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colors 3
赤色


その色は照れた時の恋人の頬の色




毎日の仕事で江戸の街を巡回しており、夜に出歩くことは最早当たり前のことだといっても、この季節はやはり少しだけ辛い。隊服と同じデザインに誂えられている黒いコートを身に纏っていても、夜の冷たい空気に全身が凍えるように感じた。そんな土方のすぐ隣では赤いマフラーをふわりと首に巻き、いつもの見慣れた着物の上からスカジャンを羽織っただけの恋人が寒そうに鼻をすすっている。自分達は吹き荒ぶ風の中、遮る物が何もない川べりの土手に立っているのだから、寒くてもそれは当然だといえた。土方は今日の巡回の帰りに偶然銀時に会い、彼に誘われるままに最近オープンしたばかりだというプラネタリウムを見に行った。銀時の方から誘ってくれることなど滅多にないことであったので、巡回はもう終わったのだから別にいいではないかと、銀時との幸せな時間を過ごした。土方は満足した気持ちで一杯だったのだが、銀時はプラネタリウムを見終わった途端、やっぱり人工の星より本物が見たいかも〜と土方の腕を引っ張って、誰も居ない土手へと連れて来たのだった。


「何これ…すっげぇ寒いんですけど。俺、このままじゃ寒くて死ぬ!確実に死ぬ!」

「だったらやめとけば良かったじゃねぇか。」

「何だよ。いいじゃん、別に。寒くても俺は今ここで星が見たいんです!…周りの奴らがプラネタリウムができたってギャーギャー騒いでたから、ちょっと気になってお前でも誘ってみようかなって思って。確かに綺麗だなとは思ったけど、やっぱり本物が見たくなったんだよ、お前と一緒なら。」

「銀時…」


恥ずかしいからやっぱり今のナシで。銀時は赤いマフラーの中に顔を埋めてしまった。目の前の恋人は何故こうも自分を喜ばせることが得意なのだろう。何故こんなにも可愛いくて仕方ないのだろう。夜風が土方の着ているコートの裾をはためかせ、強く吹き抜けていった。冬の寒さは変わることはないのに胸の辺りがじわりと温かくなったような気がして、土方は目を細めて銀時を見つめた。


「なぁ、銀時。その格好じゃあ寒くねぇか?」

「勿論寒いに決まってんだろ。お前、馬鹿?」


寒そうに体を震わせている銀時へと腕を伸ばしてその頬に触れてみると、ひんやりと冷たかった。不意打ちのように土方が触れたせいか、銀時は小さく肩を震わせた。だがそのまま頬に触れている土方の手の上に自分の手を重ねると、お前の手も冷たいねとクスリと笑った。


「お前の方がずっと冷えてるだろうが。…だからよ、こうすればあったかいだろ?」


土方は銀時の後ろに回り込むと、コートを広げて銀時の体をそっと包み込んだ。驚いて離れようとする銀時の腰に腕を回して逃がさないようにすると、コートの中にすっぽりと収まってしまった愛しい人を抱き締めた。


「ちょっ…土方、恥ずかしいからやめろって!」

「こうしてる方が俺もお前もあったかいから、別にいいじゃねぇか。」

「良くないって!…ほんと恥ずかしい…」


密着している部分がまるで熱を持ったように熱くなり、土方はその熱をさらに感じようと銀時を強く抱き締め直した。すぐ目の前にある銀色の髪が月明かりに照らされて、宝石のようにキラキラと輝いていた。勿論その輝きは美しくて堪らなかったが、それ以上に目を奪われるものがあった。


「銀時、お前…今、あり得ねぇくらい真っ赤。」

「や、やめろよ、それ以上言うなって…」

煌々と降り注ぐ月明かりと側に立っていた街灯の灯りのせいで、朱に染まった銀時の頬が夜の帳の中でもはっきりと分かった。こんなに真っ赤になっちまって可愛いなと再び頬に触れると、銀時の頬がさらにぶわっと赤くなった。


「べ、別にこれは…風が冷たいせいで寒くて赤くなったってだけだし。」

「今触ってみたら、お前の頬、冷たい所かすげぇ熱かったけどなぁ。」

「うっ…」


いじめるつもりはなかったが少しだけ意地悪く笑ってみせると、銀時は言葉を詰まらせたまま土方を睨んだ。だがそのような顔で睨み付けられても、全くの逆効果だった。恥ずかしさから潤んだ瞳。鮮やかな赤い頬。腕の中の存在が愛しくて愛しくて。このままでは我慢などできそうになくなってしまう。落ち着け、耐えるんだと土方はそっと息を吐き出した。理性を保とうと必死になっている土方に抱き締められたまま、銀時はあったかいからもう何でもいいやと諦めたように小さく呟いて、目の前に広がる紺色の空を見上げた。


「土方、俺さ…良く考えたら星とか全っ然詳しくないから、星座とかもあんまり知らないんだよね。自分から星を見ようなんて言ったけど。」

「…俺も知らねぇよ。せいぜい剣くらいしか詳しくないぜ。…綺麗なら、それでいいと思うけどな、俺は。」

「そうだな。うん、俺もそう思う。」


土方は銀時と同じように顔を上げて夜空に煌めく星を見つめた。星の名前も分からず、星座だって探すことはできなかったが、それでも綺麗な夜だと思った。きっと銀時と一緒だからこそなのだろう。1人ならば、例え巡回中で外に居たとしてもこんな風に星を見て綺麗だと思うことはないだろうから。間近にある銀時の横顔をそっと覗き込んでみると、土方に体を預けたまま、嬉しそうに空を見ていた。その透き通るような赤い瞳はいつも以上に煌めいていて。空に浮かぶどの星よりも、お前の瞳の方がずっと綺麗に輝いてる。銀時が聞いたら恥ずかしがって怒り出しそうな台詞が思わず零れ落ちそうになって、さすがにこれは自分でも照れくさいなと土方は口を噤んだ。


「あのさ、土方…」

「ん?どうした、銀時?」

「本当はお前、仕事の帰りだったんだろ?俺が色々無理矢理誘っちゃった訳だけど。だからそろそろ…」


心配してくれる銀時には悪いが、このままここでさよならは嫌だった。もう少しだけこのまま銀時の温もりに浸っていたかった。屯所に帰るだけだったから心配すんなと笑い掛けると、銀時は安心したような顔になり、だったらさ…と少しだけ遠慮がちに口を開いた。


「この後、屋台で何か温かい物でも食べない?ずっとここに居たから、お前にくるまれてたっていっても、やっぱ体は冷えてるし。…俺、今すっごくおでん食べたい。」

「確かにおでんはいいな。今日は銀時に綺麗な夜空を見せてもらっちまったから、俺が奢ってやるよ。」

「マジで!?やった〜!さすが俺の彼氏!」


土方、大好きと銀時がギュッと抱き付いてきた。突然のことに土方は目を丸くして驚いてしまい、嬉しさから体温が上昇したように感じた。お前も何か顔赤いよ〜と幸せそうに笑う銀時に、照れくささを隠すように何でもねぇよと呟いて、もう一度だけ優しく腕を回した。

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