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colors 1
色をモチーフにした小話です



銀色


その色は大切で愛しい人の髪の色




パトカーで巡回中だった土方は大通りの雑踏の中に眩いまでに輝く銀色を見つけ、思わずパトカーを降りていた。本来助手席に座って土方に嫌みの一つでも言うだろう栗色の髪の青年は、巡回前にふらりとどこかへ出掛けてしまっており、良いのか悪いのか今日は隣に居なかった。そのまま道路の端にパトカーを停めると、土方は銀色を追い掛けた。江戸の治安を守る真選組の副長が路上駐車はいかがなものかと思われても仕方なかったが、今の土方はそんなことなど構っていられなかった。


「銀時っ…」


名前を呼んで白い腕を掴むと、少しだけ驚いた顔をした銀時が土方の方を見た。陽の光に煌めく銀色の髪に嫌でも心を奪われる。土方が銀時を見つめていると、どうしたよ、息なんか切らしてさ、と不思議そうな声が返って来た。


「パトカーで巡回してたら、お前の髪が見えて…それで、つい…」

「ふ〜ん。で、そのパトカーは?」

「…そこの端に停めてきた。」


土方は少しだけ後ろめたい気持ちを抱えながら、親指でクイッと通りの向こうを指差した。真選組の副長が路駐していいのかよ〜と、銀時はどこか楽しそうな顔で土方を見る。銀色が目に入った途端、今すぐ会いたくて堪らなくなってしまったのだ。それはもう仕方がないだろうと、土方は心の中で自分を納得させるように頷いた。


「だったらパトカーの前で話した方が良くね?まぁ、俺が職質されてるみたいでちょっと嫌だけど、その方が…もう少しだけお前と話せるし。」


ほら、土方も早く来いよ。少し照れくさそうに銀時の手が土方の隊服の袖口に触れて、それからそっと離された。そのまま足早にパトカーの方へと歩いて行く銀時が可愛くて仕方なく。土方は愛おしむように目を細めた。



*****
「巡回中にこんな風に話すのも久しぶりだね、そういえば。」

「あぁ、そうだな。」

「つ〜か、ほんとにサボってていい訳?」

「サボってる訳じゃねぇよ。これは休憩だ。寧ろ堂々とサボってんのは総悟の奴だろ。」

「あはは、確かにそうだな〜。」


パトカーに体を預けるように立っている銀時がおかしそうに肩を揺らす。その度に銀色の髪がふわふわと揺れて、土方はそのまま手を伸ばして触れたい衝動に駆られた。自分の真っすぐな黒髪とはまるで正反対の、ふわりふわりと跳ねた銀色の髪。2人だけで居る時に触れてみると、驚くくらいに柔らかく指に絡んで。そして太陽の下、キラキラと輝いていて。どうしてそんなに綺麗なのだろう。どうしてそんなに輝いて見えるのだろう。


「…本当にお前の髪って、あり得ないくらい綺麗だよな。…あれか?やっぱりシャンプーとかが違うのか?」

「はあ?シャンプー?…お前、なに昼休みの女子みたいな話してんの?何のシャンプー使ってんの?みたいな。」

「あ、いや…」


無意識に小さく呟いてしまったことを銀時に聞かれて、土方は慌てて口を噤んだ。銀色の髪がただ綺麗だと言いたかっただけで、別にシャンプー云々の話は余計なことだったのだが、銀時はシャンプーねぇと顎に手を当てた。


「別にスーパーで安売りしてる普通のやつだけど…何?俺の髪、どっか変?でも、言っとくけど天パは全然変じゃないからね!」

「変な訳ねぇだろ。…いつも綺麗だって思ってる。ふわふわしてて、すげー綺麗な銀色で。俺の心をいつでも奪ってく。」

「土、方…」


銀時の顔がうっすらと朱に染まっていく。慌てて伸ばした腕で顔を隠そうとしても、露わになった首筋までもが桜色に色付いていて、土方は髪の色と共に惹き付けられていた。


「あ〜もう!お前さっさと仕事戻れよ。俺、十分お前と喋ったし。」

「おい、銀時…」


それじゃあね、土方。慌てたようにパトカーから離れる銀時の腕を土方は再度掴んでいた。まだ何かあるのかと足を止めた銀時に近付くと、艶やかに煌めいている銀色に触れた。溢れる想いが伝わるように、優しく優しく。


「まだ触ってなかったからな。…あぁ、やっぱり元気貰えるな。」

「こんなんで元気になるって、お前…相当だよ。」


銀時が呆れたような声を出して、ここ人通りだろと土方を見つめた。けれども言葉とは裏腹に、赤い瞳の奥には嬉しそうな色が浮かんでいるように見えた。


「別に変じゃねぇだろうが。好きな奴の綺麗な銀髪が目の前にあったら、触りたいって思っちまうだろ。…お前の髪、俺は好きなんだからよ。」

「…っ、ほんと恥ずかしい奴。」


けど、ありがとな。お前に褒められるのって、やっぱりそれなりに嬉しいからさ。綺麗に笑う銀時に見送られながら、土方は巡回の続きだと、パトカーに乗り込んだのだった。

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あきゅろす。
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