[携帯モード] [URL送信]
お疲れ様の代わりに
今日もいつもと変わらない午前中の巡回が終わって屯所に帰って来た土方は、午後からは溜まっている書類整理だなと部屋の障子を開けた。その瞬間、今ここに居るはずのない銀髪が目に入り、障子に手を置いた姿のまま、らしくもなく固まってしまった。


「おっ、土方。お邪魔してま〜す。」


畳に寝転んで楽しそうにジャンプを読んでいた銀時が、ページから視線を外して土方を見上げた。突然の予期せぬ恋人の来訪に嬉しさや驚きで突っ立ったままでいると、入らないの?と赤い瞳が自分を見つめた。我に返った土方は、起き上がって胡座をかいている銀時のすぐ横を通り過ぎて机の前に座った。


「…こんな時間に俺の部屋に来るなんて、珍しいな。」

「今日さー、午前中に仕事が入って。んで、その帰りに屯所の前通ったら…何か、その…会いたくなったっていうか…」

「銀時…」


俯いてもじもじとしてしまった銀時に愛しさが込み上げる。銀色のふわふわとした髪に隠れてしまってはいるが、少しだけ赤くなった耳が見て取れて、本当に可愛くて仕方がなかった。


「屯所の前で偶然沖田君に会って、土方の部屋で待ってれば、きっと面白い顔を見ることができるからって…確かにお前、さっきすっげー驚いた顔してたもんな。」


先ほどの目を丸くした土方の表情を思い出したのか、顔を上げた銀時がおかしそうに笑った。お前が俺の部屋で待ってるなんてそんな可愛すぎること、思いもしなかったんだから、驚いて当然だろ。そんなに笑うなよな。土方は心の中でこっそりと思った。だがやはり、銀時が自分から会いに来てくれたことがとても幸せだった。もっとリアルな形でその幸福感を味わいたくて、目の前の体を抱き締めようと距離を詰めた。そのまま銀時の腰に腕を回そうとしたのだが、彼の肩越しに今すぐ処理しなければならない書類の山が見えて、思わずあっ、と声を上げてしまった。


「どしたの?」

「あ、いや…」


自分には今から終わらせなければならない大量の仕事が待っている。けれどもそれよりも2人で甘い時間を過ごしたい気持ちがむくむくと膨らんでしまい、土方は思わず口ごもった。銀時はそんな土方を訝しむように見つめたが、土方の視線の先にある物に気付いて、あ〜そっかと納得したような顔をした。


「わりぃ、銀時…俺、今日本当はやらなきゃならねぇ仕事があって…」

「俺のことはいいから仕事しなよ。終わるまで待ってるからさ。」


まぁ、俺がここに居てもいいならだけど。邪魔にならないようにするし。少しだけ照れくさそうにしながら銀時が呟いた。勿論居ていいに決まってる。邪魔になどなる訳がない。というより隣に居て欲しい。そんな思いを込めて、土方は銀色の髪をくしゃりと撫でた。



*****
「土方、お前…書類仕事してる時って、いつもそんな格好、なの?」

「ん?あぁ、そうだが…?」


すぐ後ろから上擦った声が響く。土方は手に持っていた書類を一旦机の上に置くと、自分の姿を確認してみた。隊服の上着を脱ぎ、シャツとベストを着ただけだが、汚れないように肘の部分まで袖を捲っている。まぁいつもの格好だ。そして普段は掛けないが、書類仕事の時だけは軽く度が入った銀縁の眼鏡を掛けるようにしている。別にそこまで目が悪い訳ではないが、小さくて細かい字を長時間読むのには眼鏡があると便利だからだ。別に変な格好じゃないと思う。仕事をしやすいようにしていたら、自然とこうなった訳だ。


「不意打ちとか…卑怯。卑怯だよ、お前。」

「銀時…?」


腕捲りとかすげー男っぽいし、眼鏡も似合ってる。格好良過ぎなんだよ、土方のくせに。顔に片手を当ててて独り言のように小さく呟いている銀時の、その発せられた言葉の中身が耳に入って来て、土方も嬉しさを隠すように顔に手を当てた。恋人に格好良いなんて言われてしまったら、もう堪らない。嬉しさのあまり頬が緩んだのが自分でも分かった。


