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lost voice 2(完結)
何であんなことを言ってしまったのか。別れる気なんてさらさらなかったのに。土方はここ最近ずっと後悔し続けていた。じゃあ、もう別れようぜ。口喧嘩の延長でつい言葉にした。だが銀時は別れていいよ、と躊躇いもなく返してきた。そんな銀時の言葉が土方には俄かに信じられなかった。自分から言い出した手前、簡単に撤回することもできず、結局土方は意地を張ったまま万事屋を後にしたのだった。


「銀時の奴、何してんだろうな…」


目の前に積み重なっている書類を脇に押しやって、土方は机にうつ伏せになった。こんな風に書類仕事をしていても、頭に浮かぶのは銀時のことばかりだった。自分が言い出した癖に銀時と別れたくはなかった。だがあの日、銀時は土方を引き止めようとはしなかった。土方はそのまま目を閉じると、銀時とのことを考えてみた。銀時と居る時は、いつもいつも自分の方が必死だった。好きだ、愛してると言っても、ふ〜んと薄い反応。デートといってもパフェや甘味を奢るだけ。体を重ねても自分には銀時の心が良く見えなかった。一緒に居るのにどこか不安な心があったから、喧嘩してあんなことを口走ってしまったのだろうか。銀時だって本当は無理してたんじゃねぇのか…だから引き止めなかった?考えたくもない答えに行き着いて、土方は苦しさに胸を押さえた。本当は銀時に直接会って確かめればいいだけの話だ。


「…けどな、喧嘩して俺から別れてぇって言っておきながら、今さらのこのこ会いに行けるかよ。」


本当は会いたくて会いたくて仕方ないのに、自分の中のつまらない意地が邪魔をして一歩が踏み出せなかった。顔を上げて愛用の煙草を吸おうとしたが、土方はそのまま手の中の煙草をグシャリと握り潰すと、灰皿に押し込んだのだった。



*****
久しぶりの非番だったが、特にすることもなかった土方はぶらぶらと街を歩いていた。いつもなら銀時に連絡を取って、甘味を満足するまで奢ってやり、そのまま朝まで一緒に過ごしていた。土方は携帯電話を取り出そうとして着流しに手を突っ込んだが、結局やめてまた歩き出した。不意に通りの向こうに見知った2人組が歩いて来るのが見えて、思わず足が止まった。


「メガネとチャイナか…」


どうやら買い物帰りのようで、2人共スーパーの買い物袋を提げていた。だがいつも2人の間を歩いているはずの愛しい人は居なかった。どこかホッとしたような、切なくて苦しいような気持ちが胸に広がる。


「あっ、土方さん…」

「お、おぅ。」


新八が土方に気付いて、神楽と共に駆け寄って来た。簡単に挨拶を交わしたが、2人はどこか複雑そうな顔をしていた。


「銀時は一緒じゃねぇのか?」

「あの、銀さんは…」

「お前、銀ちゃんに何したネ!銀ちゃんは、お前のせいで…」

「神楽ちゃん!やめなよ…」

「新八は黙っててヨ!…銀ちゃんは、銀ちゃんは…声が出なくなってしまったヨ。」


泣きそうな表情で神楽が告げた言葉に、土方は息が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。信じられないとばかりに目を見開いて目の前の2人を見るが、2人は黙ったまま頷いた。


「銀時の…声が出なくなったって、それは本当なのか?」

「病気でという訳ではなくて、心身性からのものらしいです。最近、何か心に大きなショックを受けたことが原因みたいで…」

「お前が何か銀ちゃんに酷いこと言ったからに違いないネ。早く謝って来いヨ。」

「僕がこんなこと言うのも…って感じですけど、銀さんには土方さんしか居ないんです。銀さんは不器用な所があるから、土方さんが誤解してしまうこともあると思います。だけど銀さん、僕達に土方さんと付き合うことになったって話してくれた時、すごくすごく幸せそうでした。僕達じゃ駄目なんですよ。土方さんでなければ…」


新八が強い瞳で土方を見つめた。こうしている今も銀時は1人で苦しんでいる。銀時の本当の想いに気付けないで、無神経に口にしてしまった自分の言葉で。今すぐ銀時に会って謝りたかった。そして自分がどれだけ銀時のことを想っているのかちゃんと伝えたかった。


「お前らに心配させちまったな…わりぃ、メガネ。俺、今から銀時ん所に行って来るから、チャイナとファミレスにでも寄ってからゆっくり帰って来い。」


土方は財布から紙幣を取り出して新八に手渡すと、そのまま万事屋への道を走り出した。頼みましたよ土方さん、銀ちゃんと仲直りしろヨ〜と背中越しに声が聴こえて、土方は小さく笑うと片手を挙げた。



