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colors 4(完結)
黄色


その色は恋人が作ってくれたホットケーキの色




楽しそうに何かの鼻歌を歌いながら、銀時はフライパンに視線を落としつつ器用にフライ返しを使っている。土方は台所の入り口の壁にもたれ掛かるように腕を組んで、その姿を微笑ましい思いで見つめていた。気付かれてしまわないように今までずっと気配を消していたつもりだったのだが、不意にコンロの火を止めた銀時が勢い良く土方の方を振り返った。


「何だよ、土方。俺、居間で待ってろって言ったよね?」

「やっぱり1人で待ってるってのはないだろ。お前がホットケーキ作るってんなら、作ってる所が見たいに決まってんだろうが。」


実際、手際良くホットケーキを作る恋人の後ろ姿を眺めるのは悪くなかった。いや、悪くない所か自分の為に料理をしている姿ははっきり言って可愛くて堪らず、心満たされるものがある。先ほど見た菜箸で一生懸命に卵をかき混ぜている銀時の姿を思い出してしまい、土方はにやけそうになった。


「うわぁ…何思い出し笑いしてんの?」

「いや、ホットケーキでも何でも料理してるお前って、やっぱり可愛いなって思っちまって…」

「別に…可愛くなんかないだろ。そんなことよりさ、もうホットケーキできたんだから居間のテーブルに運んで欲しいんだけど。」


銀時は年季の入った木製の小さな食器棚からシンプルな白い皿を取り出すと、再びコンロの前に立ってホットケーキを丁寧に皿の上に移した。そして、はいこれ、と綺麗に焼き上がったホットケーキが乗った2枚の皿を土方に手渡した。ふんわりと膨らんだホットケーキからは温かそうな湯気が立ち上っていて、甘い物があまり得意ではない土方でも十分に美味しそうだと思えた。


「じゃあ、先に行ってるな。」

「うん、よろしく〜。」


銀時は何やらごそごそと冷蔵庫の中を物色しており、土方の方を見ることなく手だけをひらひらと振った。あれっ?う〜ん、マーガリンどこ行ったんだよ。土方の背後から困ったような声が聞こえ、本当に自分の恋人は可愛いなと、土方は銀時の横顔をそっと見つめた。



*****
急に会いたくて堪らなくなって。ふわりと笑う顔が見たいと思ったら、書類仕事を放り出して万事屋へと向かっていた。いつも通り鍵など掛かっていない不用心な玄関を開け、長く感じる廊下を抜けて居間に向かうと、しんと静かでそこには誰も居なかった。微かに物音がした台所へと足を向けると、銀時が1人立っていて、台所の戸棚を開けてボウルやらフライパンを出している所だった。土方と入れ違うように子供達は出掛けてしまったようで、暇になった銀時はちょうど3時になるからと、おやつでも手作りしようとホットケーキを作ろうとしていたのだった。銀時はホットケーキミックスの袋を手に持ったままで、何の連絡もなしに万事屋を訪れた土方に驚いた顔を見せたが、すぐにいつもの表情になると、副長さん、せっかくだから俺のホットケーキでも食べない?と綺麗に笑った。そんな笑顔を見てしまったなら、頷かない訳にはいかない。土方がおぅと頷くと、よし、じゃあお前の分も作ってやるよと、銀時はどこか楽しそうな声を上げたのだった。





「土方〜、お前っていちご牛乳飲む?俺ん家の冷蔵庫、いちご牛乳しか入ってないからさ。」

「…コーヒーとかは、まぁ…ねぇよな。」


居間の入り口からひょっこりと顔を出した銀時が土方に尋ねた。土方は居間のテーブルの上に皿を置き、ソファーに座って待っていたのだが、さすがに恋人と一緒にいちご牛乳を飲むのは無理だった。


「コーヒー?ないよ、そんなの。俺、甘党じゃん。」

「…だよな。だったら水でいい。」


ん〜分かった。銀時は土方に頷いて一旦台所に引っ込んだが、ほどなくしてお盆を持って居間に戻って来た。お盆にはピンク色と透明の液体が入ったガラスのコップにマーガリン、フォークが2つ乗せられていた。銀時は土方のすぐ隣に座ってコップとフォークを手渡すと、先に食べろよとマーガリンも差し出した。銀時はデート中にファミレスなどでホットケーキを食べたりすることもあるが、土方は数えるくらいしか食べたことがなかった。自分は基本的に甘い物は苦手だ。だがせっかく銀時が作ってくれたのだから、ここは久しぶりに味わって食べてみよう。土方はフォークで小さく切ったホットケーキを口に含んだ。程良く溶けたマーガリンが染み込んだスポンジ生地は、それほど甘いという訳ではなく、美味しいと感じた。土方が満足そうに食べる姿を確認してから銀時も漸くホットケーキを食べ始めた。


「銀時…これ、そんなに甘くねぇし、柔らかくて美味いな。」

「いや、ホットケーキミックス適当に混ぜて、フライパンで適当に焼いただけだから、誰でも簡単に同じ味に作れんだけど…」


だったらお前が作ったから美味いんだな。そうに決まってる。納得したようにうんうん頷くと、銀時がお前、普通に馬鹿だろと恥ずかしそうに呟いた。隣でうっすらと耳を赤くしている銀時に胸の中で愛しさが込み上げた。こんな風に銀時と過ごせることが幸せで幸せで堪らなかった。何気ない毎日のほんの小さな幸せに過ぎないのかもしれない。だが土方には、この瞬間の幸せが何よりも大切だった。命のやり取りが当たり前の世界に身を置いている自分にとって、銀時と過ごすこの幸せな時間は、かけがえのない絶対になくしたくないものなのだ。


「土方、あのさ、ホットケーキ以外にも色々作ってやるから。…だからさ、また、俺ん所…来いよ。」

「銀、時。」


多分思い切り照れているのだろう。銀時は土方に視線を合わせることなく、ひたすらもくもくとホットケーキを口に運んでいた。


「ありがとな、銀時。」


土方は下を向いていた銀時の頭にそっと手を置くと、愛おしむように何度となく撫でた。また幸せを感じに、ここに来るから。大切な大切な想いを込めて。






END






あとがき
色をモチーフにした短編連作でしたが、ほのぼの土銀が書けて楽しかったです^^ホットケーキは本当は狐色や茶色なのですが、可愛くないので黄色にしました(^∀^;)


土銀の2人が一緒に居る所を想像するだけで、それだけでもう幸せです!銀ちゃんが土方さんの隣に居るだけでそれだけで良いんです!!


ここまで読んで下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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