「…惚れ直したか?」


冗談半分に呟きながら、下を向いていた銀時の頬に触れると、小さく肩を揺らした銀時と目が合った。その頬は恥ずかしそうに朱に染まっていて。土方は仕事など今すぐにでも放り出して、このまま目の前の愛しい体を押し倒したい衝動に駆られた。だが真っ昼間からそんなことはできないし、終わるまで待つと言ってくれた時の銀時の顔を思い出したら、何とか気持ちを抑えることができた。小さく息を吐くと、仕事続けるな、とまだ赤い顔をしていた銀時に微笑んで、再び机の上の書類との格闘を再開した。





銀時は言葉通り土方の邪魔になるようなことはしなかった。持って来ていたジャンプを仰向けになって読んでいたが、それも読み終わってしまうと、土方の近くに座って、時々他愛のないことを話し掛けてくるくらいだった。いつもなら大量の書類に苛ついて煙草を吸いまくる土方も、銀時が隣に居てくれるだけで心が休まるのか、仕事を始めてまだ1本も吸ってはいなかった。


「土方ってさ、」

「おぅ、何だ?」

「字、真っすぐで綺麗だよね。俺とは大違い。」


背中に寄り掛かるようにして土方の肩に頭を乗せた銀時が、肩越しに書類を見つめて綺麗な字だな、と口にした。首筋にふわふわの髪が優しく触れて、嬉しいのに少しだけくすぐったかった。今日は褒められてばかりだと思いながら、ありがとなとお礼を言うと、俺はほんとのことしか言わないから〜、とさらに自分を喜ばせる言葉が返って来た。いつも以上に優しい恋人に嬉しさ半分戸惑い半分の気持ちのまま、未決裁の書類に確認の署名をしようと手を動かしたら、銀時がそっと離れる気配がした。先ほどまでの温もりが急速に失われていく寂しさに後ろを振り向こうとして、再び背中にふわりとした温かさを感じた。振り返らなくても分かった。銀時が俺の背中に自分の背中をくっつけてくれてるんだな。銀時の体温がゆっくりと背中から伝わってくるみてぇだ。銀時が少しだけ体重を掛けて土方の背中にピタリと寄り添ってくる。土方は書類に目を通しながらも、銀時との背中合わせの今の状況が幸せでどうにかなりそうだった。お互い何も話さなくても、確かに背中越しに伝わるものがあるように思えた。





土方も銀時も背中越しに温もりを感じながらも、お互い黙ったままで随分と時間が過ぎていた。土方はあれから黙々と仕事を進めていたので、もう終わりが見えていた。この仕事が終わったら、今日は急ぎの仕事もない。特にすることもないので、銀時を甘味処か居酒屋にでも連れて行ってやりたかった。どちらがいいか尋ねようとして、土方は続きの言葉を飲み込んでいた。銀時の白い腕がそっと自分の腰に回されたからだ。


「…とうし、ろう…」


そっと振り返ると、待ちくたびれたのか土方の背中に体を預けて静かに眠る銀時の姿があった。聞き間違いではなければ、確かに今、銀時は自分の名前を呼んでくれた。小さくて聞き取りづらかったけれど、確かに呼んでくれたのだ。


「今ので仕事の疲れが全部吹っ飛んじまったよ。…ありがとう、銀時。」


背中に寄り掛かって眠る愛しい人を起こしてしまわないようにゆっくりと片手を伸ばして、土方も銀時の腰を引き寄せるように抱き締めた。今度はちゃんと起きている時に自分の名前を呼んでもらおう。そうすればもっともっと仕事が捗るのに。土方はそんな風に心の中で思いながら、そろそろ起きてもらおうかと、銀色の髪に指を絡め、桜色の唇に口付けたのだった。






END






あとがき
土方さんは事務仕事になるとシャツ腕捲り+眼鏡だったら個人的にすごく萌えるなぁと思いまして、銀ちゃんに悶えてもらいました。副長のお仕事見学な銀ちゃんは可愛いと思いますvへ〜土方ってこんな仕事もするんだ。集中してる背中格好良いんですけど。なんて思っていたらいいです(´∀`)


読んで下さいまして、ありがとうございました!

[*前へ][次へ#]

43/111ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!