物帰りのようで大江戸マートと書かれたビニール袋を手に持っていた。


「銀、時。」

「あれ?あそこに居るのって旦那ですよね?…副長、良ければ旦那の所へ行って頂いて構いませんよ。俺、このまま屯所に帰りますから。」

「山崎、わりぃ。」


愛しくて大切にしたい人が目に入った瞬間、何も考えられなくなり、ただ側に行きたくて堪らなかった。土方はもどかしくパトカーを降りると、遠ざかる銀時の後ろ姿を追い掛けた。そのまま腕を伸ばして目の前の肩を掴むと、弾かれたように銀時が振り返った。


「わっ、何?…って、土方!?どうしたんだよ、そんなに慌てて。」

「銀…時。なぁ、覚えてるか?今日は、俺達の…」

「今日…?今日は、俺達が付き合ってちょうど3ヶ月目の記念日だろ?」

「…っ、覚えてたのか?」

「そんなの覚えてるに決まってんじゃん。」


自分だけだと思っていた。記念日なんて絶対に覚えていないだろうと思っていたのに。土方は目を見開いて銀時を見つめた。銀時は土方の視線から逃れるように俯くと、今スーパーで色々食材買って来たんだよ、お前に食べてもらいたくて…と恥ずかしそうに小さく呟いた。未だに信じられない気持ちで一杯だったが、土方は我に返ると万事屋まで送ると銀時の隣を歩き出した。隣を歩く銀時はいつものように無言だったが、それでいていつもよりほんの少しだけ距離が近いような気がした。銀時は俯いたまま歩いていたが、不意に足を止めて通りに繋がる細い路地に視線を向けた。


「そういや、この路地裏で付き合って初めてお前にキスされたんだよね。確か巡回中に偶然会って。あの時はさ、恥ずかしくて顔には出さなかったけど、ほんとはあり得ないくらい嬉しかった。」

「銀、時。それじゃあ、お前…俺とちゃんと付き合ってるって思ってくれてんだよな。」

「…んなの当たり前じゃん。」


銀時は立ち止まったまま真剣な瞳を向けた。銀時のそんな表情を見るのは初めてで、土方はただ目を奪われていた。


「俺、こんなにも誰かから想われたことってなくて。それに、誰かを強く想ったこともなくて。だからさ、俺だけ土方のことが好き過ぎて空回りしたらどうしようって思ったら、お前に甘えることができなくなっちゃったんだよね。それに一緒に居ても好きな奴が隣に居るのがすげー恥ずかしくて、つっけんどんな態度になっちまって。…お前とそういうことしてる時もさ、ふわふわして幸せなのに、変な声出したら嫌われるかもとか考えちゃってさ、恥ずかしくて堪らなくて、いつも目を閉じて声が出ないように我慢してた。どこかに出掛ける時もお前の行きたい所に行けば、きっと喜んでくれると思ったんだ。…お前と付き合えて幸せなのに、色々考え過ぎて素直に甘えられなかった。ごめんな、土方。」

「銀時、お前…」


だから大切な今日くらいは、せめて余計なことなんか考えないで、恥ずかしがらずにお前を誘おうと思ったんだよ。銀時の精一杯の笑顔がゆっくりと土方の心を包んでいった。銀時は自分のことをちゃんと好きでいてくれた。自分のことをちゃんと恋人だと思っていてくれた。嬉しくて幸せで。土方は再び歩き始めた銀時の手首を優しく掴むと、細くて白い指から自分の手の中へとスーパーの袋を移した。別にいいのにという顔をした銀時に笑い掛けて、そのまま代わりに袋を持ってやった。


「今日の夜は仕事が終わったらすぐお前に会いに行くから。」

「うん。今日は皆が余計な気を遣ってくれてさ、俺1人なんだよ。だからさ、ゆっくりしてけよな。」

「おぅ。あっ、銀時、今日の夜は何か煮物が食いてぇな。美味いやつ作ってくれ。」

「いいよ、任せとけ。仕事終わるまで楽しみにしとくんだな。」


花のように笑う銀時に心臓が跳ね上がって馬鹿みたいにうるさかった。土方は袋を持っていない方の手で隣を歩く愛しい人の手を取ると、自分の手と一緒にそのまま隊服のポケットに入れた。土方っ、と恥ずかしそうな声に聞こえないふりをして小さく微笑むと、銀時は諦めたように好きにすればと、その手を振り払うことはなかった。だがその声は確かに嬉しそうで。今日の夜はきっと忘れられない幸せな思い出になるだろうと、土方は嬉しそうに午後の空を見上げたのだった。






END






あとがき
銀ちゃんの話を妹に無理に付き合ってもらっていた時に、妹が「銀ちゃんって普段はそっけなくても、記念日とか初デートのこととかはちゃんと覚えてそうだよね」と言いまして…これは土銀ネタにできる!と思って、普段は素直になれないけれど本当は土方さんが好きな銀ちゃんを書いてみました^^妹もまさかネタに使われていると思ってないでしょうね。妹よ、ありがとう、そしてごめん\(^∨^)/


読んで頂きましてありがとうございました!

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