*****
今日は僕達で買い物に行って来ますから、銀さんはゆっくりジャンプ読んでて構いませんよ。銀ちゃん、しょうがないから私達がいちご牛乳買って来てあげるネ。今もまだ声が出ない銀時のことを心配して、2人は色々と気を遣っていた。俺、別に声が出ないだけで、目が見えないとか耳が聴こえないとかじゃないから大丈夫なんだけどな。ソファーに座って銀時はぼんやりとしていた。メモ帳で会話をすることにも慣れてしまい、それほど不自由することなく日々を過ごしている。このままソファーに寝転んで昼寝でもしようかなと思っていた銀時の耳に、玄関の扉が開けられる音が響いた。新八達が帰って来たのかな。銀時は出迎えようと玄関に向かい、目の前に居た人物に声にならない声を上げていた。土方、何で…?思わず声に出そうとして今の自分の状況を思い出し、もどかしさにぐっと唇を噛んだ。


「銀時、お前…声が出なくなっちまったって、メガネから聞いて…」


うん、そうなんだよね。答える代わりに静かに頷いた。土方は悲しそうに眉を寄せると、邪魔していいか、と銀時に尋ねた。銀時はメモ帳にペンを走らせると、土方の眼前に突き出した。


「メガネとチャイナのことか?なら大丈夫だ。当分帰って来ないぜ。」

『会ったの?』

「あぁ。寄り道して帰るみたいだったからな。」

『じゃあ、うん、上がれよ。』


土方はホッとした表情を浮かべると、廊下を歩いて居間のソファーへと座った。銀時は土方の向かい側に座った。土方は俺と別れたかったんじゃなかったの?なのに何で俺に会いに来るの?心配そうな顔なんか見せるなよ。期待しちゃうじゃんか。全部声に出して土方に言いたかった。なのに今の自分には伝えたくてもそれができない。自分の想いを伝えられないことがこんなにも苦しくて悲しいなんて。銀時は耐えきれなくなり思わず俯いた。


「すまねぇ、銀時。謝っても足りねぇのは分かってる。俺のせいだってことも。…あんなこと言っておきながら呆れるかもしれねぇけど、本当はお前と別れたくない。俺はお前が好きで堪らねぇ。離れたくないんだよ。」


土方の想いに銀時は弾かれたように顔を上げた。泣きそうな情けない表情の土方と目が合い、銀時も熱い物が込み上げそうになった。銀時は立ち上がって土方に抱き付くと、土方に見えるようにゆっくりと口を動かした。

「おれ、も…いっ、しょだよ…おま、えが…すき…わか、れたく…ない…?」


土方が銀時の口の動きに合わせて代わりに言葉を紡いでいく。その意味を理解して、土方の顔に喜びが広がっていくのが見て取れた。土方はそのまま銀時を強く抱き締めると、我慢できないとばかりに口付けた。


「銀時、銀時…好きだ。」

「…た、…か、た。」

「銀時!お前、声が!」


土方の驚いた声に銀時も驚いたように頷いて、土方に抱き締められたまま、あ〜とかう〜とか声を出してみた。耳に馴染んだ自分の声が部屋の中に響き、土方と喜びに顔を見合わせた。


「…お前に、好きって言われ慣れてるし、キスだって…初めてじゃねぇのに。こんなんであっさり治るなんて…俺、どれだけお前のこと…好きなんだろ。」


久しぶりに声を出すからか、銀時はゆっくりと話した。土方は黙って銀時の言葉を聞いていたが、そんな風に言われたら誘ってるようにしか聞こえねぇよ、と困ったように笑い、心を落ち着ける為か着流しから煙草を取り出して火を点けた。


「久しぶりの、お前の煙草の匂いだ。」

「そうだな…」

「俺、嫌いじゃないよ。言ったことなかったけど。」


銀時は土方に体を預けると、そっと目を閉じた。土方と嗅ぎ慣れた煙草の匂いをすぐ近くに感じて、心が安心したように穏やかだった。


「ずっと隣に居ろよ。」

「あぁ、約束する。…絶対だ。」


銀時、お前の声がまたこんな風に隣で聴けて本当に良かった。耳元で甘い声が響き、土方の手が銀時の頭を包み込んで自分の方に寄せた。銀時も土方の温かな腕の中で、俺もだよ、と幸せそうに囁いた。






END






あとがき
内容がありがちでアレな感じですが、声が出なくなってしまう銀ちゃんが書きたくて書いてみたら、何とも薄っぺらくなってしまいました(;△;)


この後帰って来た2人に、らぶらぶしている所を出歯亀されちゃうんだなと思います(´∀`)


お付き合い下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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